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FANBOXで「投げ銭」を追ってはいけない理由。


このnoteの結論は、

「支援サイトを使うクリエイターはサブスクリプションサービスたれ」

ということです。「サブスクリプション」とは月額などによる定額利用方式のことです。例えば、月額で支払いすることで動画を視聴できるNetflixなどがサブスクリプションの代表的な成功例です。FANBOX・fantia・ENTY・Patreonなどのクリエイター支援サイトでも、ほとんどが月額での課金プランを採用しています。

支援サイトを使うクリエイター自身がサブスクリプションサービスたれ、とは、支援を受ける個々のクリエイターそのものが、いわば小さなNetflixとなって作品を提供しよう、ということです。言い換えれば、支援サイトを投げ銭や作品の販売所として捉えることはしない、ということです。

部分的に過去の記事を前提としています。


■支援サイト=投げ銭という固定観念


支援サイトを「投げ銭」を受け取る場所と考えているクリエイターやユーザーは(統計を取ったわけではありませんが)とても多いです。支援サイトを「投げ銭」と捉える場合、ユーザーとクリエイターの態度は、以下のようなものと考えることができます。

ユーザーは、クリエイターへの好意を動機として、見返りなしでお金を寄付する。

クリエイターは、見返りが不要であるから、投げ銭のために特別な行為をしない。

この両者の態度から想定できるのは、「投げ銭は非常にユーザー負担が大きく、クリエイター負担が小さい」こと、「投げ銭は数も頻度も非常に少なくなる」ことです。そして、「『クリエイターたちの生活を安定的に支える』ことはほぼ不可能である」ことです。


理由を述べます。まず、投げ銭は見返りなしですので、ユーザーが投げ銭する理由はクリエイターへの好意だけです。感情をベースにしているので、感情が満たされれば投げ銭は停止され、継続性に欠けます。一回投げ銭をすれば、その好意が満たされる可能性があります。毎月継続的に投げ銭を行うのは、非常に熱狂的なファンだけであり、そのようなごく少数のファンを獲得しているごく少数のクリエイターに投げ銭が行われます。大部分のクリエイターは投げ銭を受けることはありません。

さらに、クリエイターは投げ銭への見返りである投稿を行いませんので、自然と投稿頻度は低くなります。投稿頻度が低ければ、新たな支援者を獲得することは難しくなり、支援はどんどん先細りとなります。収益に結びつかないのですから、クリエイターは支援サイトへかける労力を他のことに振り分け、さらに投稿が減り、ついには閉鎖か放置となるでしょう。


「投げ銭」は、そのイメージに反して、支援サイトにおいて有効な戦略ではありません。
少なくとも、 FANBOXのように、「自分の好きな創作活動をしているだけで生きていける世界」を目標に掲げるならば。
あるいは、創作活動と支援サイトによって安定収入を得ようとするならば。



■ファンの階層から考える支援サイトの位置づけ


以前の記事で言及した「ファンの階層」から考えても、「投げ銭」戦略は有効ではないことが分かります。まず、あなたの作品を見るために行動する人を「ファン」と定義します。例えば、ツイッターのフォローなどです。

ファン:あなたのために何か行動する人たち

その中で、あなたのためにお金を出す人たちがいます。作品の購入や支援サイトの利用などです。仮に、「課金ファン」と呼びます。

課金ファン:あなたのために何か購買行動をする人たち

さらに、その中で支援サイトで支援をしてくれる人たちがいます。「支援ファン」と呼ぶことにします。

支援ファン:あなたのために支援サイトで支援する人たち

そして、その中でも特に限られた人々が、あなたのために見返りなしで支援します。「熱狂的支援ファン」と呼びましょう。

熱狂的支援ファン:あなたのために見返りなしで支援する人たち


「投げ銭」戦略は、この熱狂的支援ファン「のみ」を対象として支援サイトで活動することである、と定義づけられます。クリエイターへの負担が低くとっつきやすそうに見えて、実は非常に困難な道を自ら選んでいることがよくわかります。

そして、「投げ銭」戦略に代わり、私がクリエイターの姿勢として提唱したいのが、「自らをサブスクリプションサービスと考えて行動すること」です。メインターゲットとなるのは「支援ファン」です。このファン層をいかに拡大するかが目標となります。すなわち、あなたのために何か行動してくれる人を購買行動に誘い、さらに購買行動の中でもサブスクリプション的な継続支援行動に誘う。そのために何をしなくてはならないかを考える必要があります。


■サブスクリプションサービスとしての支援サイト

では、クリエイターが「小さなNetflix」となるために必要なことはなんでしょうか?
ユーザーの気持ちになって考えてみましょう。

まず第一に、私たちが定額課金制のNetflixを利用するのは、それが動画の購入よりも「得」であるからです。月に一本しか映画を見ない人がNetflixを利用する可能性は低いです。つまり、作品をただ購入する場合と比較して、何か「付加価値」を支援ファンに届けなければなりません。この場合、「付加価値」は作品そのものとは限りません。あなたからの感謝の声が届くことも、場合によっては十分な「付加価値」となります。

次に、私たちが競合サービスであるHuluではなくNetflixを選ぶのは、Netflixでしか見られない「固有の」作品がある場合でしょう。クリエイターの作品はそれぞれが「固有の」ものですが、その差別化をより強調できれば、ほかのクリエイターとの支援競争に勝つ可能性が高まります。

そして、何よりも大切なことがあります。私たちがNetflixに課金し続けるのは、「払った額に見合う・満足できる」体験がある場合です。もし、支援コースに見合った価値を提供できないならば、支援者はコースを解約するでしょう。クリエイターはユーザーの支援コースからの離脱には常に注意を払わなければなりません。継続率が低い場合、あなたはそのコースにふさわしい価値を提供できていません。何らかの対処が必要です。

つまり、

・ただ作品を買うより「得」がある。
・「他にはない」価値がある。
・継続的に「満足」が得られる。

この三点にフォーカスして、クリエイターは提供する価値を磨き上げる必要があります。この作業は、クリエイターとファンの二人三脚で行われます。そして、クリエイターが優れた価値を「育成」することができれば、「支援ファン」は「熱狂的支援ファン」へと変化していき、結果として「投げ銭」を受ける機会も増えます。

自らを「サブスクリプションサービス」と位置付けることで、サブスクリプションサービスにおいて取られているビジネス戦略を自分のクリエイター活動の参考とすることができます。


■結論―「投げ銭」を追うな


私の主張は、「投げ銭」を目標とした戦略をとるのは不毛だ、ということです。

そして、ファンに対して、クリエイター一人ひとりが「サブスクリプションサービス」として価値を提供していくことこそが、支援サイトにおいてクリエイターとファンの双方に利益を生む最適の戦略である、ということです。

小さなNetflixになりましょう。
あなただけが提供できる価値を提供しましょう。


■支援へのお礼

思いがけないことですが、自分のnoteの記事を読んだ方からメッセージと300円の投げ銭をいただきました。ありがとうございます。

プライバシーに配慮しお名前は隠してあります。

この記事は、こちらのメッセージへのアンサーとして書かれました。

クリエイターが「投げ銭」を目標とした戦略をとるのは誤りです。

「投げ銭」は非常に負担の大きいファン行動であり、散発的であり、機会も受け取れる人も限られます。「投げ銭」という高すぎる目標を追うことで、クリエイターはファンを増やす機会も、ファンに価値を提供する機会も喪失しているのです。

投げ銭などを追わず、ファンに対してちゃんと価値を提供するクリエイターにこそ、情熱を持ったファンが育ち、結果として投げ銭が発生するのではないでしょうか。


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