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言葉の解像度を上げれば世界は平和

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「不快」という感情には「解像度」が関わっているという林伸次さん。理解の「解像度」とは、いったいどのようなものなのでしょうか?

わからないものは不安を感じさせる

いらっしゃいませ。
bar bossaへようこそ。

僕のnoteに、「友だちで、なんでも、かわいそうって言う人がいます。どこか他人事で、上から目線に感じます。どう思いますか?」という内容の質問が来たので、今回はこれを考えてみたいと思います。

先日、あるポッドキャストを聞いていて、調香師の方が言っていたのですが、僕たち「匂い」に関する表現は、「くさい」しかもってないそうなんです。他は全部、「ジャスミンのような匂い」や「蜂蜜の香り」のような、別のもので代用している表現だそうなんです。

そして、その調香師の人が、ある温泉に行ったときに、とにかく臭くて不快だったのだけど、その「臭さ」の中にもいろんな匂いがあるなあと思って、「これは牛肉が焼けたときの匂いだ」とか「パイナップルの熟した匂いもある」とかいろいろ分解していくと、「くさい」と思わなくなったという話をしていました。

この話で、僕はふたつのことを感じました。

①最初、よくわからないものに対しては不快さだけを感じてしまうけど、それをじっくりと観察すると、不快ではなくなっていく

これ、例えば異文化に対してよくありますよね。「こういう振る舞い嫌だなあ」って思うけど、相手の文化や習慣がわかってくると、「そういうことか」って受け入れることができます。

②解像度が低いと、僕たちは不快さを表す単純な表現しかできない

これ、いつも僕が書いてますが、飲食店側は、お客様に「不味い」っていう言葉は言ってほしくないんですね。「私にとっては塩味が濃い」とか「僕にとっては茹ですぎ」っていう風に、ひとつ解像度を上げるだけで、「ああ。そうか」ってその料理を作る側、提供する側も納得できたりするんです。

若者が「ウゼー」とすぐ言ってしまったり、老人が怒りやすくなってしまうのも、これと関係がある気がします。一つ解像度をあげるだけで、簡単には怒れなくなると思います。

質問に戻ると、あなたのお友だちがすぐに言ってしまう「かわいそう」は、「解像度の低さ」が理由のような気がします。

「それわかるー! あるあるー!」みたいに、「すぐさま共感してしまうこと」って、すごく解像度が低い行為、解像度が低い感情のような気がするんですね。

例えば、僕がたまに「飲食店でこういうお客様との触れあいがあって」みたいなことを書くと、「わかるー。飲食あるあるっすよね」みたいなリアクションをされることがあって、その度に、「共感っていう感情って、解像度が低いんだなあ」って感じるんです。

「共感」とか「あるある」とかって、コピペっぽいし、本当はもっと複雑な感情があるはずなのに、何かひとつの気持ちの枠に閉じ込めている気がするんです。

言葉の解像度を上げよう

僕たちは、実はすごく複雑な感情をもっていて、それをひとつひとつ言葉にして説明していくと、すごく気持ちよくなるんだと思うんです。それでたぶんあなたは、なんにでも「かわいそう」って言われるのがどうも引っかかってしまうのではないでしょうか。

例えば僕も、震災や戦争をニュースで見た人が「かわいそう」って言ったら、「ええと、もっと言葉の解像度をあげてください」って心のどこかで感じると思います。

質問者の方が説明するところの、「何か他人事」とか「上から目線」とかっていうのも、僕も「かわいそう」から感じます。それは、やっぱり、「解像度が低いから」が理由ではないでしょうか。「不味い」とか「臭い」と似ている気がします。

「ただのコピペの共感」ではなくて、もっともっとその人の立場になって考えていけば、もう少し「他人事ではない言葉」や「上から目線ではない言葉」が出てきそうです。

僕たち何気なく日々発している言葉で、誰かを不快にさせたり楽しくさせたりしていますね。僕もこういう風に文章を書いているので、これからも考えながら書こうと気を引き締めました。

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林伸次(はやし しんじ) 1969年生まれ。徳島県出身。1997年創業の渋谷のワインバー「bar bossa(バールボッサ)」店主。本連載の書籍化『ワイングラスのむこう側』『大人の条件』はじめ書籍多数。また『恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる。』など、小説も執筆。

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