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ギリアンズ・ヒルの危機

導入
ここ暫くダガーフォードでは町を治めるモーウェン・ダガーフォード公爵夫人と、市議会との対立が絶えなかった。公爵夫人は良く町を治め市民からの人気も高かった一方、元は商人ギルドから構成されている市議会は、交易の活発化による町の発展を強く望んでいたからだ。
一方、ダガーフォードから徒歩で1日ほどの距離にある集落ギリアンズ・ヒルでは最近、リザードフォークの襲撃が問題になっていた……。
公爵夫人はギリアンズ・ヒル襲撃に救援を出そうとしたものの、市議会はギリアンズ・ヒル救援にそこまで乗り気ではない上に、近年活発化しつつあるリザードフォークとの交易にも力を入れたいためこれに強く反発。結局、兵士たちは動けずじまいになっている。

背景
幾つかの冒険を重ねて、それなりに名前が売れてきたキャラクターたち一行、そんな彼らを見込んでモーウェン・ダガーフォード公爵夫人の使者が近付いてくる。
曰く、「ここ暫く話題になっているギリアンズ・ヒルへのリザードフォーク襲撃事件はお耳にしていることでしょう。公爵夫人はこれに強く心をお痛めになられ、救援物資を出すことにしたのですが、この件に兵士を使うことを市議会が強く反対しておりまして、そこで皆様方にはこの救援物資を運んで、更にギリアンズ・ヒルでの問題解決もお願いしたく存じます」と、その使者は貴人に仕える人間らしく、うやうやしい口調で説明をする。報酬は金貨300枚。

いざギリアンズ・ヒルへ
ギリアンズ・ヒルまでの旅は何事もなく進み、途中で何人かの旅人とすれ違う、この周辺には集落が多いので、その住民だと思われるが、中には多少変わった旅人の集団もいる。1d4をして、以下の遭遇表を振れ。

1.  フードを目深に被った集団
キャラクターたちはフードを目深に被った10人ほどの集団とすれ違う。声を掛け、問い詰めると「わたしたちはチョーンティーアの信者で、巡礼の旅をしている最中です」と答える。キャラクターたちが疑う場合、難易度18の【知力】〈宗教〉か、【判断力】〈看破〉チェックに成功すると、彼らが嘘を吐いていることが判明する。
その事を問い詰めると、「わたしたちはチョーンティーア信者の中でも異端の一派なので……」と言い訳する。ギリアンズ・ヒルのことを訊かれると「酷い有り様でしたよ」と言う。

2.  農民の老夫婦
キャラクターたちは互いに手を取り合って街道を歩く老夫婦とすれ違う。彼らはリアムズホールドの住人で、陳情のためにダガーフォードに向かう最中だと言う。ギリアンズ・ヒルのことを訊かれると、互いに顔を見合わせた後「あれはねえ……慚愧に堪えません……」と言う。

3.  疲れ果てた農民の集団
キャラクターたちは疲れ果てた顔をした、3名の農民の集団とすれ違う。彼らはギリアンズ・ヒルの農民で、集落の窮状を訴えるためにダガーフォードに向かう最中である。彼らはキャラクターたちを見掛けると率先的に声を掛けてくる。

4.  子連れの集団
キャラクターたちは7人ほどの子供を連れた男女の集団とすれ違う。子どもたちはたいへん腹を空かせているらしく、20代ほどの男女の集団がなだめても子どもたちは強く抗議を繰り返している。

ギリアンズ・ヒルにて
夕方には20棟ほどが身を寄せ合うように建っている小さな集落から黒煙が上がっているのが見えてくる。
ここでリザードフォーク6体と戦闘になる。能力値は以下の物を使う。


リザードフォーク撃退後、村人に聞き込みをすると1週間ほど前からイリアナスという壮年の女性が失踪していると訴えられる。多分、以前のリザードフォークの襲撃の際に誘拐されたのではないかと村人は心配している。聞き込みを進めると、イリアナスは5年ほど前から村に住み着いたヒューマンの女性で、以前はダガーフォードで政治に関わる仕事をしていたが、今は引退してこの村で教師をしているということが判る。
難易度15の【知力】〈捜査〉判定に成功すると、別の村人からイリアナスは何らかの罪でダガーフォードを追放されたのだという話も教えて貰える。
村人からの情報によると、リザードフォークは西の蜥蜴沼に棲んでおり、以前交易が活発だった頃には彼らの洞窟まで行った事があるという者も村人の中にはおり、案内を買って出てくれる。

