特殊なクルマを作っている工場を訪ねました⑷

霊柩車づくりから
何気にやる気を起こさせる
「8割ほめ」の極意を学ばせてもらいました


写真©山本倫子

 中古車を改造して「霊柩車」を作りだしている工場の見学ルポの最終回。茨城県にある工場を再訪問しました。

 再び訪れることにしたのは、前回は日曜日で工員さんたちがお休みで、作業風景を撮影できなかったから。前回のときに見た小型バスの改造作業の進捗を見ておこうと思ったからです。

 霊柩車仕様に改造中だった例の小型バス(第1回に登場)は、片側の座席が取り除かれていた。外から中の作業を見ているのは、ライフサポート・エイワの寺山さん。バスの中で作業しているのはベテランスタッフの山下さん。

「いまやっているのは臭気を外に送り出すための配管の取り付け。これが終わるとカンダイを取り付けます」
 傍で説明していただいたのは、もうひとりのスタッフの岩堀さん。
 カンダイは「棺台」と書く。


 棺台は、棺を載せたストレッチャーを運び入れ固定する台にあたる。

「うちはステンレス屋さんに注文して、それぞれの車に合うものを作ってもらっています」(岩堀さん)

 後日ネット検索をしたら、この台がネットオークションに出品されていた。出品数も一つや二つではない。台の形もいろいろ。中古価格だと20万円台が多かった。
 いったい誰が買うのだろうか?
「あれは、ご遺体の搬送会社でドライバーをしていた人が独立されるときに、新車は買えないからというので、ネットで中古の安いものを探して、自分で車に載せたりされるんですよね」

 と社長の寺山和夫さん。

 資金が足りない場合、完成された「新車」を購入するのではなく、出費を抑え自前で改造しようとする人たちも珍しくはないのだとか。事業が軌道になれば「いつか新車を」となるが、「いつか」にたどりつくまでに力尽きるケースもあるそうだ。

 独立にいたる背景には、仕事をする機会の多い葬儀社の人から、「そろそろ独立したらどうだい。○○さんが自分でやるなら、うちも仕事を頼むから」と後押しされる。葬儀社にすれば何かと無理を言えるドライバーを確保したいという思惑が、ドライバー側には「収入が増す」と夢が膨らむ。しかし、独立したものの甘くはない現実を思い知らされるケースが少なくないらしい。

 話を、ステンレスの棺台にもどそう。
「ステンレス加工は、うちでは出来ないので外注に出しています」
 
と岩堀さん。車種ごとに棺台のサイズが異なるため、一台ずつ採寸して、ステンレス加工を専門とする工場に発注する。棺台が出来上がると引き取りに行き、工場で車両に設置する。

「ステンレス屋さんも、一週間ぐらいで出来上がるということはないから、その期間は作業は止まっています」(岩堀さん)

 日数がかかるのは、ステンレス加工の工場は「棺台」の製作を専門にしているわけではない。むしろ工場の仕事の中では、ごくごく一部。寺山さんの工場が発注する際には数をまとめるそうだが、それでも一度に多くて数台だ。

「おまけに仕様が細かい。ステンレス屋さんにとっては、はっきり言って手間のかかる“喜ばれない注文”だから」(岩堀さん)

「発注してやるぞ、なんて姿勢じゃない。どちらかというとお願いする立場です」(寺山さん)

 ステンレス屋さんが引き受けてくれているのは「厄介さ」を面白がる職人気質があればこそのようだ。

「そのあたりは、じかに聞いたことはないけど。出来上がったら、こういう形になるのかという。そこが面白いんじゃないかな。注文品自体が変わっているし」(岩堀さん)

 岩堀さんの説明を聞くうちに次第にわかったことがあった。一台の霊柩車を作るのに、一つの工場内では作業が完了しないということだ。「うちでやれない作業は外注しています」。それは規模の大きな会社でも同様だという。

 寺山さんが話す。「まあ『霊柩車製造』の看板を上げてやっている大きなところは、外注に出しているというのは言いたたがらない。全部自社でやっているふうに見せているよね。
 なんで、と聞かれると、会社としての信用だとか、見栄もあるかもしれないけど、うちは秘密することは何もないから『うちで出来ないことはアウトソーシングです』とオープンにしています。隠さないのは、
後からこの業界に入ったからかもしれない」

 さらに岩堀さんの説明によると、火花の飛び散る溶接作業をしている近くで、塗装は危険だから出来ない。二つの作業をするには、作業を区分けする広いスペースがいる。内装の革張りひとつにしても「レザー屋さん」の持分というふうに仕事が分割されている。

 寺山さんがこう説明する。
「外注に出すのは板金、塗装、レザー、内装とそれぞれの職人さんを、一つの会社で抱え込むと潰れちゃう。流れ作業のようにひっきりなしに仕事があるというわけでもないから、職人を遊ばしておくことになる。うちのようなところは受注があって、それに合うクルマを買ってきて、ボディのカットが必要な場合は板金屋さんの工場に運んで切ってもらう。それが戻ってきたら、パテを入れて塗装する。だから一台のクルマが何回も工場を出たり入ったりしています」

