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YAMAHA HS3 【2024/5/11 追記】


◉導入経緯

昨年(2023年)は年末にメインのモニタースピーカーをiLoud Precision MTMに入れ替えましたが、その頃からスモールモニターの入れ替えも検討していました。いままで使っていたのは、TASCAM VL-M3というフルレンジ・ユニット(3インチ)のスピーカー。2009年の発売なので、15年近く使ってたことになります。

TASCAM VL-M3
実は、都合2セット持っていて、
数回しか使ってないペアがいまだに眠っている(笑)

この手のスピーカーは周波数レンジが狭いけど、中域を中心とした無理のないサウンドのものを選べば、音楽制作やMA(映像音声のミックス)時に、一般の聴取環境を想定した小音量でのミックスバランスのチェックに重宝します。このVL-M3は決して良い音ではないけど、妙に耳心地の良いサウンドで気に入っていたんですが、いかんせん古くなってきたのと、最近のTVやスマホ、タブレットの出音を考慮して、もう少しレンジの広いものにアップデートしたいなと思ったのでした。

◉他の候補

買い替えるスピーカーに求めていた条件は以下の通り。

  • 3インチ前後のフルレンジ、もしくは2WAY

  • 低域がサイズなりで、無理をしていないもの

  • 中域の質感が良いもの

  • 高域もそこそこ伸びているもの

  • 補正用のEQを搭載しているもの

買い替え候補はいくつかあったんですが、この価格帯(1〜3万くらい)の気になってる製品を同環境で厳密に聴き比べできるところがなく、候補を絞るのに苦労しました💦最初はInter BEEで聴いていいなと思ったFOSTEX NF04Rあたりを考えてましたが、そこそこいいお値段(ペアで約8万)……。他にもKRK GoAux 3や、以前、映像専門誌の記事を書くときにお借りして試したIK MULTIMEDIA iLoud Micro Monitorなど、良さげなものもあったんですが、どちらも結構レンジが広い(特に低域がびっくりするくらい出る)ので、僕の用途にはちょっとオーバースペックだったのと、価格も5万前後になるので、少し悩むなと。そんなところへ耳に入ってきたのが、PreSonus Eris 3.5(2nd Gen)と、このYAMAHA HS3の発売でした。年を跨いで今年の4月、仕事が落ち着いたタイミングを見計らって、大手家電量販店や楽器店などをいくつか回って試聴。Eris 3.5は前モデルよりも高域が落ち着いた印象で、背面の補正用EQも連続可変式のノブなのが良かったんだけど、過去の経験からすると、自宅スタジオではHS3の方が上手く鳴りそうだな……と。試聴するには適さない環境で正確な判断ができずに悩みながらも、店頭での印象に賭けて、HS3を選んだのでした。

◉自宅スタジオでのファーストインプレッション

デフォルトの設定で、ディスプレイ脇に設置して聴いたところ、店頭での印象通り癖の少ない素直なサウンド。強いて言えば、中低域が少しモコつくかなと言う感じでしたが、この辺はディスプレイの反射なんかも関係してそう。

ディスプレイよりも少し後ろめに設置したところ
激安のウレタン製スピーカーアイソレーターを下に敷き、
振動対策とともに仰角を付けている

経験上、スピーカーの間にディスプレイがあると、その反射による影響は結構大きい。なので、基本的にはディスプレイよりも少し手前に置く方が良い結果になることが多いのだけれど、そうすると今回のケースではちょっと距離が近過ぎちゃうので、最初はディスプレイ前端とツライチで設置。すると、先述の通りディスプレイの反射で中低域が少しピーキーに感じたので、背面の「ROOM CONTROL」(500Hz以下を減衰させるシェルビングEQ)を「-2dB」に。この段階でも結構良い感じで、中域以上の質感がメインモニターであるiLoud Precision MTM(補正ON)に近い感じ!これにはもう大喜びしました😁実は、これを買う前に某日本メーカーの小さなフルレンジのものを買ってみたんですが、全然思った感じに鳴ってくれず、セッティングをいろいろと試行錯誤しても改善できなくて、購入後3日で実家にあげてしまったという失敗があったので💦

