「2001年宇宙の旅 IMAX版」

10月19日から2週間限定で公開中の映画「2001年宇宙の旅」。IMAXで上映ということで見てきました。

先日京橋のフィルムセンターで「70mm版」が公開されたばかり。    『…クリストファー・ノーラン監督の協力の元、公開時の映像と音の再現を追求して、オリジナル・カメラネガからデジタル処理を介さずにフォトケミカル工程だけで作成された70mmニュープリントでの上映。音は1968年の公開当時と同じ6チャンネルで、上映前の前奏曲、休憩時の音楽、終映時の音楽まで再現されている(DATASAT)。』                 残念ながらチケット前売りは瞬殺で完売。見てきた人の話では「フィルムの傷やノイズもそのままで、荒々しささえ感じられたところがかえって新鮮だった」という。うわ~見たかったよ~という無念さも込めて、「4Kデジタル処理されてピッカピカになった『2001年』をでっかいIMAXで見たらどうなるの?」と、いう所に興味があったのです。さっそく横浜ブルク13へ。

IMAX版は、とにかく「映像がキレイ!」の一言。映画序盤の猿人の体毛の一本一本が見分けられる。宇宙ステーションのロビーのソファの色も鮮やか。(最近この椅子が現存していることがわかり、色はマゼンタということが確認されたというニュースを見たので妙に感慨深かった)ムーンバスでフロイド博士が食べるサンドイッチの「パン」のぽそぽそした質感も伝わる。「最近の宇宙食は進化しましたよ」というセリフに、「ひょっとして皮肉だったのか…」と、リアリティがぐっと湧いてくる。こんなにきれいな2001年を見ちゃっていいのだろうか、なんて後ろめたささえ感じた。

IMAXといえば「大きなスクリーン」ですが、昔むかしテアトル東京で70mmスクリーンでこの映画を見た時の思い出と比べると、なんだか横サイズが窮屈なように感じた。もっと左右にぐーんと広がった映像だったと記憶するけれど、思い出に補正がかかって美しく修正されているのかもしれない。しかし縦はでかい!船外活動をするプール副官にポッドが静かに向かって来るところは実物大のような迫力があり怖かった。画面いっぱいに映し出される「HALの目」も不気味さが増していた。これはIMAXスクリーンの恩恵だろう。21世紀に生きていてよかったホントに。

70mm版と同じく上映前の前奏曲、休憩、終映時の音楽も再現されている。今回、これらがあるとないとでは映画の印象が全く違ってくることに気がついた。通常バージョンだとディスカバリー号のシチュエーションはひたすら淡々と展開していって「狂ったコンピューターの反乱」の異常さを表現しているように見えるが。

プールとボウマン船長がポッドで内緒話をしているのをHALが盗み見、のシーンのあとに休憩が入る。ここでホッと一息ついて映画が再開すると、いきなりプールがHALに殺されるシーンから始まるので衝撃度がとても強い。続いて冬眠カプセルの中の三人の生命活動を強制終了させるシーンになるので、HAL9000の行為がすごく生々しく暴力的に感じられる。今までの「一滴の血も流れず叫び声もない殺人シーン」の静かな恐怖ではなく、人類よりも優れた知性を持つはずのHALの野蛮さと、無抵抗でコンピューターに殺される不条理さを強く感じたのは予想外であり面白かった。(HALの『野蛮さ』が猿人の野蛮さとストレートに直結する恐ろしさ!)          よくストーリーが意味不明と言われるが、強いメッセージ性を感じられるようになり、物語の展開もダイナミックになった。これは新しい発見でした。

終映後の「美しく青きドナウ」が最後まで演奏されるのも、全くの未知の世界で激しく感情を揺すぶられたあとに現世へ戻るために必要な時間だった。全部終わった後に客席からは拍手が。いや、見てよかった、めったにない「視覚体験」をさせていただいた、ありがたいありがたい…そんな気持ちでいっぱいになりました。

この作品を好きな人は問答無用で見に行くだろうし、まだ「2001年」を見たことがない人がいるならその人は幸せだと思う。最も素晴らしい映像を「初めて体験」することができるのだから。贅沢だっ!上映している映画館が近くにあるなら迷わず見よう。そして宇宙ステーションの回転に酔おうじゃないですか。




この記事が参加している募集

イベントレポ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?