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【MV】Suchmos『FUNNY GOLD』と「オリエンタリズム」

Suchmos『FUNNY COLD』のMVは、同バンドのドラム担当のOKによる初監督作品であり、ワンショットで撮られた映像になっています。

このnoteでは、Suchmos『FUNNY COLD』のMVを、19世紀ヨーロッパでロマン主義とともに高揚した「オリエンタリズム」との関係によって説明することをその目的とします。

1. オリエンタリズム

オリエンタリズムとは、東方趣味/東洋趣味/異国趣味という意味で、西欧近代における文学・芸術上の風潮をさします。

ここでいうオリエントは、ヨーロッパから見た東方世界全体を指し、極東やアフリカ北部も含みます。この風潮は、ナポレオンのエジプト遠征(1798-99)を契機にロマン主義において急速に強まりました。

絵画においては、オダリスク、トルコ風呂、東方風の衣服など多彩なモティーフが取り上げられました。アングル、シャッセリオーなど新古典主義の画家を含め、ドラクロワやアルマ・タデマなど19世紀画家において特に顕著に見られます。

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ウジェーヌ・ドラクロワ『アルジェの女たち』(1834)

しかしながら、パレスチナ出身のアメリカの批評家、エドワード・サイード『オリエンタリズム』(1978)において、今日的で新しい意味がこの言葉に附与されました。

それは、オリエンタリズムを「ヨーロッパのオリエントに対する思考と支配の様式」と定義するものです。すなわち、西洋が東洋を〈他者〉として位置づけ、その後進性・受動性・官能性・非歴史性などの特性をもつものとして見ることを意味します。

またその際、植民地主義・人種差別・自民族中心主義などにもとづく力を行使されたとされます。こうしたオリエンタリズムは、ロマン的・異国情緒的・軽蔑的にすぎず、あくまで〈自己〉としての西欧における文学・芸術上の流れのひとつでした。

2. ドミニク・アングル『グランド・オダリスク』(1814)

『FUNNY GOLD』のMVは、アングルによって描かれたオリエンタリズムの絵画、『グランド・オダリスク』を思わせます。

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ドミニク・アングル『グランド・オダリスク』(1814)

① 作者

アングルは、1780年にフランスの南西部のモントーバン近郊ムースティエに画家、彫刻家、装飾美術家の父の息子として生まれました。

彼は11歳のとき、トゥールーズの美術アカデミーに入学しました。そして1797年にパリに出て、新古典派の巨匠、ジャック・ルイ=ダヴィットのアトリエに入門します。

彼は、ダヴィッドの後継者として、また当時の新しい芸術運動であったロマン主義に対抗する新古典主義の指導者として画家としてのキャリアを重ねます。

『グランド・オダリスク』は、アングルが1814年にカンヴァスに油彩で描いたたもので、大きさは88.9 cm × 162.56 cm あり、現在はパリのルーヴル美術館に所蔵されています。

② 作品

この作品は、ナポレオン1世の妹でナポリ王妃のカロリーヌ・ボナパルトのによって製作依頼されたもので、アングルの、新古典主義からの離脱、エキゾチックなロマンティシズムへの転換をしめす作品であるとされています。

長椅子に横たわった女性が、裸体をさらけ出し、観者の方を振り向いている姿が描かれており、「ハーレムの女」を意味する作品の標題や、女性の周囲を取り巻くオリエント風の装身具が、官能的な東方世界をほのめかしています。

光が一様に当てられた裸婦のヴォリューム感は、奥行きのない空間の中で抑えられており、曲がりくねるような背中の曲線は、現実のプロポーションをゆがめたものではありますが、そのことにより美しさや官能性を助長しています。

一方生地の質感といった細部は、写実的に描かれ、古典的な形式をロマンティックなテーマと組み合わせる折衷的な混合は、当時厳しい批評を誘発しましたが、同時代・近現代の画家に多大な影響を与えました。

3. Suchmos『FUNNY GOLD』

① 何が映されているか

次に、『FUNNY GOLD』のMVにおいて何が映されているかを見ていきたいと思います。ここでは便宜的に0:00の部分を静止画として切り取って見ていきます。

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白い壁と白い床の室内に女性が横たわったいます。右から光がさしており、大きい窓の存在が窺えます。

女性は、黒髪ロングの髪型で、衣服は纏っておらず、白いシーツのようなものを腰から下にかけています。終始背中を向けており、体をこちら側に向けることはないので、彼女の顔や胸を見ることはできません。右手でタバコを吸っています。

壁や床には大量の更紗やペルシャ絨毯が飾られています。更紗とは、もめん地または絹地に人物・花鳥・幾何的模様などを種々の色でプリントした布のことです。インドをその起源にもちますが、ジャワ更紗、ペルシャ更紗、和更紗などがあり、産地によっても個性は様々です。

その更紗に混じるように、薄型の液晶画面に『FUNNY GOLD』のジャケットのイラストが映し出されています。画中画として見ることができますが、その意図はCDのプロモーションが第一にあると考えられます。

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こちらもMV同様、Suchmosのバンド担当OKによるデザインです。イラストは9等分されており、それぞれの正方形に千鳥格子のような柄をバックにひし形を象ったボタニカルなデザインが施されています。

向かいの壁際には、左から壺?、台にのったアンプ、鏡、鏡の前に筒状のもの2つ、2足1対のブーツ、液晶、白い壺?の手前に開かれたギターケースの中にギターが入っているのが見えます。鏡は、女性の右手元の方を映しています。

