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FANBOXで見返りが要らないわけない、って反論。


このnoteの趣旨は、

「FANBOXでコンテンツを差別化しない戦略は最悪。やらないよりもひどい」

ということです。ポイントは「やらないよりもひどい」こと。そのような戦略は有害です。それも、ファン・クリエイター・支援サイトの三者にダメージを与える最低の姿勢です。そのような姿勢で支援サイトにクリエイターが参入することは不幸な結果を生みます。

このnoteは、こちらの南柯そう/仲村氏のnoteへの反論として書かれました。


氏のnoteを要約すると、

・FANBOXに参加したクリエイターがどんどん辞めていく。
・それはクリエイターが支援への「見返り」(コンテンツの支援額による差別化)に縛られるせい。
・クリエイターが「見返り」を意識しない方が長続きする。
・「パトロン」の本来のあり方は「見返り」を求めない支援。
・支援したい人はそれでも支援するし健全な関係が築ける。
・ハードルを低くして続ける方がファンの信頼も買える。

となります。問題点に気づくでしょうか?

2018年5月21日現在、このnoteはtwitter経由でどんどん拡散され、共感を集めています。中には、「やってみようと思った」という声もあります。このnoteで推奨されるような「コンテンツの支援額による差別化をしない」姿勢でクリエイターがどんどん参入することに、私は危機感を覚えます。それはファンを幻滅させ・クリエイターの収入を減らし・支援サイトを陳腐化するからです。



■FANBOXの目的は「ジュース一本をおごられること」か?


まず大前提として、FANBOXでの目標が「ジュース一本おごられること」である人は、この先を読む必要はありませんし、FANBOXを始める必要もありません。
Amazonの欲しいものリストにでもジュース一本入れてtwitterで公開してください。

Pixiv FANBOXはサイトの目標を、クリエイターが「自分の好きな創作活動をしているだけで生きていける世界」と掲げています。つまり、「クリエイターが支援サイトによって生活を十分に支えられる状態」を目指しています。

つまり、

「月額にして30万円以上の支援が調達できること」

これがFANBOXの掲げた目標だと言い換えることができます。
それは例えば、「月額500円の支援をしてくれるファンを600人、常時抱えること」です。

これは非常に高いハードルです。
例えば、同人誌を頒布している同人作家の方は、自分の同人誌の頒布数を考えてください。600を軽く超える数でしょうか? そうでなければ、この目標を達成するのは難しいでしょう。
あるいは、twitterでリツイートされる件数はどれぐらいでしょうか?ブログの訪問者数は? pixivのフォロワー数は?

さて、南柯そう/仲村氏の提唱する「コンテンツの支援額による差別化をしない」姿勢でこの目標が達成できるのか、次の節で検証していきます。



■支援するファンには階層構造がある


支援してくれるファン像を明確化するために、二分法でファンの実像を探ってみます。このnoteを読んでいるクリエイターの方は、ぜひ、自分自身にあてはめつつ考えてください。

まず、もっとも大きな分類として、「あなた(クリエイター)を知っているか」を考えます。

  あなたを知らない/あなたを知っている

全人類はこの二種類に区分できます。まずこの段階で、あなたを知っている人は急激に絞られます。海外の人はあなたを知っているでしょうか? お年寄りは? 中年層は? 非オタク層は?

次に「あなたを知っている」人々を分類します。「あなたに好感を持っている」かです。

  あなたが嫌い・あなたがどうでもいい/あなたに好感を持っている

ここでまた急激に絞られるはずです。
あなたを知っている人の大半は、あなたのことをどうでもいいと思っています。あなた自身が、知っている人の大半を「どうでもいい」と思っているようにです。

次に、「あなたに好感を持っている」人々を分類します。「何か行動を起こす」かです。

  何もしない/何か行動する

「何かの行動」には様々なものが入ります。一番わかりやすいのは、twitterやpixivでのフォローです。同人誌を買ったり、支援サイトで支援したりすることも含みます。

あなたに好意を持ち、あなたのために行動を起こす人々を、ここで「ファン」と呼ぶことにします。「ファン」は数字で把握できます。ご自身のtwitterかpixivでのフォロワー数を数えてください。それがあなたの「ファン」のほぼ最大値です。