リザードフォークの洞窟
リザードフォークの洞窟では、ジャイアントリザード3体を率いるリザードフォーク4体が警備に当たっており、これらとの戦闘に勝つとキャラクターたちは囚われていたイリアナスを救出することが出来る。
救出されたイリアナスは、キャラクターたちにリザードフォークたちに見棄てられた遺跡にリザードフォークたちの本隊が向かったことを告げ、彼らを倒さなければ未だ村は危険なままだと言う。
見棄てられた遺跡にリザードフォークたちが向かった理由を問われると、「連中に持たせておくと危険なアーティファクトを求めて遺跡に向かったわ」とだけ言い、「一刻も早く連中を追わないと…」と旅路を急ごうとする。難易度15の【魅力】〈説得〉判定に成功すれば、彼女を落ち着かせ、リザードキングが求めているのは『支配の指輪』であることを聞き出せる。これは持ち主に強大なカリスマを持たせるもので、リザードキングはそのアーティファクトを用いて蜥蜴沼全域をまとめる王になろうと考えているのだ。


イリアナス・スタンフォード
イリアナス・スタンフォードは65歳のヒューマン女性で、過去にはダガーフォードの市議会で雄弁を振るった有力な議員の一人であった。しかし、5年ほど前にその辣腕を疎まれ、濡れ衣を着せられた上で町を追放されてしまった。それ以来、彼女はギリアンズ・ヒルで村の子供達相手に教鞭を執り、村に馴染みながら暮らしてきたが、自分を陥れた市議会への恨みを忘れることはなかった。ある時、若い頃からの研究をしていたダガーフォード郊外の見棄てられた遺跡に『支配の指輪』というアーティファクトがあることを突き止めた彼女は、ついに行動を起こす。村に交易に来ていたリザードフォークたちを唆し、見棄てられた遺跡には財宝があると吹き込んだ。リザードフォークに適当な遺物を掴ませて、その隙に自分はこっそりと『支配の指輪』を手に入れようとしていたのだが、あっさりと嘘を見抜かれ拷問の末に遺跡の場所と『支配の指輪』について吐かされてしまったのである。

見棄てられた遺跡にて
見棄てられた遺跡は山がちな壁面にへばりつくようにして建っており、注意して見ていないとその入口に気付かないほどのものであった。
遺跡に着くと、入り口には何体ものリザードフォークとヒューマンとの死体が幾重にも重なって転がっている。死体を調べた場合、難易度13の【判断力】〈知覚〉に成功したキャラクターは、ヒューマンの死体が共通の紋章を身につけていることに気付く。それは翼を持つ蛇の紋章であり、難易度18の【知力】セーヴに成功したキャラクターは、それがゼンタリムの紋章であることに気付く。
また、受動〈知覚〉が15以上あるキャラクターは死体の中からひとりの生存者を発見できる。彼女はヒューマンの女性であり、かなり血塗れで焦燥しきっている。難易度17の【判断力】〈知覚〉判定に成功すると、実は彼女の血は殆どが返り血であり、自身には傷らしきものはあまり見当たらないことに気付くだろう。
女性は自らをダガーフォードの義勇兵であると名乗り、「リザードキングたちが兵を引き連れて遺跡に向かったので、なにか良くないことがあると思って義勇兵を募って駆け付けた」と言い、続けて「まだリザードキングたちが中にいると思うが…」と言う。

紋章や女性の怪我に気付いた場合
怪我について指摘されると、彼女は「余りに凄惨な状況に気を失ってしまった」と言い訳する。難易度13の【判断力】〈看破〉に成功すれば、彼女が嘘を吐いていることがわかる。嘘を暴かれたり、ゼンタリムの紋章について指摘されたりすると彼女は豹変し、一番近くにいたキャラクターに斬り掛かると(攻撃+4、1d6+2の[斬撃]ダメージ)、即座にインヴィジビリティの効果があるアーティファクトを使って逃走を図る。
キャラクターたちが後を追う場合、難易度15の【知力】〈捜査〉チェックに成功すると遺跡から500mほど離れた山中で彼女の死体が見つかるが、特に目立った持ち物は持っていない。


