本棚

本棚に眠る外国語

外国語が好きだ。

日本語ではなかなかしないような表現を目にすると、「そんな風に言い表すのか!」と感動するし、近い言語で単語が似てると、「こっちの言葉ではこう発音するのか!」とドキドキする。

その言葉に潜むものの多くに、思わずわくわくしてしまう。

テレビにイケメンが出てくるとひゃあひゃあ騒ぐのに似てる。この言語の響き良いなあ~、って。

大学では一応英語を専攻してして(卒業のときに、「卒業させられるレベルの英語ではない」と教授に怒られたけど)、第二言語として選択したドイツ語も検定をいくつかクリアした。
学生時代に祖母からもらったお年玉は、フランス語とスペイン語の教科書に消えた。

でも結局、今脳内に残っている知識が上手く扱えるかというと、全然そんなことはない。使わなければ日々忘れていくし、結構がんばって勉強したと思ったのに、あっという間に記憶の彼方へ消えてしまった。

触れる機会の減ったドイツ語では自己紹介できるかどうかも怪しいし、熱心に勉強を積み重ねたとか、上手く扱えると言い切れるほど修得できていない。
まあでも、「好き」の気持ちは、ずっと変わらないからいっか、とろくに開いていない教科書を本棚に眠らせたままだ。


書店の隅っこで、「その他の外国語 エトセトラ」という本を見つけた。

著者は黒田龍之助さんという、語学教師の方。色んな言葉が好きで、学校へ通ったり独学で勉強したりして、複数の言語に触れているそうだ。
一番のメインはロシア語で、英語やドイツ語やフランス語は勿論、ポーランド語やチェコ語やベラルーシ語のような、書店の本棚で「その他の外国語」と分類されてしまうような言語にも多く触れているらしい。
専攻言語に捉われないという意味で「フリーランス」語学教師として活動されているとのこと。

この方が、普段言語とともにどんな暮らしをされているのか、どんな風に生活の中で言葉を扱っているのか、を書かれたエッセイだった。

言語の勉強の仕方の話もあれば、外国の電車に乗ったときの現地の方との微笑ましいやり取りもある。「そんな言語を習得して、何の役に立つんですか?」と質問されて、返答に困った話もあれば、突然チェコ語で講演をすることになったときの原稿も載っている(勿論、注釈付きの日本語訳のもの)。

その中でも私の心に残ったのは、「英語だけの日本人」というエピソードだ。
フランスを訪れた著者が、手荷物検査官とフランス語で話をしていたら、「珍しいわね、日本人は英語ばかりなのに」と言われ、タクシーの運転手と雑談をしていたら「話ができてうれしいよ、日本人は英語ばかりだから」と言われた、という話。

確かに、日本で外国語学習をしようとすると、8割方が英語だと思う。

巷に溢れる民間のスクールも、書店で幅を取られているコーナーも、大体英語だ。

そりゃ、受験に必要な科目だし、世界共通語としてビジネスでも使う機会の多い言語だと思うし、歴史上アメリカに指導されたことの多い日本では、英語が浸透するのは必然ともいえる。

世界共通語というからには、例えば中国人とフランス人がロシアで話をしようとして英語を話すというのはわからなくはないけど、もし観光で行っていて現地の人と話をするなら、がんばってロシア語を学んでいくのが礼儀だろう。

そういう意味で、最低限の現地の言葉を練習してもいないのに、英語なら通じるだろえいやっで現地へ飛ぶ日本人観光客が多いのは、何だかなあと思う。


とはいえ、日本では、英語以外の外国語に触れる機会が極端に少ないのも事実だ。人種のサラダボウルと呼ばれるアメリカや、EUのお蔭で国境越えが楽にできるヨーロッパのように、母国語が別の人と話をする、ということもあまりない。

そもそも、英語に触れる時間だって少ない。
これも書籍内で出てきたけど、「概算で、中高の6年間で810時間程度」=「1日10時間勉強しようと決意すれば、3か月で終わってしまう程度」しか、一般的な日本人は英語の勉強をしていない。そりゃあ、身に付かないし、興味も持続しないし、難しく感じてしまう。
ついでに言えば、6年間みっちり勉強して身に付けたって、社会に出たら仕事でもプライベートでも英語なんて使わない人が大半だ。
習得したものを披露する場も、上手く扱えているか実践的に確認する場も無いんだから、染みこんでいかないのは当たり前だ。

英語でそんな風なんだから、他の言語に手をだすのは気が引けて当然だ。
母国語の日本語ですら、覚束ないのに。

改めて、言語学習には時間がかかるもので、楽な習得方法は無いはずだし、勉強する気概と時間をかけないと積み重なっていかないものだなと思った。
日本語なんて30年近くやってても上手く扱えないのに、英語だって年数だけ見れば6年間はやったはずでも身についていないのに、他の言語なんて扱えるわけないよね、と思ってしまう。
多分こういうところが心にブレーキをかけてしまって、外国で「日本人は英語ばかりだから」って言われるんだろうな。

申し訳ないけど、こればっかりは、明日から日本人の半分がフランス人とかにならないと、なかなか難しい。
普段から興味を持って、時間をかけて、打ちこみ続けていないと、現地でフランクに雑談できるほどのことばは、操れないものだろう。
元高校球児のしっかりした筋肉が、あっという間にビールっ腹の中年太り体型になってしまうみたいに。


でも逆に考えると、これはある意味希望を持てる話なのかもしれない。

だって、1日10時間3か月分しか英語をやっていないから身についていないなら、これから1日10時間半年やれば、身に着くかもしれないということでは?

いや、そんな単純な話じゃないことはさすがにわかっているけど、前向きに考えたい。

だって、この書籍内でも黒田先生が語っているけど、「英語が苦手」と言う人は、「英語が苦手な物語」を自身に言い聞かせているだけなのだ。
黒田先生自身、「日本で生まれ育って、親も日本人、未だに留学経験は無いけど、外国語でご飯を食べている」という風に話されている。
留学したことないしとか、ネイティブの人と喋る機会が無かったし、とかは、その人が自分に言い聞かせている「英語が苦手な物語」なだけってことだ。

つまりやっぱり、言語の習得は、時間と努力の積み重ねだし、英語に関しては純粋に時間と努力が足りてなかったのだ。

そう思えば、まだこれから、音の響きの大好きな英語もドイツ語も、教科書を買ったフランス語もスペイン語も、習得の可能性はゼロじゃないってことになる。

観光旅行を計画してからみっちり勉強してもいいし、何か検定のような目標を決めてからガッツリ勉強してもいい。
とにかく、決意して注力すれば、まだまだ習得のチャンスはあるはずだ。この本のお蔭で、外国語学習に前向きになれた。ありがたいことだ。


この本にはそれ以外にも、海外旅行の滞在中のポイントや、多くの言語や文化を知っているからこそ培われた著者の価値観など、興味深いお話が愉快なエピソード混じりでたくさん載っている。

胸が熱くなるような感動話は無いし、繰り返し読んで唸ってしまうような軽妙なストーリーも無い。

だけど、いつか私が心底外国語を身に付けたいと決心したときのために、この本と教科書は本棚に並べておくのだ。

それがいつになるかは、わからないけれど。

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