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【番外編】「銀歯(メタルインレー)vs白い詰め物(コンポジットレジン)」~むし歯になった後は結局どっちがいいの?~



様々なメディアで「銀歯は時代遅れ」「銀歯はむし歯になりやすい」「海外では銀歯は使用禁止である」といった内容が発信され、むし歯治療には銀歯(メタルインレー)を選択しないことが推奨されることがあります。これに対して、コンポジットレジン(CR)と呼ばれる白い材料が歯科では使われています。
歯の見た目を考えれば、確かに金属の色よりも白い方が自然に見えますし、多くの方が白く見える歯を望んでいるでしょう。しかしエビデンスに基づく見解では、この情報はどのように判断できるのでしょうか?

本記事では「銀歯(メタルインレー)vs白い詰め物(コンポジットレジン)むし歯になった後は結局どちらがいいの?」について検証します。

執筆:気まぐれ歯科情報ななめ読み
チェック:2名以上のトンデモ歯゛スターズメンバー
(見出し画像:akina先生@nakixa)


トンデモ歯゛スターズ的結論



・銀歯が白い詰め物に対して劣っているという科学的根拠は不十分であり、メリットとデメリットを理解した上で選択されるべきである。
・「海外では銀歯が体に有害なので使用が禁止されている」との情報は誤解を招く表現である。

参考としたエビデンス



(※1)、(※2)、(※3)、(※4)、(※5)


トンデモ歯゛スターズ的見解

 現時点で存在する科学的根拠から言えることは、メタルインレーがコンポジットレジンに対して劣っているとは言えないという事です。この比較をするにあたって、次の2点を整理しておきたいと思います。

a. コンポジットレジンには直接法と間接法がある
 直接法とは、患者さんのお口の中で直接コンポジットレジンを詰める方法であるのに対し、間接法とはお口の型を採った後に、お口の外でコンポジットレジンを使用して詰め物を作る方法のことです。厳密に言えばこの2つは別物ですが、過去の報告では直接法と間接法の生存率の間に差はなかったことが報告されています1
そのため、本記事では直接法と間接法は区別せずに記載します。

b. 銀歯には大きく分けて「金銀パラジウム合金」と「アマルガム」の2つがある
 日本で「銀歯」と一般的に言われるものは、大半が金銀パラジウム合金と呼ばれるものです(他には金や銀合金と呼ばれる材質を使用したものもあります)。一方で、アマルガムとは水銀を使用した詰め物であり、世界的に長期にわたり安全に使用されています。水銀と聞くと危険なものに感じますが、アメリカ歯科医師会ではアマルガムを「ゴールドスタンダード」としており、長期的に安全にこれまで使用されてきたとしています2本記事では、この2つを区別して記載します。

「銀歯」というキーワードを検索してみると、「海外では銀歯の使用が禁止されている」としている情報が出てきますが、これはミスリーディングです。前述の通り、アマルガムは現在でも世界中で使用されています。
たしかに水銀による環境への懸念により2013年に水俣条約が採択され、この一環として水銀を含むアマルガムの使用を段階的に減少させていくことが目標の一つとされています。例えば、EUは2018年1月1日から歯科医師が必要とした場合を除いて、乳歯と15歳未満の子供や妊娠中、授乳中の女性へのアマルガムの使用を禁止しており、2025年以降は歯科医師が必要と判断した場合を除き、EU内の全人口に対して歯科用のアマルガムを廃止する方針を示しています2
また、日本でも以前アマルガムは使用されていましたが、H28年からは保険診療としての使用は廃止されています3

 しかしながら参考としたエビデンス※4にあるように、アメリカ歯科医師会とIADR(国際歯科研究学会)のステートメントでは、アマルガムはコスト等の面でもコンポジットレジンと比較して優れているとしています。イギリス歯科医師会では、アマルガムはイギリスの保険制度の下で最も一般的に使用されている材料であり、歯の詰め物の治療の1/3を占めていることを指摘したうえで、アマルガムの段階的廃止自体は支持しているものの2025年を期限とする急速な廃止により、保険制度の下で行われる歯科治療が破壊されてしまう可能性があるとのコメントを出しています4

さらにFDA(アメリカ食品医薬品局)では、アマルガムが口腔内にあったとしても、特に異常のない場合には除去を推奨していません5
 したがって、「海外ではお口の中にアマルガムがあること自体が危険なので使用が禁止されている」という情報は不正確と言えるでしょう。

