ミュージカル『ファントム』を観た

ミュージカル『ファントム』を3回鑑賞後の自分用備忘録的な感想文です。
※結末のネタバレを含みます

最初に

少し前から推し俳優である大野拓郎さんが出演されているのでチケットを取っていたファントム、結果的にこれまで観た(そこまで多くはない)舞台の中で3本の指には入る大好きな作品になりました。ストーリー、演出、役者さんの演技、何よりクラシックな楽曲が本当に美しくて個人的な好みにドストライクだった。なぜ今まで観ていなかったんだろう?宝塚版も観たいんだが・・・。
パンフレットに掲載されている楽曲のタイトルを見ながら、特に好きだったシーンについて徒然と感想を書きます。

♪オーバーチュア


軽快な音楽の合間に入る怪しいパートでパリの市民たちが顔の右側を抑えて踊る。もうここだけでこの作品絶対好きな気がするってなりました。

♪世界のどこに


自分の素顔を見た者を殺してしまったエリックが音楽に救いを求め、真に音楽を愛する美しい声の持ち主を探すぞ!という曲。この曲がもう本当に大好きで仕方ないです。(殺人を犯した後にこの曲なので結構やばい曲なのですが、エリックには精神的な未熟さというか幼児性もあるし人との関わりが少ないために殺人の現実感がないのでしょうか・・・。)引きこもりではあるけど音楽のためなら世界中を這いずり回ってでも理想的な歌声を見つけてやる!という音楽への愛の強さが現れた歌詞も大好きですし、熱いメロディラインが最高の曲です。聴くだけでワクワクしちゃいます。そしてこの曲、カルロッタの策略で舞台本番の歌唱に失敗したクリスティーヌを攫うとき、そしてその後カルロッタやオペラ座関係者に報いを受けさせると決意するときにも、リプライズで歌うんですよね。「手にい~~~れ~~~る~~~」の後にザンっとマントを翻して暗闇の中に去っていくのがとてもかっこよかった。城田エリックも加藤エリックも背が高くて黒いマントの衣装がとても似合ってた。リプライズの方に話が飛ぶけど、クリスティーヌをお姫様抱っこしながら「儚いこの奇跡を渡さ~~な~~い~~」って歌うの、クリスティーヌへの執着が出てて最高だった。(引きこもりなのに軽々お姫様抱っこできるんかい)
お歌はもちろんお二人ともさすがでした。これだけ抒情的に歌えるのは、二人才能もあるけど、この作品を愛しているんだなと感じました。いつかこの曲を城田くんや加藤くんのコンサートで聞いてみたいです。。。

♪私のもの


みんな大好きカルロッタの曲。この曲は役者さんの歌唱力とコミカルな演技が相まって目が離せなかった。石田ニコルさんも皆本麻帆さんも、歌詞に合わせて表情がコロコロ変わって、緩急のつけ方や小忙しい動き(ソファに寝転んだり壁にかかった肖像画を手に取ってみたり)を見るのがとても楽しい。途中でオーケストラを隠していた幕が上がって本物のオペラっぽい光景になるのが個人的にうおお~!となった演出。カルロッタの赤いドレスに合わせた赤い照明がどんどん濃くなるのもカルロッタのヴィランズ感を増していて良かった。最後のハイトーン凄すぎて、いやこれならオペラ座で主役張れるやろ、ってなる。

♪ホーム


憧れていたオペラ座で働けることになったことを喜ぶクリスティーヌと、探していた歌声にたどり着いたエリックが「夢は叶う」と歌う曲。二人の出会いの曲。真彩希帆さんの透き通る歌声と声量に圧倒され、「歌が上手い人って・・・こんなに上手いんだ・・・」となった。エリックがクリスティーヌを見つけ、恍惚とした表情で彼女が歌っている姿を見つめ、段々とその喜びを噛み締め、僕の夢が叶うんだと歌う姿もこちらまでワクワクするシーンだった。初見の日、2階前方席で鑑賞したのですが、真彩クリスティーヌの歌声のボールがポーンと私のところに飛んできたような感じで、私に向かって歌ってる?!と感じました。細い体からあの声量、迫力は凄すぎる。

♪あなたこそ音楽


この作品を象徴する楽曲。「ドレミファソ~ファレ~ファミ~」の歌い方が城田エリックはよりオペラ的というか音楽の先生っぽくて素敵だった。(ちなみに両方のエリックどちらも同じくらい好きです。二人とも違ってどちらもいい)「ファレ~ミド~オオオ~⤴」って音階が上がっていくところが大好き。簡単な音階で基礎的な練習をしているところから「Oh You are music あなたこそ 私の光」って2人の世界に入っていくのロマンチックすぎません?????そしてピアノと、ピアノを挟んで見つめあう二人に月の光みたいにスポットライトが当たって回転するという演出。こんな美しいもの見たことないって気持ちになりました。
この時点ではクリスティーヌにとってエリックはまだ優しい音楽の先生に過ぎない(歌を教えてくれたから特別な存在ではあるはず)と思うんですが、エリックにとってはクリスティーヌは探し続けた夢の存在であり憧れの女性になりつつあり、この重みの違いがまた切なくていいですよね・・・。