 団塊の世代の高齢化で、霊柩車の需要も拡大。市場はバラ色かと思いこんでいたら、むしろ逆らしい。そういえば、近年大阪の老舗の霊柩車の工場が倒産したというニュースが話題になった。

 ところで、霊柩車の仕事をするにあたって心理的なハードルはなかったのかを聞いてみた。
 工員の岩堀さんと山下さんは、「新車」に携わる際には、そんなに深くは考えなかったという。しかし、使用されてきた「中古の霊柩車」をリフォームする仕事が発生するようになり、当初は「まあ、ちょっと……」と心境は曖昧だ。

 お二人に比べ、寺山さんは「俺は、そういうのを感じたりするほうでもないので」と淡々としている。

「そこは、この仕事の分かれ目かもしれないね。俺みたいに何も感じないのもいれば、たとえ利益が出てもそういうのは嫌だという人もいるでしょうから。そこは大前提かもしれない。
 ただ、うちのホームページには一台の霊柩車に20枚くらい写真を撮って載せている。それでも、おかしなものが写りこんでいるというのは一回もない。それに実際の仏さんを扱うわけではないから。霊柩車の運転手さんとかの大変さと比べようもないよね。霊柩の人たちは警察に呼ばれて、ときには目をそむけたくなるようなご遺体をちゃんと納体袋に入れて引き取ってくるわけでしょう。それからしたら何言ってんだよってことでしょう」

 記念に三人の写真を撮らせてもらった。
 その後もしばらく去りがたいものがあり、工場を見回していると目にとままったのが穴掘りに使う、ユンボだ。

「ああ、あれ。車の屋根だとかボディの凹んだものを上から引張りあげるときに使います」と山下さん。
 「たまにそういうふうに使ったりすることもあるけれど、ふつうの中古車屋はしないよね」と寺山さんが笑いながら補足した。
 ふだん車体の歪みを直す作業には「フレーム修正機」を使い、重たいものを運ぶにはフォークリフトを使う。
 ユンボ自体は、まだ霊柩車を扱う 前に土木関連の仕事にもかかわっていたことがあり、重機の会社から購入したもので、雪かきや重たいものを持ち上げる際に便利だろうというので「売らずに残してある」のだという。

 工場の中央にある、なんだか落とし穴のようものが車体の歪みを直す「フレーム修正機」だった。
 ついでに入ったときからずっと気になっていた鉄パイプの足場というか、ヤグラのようなものについても訊いてみた。

「バスの屋根の塗装をするのに、どうやって塗ろうかというので作ったもの。下に車輪がついているので移動できるんだけど、高すぎて作業するのに恐いんだよね」(岩堀さん)

 子供が遊園地に来たかのようにきょろきょろしていたからだろう。「ほかにもこんなものがあるんだけど」と山下さんが工場の隅から運んで込んできたのは、工業用ミシン。お客さんのニーズに合わせ霊柩車の窓につけるカーテンや内装のレザーの縫製に使うそうだ。

 しばし雑談タイムとなった。
「そうそう」と山下さんが話しはじめたのは、三人で中古の霊柩車を引き取りに行ったときのこと。クルマは二人乗り。どうしても誰か一人が「棺室」に乗らないといけない。
 しようがなく「あのときはくじ引きをしたんだっけ」「ちがうちがう、ジャンケン。それで俺が負けて」岩堀さんと山下さんが笑いながら説明する。
 楽しい人たちだ。

 仕事でいちばん楽しいときは、どんな時か訊いてみた。
 岩堀さんの答えは、「売れたときですよ」
 それ以外に何があるの、という顔をされた。

「どうしようと考えていて、思ったとおりにいったときに嬉しいというのはありますよ。でも、一番と言われたら、売れたとき。あとは自分が手がけたクルマが走っているのを見かけたときもそうですよね」
 エッ、見分けがつくんですか?
「そりゃわかりますよ」
 楽しげな表情だ。岩堀さんは以前は板金工場に勤めていて、先輩の山下さんに誘われて、この職場で働くようになった。創業からだから20年近くになる。

 工場の隅に棺が一つ置かれていた。
 岩堀さんが言う。
「ああ、あれね、中に入れるときの寸法を測るためのものがないといけないから。それで置いてあるんです」
 なるほど。聞くともっともなんだけど、棺というのはそういう意味では妙に存在感をもってしまうものなのだな。

ということで、後日、
リムジン仕様に車を切断する
「外注」の板金工場を訪ねてみました。

 見学にオジャマさせてもらったのは「自動車板金・塗装、各種リムジン製造」を手掛けるO社。
 まず請け負った車両の座席や内装を取り外し「鉄だけの状態」にしてから切断作業にとりかかる。