次に「何か行動を起こす」人々を分類します。「支援サイトに参加する」かです。

  支援サイトには参加しない/支援サイトに参加する

例えば、作品を買うだけの人は支援サイトには参加しません。
支援サイトに参加する人々は、「わざわざ支援サイトに参加する」理由を持っています。そしてその理由が失われた時点で、支援サイトからは撤退します。

次に「支援サイトに参加する」人々を分類します。「有料プランに参加する」かです。

  無料プランのみ参加する/有料プランに参加する

ようやく、FANBOXのターゲットに到着しました。この有料プランに参加する人々の支援額が合計が、月額で30万円に達すれば、クリエイターは生活できるでしょう。しかし、もう一歩進めた分析が必要です。

さらに、「有料プランに参加する」人々を分類します。「見返り次第で支援をやめる」かです。

  見返り次第でプランをやめる/見返りに関係なくプランを続ける

この「見返りに関係なくプランを続ける」ファンが、南柯そう/仲村氏がnoteで推奨されている「パトロン」です。

以上を踏まえて、「コンテンツの支援額による差別化をしない」姿勢をクリエイターがとったときどうなるのか、次の節で考察してみましょう。



■無差別化は支援者をめちゃくちゃにする

前節でファンには階層があること、その中で有償支援にたどり着くのは一握りであることを述べました。では、そのようなファンに「コンテンツの支援額による差別化をしない」という戦略がどう作用するのか考えます。

FANBOXは公式に「『SNSに投稿するコンテンツよりも付加価値をつけなきゃ…』という意識は必要ない」と推奨しています。南柯そう/仲村氏もこれに強く賛同しています。


つまり、その姿勢とは、

・行動を起こす(twitterでフォローする)層
・支援サイトに参加する層
・有料プランに参加する層

クリエイターが自分のファンのこの三層を一切区別なく扱う、ということです。これによって何が起こるでしょうか。

まず、「見返り次第でプランをやめる」人々が、有料プランから失望とともに撤退します。彼らは払った金額に見合った報酬を期待して支援したので、それを提供しないクリエイターには裏切られたような気持になります。

次に、「支援サイトに参加する層」からどんどん撤退者が出ます。他のSNSとの差別化がないのであれば、支援サイトのあなたのファンクラブをチェックし続ける理由がないからです。この「支援サイトに参加する層」は、将来「有料プランに参加する層」に変化することもありうる人々でしたが、その機会も失われます。

さらに、「twitterでフォローする層」から「支援サイトに参加する層」への流入も一気に減ります。差別化がなければ、支援サイトに参加する理由がないからです。

唯一、「見返りに関係なくプランを続ける」コアなファンだけが残って支援を続けます。しかしそのコアなファンも、経済状況の変化や、「十分支援をした」という満足感とともに去っていきます。新規に流入するのは「見返り次第でプランをやめる」人々の層があなたにさらにほれ込んだ場合なのですが、その層はすでにあなたに失望して撤退しています。


これが「コンテンツの支援額による差別化をしない」やり方をとった時に起こることです。あなたの支援者の構造はズタズタになってしまう、ということがご理解いただけたでしょうか。これは、支援額に関係なく起きることです。「自分は月額30万なんて目指してないから関係ない」ではないのです。あなたがジュース一本分の支援を手に入れるとき、その背後には階層的に潜在的に支援者となりうるファンたちがいるのです。そして、そのファン層を失望させるのが、「コンテンツの支援額による差別化をしない」ということなのです。



■あなたはレッテルを貼られる!


「コンテンツの支援額による差別化をしない」という姿勢は、「やらないよりもひどい」と最初に述べました。
なぜでしょうか?

