見出し画像

42「詩」雨の季節の少し前

吹いてくる風の境目を見たのは
目の見えない少女です

風の音を訳したのは
耳の聞こえない少年です

生まれたばかりの真っさらな風を
知っていたのは
みすぼらしい老人でした

季節がなくなったと人々が言います
春の後で冬
いきなり夏
草花だけが刻まれたリズムの中で
蕾をつけ花を咲かせ
散っていきます

誰にも分かってもらえない
ひとりで長い間抱えてきた気持ちなのに
見ず知らずの会ったこともない人が
一瞬で読み取ることもあるのです

遠い昔から刻まれた誰かのリズムが
風に伝わり
同じテンポで生きている誰かの横を
吹き抜けていく

雨の季節のほんの少し前
草木の匂いに混じって吹いてくる風に
心地よいリズムを感じたら
あなたとよく似た誰かが
この世にいると思ってください

ひとりぼっちなんかじゃありません




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?