入室テスト

長男はサピックスに通っている。

今までのノートでは学校名は明かさず、知っている人はピンとくるかな、程度のぼやぁとした内容を書き連ねてきたが
それはこのノートの目的の半分以上は、個人的なことの備忘録であることと、
受験が終わった後の、長男のプライバシーへの配慮もあってのこと。

ただ、これから塾名まで伏せると書きづらいのでそこははっきりと書いておくことにした。


私自身が遠い昔のサピックス生だった。
当時の出来たばっかりの頃のサピックスとは違うと思いながらも、いい思い出しか残ってなかったので長男が受験を決めた時には当然サピックスという選択肢が真っ先に上がった。
それで実際に入塾説明会に行ってみると思っていた以上に昔と変わらない仕組みで、テキストやテストの呼称を聞いては完全に眠っていた記憶たちがむくむくと起き上がってきてノスタルジーを感じていた。
昔と違うのは、知識を詰め込むような学習よりも思考力観察力を育むような授業がなされていること。授業の風景を納めた動画には好奇心をむき出しで授業を受けている子供達の様子があり、好奇心の塊である長男がそこにいる様子がありありと目に浮かぶようだった。

ただ、完全に下調べを忘れていた、大誤算。
入室テストが、新5年生から国算の2科受験ではなく国算理社の4科になるのだった。今まで入塾に向けてコツコツ勉強をしてきたならいざ知らず、我が子はそれまでピアノを弾いていただけ。
これは私の痛恨のミス。
受験勉強は小5から始めれば間に合うだろう、という考えは間違いじゃない、とは思う、たぶん、でも、そもそも入塾できないかもしれない。よーいドンのスタートを切るんじゃなかったのか。あーあ。
算数は直前に少しだけ準備した。学校ではまだ習っていない円周率の話などをした。でも理科社会は何が出題されるか分からないのに闇雲にやっても仕方がないので、本人には「何にも分からないかもしれないし、ほとんど0点をとるかもしれないけれど、びっくりしないで」と予め話しておいた。

サピックスの入室テストのことはいろんな人がブログに書いていたので、ちらちらと読んでみる。1回で受からないのもザラなんだ…と、改めて自分の調べが足りなかったことを後悔してみたりもした。5年生になるとぐっと狭き門になるらしい。だからみんな4年生で入塾するんだ。知らなかった。
(校舎によっては、4年生の最初の入室テストあたりで生徒がいっぱいになっていて入室テスト自体を行なっていないところもある。)

さらに、1月という時期であることも忘れていた。
入室テストを受ける二日前、新学期が始まって早々に熱を出した。
熱は37度ちょっとだったが、入室テストの当日の朝もまだ熱があった。
熱が高くはないとはいえ、三日も下がらないのはあまりないことだった。
これはもう仕方ない、これからの学習の計画を立て直そう、と思った。
ところが、長男はテストを受けたいと言う。
こちらが思っていた以上に本人の気持ちは前のめりになっていた。

熱はあっても受けられる元気があるから受けたいと言ってるのか?
無理してるのか??

判断に苦しんだが、表向きは本人の意思を尊重した形で鬼の母の部分が出てしまった。
チャンスは多い方がいい。
打算的にもなっていた。
この判断が正しかったかどうか今だに分からないし、今だに胸が痛む。

テストに送る車の中でも、何回も不安になって
「やっぱりやめとく?」
と聞くも、本人は受けるという。
「途中で具合悪くなったら先生に言って早退してもいいからね」
と伝えて、入口で見送った。階段を上っていく姿は少し元気になったように見えた。

いつ電話がかかってきてもいいように待っていたが、電話は鳴らなかった。
そして3時間後。
顔面蒼白の長男が階段を降りてきた。
そして黙って建物の外に出ると、そこでしゃがみこんでしまった。
内部生も受けるテストだったので、もう通塾に慣れている子たちが長男を振り返って見ている。
端から見れば「テストが思うようにできなくてショックを受けている子」に見えたことだろう。
でも、単に、本当に具合が悪かったのだ。
帰って熱を測りなおすと38度以上に上がっていた。
そしてゼリーだけ口にして眠り込んでしまった。
目が覚めて、いくらか気分が良くなったところでテストのことを尋ねると、楽しかった、とのこと。
そう、長男は根っからの楽天家で、テストができなかったくらいでしゃがみこむタイプではない。できたできないより、楽しいか楽しくないかが全てなのだ。
競争心に乏しいのは幸せな才能のひとつだ。

答案はテストを受けたその日のうちにオンラインで確認できるようになっている。
子供達が寝た後、恐る恐る自己採点をしてみた。

算数、150点満点中15点。

ああ、やっぱりダメだった。
1問目の四則計算で間違えてるしな。
理科社会は、こちらが予想していた0点よりかは多少取れていたが100点満点中それぞれ30点くらい。
国語は、記述がどれくらいの評点がつくかで変わるけれど、ざっと見たところ他の3教科よりはマシな様子だった。

今回はダメだったけれど、何を勉強したらいいかの足がかりができたね、と話していた。それでも内心、長男が無理をしてがんばったんだから何かの間違いで入れくれないかなあ、と細い望みを捨てきれずにもいた。

何かの間違いが起こってくれた。
算数が15点でも合格できた。偏差値は30を切っていた。
国語が100点近く取れていて、ほとんどその点数だけで入室基準点に引っかかることができた。
下から2番目のBクラスからのスタート。
もうどこのクラスでもなんでもよい。
とにかく無事にスタートが切れたことに安堵した。
大変なのはこれからだとしても、まずはエンジンをかけるキーを手にしなければ。

国語でまずまずの点数を取ることができたのは、やっぱり普段から本を好きでたくさん読んでいて、文章を読むことに抵抗がなかったのが良かったのかもしれない。
理社で0点ではなかったのは、本を読むのが好きで、学校の教科書の小さいコラムや資料ページなんかもよく読んでいたのが少しは点に絡んでいたのかもしれない。
あとはブラタモリ。タモリさん信者の長男。この番組を通じて得た知識がこの後もちょいちょい役に立っていく。

算数は、伸びしろしか無いね!と、笑い話になった。
(そんなことを言いながら、入室後初回の授業が復習テストで算数まさかの10点で、「まだ下があったとは!」とさらなる笑いを作ってしまうこととなる。)

なんにせよ、
こんな形で受験勉強のスタートを切ることとなった。

受験に向けてのふたつの教訓を得た。
ひとつは下調べをきちんとすること。当たり前ながらも。
もうひとつは体調管理。
2年後の1月は入試本番が待っている。

後から胸が痛むような無理をさせないためにも体調管理は大事。