それは、そのクリエイターに対してファンの「第一印象」を決めてしまうからです。

その第一印象とは、「支援する価値のないクリエイター」です。当然のことです。あなたを支援しても支援しなくても、見られる作品は同一ですから。
もちろん、見られるものが同一でも、あなたの支えになるからというだけで支援する人々はいます。しかし、その限られた「見返りに関係なくプランを続ける」層以外にとっては、あなたは「支援する価値のないクリエイター」です。

こうして作られた第一印象をひっくり返すのはとても困難なことです。
まず、あなたにレッテルを貼って離れた人々が、再度あなたの支援サイトにアクセスする可能性が非常に低くなります。彼らにとって、あなたは「支援する価値のないクリエイター」ですから。

これが、「支援額と自分の欲しいものが見合わないから支援しない」場合なら、再度チェックしたり、気が変わる可能性もあります。
しかし、そもそも価値がないと断じられた場合、再度支援サイトでチェックされる機会自体が失われます。

このレッテル貼りは、「コンテンツの支援額による差別化をしない」という姿勢をあなたが続ける限り続きます。そのことによって、得られたはずの支援の機会はどんどん失われていきます。

あなたはそうすることで、クリエイターとして生活の糧を得る手段をどんどん手放しているのです。

また、そのような姿勢のクリエイターが増えれば、支援サイトはどんどん陳腐化します。「既存のSNSと差がないのに、金だけとられるサイト」に成り下がるのです。
そのようなサイトに存在意義はほとんどありません。既存のサービスの組み合わせ(例えば、twitterとAmazonの欲しいものリストやギフトカード)で
十分に役割が果たせます。

FANBOXが「自分の好きな創作活動をしているだけで生きていける世界」を実現するためには、「払った金額に応じて他にはない価値が得られるサイト」となる必要があります。

ここまでで、「コンテンツの支援額による差別化をしない」姿勢をクリエイターがとると、「ファンを幻滅させ・クリエイターの収入を減らし・支援サイトを陳腐化する」ことが理解できたでしょうか。

では、なぜクリエイターがこのような姿勢にたどり着いてしまうのかを次の節で説明します。




■利用者目線を失ってないか?

結論から言えば、クリエイターが「コンテンツの支援額による差別化をしない」姿勢をとってしまうのは、「利用者の目線が欠如し、クリエイター目線だけで考えているから」です。


例えば、FANBOX公式のこのイラスト。

「お金貰ってるからメイキングで解説しよう。あーうまく伝えるの難しいなー綺麗にまとまらないなー」とクリエイターの心の声が書かれ、その下に「描く人向けのコンテンツよりも観る人向けの作品を公開しよう(=メイキングなどの手間のかかる差別化は必要ない)」と続きます。

馬鹿げている上に、クリエイターを甘やかしてると思います。

イラストの技法書やポーズ集など、絵を描く人向けのコンテンツはどんどん発売されています。それだけ、「絵を描くノウハウ」への需要は存在しているのです。
さらに、あなたの有料プランに登録しているのは、「twitterでただ絵を見るよりももっと先の"何か"」を求めている人々です。その人々が、あなたのメイキングに関心を寄せる可能性はとても高いです。

「伝えるのが難しい」のも「綺麗にまとまらない」のも当たり前のことです。それを頑張って伝えようとするから、一生懸命まとめようとするから価値があるのであり、支援したいと思わせるのです。

だからこそ、月額500円という金額を支払う価値があると納得させることができるのです。

であるのに、FANBOX公式がやっているのは、ただ怠けたいクリエイターに口実を与えているだけです。

利用者の視点に立って考えてください。
それも、様々な立ち位置の利用者の目線をシミュレートしてみてください。
「コンテンツの支援額による差別化をしない」と掲げたクリエイターに支援するのは、そのクリエイターが好きで好きでたまらない場合だけです。

600人の人々にとってあなたがそのようなクリエイターであり続ける自信がありますか?

そして、「コンテンツの支援額による差別化をしない」と掲げたクリエイターからは、「見返り次第でプランをやめる」ファンは失望して去っていきます。

600人よりはるかに多いその層の人々を失望させて、あなたはクリエイターとして嬉しいですか?

支援サイトに参加する・有料プランに参加する、というアクションをファンが取るには、必ずそこに理由があります。その理由は、クリエイターによって、ファンによって千差万別です。いったいどうすればいいのでしょうか?