 一方で、日本で保険診療として一般的に使用されている金銀パラジウム合金は海外で使用されることはあまりなく、アマルガムと比較すると研究数が少ないためエビデンスが不足しているのが現状です。我が国では治療から10年後の生存率に関してメタルインレーは67.5%だったのに対し、レジンは60.4%だったと報告があります6
このメタルインレーについては、保険診療の場合には大半が金銀パラジウム合金だと思われます。
しかしながら、この結果は非常に限定的な条件で得られたものであり、根拠の質は低く確実なものとは言えません。したがって、実は金銀パラジウム合金がコンポジットレジンと比較して早くダメになってしまうということを支持する十分な根拠は存在しないのです。

 金属に関してよく話題になる内容の一つに、お口の中に金属が存在することが金属アレルギーを引き起こすというものがあります。金属アレルギーは皮膚に症状が生じることがあるため、お口の中に金属がある場合には除去を勧めるような情報を見たことがある方も多いでしょう。
日本皮膚科学会のガイドラインでは、歯科で用いられる金属が全身性接触皮膚炎を引き起こす可能性があるとしています7
また、日本では歯科病院で金属アレルギーの検査を行ったところ、ほぼ半数がパッチテストで金属元素に対して陽性であり、このうち2/3以上が陽性となった金属元素を含む金属が口腔内に入っていたことが報告されています8
また、この報告ではお口の中から金属を除去すると約半数が症状の改善を認めたとしています。
前述の日本皮膚科学会のガイドラインでは、皮膚科側で除去が必要と判断した場合には、患者さんの同意を得た後に歯科に金属除去を依頼するような記載があります。しかしながら、同時に口腔内の金属を除去することで症状が改善することを示したエビデンスレベルの高い臨床試験は存在しないことが分かります。同様に掌蹠膿疱症9に関しても歯科で用いられる金属が原因であると言われることもありますが、日本皮膚科学会の診療の手引きでは「金属除去のみで掌蹠膿疱症が軽快した例は数%にすぎないとの報告がなされた」「パッチテストの結果のみを根拠に歯科金属除去を行うべきでない」としており、こちらも積極的な金属の除去を推奨していません10

したがって、実は皮膚炎や掌蹠膿疱症の対策として、積極的に金属を除去することは推奨されておらず、お口の中の金属を除去することが標準治療として確立している皮膚の病気は、現時点では存在しないのです。金属アレルギーが疑われる症状が皮膚に出たような場合には、医科と歯科の先生が連携しながら原因を慎重に見極めていくことが必要でしょう。
 ちなみに「金属は歯医者が儲かるので勧めている」という情報が発信されることもありますが、近年では金属価格の高騰もあり、むしろ金属を使用した治療の方が歯科医院にとっては赤字になるケースもあります11
そのため、このような情報も不正確であると言えるでしょう。

 ここまで様々な情報を見てきましたが、近年コンポジットレジンが大きく改良されてきたこともあり、長期的な成績の評価が十分に行われておらず、明確な結果は得られていないのが現状です。
したがって「銀歯はすぐにダメになるので白い詰め物にしましょう」という主張を支持するための科学的根拠は、現時点で不十分であると言えるでしょう。

では、実際にむし歯になった場合はどのようにして材料を選択するべきなのでしょうか。
参考としたエビデンス※5にあるようにFDI(世界歯科医師連盟)では、「歯科用アマルガムに代わる直接修復材料」というステートメントの中で
「単に材料を中心としたアプローチではなく、患者中心のアプローチを採用し、修復材料を選択する際に個々の要因や材料の特性を考慮する」としています。したがって、材料のみで判断するのではなく、審美性やむし歯のリスク、全身の状況を含めて歯科医師としっかり話し合い納得した上で材料を選択することが重要であると考えられます。

なお、銀歯についてはトンデモ歯゛スターズのメンバーである中田先生(@NakaDash_)が以前記事で取り上げていますので、ぜひこちらもお読みください(https://agora-web.jp/archives/2050815.html)。


本記事の執筆にあたり、ご助言頂きました
江畑慧先生@shizuoka_doctor
に感謝いたします。


トンデモ歯゛スターズの活動は、基本的に全てボランティアで行っております。本活動を持続可能なシステムにしていきたいと考えておりますので、是非ご支援いただけると幸いです。