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アルバム『Animo』全曲解説

ここでは全8回にわたって、7/23より配信がスタートした三島元樹の3rd.アルバム『Animo』の全曲解説をしていきます。アルバム詳細はコチラから。

【ふてぶてしい猫のためのオスティナート】 1st.アルバム『flower drips』収録の「灰色の子猫」に続く猫曲。オスティナートとは同型反復のことで、同じカタチのフレーズの繰り返しが曲の骨格となっています。曲のイメージとしては、ノラ猫のボスの優雅だけど孤独に満ちた日常を描いたものですね。自由気ままに徘徊してはすやすやと眠ったり。けど、微かな物音にもビクッと反応する警戒心はそのままに。逞しい「生」も感じるが、その裏には常に「死」の影も・・・。佐藤恵梨奈さんにはヴァイオリンで猫の鳴き声を真似てもらってます。全楽曲のなかで唯一アンサンブルを前提として書いた曲ですね。

【キミ 想フ ヨルニ】 3.11の震災の時に書いた曲。余震が続く不安な夜、ピアノを弾いているとその不安が和らいだ。すると、自分の手の届く範囲の人だけでもいいから同じように安らいだ気持ちになって欲しいと思えるようになり、翌年、音楽配信ストアOTOTOY企画の震災復興コンピアルバムに収録していただきましたが、今回のアルバム収録にあたり新規録音しました。ピアノが少しでも弾ける人ならおそらく演奏できてしまうであろう簡単な曲なので、いずれ何らかのカタチで楽譜を公開しようと思ってます。たくさんの人たちに楽しんでいただけたら嬉しいですね。

【a piece of life】 2001年ごろに書いた曲。癌で入院していた祖母がその最期を迎えるまで聴いてくれていた曲です。「たったいま祖母が亡くなった」と病室から連絡をくれた母の電話越しにこの曲が聞こえていました・・・。祖母の病状が悪化するはるか以前に書いていたし、タイトルも最初からこうしようと思って付けたものですが、「人生のひと欠片」というイメージは、祖母のために天より授かったものだったのかもしれません。而して、この曲は特別な曲となり、この曲を弾くとき、僕は祖母と再会できるのです。

【ネガイヨシノ】 この曲は結構古く(10年以上前)、隅田川の桜を見ながら平和を願って書いた記憶があります。もともとは歌ものPOPSで、ボーカルはボコーダーを通したロボットボイスでした。その後、女性ボーカルを迎えてライブをし、さらにその数年後にピアノソロにアレンジしたものが定番化してしまったという顛末。オリジナルと比べるとだいぶしっとりした感じになってますね。僕のピアノ曲の中では気に入ってくれる人が多い曲のひとつです。いままでアレンジが固まらず、弾く時期によって変化してましたが、今回収録のものが最終形となります・・・たぶん。

【the quiet doll painted in gray】 2008年ごろにサントラを手がけた映画『光の道』(監督:石倉慎吾)のメインテーマとして書いた曲です。かなりショッキングな内容の映画でしたが、ただ悲しいだけの曲にならないようにした記憶があります。当時はピアノソロ曲として作曲しましたが、今回アルバムに収録するにあたりトリオ・アレンジにしてみました。弦が入ることによって、この曲に込めた ”虚ろ” ”無気力” ”自暴自棄” ”そこから抜け出したいという衝動” ”祈り” そして ”強い意志” が一気に溢れだした感がありますね。映画のテーマに加え、後半はこっそりと僕の ”秘めたる感情” を潜ませたこの曲。本アルバムの中でも最もお気に入りの1曲です。

【キズナノカケラ】 ここからの3曲は筑波山の山奥にある隠れ家的なお蕎麦屋さんにチェコのピアノ、ペトロフ社のアップライトピアノを持ち込んでレコーディングしたものになります。そのトップを切るこの曲は、庵治石のCM曲として書いたものです。庵治石とは、香川県の庵治、牟礼地域で算出される花崗岩のことで、別名「花崗岩のダイヤ」と称されるほどの銘石です。この庵治石の職人を題材にした映画「紲 〜庵治石の味〜」のサントラを担当したご縁で、このCM曲のお話をいただきました。映画ロケの見学で現地を訪れたりもしていたので、作曲時には彼の地の風景と人々の顔が浮かんでいましたね。そのためか、この曲に込めた優しさが聴いてくれる人に伝わるようで、小曲ながら非常に人気の高い1曲です。いつか彼の地で演奏する機会に恵まれたら嬉しいですね。

【rosalia】 個人的にはすごく思い入れのある曲です。もしかしたら今作中、最も片思いな曲かもしれません。「ロザリア」とは、イタリアはシチリア島に眠る少女、ロザリア・ロンバルドのことです。”世界一美しいミイラ” として有名な彼女。いまから100年近く前にわずか2歳で亡くなり、父親の意向でミイラ化されたのですが、薬品などを使って処置をしたのでほぼ生前の姿のまま現在まで “眠り” 続けているのです。初めて知ったときはかなりの衝撃を受けました。エジプトでは王の復活を信じて肉体保存のためにミイラ化させてますが、ロザリアの父親はそのような転生信仰的な理由でミイラ化を望んだわけではないでしょう。もっとリアリスティックな動機だったのでは・・・と。いままでこの曲についての説明は「ロザリアちゃんのための鎮魂歌」と言ってきましたが、実際にはもっと複雑な感情があって、しかしそれを言葉にすることができない・・・というのが本当のところです。それが ”音楽” というカタチをとって顕れたということですね。

【voyage - feat. Kazutaka Tsutsui -】 さてさて、ついに本アルバム最後を飾る曲です。この曲が、僕が初めて書いたピアノ曲となります。いま聴くと、ちょっと長めで気合いが入ってるのを感じますね。タイトル通り、大航海の冒険をイメージで書いた曲です。実はこの曲、最初はオーケストラ曲として書き始めたものでした。しかし、当時のスキルでは上手く書けなかったんですね。それで、早々にピアノ曲に切り替えたという経緯がありまして。なので、いまでも頭の中ではオーケストラの音で鳴ったりしてるんですよ。これもいつか実現させたいですね。ちなみに曲名の読みは、本当は「ヴォイエッジ」または「ヴォイイッジ」と英語読みして欲しいのですが、ほとんどの人が「ヴォヤージュ」とフランス語読みをするので、もうどちらでもいいかなと(笑)。そして、大事な情報ですが、今回の演奏は古典鍵盤楽器奏者の筒井一貴氏にお願いしました。彼は僕の音楽の良き理解者であり、良き先輩でもあります。(詳しくはスタッフ紹介をご覧ください)今回、この曲の演奏を依頼するにあたって、僕の拙い楽譜だけでどこまで作曲意図が演奏者に伝わるのか・・・という実験的意味合いも多分に含んでいたのですが、結果的には大成功!・・・というか、彼の読譜力の高さを垣間見る結果となったのでした(笑)。楽譜に書けることは限られています。けど、それを元に演奏者の解釈による無限のバリエーションが発生するというのは、数ある芸術の中でも音楽特有の現象であり、音楽にだけ許された特権なのかもしれませんね。

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