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テクノロジーと自然が共存する”登る人も登らない人も楽しめる山小屋”ー冷泉小屋

モノクロームの屋根一体型太陽光パネル、Roof-1を設置している施設や住居に訪問し、太陽光発電が支える人々や彼らの営みにクローズアップ。

記念すべき訪問先第一弾は、信州北アルプスの名峰、乗鞍岳の中腹に位置する冷泉小屋。
昭和6年に創業した冷泉小屋だが、16年間のクローズ期間を経て、2022年7月に新生冷泉小屋としてリニューアルオープンしたばかりだ。
その注目すべき特徴は、国立公園内にある山小屋であり、公共インフラが通っていない。即ち、電力や水などのエネルギーを自給自足する、いわゆる完全オフグリッドの山小屋という事だ。

その名の由来の通り、小屋のすぐそばで絶えず冷泉が湧いているため、トイレや風呂などに使用する水はこの冷泉から引くことが出来ている。
さらに、今年からRoof-1を導入したことにより、太陽光発電による電力の自給ができるようになった。

乗鞍岳中腹に位置する冷泉小屋、公共のインフラがない

9月上旬、まだまだ残暑が厳しい気候の中、オーナーである村田ご夫妻に会いに乗鞍へと向かった。松本ICを降りて高山方面へ約1時間半、バスがギリギリ通れるくらいの対面通行の細い山道とトンネルを抜けていくと、乗鞍岳の頂上が前方に見えてくる。冷泉小屋のある乗鞍エコーラインでは、排気ガスによる環境破壊を防ぐためのマイカー規制があるため、三本滝から山頂までは自転車か徒歩、あるいはバスに乗り換える必要がある。三本滝からの道は多くのサイクリストで賑わっていた。乗鞍はヒルクライムの聖地だそうだ。それにしてもさすが標高2100m、お昼を回る頃だったが空気がひんやりと心地よく、秋がもう、すぐそこまできていることを感じることができた。

三本滝より山頂まではマイカー規制があるため乗り換えが必要

冷泉小屋の再生に至るまで

仕掛け人で代表は現役CMプロデューサーの村田淳一さん。平日は都内で映像制作会社に勤務し、週末は山小屋の運営をする。奥様の実樹さんも数年前まで大手広告代理店で企画をしていたというクリエイティブカップルで、現在は長野県松本に拠点を移し共に冷泉小屋を経営している。

左より村田(宇野)実樹さん、村田淳一さん

ーなぜ冷泉小屋を再生しようと思ったのですか?
村田さん:「元々山登りが趣味で、知人を介して山登りアプリのプロジェクトに関わることになったんです。そこで”山登りの人口は増えているけれども、若者ユーザーは増えていない”という課題に対して、じゃあ若者を山登りに巻き込んでいくにはどうしたらいいか?と言うクライアントへの解決策として提示した案が『山小屋をリノベーションしてアップデートしたらいいのではないか?』だったんですよね。それでクライアントから、山小屋は世襲制だから、その案の実行は難しいのではないか?と言われていて色々調べていた時に見つけたのが冷泉小屋だったんです。」

聞くところによると、現在は法律により国立公園内に新たに建物を建てる事が難しい。一方でその法律が制定される以前に建てられた山小屋であれば今も利用できる。そのため、山小屋ビジネスの新規参入はなかなか難しく、現存する多くの山小屋が世襲制となっている。

最終的にはそのプロジェクト自体は無くなってしまったそうだが、これをきっかけに知り合った冷泉小屋の前オーナーの熱意に押され、プロジェクトで自ら発案した”山小屋を再生しアップデートする”というアイディアを実践するに至ったそうだ。

天井を取り払い梁を見せる空間へ。テーブルは地元の白樺間伐材を使用。

山登りカルチャーを守るために、誰もが労せず楽しめる体験を

村田さん:「僕は食材を背負っていって、お酒を持って、山で料理したりするのも醍醐味だと思っているけど、本来の山小屋ってストイックな人が多い。夜早く寝て、明日の早朝からの山登りのために休息するための場所という意味合いが強いんですよね。だから、山小屋にステイすること自体を楽しむっていう文化は無かった。そこを、せっかく山まで来たんだから、山を楽しめる感じを膨らませた山小屋にしたかったんです。」