◉セッティングの追い込み

興奮が落ち着いて耳が慣れてくると、いろいろと気になる点も出てくるもの。なので、その辺りを改善すべくセッティングを詰める作業を。リファレンスとしてるいろいろな音楽や、NETFLIXで実写版シティーハンター(2周目。素晴らしい作品!)などの映像作品を再生し、メインスピーカーと切り替えながら追い込む。その結果、こんな感じに落ち着きました。

  • ディスプレイ前端とツライチで、やや内振りにして設置

  • スピーカー間とリスニングポイントまでの距離は70cmの正三角形

  • 背面EQは「ROOM CONTROL:-4dB」「HIGH TRIM:-2dB」

特に補正用のEQに関しては、あらゆる組み合わせを試し、苦労の結果、メインスピーカーと切り替えても全体の質感変化を最小限に抑えつつ、低域と高域のレンジ感だけが自然にロールオフした音に‼️ちなみに「HIGH TRIM」(2kHz以上)を「0dB」にするかどうかは最後まで悩みました。0dBの方がパッと聞きの印象が良いんだけど、ヴァイオリン等の倍音多めな弦楽器の音なんかに癖が出て全然しっくりこなくなってしまうので、仕事をする上では「-2dB」の方が正解な気がしました。

◉音質

周波数バランスに関しては癖の少ない印象で、既発売のHSシリーズの印象と似てますね。何店舗かの店頭でチェックした時は、低域はサイズの割にはしっかりしてるけど決して欲張っておらず、高域がハッキリした音という印象でした。言い換えると、重心が少し高く、クリアだけどちょっと明るすぎるかな?と言う感じ。そういう意味では、Eris 3.5の方が重心が低く骨太で迫力のあるアメリカンなサウンドと言えるかもしれません。そう言う音がお好きな人は、ぜひEris 3.5も検討してみてください。何にせよ、サイズに見合わない大音量で再生すると、ちょっと無理して鳴ってる感が出てしまうので、いつもTVを見るくらいか、それより少し大きめの音量感で使用するのが合っていると思います。

解像度や広がり感、奥行き感に関しては意外と良好。音のアタック感、輪郭なんかはぼやけずにしっかりと見えますが、iLoud Precision MTMに切り替えた瞬間に、HS3では見えなかった細かな音の表情や空気感、奥行き感がブワッと広がるほどの差はあります。まぁ価格や性能、リスニング距離も全然違うので当たり前ですけどね(笑)。定位感に関してもなかなか優秀な印象で、微妙な定位の違いも分かるし、パンニングによる音の移動もスムースに再現されます。良いミックスと悪いミックスの判断がとてもしやすいので、至極真っ当なモニタースピーカーと言えるでしょう。

セッティングがしっかりと決まれば、箱庭的な音像空間が現出して、これがなかなか良い感じだし、何よりフラットに音響補正されたメインスピーカーとの音色的な差がここまで縮められるとは思ってなかったので、このスピーカーの素性の良さというものをひしひしと感じますね。


◉まとめ

YAMAHA HS3は、真面目でとても日本的な気質のモニタースピーカーでした。ウーファーサイズが小さいから、当然ながら30〜40Hzまで伸びるサブベースを使ったような音楽や、ロケの同録に入り込んだドロドロとした低域ノイズなどはまったく再生できません。なので、これ1台でなんでもこなすのは無理というもの。その辺りのチェックには大きなスピーカーやヘッドフォンの併用が必須だけど、僕のように小音量でのバランスチェックなどに使うサブモニターとしては、とても良い働きをしてくれると思います。なにげに、入力端子にXLRとTRSのコンボジャックがあるのも、業務用として使う場合にポイント高いですね。

ラインケーブルはBELDEN 8412 1mを使用

今回のスモールモニター選びは大正解だったと言えるでしょう❣️DTMerやサウンド・エンジニアのサブモニターとしてはもちろん、映像クリエイターのメインモニターとしてもオススメできると思います。ただし、低域がちゃんと見えるヘッドフォンなどの併用はマストな点だけ、心に留めておいてください!