私の主張はシンプルです。

「異なる支援額には異なるコンテンツを与えよ」

この原則を守り通すことです。

自分が支援額に応じてどのような価値を提供できるのか、悩みに悩んでください。支援者が何を求めているのか、必死に考えてください。そしてそれを一生懸命提供してください。

それが利用者目線に立つということです。

きちんとその姿勢を持っていれば、ファンはあなたを評価します。


次の節では、補足として二つの反論を想定して取り上げます。
一つは、「FANBOX公式が、その姿勢を推奨し、ファンが増えたと公言している」という反論について。
もう一つは、「価値の交換ではなく、見返りなき支援こそパトロンの本義ではないか」という反論についてです。



■反論—FANBOX公式のデータ

FANBOX公式は次のように述べています。

私たちはこれまで1年間、一部のクリエイターさんと1対1で協力してFANBOX運営してきました。そこでファンが増えるために効果的なことは「FANBOX上にリッチなコンテンツを投稿すること」ではなく、「今までのように作品を創ってpixivやTwitterのように投稿し続けること」だと実際の数値を見て学びました。


まず確認したいのは、FANBOXで目指すべきは「ファンの数」なのか「支援額」なのかということです。
無料でコンテンツを撒き続ければ、無料で見るという人が増えることは当然のことです。
それは食品売り場の試食コーナーと同じです。

問題は、その試食から「よし、じゃあ買おう」という購買行動につなげられるかどうか、です。
そして購買行動から、十分な販売額を引き出すことです。
「コンテンツの支援額による差別化をしない」とは、試食していざ商品を買おうとすると、
試食品とまったく同じものに500円の値札がついている状態です。

果たしてそれで「支援額」が有効に伸びるでしょうか。非常に疑問です。

もちろん、ここでFANBOX公式は言及してないものの、そのやり方の方が「支援額」も伸びているのかもしれません。
でしたら、そのデータも併せて公開していただければ、より説得力が増すと思います。


■反論—パロトンの本義

もう一つの反論は、「パトロンの支援とは本来見返りを期待しないものではないか」ということです。

これについては、まず用語的に違和感があります。
古代ローマにおけるパトロネージュは支援者との間に様々な交流と見返り(朝の挨拶・行列での権威付け・裁判で不利な証言をしない・パトロンが困窮した際の扶助など)がありましたし、貴族などによる芸術家へのパトロン行為も、肖像画を描かせたり演奏会をさせたりと、「見返りなし」で行われたものではないはずです。

次に、現代の支援サイトにおける支援を、そのような歴史的意味での「パトロン」と同一視できるかという問題があります。
「一人の金持ちが芸術家の生活全般を支援する」というのが「パトロン」であるなら、支援サイトで行われているのは「パトロン行為」ではありません。せいぜい、パフォーマーへの投げ銭といったところです。

上記を踏まえて、現代の支援サイトで行われていることを私なりに特徴づけるなら、それは「1 to 1 ビジネス」です。
あなたに価値を見出す顧客に対して、1 to 1で価値を提供し、対価をもらう、フェアで健全な関係です。

それに対して、「コンテンツの支援額による差別化をしない」姿勢は、利用者目線に立たず、クリエイターを甘やかした怠惰で不健全な関係です。
そして、支援の伸び悩みという形でクリエイター自身へも不利益をもたらすものです。

冒頭、南柯そう/仲村氏のnoteを要約し、「問題点に気づくでしょうか?」と問いかけました。

・FANBOXに参加したクリエイターがどんどん辞めていく。
・それはクリエイターが支援への「見返り」(コンテンツの支援額による差別化)に縛られるせい。
・クリエイターが「見返り」を意識しない方が長続きする。
・「パトロン」の本来のあり方は「見返り」を求めない支援。
・支援したい人はそれでも支援するし健全な関係が築ける。
・ハードルを低くして続ける方がファンの信頼も買える。

私の考える問題点は次のようなものです。

・クリエイターが辞めるのは「見返り」に縛られるからではなく、「支援額が少ないのに労力が多く感じるから」。
・クリエイターが「見返り」を意識しなければ支援は減る。
・「パトロン」のあるべき姿は「1 to 1」の価値交換。
・見返りを求めないコアなファンだけ相手にするのは不健全な関係。
・ハードルを低くした時点で多数のファンの信頼を失っている。


■結論

まとめます。

「コンテンツの支援額による差別化をしない」のは誤り。
「異なる支援額には異なるコンテンツを与える」原則を守れ。
「自分がどんな価値を提供できるか」をクリエイターは考え抜け。

以上です。


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