ラウンジには薪ストーブ

実は登山者として、以前までは乗鞍岳にあまり魅力を感じていなかったという村田さん。しかし、見方を180度変えることで、新たな層にアプローチできる可能性を見出すことができたそう。

村田さん:「乗鞍はバスも通っているし車でもこれるし、登山者としては中途半端な山だった。だから最初はそこまで魅力を感じていなかったんですが、でもよく考えると、逆にもっとポテンシャルがあるんじゃないかと気づいたんです。バスで頂上付近までいったら、1時間歩くだけで3000m級の頂上まで行けてしまう。ビギナーからベテランが同じ山をいろんな楽しみ方で一緒に楽しめることがこの山の魅力だなって。」

「例えば、この間自転車のお客さんがいらっしゃったのですが、自転車なのに山登りっぽい服を着ていたので、これから山登るんですか?と聞いたら、実は家族と待ち合わせしていて、家族はバスで行って、彼は自転車で畳平まで行って、一緒にこれから頂上へ登るんだと。そういう、楽しみ方があるんですよね。」

サイクリストたちが休憩に立ち寄っていた

「日本の登山って、努力を積み重ねて行かないと高い山に登れないんだけど、いきなりでヘリで頂上まで連れて行って降りるだけの山登りもあるよなって思ったりして。そこで見た絶景で、あー自分の足でまた登りたいなって思ってもらえたら、山登りの人口を増やすことに繋がる。楽しちゃいけないっていう風潮は悪くないけれど、別に、そこまでこだわることないって思う。もっといろんな人に、労せずしてこの絶景を見てもらって、それをきっかけに、登山したいって思ってもらうことが大事かな。」

ラウンジからの景色

筆者も2100mの絶景を、登山することなく手軽に見ることができた。
平成生まれのゆとり世代と呼ばれる筆者としては、まだその”若者”の部類に入るのだろうか。今回は0歳の幼い娘との訪問だっため、宿泊は断念したのだが、まさに登山せずに宿泊する予定だった。そういった意味では、美味しい料理に絶景と、山小屋にステイすることを目的に、若者世代の山登りの敷居を下げていくというのは、村田さんの狙い通りだと感じた。

村田さん:「ここに来る人はね、遅くまでお酒も飲んで、星も綺麗だから、みんなで星をみる。日の出もすごいんですよ、今朝はこんなですよ!」

今朝撮ったという、冷泉小屋から見える日の出

実樹さん:「山に全く登らずに、山小屋に泊まりにくるんですよ、私は登山しないんですよ。全く興味がなくて。いや、むしろ逗子に住みたかったくらいで海が好き。(笑)」

薪ストーブの焚かれた暖かい部屋で、シェフの振る舞う料理を囲み、美味しいお酒を遅くまで飲み、日の出を見る。山登りをしない人も楽しめる、この山小屋にステイすることが目的になりうるのが冷泉小屋だ。

北欧風にリノベーションされた客室

冷泉小屋で料理を担当する実樹さん。平日は週末に向けた食材の仕込みや買い出しに加え、アウトドアイベントの主催、スリランカにあるアーユルヴェーダホテルのPRと何足ものわらじをはいている。

村田さん:「今は中華、和食、イタリアン、ジビエのシェフなどとコラボレーションして、たまに出張シェフもイベントのようにやっているんです。この辺りは熊が出るんですけれど、この間は熊鍋をやった。脂を食べるって感じで、美味しいですよ。」

実樹さん:「山小屋ってみんな泊まって行くじゃないですか、だから、お客様との距離感も近くて、家族のように話しながら楽しめるのが、都内でただご飯を食べにレストランに行くのとは違う楽しみがある。食材もなるべく農薬や肥料を使わないものをこだわり、松本の農家さんから直接仕入れています。素材が良いものって、素直に美味しい。あと、去年から発酵にも興味があって、お砂糖の代わりに甘酒を使ったり、お塩の代わりに塩麹を使ったり。色々試していきたい。」

カフェのみの利用もできる。ミートソースパスタとスープのセットは1500円。

Roof-1が可能にした、積雪地域での太陽光発電の導入

冬のシーズンになるとスキーリゾートに姿を変える乗鞍高原。となると問題になるのが、太陽光パネルが積雪に耐えうるか?というところだ。元々電力の供給源として太陽光パネルの導入は考えていたが、従来の架台式の太陽光パネルは、積雪に耐えられなかったため止むなく断念していたそうだ。

