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井上

午後3時、強い空腹感に襲われ起床。僕はラーメン屋を探し国道を西にむかって歩き始めた。
鼠色の傾いた電柱が影を作って、その影でぽたぽた焼のババアみたいなおばあちゃんが休憩している。なんて平和なんだろう。僕は道端に転がる頭蓋骨がポメラニアンに見えてつい手に取ってしまった。ばっちいなぁ。苛立った僕はふてぶてしくこちらを見つめるそれを蹴り飛ばそうと思い、片足をY字開脚の状態に振り上げた。すると、頭蓋骨が僕に話しかけてきた。

「なあ、君ぃ」

気持ちが悪い。なんだ頭蓋骨のくせに偉そうに話しかけてきやがって。僕はぐんっと顔を近づけ、

「アンディ(なんだいの訛り)」

と問うた。

頭蓋骨「俺、井上陽水と飲んだことあんだよ。」

僕「は?」

頭蓋骨「俺、井上陽水と飲んだことあんだよ。」

僕「……は?」

頭蓋骨「俺、井上陽水と飲んだことあんだよ。」

僕「言いたいことはそれだけですか?僕も暇じゃないんですよあなたのどうでもいい自慢で潰える時間が時間が勿体なくて勿体なくてしょうがないもう行っていいですか?まずですねぇこの時代に井上陽水でマウント取るのはかなりキビしいと思いますよ。かなキビです。じゃあお先に失礼しますお疲れ様ですお疲れ様でしたお疲れ様だったこともありました(オタク特有の早口)」

頭蓋骨「大喜利勝負……しねェか……?」

その言葉を耳にした瞬間、脊髄反射で僕は戦闘態勢を取った。まさか、プロ大喜利バトラーたる僕に勝負を挑んでくる馬鹿(ヤツ)がいたとは。フッ…面白いじゃないか。




国道沿いの空き地が荘厳なバトルフィールドに変容していく。まるで遊○王やバトル○ピリッツのように。
BGMはジョンレノンのイマジン。いや選曲間違えとるやろ!と当たり障りのないツッコミを入れる頭蓋骨を尻目に僕は精神統一を始めていた。最初の回答が流れを作る。一発で決めてやる──。
MCは勿論、ぽたぽた焼のババア。ババアが年季の入ったオルゴールのような美声でお題を読み上げる。

ババア「ビートたけしが逆ギレ。何があった?」

ピンポン!!
──勝ったッ……

僕「ダンカンがカンカンだった」

ざわつく会場。いつの間にか湧いたオーディエンスは少し頬を赤らめ、もじもじしたりくねくねしたりしている。
──おかしい。こんな反応、みたことがないぞ。
焦った僕は新しいフリップを手に取り、ペンを走らせる。

ピンポン!!
頭蓋骨は微笑みを浮かべ回答ボタンを押した。

頭蓋骨「……」

ババア「頭蓋骨さん?」

頭蓋骨「………………」

ババア「頭蓋骨さん、回答をどうぞ」

頭蓋骨「………ピートたかし」

次の瞬間、頭蓋骨にヒビが入り、水色の水が流れ出た。それはとても綺麗で、僕は言葉を失った──。



頭蓋骨「君が病気になった時。苦しくなった時。どうしようもなく行き詰まった時。死にたくてたまらなくなった時。思うように動けない時。申し訳なさで潰れそうになった時。引きこもって外に出てきたくない時。周りの環境が嫌になった時。1人が寂しい時。どうしようもなくダメになった時。自分を守るために自分を苦しめた時。この言葉を思い出してほしい。『ぁーぼヨmちョぱ無か縷』」

そう言って頭蓋骨は水色の水に溶けていった。


水色の水はやがて蒸発し、そこには何もなかったかのように国道沿いの空き地がでろんと広がっていた。



道なりに西へ進み、いかにも個人経営ですといった様相のラーメン屋を見つけた。

「らっしゃい!お?見ねぇ顔だナ。ご新規様だ。にいちゃん俺、井上陽水と飲んだことあんだよ。」

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