プレイヤー用


DM用

見棄てられた遺跡内部
見棄てられた遺跡の地図に関しては別途付属のものを参照。

①   遺跡入口
『見棄てられた遺跡にて』及び『紋章や女性の怪我に気付いた場合』を参照。

②   エントランスホール
崩れた入口のアーチをくぐると、開けたエントランスホールが広がっている。今にも崩れそうな柱が4本立っており、北と東西には金属製の扉が付いており、どちらも閉じられている。各扉には鍵や罠は掛かっていないが、北の扉からは難易度12の【判断力】〈知覚〉チェックに成功すると、何事か話し声が聞こえる。聞き耳をたてたのが竜語を理解できるキャラクターならば『本当にこんなところで待ち伏せて意味があるのか?』と理解できる。

③   北向きの通路
北に伸びる通路。北西には崩れた扉の跡がある。北の壁には鉄製の扉がある。扉には罠などはない。

④   北向きの通路
北に伸びる通路。北東に金属製の扉があり、調べると鍵が掛かっている。難易度13の【敏捷力】〈手先の早業〉チェックに成功するか、難易度15の【筋力】セーヴに成功すると開けることができる。
北の壁には鉄製の扉がある。扉には罠などはない。

⑤   王座の間
石の玉座と、2匹のライオンの石像が目立つ部屋。この部屋には3匹のリザードフォークが待ち伏せをしており、不用意に侵入してきたキャラクターに対して不意打ちを食らわそうとしている。
リザードフォークのデータは上記のものを参照のこと。

⑥   台所跡
旧い時代には台所として使われていたであろう部屋。床には無造作に割れた陶器類が散らばっており、部屋の隅には大量の蜘蛛の巣が張っている。

⑦   武器庫
部屋は武器庫であり、中には大量の武具が収められている。武器の殆どは錆びついており、使い物にならないが、難易度13の【知力】〈捜査〉チェックに成功すれば、二振りの+1武器が見つかる。
武器の内訳に関しては、パーティ構成によってDMの裁量で変えて良い。

⑧   東西に広がる通路
南東と南西に鉄製の扉があり、通路の中央北部に北へとつながる崩れたアーチがある。受動〈知覚〉13以上のキャラクターは、北から剣戟の音が聞こえることに気付く。

⑨   待合室
モザイクづくりの床は見る影もなく崩れており、天井からは木製のシャンデリアがぶら下がっている。
部屋の北には鉄製の扉があり、先程まで聞こえていた剣戟の音は、既に聞こえなくなっている。

⑩   女神の間
8本の柱に支えられた広間で、正面には見たことのない女神の顔が象られた彫刻がある。難易度13の【知力】〈宗教〉チェックに成功したキャラクターは、数百年前に崇められた女神の一柱であろうとわかる。
部屋の中央奥にはゼンタリムのエージェントの男女がおり、周囲にはリザードフォークやリザードキングの死体が大量に転がっている。
キャラクターたちが部屋に入ってくると、男性のエージェントはシミターに付いた血を腕で拭い、黙ってキャラクターたちに襲い掛かってくる。
エージェントたちのデータは以下のものを使用せよ。


エージェントたちを倒してもキャラクターたちは『支配の指輪』を発見することができない。
遺跡入口で隠れていた女性エージェントが隠し逃げていたからである。
キャラクターたちが周囲をくまなく捜索すると、女性エージェントの遺体が見つかるが、彼女の遺体からも指輪は発見出来ない。
実は既に別のエージェントの手に渡っており、キャラクターたちはここで手掛かりを失ってしまう。
どちらにせよ、キャラクターたちは報酬と1600点の経験点を得る。今回の冒険は、これで終わりだ!

あとがき
なんとか公開が間に合いました。ビターエンドなので、賛否両論あると思いますが、その辺りはDMごとに変えてみても良いと思います。

このあとは?
この後はキャラクターレベル4用のシナリオを用意しておりますが、指輪を奪ったゼンタリムがそのままにしているワケがありません……。何が起こっても不思議はないでしょう。
例えば、ゼンタリムから『支配の指輪』を譲り受けた貴族や市議会が反乱を起こすかもしれませんし、場合によっては善意から街を変えたいと願う一般人が無辜の怪物と化すかもしれません……。

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