鏡、ブーツ、液晶の背後には石造のマントルピースがあります。このマントルピースに終始ゆらゆら揺れる影が見受けられ、風が吹いていること、その影の形から木が右側にあることがわかります。

② 『グランド・オダリスク』との類似点

アングル『グランド・オダリスク』と『FUNNY GILD』のMVにおける類似点ですが、裸の女性が背中をこちらに向けて寝そべっている様子が非常に似通っています。

振り返っているか、いないかの差はありますが、そのリラックスした雰囲気は両者から感じられ、腰のくびれは女性らしく、官能的です。しかしながらどちらの女性においても、胸ははだけておらず控えめであるとも言えます。

西洋では古代から、ふくよかで豊かな身体が女性の理想の身体であるとされてきました。アングルの描いた『グランド・オダリスク』では、女性の身体のボリュームが抑えられていることは、先に見た通りですが、『FUNNY GOLD』のMV中の女性も、スリムなモデル体型をしています。

また、そのオリエントな雰囲気も両作品の共通している点です。『グランド・オダリスク』では装身具から、『FUNNY GOLD』では更紗やペルシャ絨毯からその雰囲気を感じとることができます。

③ ストーリー

『FUNNY GOLD』のMVは、定点カメラでワンショットで撮られており、非常に静的な映像ですが、1:40あたりから変化が見られるので、それらを概観していきたいと思います。

1:40あたりで、女性はタバコを置き、『FUNNY GOLD』のジャケットのイラストが印刷されたものを拾い上げ、30秒間程それを見て、また煙草を吸います。

その後左からSuchmosボーカル担当のYONCEが現れ、右にフレームアウトしていきます。この際顔は見えず、右手に何かを持っていることがわかりますが、何を持っているのかはわかりません。服装は、白の無地Tに首元にネックレス、そしてダメージジーンズ、エキゾチックな柄の靴下を履いています。

そして、右側から画面内に戻ってきたYONCEは、女性の腰の前辺りに、背中を向けて、あぐらをかいて座り、持っていたマグカップの中の飲み物を飲みます。そして、女性が手にしていた煙草をYONCEが受け取り、それを吸います。エロス。この手と手による取引も鏡に映っています。

女性も、床に置いてあった湯飲みを口元に持っていき、中の飲み物を飲みます。YONCEが煙草を吸い終わり、立ち上がると左にフレームアウトしていきます。

次に、またもYONCEが左手から現れますが、先程は足元を見ると靴下を履いているのみだったのに対し、今度は赤いコンバースを履いています。壁を背にしてやや右側を向く形であぐらをかいて座り込むと、ギターケースからギターを取り出し、チューニングを始めます。

そして、MVで流れる音楽に合流するように演奏をはじめ、歌唱もします。何小節かそうしたところで、ギターを持って立ち上がり、正面の方にフレームアウトしていきます。

曲が終わると、女性は床に置いてあったリモコンを手に取り、液晶の方に向けて、画面をSuchmosのロゴに変えて映像はおわります。

⑤ 主題とオリエンタリズム

SuchmosのTwitterの公式アカウントで、このMVについて製作者であるOKのコメントが投稿されており、それによると、このMVは、「いい時間」を「シンプル」に表現したもの、としています。

ここでいう「いい時間」は、日本ではないどこか東洋の異国で、黒髪の東洋人の裸婦と、ギターを弾く男性とが、煙草をすったりお茶なのかコーヒーなのかを飲んだりして、ゆったりとした時間を過ごすことであると言えます。

ここで「オリエンタリズム」との関係をみるにあたって、MV中のふたつのポイントについて言及しようと思います。

まずひとつめは、日本からみたところの東洋というロケーションです。日本人出国者数は年々増えていますし、中でも東アジアは手軽にリゾートを味わえて、コストもかからないという点で、人気の旅行先です。

21世紀の今の日本からみて、そのような場所は、シティでのしがらみや、疲れを癒してくれる場所であると言えます。しかしながら、その包容力と受容性は他者性とも捉えることができます。

そしてふたつめは、裸の女性に対して、衣服を身にまとった男性、じっと横たわっている女性に対して、画面中を自由に動く男性という構図です。非常に二元論的です。

古代より、消極的なものを「陰」、積極的なものを「陽」とする「陰陽二元論」という考え方があります。このMVでの男女の構図は、男を積極的な性、女を消極的な性としており、男性優位の思想や男性のまなざしというものを感じてしまいます。

まとめ

このMVは、Suchmosのドラム担当のOKが「いい時間」を「シンプル」に表現した映像作品になっています。

シンプルに表現するために、定点カメラでワンショットで撮られ、リラックスした雰囲気が『FUNNY GOLD』の音楽と非常にマッチしています。YONCEの移動も飛車なような動きで、単純でシンプルであると言えます。

しかしながら、「オリエンタリズム」や『グランド・オダリスク』をふまえた上でこのMVを見てみると、そこにはオリエントというロケーションや、女性という性を他者性をもつものとする「まなざし」や思想が存在すると考えられます。

例えば、ロケーションが東洋でなく西洋であれば見る者の印象はどのように変わるでしょうか。MVにおける男女の役割を逆転させると、どういう変化が起こるでしょうか。

シティにはない、「いい時間」というものを考えさせられます。


https://mobile.twitter.com/suchmoz/status/1059777468419035138

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monte:文系大学生

シティボーイになりたい

[歌詞/MV/ジャケ写] 考

趣味。ポップカルチャー大好き。ポップでおしゃれなのに影のあるものが好きです。
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