【2024/5/11 追記】

記事公開から約1週間経ち、その間も鳴らし込みや微調整を繰り返した結果、少し印象が変わってきた部分があるので追記しておきます。

まず、セッティングの変更点ですが、設置位置をディスプレイより少しだけ奥に変更(本文掲載写真2枚目参照)。そして、スピーカーの前端とウレタンのアイソレーターの間にオーディオ用の制振材(5mm厚)を挟んでさらに仰角をつけ、よりしっかりと耳の方を向くように微調整。最初はあえて指向性から僅かに外すことによって高域の減衰を狙ってたんですが、やはり他の部分で若干凹んで聴こえる周波数が出てきたり、解像感も落ちるのが気になってしまって。ちなみに制振材にしたのは厚みがちょうど良かったからで、音響的な効果は期待してません😆

背面のEQは変更なし。「HIGH TRIM」(2k以上)を-2dB、「ROOM CONTROL」(500Hz以下)を-4dBのままですが、仰角調整のおかげで中高域以上の聴こえ方はハッキリと向上しました。欲を言えば、高域はあと1dB落とせたらなとは思いますが……。初代のYAMAHA NS-10Mのようにツィーターにティッシュでも貼ろうかな?(やらないけど🤣)

あとは鳴らし込みを行ったおかげでエイジングが進んだのか、そこそこの音量を出しても無理してる感じがなくなりました。購入直後は音量を上げていくとコンプをかけたような詰まり感や雑味を感じたんですが、現在は75dB-Aくらいで音楽を鳴らしても自然に鳴ってくれてます。ちなみに「ROOM CONTROL」を-4dBにしてるは、そうしないと中低域がモコモコしてしまうから。500Hz付近からシェルビングで減衰させてるようなので、低域も控えめになりますが、むしろサイズなりの自然な量感になってデフォルトよりナチュラルな印象です。

定位感の良さは本文でも述べた通りですが、特にセンター定位がめちゃくちゃビシッとしていて存在感があり、ホログラムのように目の前にボーカルが存在するような立体感が出てきました。解像感も高く、近距離でのリスニングとも相まって音の隙間の小さな音にまで気づかせてくれます。加えて、横方向の広がりや奥行き感も明らかに向上し、目を閉じて聴いてると、目の前にドールハウスのようなミニチュアのステージがあって、そこに首を突っ込んで音楽を聴いてるような感覚に陥ります。欲張らない低域と併せて、僕が想定している使い方にはベストなセッティングになったと思います!

メインスピーカーのiLoud Precision MTMによる大音量モニタリングの方が、圧倒的なレンジ感と情報量の多さによる質感表現や空間の広さ、奥行きの表現など、確実に見える次元がひとつもふたつも上なのは間違いないんですが、至近距離による小音量モニタリングは、低音にマスキングされてた周波数の音が聴こえやすくなるし、音量による心理的バイアスの影響を軽減して冷静に聴けるので、大音量時には気づけなかったことにも気づけたりします。あとは、MA作業時にはナレーションとBGMのバランスなんかは小音量の方が取りやすいんです。これらこそが複数のモニターを使う利点なんですが、それぞれのスピーカーで音色が違いすぎると、音決めの時に迷いが生じたりすることもあるんです(もちろんメインの方を信用してますが)。でも、設定を追い込んだHS3は、そのギャップが少ないので助かりますね。

ここまで辿り着くまでには何度も設定を変えては聴き比べる……の繰り返しで結構時間かかりました。長く聴いてると「うん、いい感じ♪」って思ってきちゃうんですが、翌日聴くと、鳴らした瞬間にちょっとした違和感を感じたりするんですよね。けど、ようやくパッと再生しても違和感を感じない鳴りになりました!もちろん、完全なるフラットではないし、背面の補正EQも、もうちょっと細かく制御できたらなと思う瞬間も多々ありましたが、今回は外部の補正は入れたくなかったので、この状態にまで持ってこられたのは御の字でしょう😎

いやぁ、素性の良いスピーカーだとは感じていたけど、まさかここまで期待に応えてくれるとは、正直、思ってなかったです🤣

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