モノクロームの屋根一体型の太陽光パネルRoof-1は、屋根と太陽光モジュールが一体化しているために架台が不要につき、設置が可能になったという。

モノクロームの屋根一体型太陽光パネルRoof-1が施工された冷泉小屋

ストレスと後ろめたさからの解放

Roof-1で太陽光発電が可能になるまでは、1日2回、車で20分ほどかかる山の麓まで下りて、数十kgもあるかなり重いポータブルチャージャーを3台充電することで電力をまかなっていたという。

村田さん:「発電機は使いたくなかったのですが、実際は車で運転して充電しに2往復している間は、結局はガソリンを使っているから全然エコじゃない。そういった後ろめたさから解放されたいって思っていたから、(電力の)自給自足ができるようになったことは大きな前進ですね。」

Roof-1で14.9kwの発電が可能になり、日中の電力の供給はもちろんのこと、蓄電池にはテスラのPowerwallを導入することで、夜間の電力も心配することが無くなったようだ。

-Roof-1を入れてからのエネルギー事情はどうなりましたか?

村田さん:「正直半信半疑だったんですよ。やっぱりまだ麓までバッテリー充電しないといけないんじゃないか?って。でもこれ、ある意味使いたい放題ってくらい、十分すぎるくらい発電できている。」

ラウンジに設置されたテスラの蓄電池Powerwall

実樹さん:「これまで、毎回電子レンジを使うたびにコンセントを抜いて、お客様の電気の消し忘れがないかトイレも見回って…毎晩翌朝まで電気が持つか不安だった日々でした。毎週、日曜に営業が終わるたび冷凍庫の中身を運び出したり、氷を捨ててから帰らないといけなかった。あと、これまでお客様にドライヤーを使いたいと言われた時は、心配しかなかったけれど、これからは『どうぞどうぞ!』と言えるようになりました。(笑)」

写真左、接客担当のナナさんは冷泉小屋で働くためだけに北九州から松本へ移住した

山の斜面に建つ冷泉小屋は、日当たりが良好で、発電量についてもバッチリなようだ。18時に日が落ちてから朝5時まで、蓄電池の容量の2割しか使っていなかったという。

村田さん:「今は充電のために麓まで運転することがなくなったし、体力も時間も使わなくて済む。重たいバッテリーを3台も運ぶ仕事もなくなったから、これからは筋肉が落ちちゃうな(笑)」

Roof-1によるクリーンなエネルギーの導入は、電力不足のストレスからも解放された上に、使っても後ろめたい気持ちにならなくなったそうだから、あらゆる方面で村田夫妻の心を軽くすることに繋がったようだ。

ちなみに衛星から直接インターネットをひけるStarlinkも導入しており、山小屋なのに、高速WIFIも提供している。まさに、大自然の中でテクノロジーを駆使して自然と共存する山小屋だ。

屋根一体型太陽光パネルRoof-1が設置された冷泉小屋とStarlink

村田さん:「ようやく自分達が考えている完全オフグリッドの目標設定に向かって、ちょっと進んだなって。まだ色々あるんですけど、電気のことは大きく進んだな。トイレやお風呂は冷泉を引いて使用しているけれど、本当は冷泉を使って飲料水に使いたいんですよ。」

今後は更なるステージの完全オフグリッドの山小屋を目指し、冷泉をもっとエコな方法で沸かしてお風呂にするシステムや、繊維の分野で有名な信州大学と、冷泉の飲用化を目指した新たなフィルタリングシステムの研究を考えているなど、山小屋というスケールを超えた実証実験の場にもしていきたいというから、ますます目が離せない。


冷泉小屋
長野県松本市安曇4308番地
HP:https://reisenhutte.mystrikingly.com/
Instagram:@reisen_hutte
X(Twitter):@NORIKURA_Reisen


モノクロームについて
モノクロームは、創業者の梅田優祐が自宅を建設する際に、理想の住宅用太陽光パネルと、つくられた自然エネルギーを効果的に制御するためのソフトウェア(HEMS)が存在しない問題に直面したことをきっかけに、その問題を解決するため、CTOのラス・イズラムと共に2021年7月に設立された会社です。

HP: https://www.monochrome.so/
Instagram:@monochrome.so
X(Twitter):@monochrome.so

屋根一体型太陽光パネルRoof-1についてもっと知りたい方はこちら


Text&Edit:Miko Okamura Ellies
Photo&Video:Christopher  Ellies