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平成最後の夏、高校野球に目覚めた話

小さい頃は、野球が嫌いだった。

プロ野球が延長になると、観たいバラエティやアニメが潰れるし、夏休みに甲子園が始まると、父がテレビを占領するのでゲームで遊べなくなった。

父に「野球おもしろいよ~」と言われても、「サッカーの方が好き」なんて返した記憶がある。ただ単に、幼馴染がサッカー少年で、ルールなんかに親しみがあっただけなのに。酷い娘でごめんね。

大人になるにつれて、漫画やアニメや小説で、野球作品に触れた。

最初はちんぷんかんぷんだったルールも、だいぶわかってきた。特に、音声記憶の方が頭に入りやすい私には、アニメの効果は絶大だったと思う。

そうして今年。記念すべき甲子園第100回大会。

開催初日に、私はたまたま実家に帰省していた。勿論父は、甲子園を観たがった。初日の始球式は、ゴジラ松井。さすがに私だって、名前と活躍のすごさくらいは知っている。

法事で出かけることになっていたので、カーナビから漏れ聞こえる音だけだったけれど、私と父は一緒に甲子園を聞いた。

法事が終わって帰宅してからも、夜に始まった甲子園特番を一緒に観た。

第100回までの間に、どんな名場面があって、どんな名選手がいたかを、甲子園ファンに取ったアンケート結果に添って紹介してくれる特番だった。

アンケート方式の番組にありがちな構成。該当の選手の名前が発表される前に、ファンの回答(選手の特徴や、好きなところ)をいくつか出すかたちだった。

野球に疎い私は、ファンの興奮した回答を聞いても、思い浮かぶ名前なんてひとつもない。

しかしこれを、父が全て当てていくのだ。

社会現象にまでなったイケメンだとか、速球が売りのピッチャーだとか、伝説的なバッティングをした選手だとか。ファンが挙げる2、3個の特徴を聞いただけで、「ああ、○○やな~」なんて、全部当てた。

純粋にすごい、と思った。

明らかに父が生まれていないような頃の甲子園の選手まで当ててしまうのを見て、母が「この人、年誤魔化してるわ~」と笑っていたが、父は「父親(私の祖父)に教えてもらってん」と得意げに答えていた。

甲子園なんて、年に一回なのだ。プロ入りする人も多くいるけれど、伝説的なプレーをしたって甲子園が最後の高校野球という人もいる(はずだ)。

それを、何年も何年も、積み重ねで覚えているのだ。自分が生まれる前の選手のプレーまで。

すごい。父は野球が好きなのだ。今年ようやく、私は父の好きなものをひとつ知った。


実家から自分の暮らす家に戻って、2018年の甲子園のガイド本を買った。

観戦前に、注目選手のピンナップとか、集合写真付きの甲子園出場チーム紹介で予習をした。

得点力がすごいとか、チーム唯一の1年生とか、強肩の外野手とか、打って良し投げて良しの二刀流とか、フィクションの中で見たような設定がたくさん載ってるな、とわくわくした。

でも実際に中継を見ていたら、それらは全然「フィクションで見たような設定」なんかじゃないのだ。

打者を打ち取ってガッツポーズをする投手、ファインプレーの光る内野手、奇跡のバックホーム、満塁ホームラン。さっきまで暗い表情だった負けてるチームが、数点返したときの目の輝きようも。

私が見てきたフィクションは、あの暑いマウンドでの戦いに心打たれた人たちが創ったものなのだ。あの汗と土にまみれた総力戦が、たくさんの感動や激情を生み、波及してきたのだ。

そして今私が中継を見ているのは、歴代の高校生たちの奮闘に夢中になってきた父から広がってきた何かのおかげだ。

あの激闘が、涙と汗が、努力の積み重なった先のスーパープレーが、全部全部現実の地続きなんだと思うと、思わず手に汗握ってしまう。

応援のブラスバンドが好きだ。チームの勢いに合わせて盛り上がるスタンドが好きだ。選手のプレーと一緒にテンションの上がる、実況さんと解説さんの声が好きだ。たまに映るベンチから仲間を応援する球児が好きだ。

何よりも、打って走って、投げて守って、戦略的に、身体能力の限界まで努力と精神力を発揮して戦う選手たちが好きだ。

上手く言えないけど、私は野球が好きになった。

平成最後の夏、記念すべき第100回大会に、野球に疎い初心者だけど、観戦席の末席に加わりたいと思った。


小さい頃は、父が野球を観ながら「何で振らへんねん!」「こぼすなよ~!」とか文句を言っているところを見ては、「そんな文句言うなら、自分が野球選手になればよかったのに」と、ひねくれたことを考えていた。

今父と同じように、「あ~、見送っちゃったかー!」「今の惜しかったのに!」とヤジを飛ばしながら中継を見ている私がいる。

さっき、「昨日の満塁サヨナラホームラン見た!?」と父にメールしたところ。返事待ちの間にこれを書いている。

次に帰省するときには、野球の話で楽しめる娘になっていたい。

高校球児の皆さんが健康的にプレーして、最後まで大きな事故もなくつつがなく終わりますように、と祈りながら、明日もプレイボールのサイレンをわくわくしながら聞きたい。


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