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紙ヒコーキ、飛んでいけ!

「おはよ、アツシ。今日はボクが勝つから」朝一番にアツシに宣言した。
「トモヤには負けないよ!」
 この1ヶ月、ふたりはバトルを繰り広げている。何のバトルかって?それはね……。



 ボクが通う学校はちょっと変わってる。国語とか算数って名前の授業も教科書もない。毎月「テーマ」があって、そのテーマに関係する専門家の人がきてくれて授業をしてくれたり、自分たちで調べたり、現場に出かけたりするんだ。

 今月のテーマは「飛行機」
 最初の日は、大学の先生が来てくれて、アメリカのライト兄弟が世界で初めて飛行機で空を飛んだ、とか、戦争で飛行機が使われるようになったとか、どうやって飛行機が飛ぶか、どんな燃料を使ってるかとか、教えてもらったんだ。今から120年ぐらい前に初めて飛んだって信じられないなあ。ライト兄弟は、落ちたらどうしようとか、ドキドキしただろうなあ。

 サン=テグジュペリの「星の王子様」も読んだよ。サン=テグジュペリって作家だけど、パイロットだったんだって。砂漠で遭難したパイロットが他の星から来た王子様と出会って、という話だったんだけど、ちょっと難しかった。『本当に大切なものは目では見えない』って書いてたけど、どういうことなんだろう?

 そうそう「365日の紙飛行機」の合唱もした。最初二部合唱で、途中三部になるんだけど、なかなかうまくハモれなくて苦労したな。女子はこの歌好きーって喜んでる子、多かったけど。僕はもっとかっこいい歌がよかったな。

 成田空港のA滑走路をはしからはしまで歩くと、どれぐらい時間がかかるかも計算したよ。滑走路の長さは4,000メートルなんだって。歩く速さが時速4キロだとすると、1時間。燃料と飛べる距離の問題もあった。これは算数の授業だよね。

 一番楽しかったのは、空港!
 飛行機会社の人に会ったよ。パイロットやCA以外にも、いろんな仕事があるんだね!飛行機を誘導する人のこと、マーシャラーって言うんだって。飛行機を停める場所って数センチ違ってもだめらしくって、パイロットは見えないから、マーシャラーが手でパイロットに信号を送って、ピタッと停めるんだ。
 女子はやっぱりCAに憧れてる子が多かったな。ミユは絶対にCAになるって宣言してた。ミユのお父さんはパイロットなんだって。CAになってパパの飛行機に乗るのが夢って言ってた。
 整備工場にも行ったよ。24時間3交代で、事故がないように点検するんだって。あんまり目立たないけど、大切な仕事だなあと思った。
 空港では、飛行機の絵も描いたんだ。ボクはマーシャラーが飛行機を誘導しているところを描いたよ。双眼鏡でみたら女の人だったんだ。男の人の仕事と思ってたからびっくりしちゃった。

 機内食を作ってる会社の見学も面白かったな。ベジタリアンの人向けや、アレルギーや糖尿病の人向け、イスラム教とかヒンドゥー教とか宗教によって食べられないものがある人用の機内食もあるんだって。
 機内食って、工場で作っていて、急速冷凍するんだよ。それを飛行機の中で温めて出すんだ。飛行機の中は気圧が低くなって味がわかりにくくなるから味付けを濃くしておくと美味しく食べられるって教えてもらったよ。
 お昼に機内食を食べさせてもらったんだけど、ボクはビーフにした。ステーキかな、とわくわくしてふたを開けたら、牛丼だった。確かにちょっとしょっぱかったな。アツシはチキン。唐揚げだったから、ボクもチキンにすればよかったな、ってちょっと後悔した。
 
 紙ヒコーキを作って飛ばす授業もあったよ。紙ヒコーキでギネス記録を持ってる人が先生で来てくれたんだ。先生の折った紙飛行機、体育館で飛ばしたんだけど25秒以上、飛んでたんだよ!
 僕らも作ってみたけど、飛ばなかったり、飛んでもすぐ落ちちゃったり。
先生が、どうやったら飛ぶようになるか、ヒントをくれて、作り直したら、ちょっと飛ぶようになったんだ。
 最終日に記録会があるから、それに向けて、毎日、飛行機飛ばしてる。今のところ、ボクはクラスで2番目の記録。アツシが1番。
 悔しいから、実はこっそり家でパパに相談して、折り方を工夫してる。家でも飛ばしてるんだけど、すぐ壁とか天井にぶつかっちゃうから、なかなか試せないのが悩みなんだ。



 いよいよ今日は紙ヒコーキ記録会。
「トモヤより僕が先かあ。よし、行くぞ!」
 アツシがえいやっと紙ヒコーキを飛ばした。飛行機の頭がクイッと上がって、ひょろ、ひょろ、と左右にふれて、ポトンと落ちた。
「あーあ」アツシはがっくり肩を落とした。
 6.21秒。ちょっと調子が悪かったようだ。
 次はボク。ふーっと深く深呼吸して、力を抜いて、すーっと手を離した。
紙ヒコーキはつーっと床に平行にまっすぐ飛んで、少しずつ降下して静かに床に着地した。
「12.16秒!」
おー!と声が上がった。今の時点で最高の記録だ。あと一人だからきっとこのまま逃げ切れるな。
 アツシがボクのところに走ってきた。
「トモヤ、おめでとう!悔しいけど、トモヤの勝ち」
「ありがとう!アツシ」
 優勝だ、とホクホクしていたボク。その時、わーっと歓声が上がった。
「13.20秒!」
 えー!なんと記録が抜かれてしまった。飛ばしたのはミユ。これまで全然、だめだったのに、どうしてだよう!
「えへへへ。優勝しちゃった。ごめんね、トモヤ。私、CAじゃなくてパイロット目指しちゃおうかな」
 ちぇ、なんだよ。きっとパイロットのお父さんにアドバイスもらったんだぜ。ま、ボクもパパに相談してたから、おあいこだけどね。



 来月のテーマは「魚」だって。魚市場とか水族館にも行くらしい。他にはどんな授業があるのかな。楽しみ!さかなクン来てくれないかな。
 今度は調理実習もあるのかな?魚偏の漢字を覚えるとか?もしかしたら魚釣り大会もやるかもしれないな。よし、今週末はパパに釣り堀に連れて行ってもらおうっと。今度こそ、優勝だ!

 



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