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ひとり酒

久々に人と会う約束をした金曜日。

先方の都合で延期となったが、こちらの脳内は完全に寄り道モードである。

久しぶりにひとりで飲むか、と予定していた店へふらふらと吸い寄せられる。

小雨のせいか週末の割には空いている店内に入り、ひとりだと告げるとテーブルでも大丈夫ですよと2人がけの小さな席に案内された。

カウンターは端にひとり座っているだけ、奥のテーブル席からは楽しそうな声が聞こえてくる。

夜に飲みに来るのもかなり久しぶりでなんだか落ち着かないが、同時にすでにこのシチュエーションを楽しんでいる自分もいた。

瓶ビールの赤星と胡麻豆腐を頼み、とりあえずお疲れさまの一杯を。

ふぅ。

カラダも気持ちも一気にほぐれた。

お通しの板わさが、美しい厚みを帯びて三枚並んでいる。

胡麻豆腐の濃厚さ極まりない。これは料理に期待が膨らむ。

本日のおすすめにある帆立の昆布〆を頼んだ。

生の帆立とは色みも異なるひと品の登場である。

しっかりとした歯ごたえが生まれ、帆立の淡白な旨みが生のそれよりも深く味わえるような気がしてくる。

醤油はいらない。わさびをほんの少しのせて口へ運ぶ。

蕎麦、酒、小料理を謳っている店だが、小料理はかなりいい線である。仕事の丁寧さが伝わってきてとても気持ちがいい。

BGMはジャズが流れていた。

スタッフは料理人とホールの男性のふたりのみ。店内のシックな雰囲気と確かな料理と町の蕎麦屋という、一見ミスマッチのような絶妙な調和があって、ひとりでも強烈に居心地がいい。

いい店見つけたな。ここはひとりで来るのがいい。

秘密にしておきたいくらいである。

瓶ビールが空になり、白ワインを頼んだ。帆立もなくなったので、迷った末に鴨のタタキを追加する。

飲みすぎないように注意しないと…などと考えながら心地よい時間に酔いしれた。

 

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