 ボディを切る「大きなギロチン」を想像していたら、手持ちの「エアソー」という電動ノコで切る。見学にうかがったときには残念ながら、すでに切断済みだった。
 スパッ、と切るような荒っぽいことをしないというか、出来ないのは、車体の底の部分には、ジグザクに切らないといけない箇所が多いからでもある。

 前と後に分割されたボディに、延長サイズ分の鉄板を溶接して足す。
手で示してある「白い部分」がその伸ばした部分。さらにパテで成型する。
 どういうふうにやるのかは板金工場ごとのオリジナルだが、「リムジンにするための専用のパーツがあるわけではない。工夫してイチから作る」ということでは、工場ごとに違う。

 車体のお尻部分。突き出ている長い物差しのような金属は、切断部分が反り返るのを防止するために固定しているもの。

 取り外された椅子とバンパー。伸ばす作業が済むと、廃車となったハイエースなどの屋根部分を上に覆い被せる。
「カツラみたいですね」と言うと、「イメージとしては虫歯を治療した歯に金属を被せる感じでしょうか」と返された。
 かかっているラジオはFM。「時間がわかる」時計代わりでもある。

 研磨機で塗装を剥がす。
 平行になるように何度も叩く。
「塗装されたままだと絶縁されていて電気が流れないから」で、プロの工員さんたちにとっては当然のような質問を重ねていた。

(👆以上、車体の切断に関する説明写真は朝山が撮影)
 
    作業にとりかかるのにマニュアルや設計図の類は、ないそうだ。
「図面のようなものは頭に入っています。新人は一通りやってみないとよくわからない作業ばかりでしょうね」


やる気を起こさせる
「8割ほめ」の極意


 説明をしてもらって、いちばん印象に残った言葉は、
「うまくいかず、やり直すこともあります。手ごわいのは一台目。ぜんぶワンオブだから、初めての車種だとゼロからの作業になる」
 ライフサポート・エイワの岩堀さんが言っていた、「自分が手掛けたクルマは街で見かけたらわかる」というのにつながることだ。
 車というと量産品の印象があるが、霊柩車は一台一台に違いがあって、棺台一つにしても美術工芸品のような輝きがあって面白い。奥深い世界だ。

 寺山さんによると、
「全部の工程を自社の工場でやろうとすると、工員は20人はいないといけないんですよ」

 外注に出すことの「損益分岐点」についてこう語る。会社経営の面から見ると、20人の社員を抱えるということは20人分の社会保険などを負担することになる。コストダウンを考えたときに、人員整理に頭が向きがちだが、「外注に出すということは本来、入ってくる分の利益も出ていくということになる」
 だから、どの部分を外注とするかの判断には、将来を見越した賭け事的な要素もある。

 取材を終えてからも、寺山さんとは何度か電話でいろいろ教えていただいた。なるほどと思ったことがある。外注先の工場を見に行ったときには、工場の従業員の人たちには必ず話しかけるという。ときにはねぎらいをこめて昼飯に誘うこともある。

「買ってもらったお客さんから、こういう風にしてもらったのを喜んでいたという話をします。八割方、褒めます。
 たとえば、『こないだの内装のレザーとレザーのつなぎ目のところにシリコンのコーキングを入れてもらっていたのをすごく喜んでいたよ』と伝えますよね。工員さんたちは、次からは何も言わなくても、そうしてくれるようになります。
 でも、それは手間がかかる作業です。半日くらいは手をとられるから、言われないと進んではやりたがらないんだけど。そこは褒められると人間、嬉しいからね。
 だから、お客さんの声は必ず具体的に、工員さんに伝えます。そういうのは社長に言っても、ああそうなの、で終わりだから(笑)」

 人心掌握術のようだが、工員さんに「直接良かったポイントを伝える」というのは、寺山さんが歯科技工士をしていたときに、仕事先の歯医者さんから「患者さんが喜んでいたよ」という話を聞いて張り切った経験からくるものらしい。

「うちのあの二人もそうだよね。お客さんのところに納車に行くという日は朝からそわそわしていて、納車し終わったころを見計らって、電話をかけてくるから。反応が気になるんだろうね。『喜んでいたよ』と言うと、声が明るくなる。
 彼らも、だんだん『売れる』ということに敏感になって、お客さんのニーズに合わせようとする。励みというか、一つ一つの工夫も、やらされているというんじゃなくて、自然とやりたくなるんでしょうね」

 最後に寺山さんはこう言った。
「褒めるとか言うと上から目線になって嫌なんだけど、言葉にして、ここが良かったと伝えるのは大事だと思う。
 職人さんも、ただモノを作っているわけではないから。もっと仕事を評価されていいと思うんですよ」

👆写真左からライフサポート・エイワの山下さん、寺山さん、岩堀さん

(おわり)
お読みいただきありがとうございます。
次回は、仏壇をハンドメイドされたひとをインタビュー。亡くなられたお母さんが使われていたベッドを解体してこしらえられたそうです。





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朝山実

霊柩車工場見学記

どのようにして霊柩車はつくられているのか? 工場を見学してきました。
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