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あなたが幸せになる方法

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2023年、最後の「ワイングラスのむこう側」です。今回は「幸せになる方法」について。今年林さんが出した小説に、人と人が一度しか会えない架空の国のお話がありました。そこにはどんな思いが込められていたのでしょうか?

人と人が一度しか会えない国

いらっしゃいませ。
bar bossaへようこそ。

先日出した『世界はひとりの、一度きりの人生の集まりにすぎない。』という小説で、「さよならの国」という架空の国の話を書いたのですが、そこでは一度しか人と人は会えないんです。一度会ってしまったらもう二度と会えないんです。

僕たちって、ついつい相手を軽んじてしまったり、相手が不快になるようなことを言ってしまったり、その場の雰囲気でからかったりしてしまいますよね。それって、その人と仲が良いからというか、これから何度も何度も会うだろうからっていう前提なんですね。

でも例えば、誰かが大病で入院していて、「これがこの人と会って話をするのは最後なんだなあ」と思うと、そんな適当なことは言わないじゃないですか。すごく言葉を選んで、話し合いますよね。

それで、そのさよならの国では、人と人は一度しか会えないって決まっているから、みんながその出会った瞬間に、すごく言葉を選んで、接するというわけなんです。軽はずみなことは言わずに、相手を大切に思いながら、言葉を交わし合うんです。なぜなら、それがその人との「最後の会話」だからです。

実際に、その人との会話はそれが最初で最後ってことってすごく多いじゃないですか。例えば芸能人って、一般人と会ったとき、できるだけ印象良くするといいます。それって、「会うのは一回だけ」だから、「あの芸能人、この間会ったけど感じ悪かったよ」っていう印象を持たれて、それがインターネットで広がる可能性を避けるためですよね。

本当は、みんなが全ての人と、「この会話が、この人とは最後かもしれない」と思いながら話せば良いのかもしれませんが、そういうわけにはいかず、みんなその場の雰囲気でなんとなく適当なことを言ってしまって、相手を不快にさせてしまうこともあるというわけなんです。

残りの人生を「〇ヶ月」で考えてみる

ところで、「幸せになる方法の研究」っていうのをチェックするのがすごく好きなんです。大学の研究とか普通の本とか、いろんなものを読んでいるのですが、先日こんなことを知りました。

僕たち、確実にあと何十年かで死んでしまうじゃないですか。例えば僕は今54歳なのですが、74歳で死ぬと考えたら、あと20年で死んでしまいますよね。それを「あと何ヶ月か」っていうのを図にするといいらしいんです。20×12なので、僕は死ぬまで240ヶ月残ってるんですね。そしたら「240個の〇」を描いてみて、「ああ、あとこの240個の1ヶ月だけなんだなあ」って眺めてみると、結構少ないんです。1ヶ月ってあっという間ですよね。

ここからがポイントなのですが、その240ヶ月の間に、誰かとゆっくりと食事をして会話をすることって、もうそんなに回数はないじゃないですか。例えばあなたは、この12ヶ月の間に、親しい友人や親と会って、ゆっくりと食事をしたことは何回ありますか? 僕は妻以外はすごく少ないです。

ほんと、1ヶ月ってあっという間だし、12ヶ月ってあっという間だから、僕もあなたも死ぬまでの間に、誰かと会ってゆっくり食事をしながら楽しく会話をするって、そんなには多くないです。ということは、「その人とはもう最後かもしれない」というわけなんです。

「この人とゆっくりと食事をして会話を楽しむのは、これが最後なんだなあ」って思いながら、その時間を楽しむと、幸せ度が増すらしいんです。

この人とこんな風に会って、こんな風に話すのは最後かも、あるいはこの場所に来るのはもう最後かも、あるいはこんな風に恋をするのはもう最後かも、あるいは誰かと手を繋いで歩くのはこれが最後かも、と感じ取りながら、それをするって、幸せを噛みしめられるそうなんです。なんとなく、わかりますよね。

あと20年生きるって考えるとまだまだ長いような気がしますが、漠然としてぼんやりと時間を浪費してしまうより、目の前で起きていることって、もしかして最後かもしれないって思いながら、ちゃんと噛みしめながら、その瞬間を味わった方がいいということなんです。

もちろん、目の前の恋人や配偶者や友人や犬や猫なんかも同じです。この人とこんな風にしていられるのは最後かもしれないって思いながら、その瞬間を楽しむと、良いですよね。

僕たち、なんとなく仕事をしているうちに、どんどん時間が過ぎていってしまうじゃないですか。そして気づいたら死んでしまいます。そうではなくて、この出会えた時間を楽しみたいものですよね。そんな、あなたの時間を、この僕の文章を読んでくれることに使っていただき、いつもありがとうございます。

今年もあと少しですね。コロナも終わっていつもの世界が戻ってきましたが、いろんな悲しい出来事も起きてますね。たった一度の人生、お互い楽しく生ききりましょう。それではみなさん、良いお年をお迎えください。来年もこちらでお待ちしておりますね。

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林伸次(はやし しんじ) 1969年生まれ。徳島県出身。1997年創業の渋谷のワインバー「bar bossa(バールボッサ)」店主。本連載の書籍化『ワイングラスのむこう側』『大人の条件』はじめ書籍多数。また『恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる。』など、小説も執筆。

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