♪運命の出会い


恋に落ちたシャンドン伯爵がクリスティーヌに恋心を打ち明ける曲。シャンドン伯爵は大野拓朗さん回を3回観たため城田シャンドンは見られなかったのですが。パリの夜景にクリスティーヌの黄色いドレスが映えて綺麗だし、股下5キロ甘いマスク少し高めのハスキーボイスの拓シャンドン、ガチプリンスで全人類を姫にするシャンパン王だった・・・。抱きしめて幸せそうに目を閉じたり、おでこにキスしたり、こっちが赤面するくらい甘々なシーン。いやまじでシャンパン王イケメンすぎて腰抜かした。

♪崩れゆく心


キスをして微笑み合うフィリップとクリスティーヌの姿が、暗闇でしか生きられないエリックに現実を突きつける。それまでは心を躍らせて柄に合わずクリスティーヌにお花まで用意してみたエリックに私は感情移入してしまい、その切なそうな背中を抱きしめてあげたい・・・(あっごめんなさいクリスティーヌじゃないとお断りですよね)ってなる。あくまで先生と生徒であるエリックとクリスティーヌの関係性。楽屋にそっと置かれた一輪のバラを見つけて「誰だろう?」って首をかしげるクリスティーヌがまた純粋で心えぐられる。
この三重奏は美しくて大好き。舞台の中心に失恋で心打ち砕かれたエリックが、舞台の高い場所の上手側と下手側にフィリップとクリスティーヌが立ってまさに三角関係の並びになりそれぞれの心の内を歌い上げるシーン。まぶしい笑顔でクリスティーヌの魅力や彼女への恋心を歌う拓シャンドン、闇を知らない純粋無垢なおぼっちゃまで、エリックと並ぶとまさに光と闇だったね。エリックと対比になる眩しい光であるシャンドン伯爵は君にしかできないと城田優くんが拓朗さんに直電話した話を思い出すだけで満面の笑みになってしまう。

正確な楽曲のタイトルが分からないのですが、少年エリックが聖母に救いを求めるシーンは2回目鑑賞時にダバダバ泣きました。子供の歌声ってなんでこんなに胸に響くんだろうね。叫び声も悲痛で、どの少年エリックも天才子役だった。母ベラドーヴァが歌っていた歌をエリックも歌ったり口ずさむのが「母の記憶あるんだね」ってなって切ない。

♪母は僕を産んだ


エリックの素顔を見て腰を抜かしたクリスティーヌが逃げ出した後に(文字にするとやっぱりエリック可哀そうすぎる)エリックが自分を慰めるように歌う曲。さっきクリスティーヌに教えてあげた、エリックお気に入りのウィリアム・ブレイクの詩を引用した曲。この詩(『無垢の詩』の「黒人の少年」の部分だそうです。調べたらとても面白かったです。)のくだりって、アンドリュー・ロイド・ウェバーの方の『オペラ座の怪人』には出てこないですよね・・?
「♪母は闇で僕を産んだ でも僕の魂は 天使のように輝く」を自分に読み聞かせるように、悲しみで心の行き場を失いながら何とかして何度も読んできた詩集の言葉をなぞるように歌うエリックが悲痛で、その幼さや、愛する人にさえ拒絶された悲しみが歌声に滲んでいて、心と涙腺を持っていかれました。緑のカーテンを引き破るシーンも破壊的で素晴らしかった。悲しいけど美しいってこういうことか。。。

♪君は私のすべて


キャリエールが自分が父であるとエリックに打ち明け、「知ってたよ」とエリックが歌う親子の歌。
この曲に至る前に、「考えてみたら悪くなかったよ 生まれてきたこと 音楽があったからね」ってエリックが話すんですが、本当に音楽を愛してるんだな、音楽の神様はエリックに微笑んだんだねって感じるシーンでとても好きです。悲しいけど。泣くけど。
エリックの「信じてたよ父親だと 温かい眼差しで分ってた」という歌詞、エリックの心は本当は優しくて母や父の眼差しから愛が何かを知っているんだって分って泣ける。
この曲の合間の会話の「テノール向きの顔じゃない」「バリトン向きとも言えない」の音楽オタクならではの皮肉っぽいジョークと、エリックにとって呪いのようなものだったこの顔の話で親子が笑い合ってることの尊さ。「でも・・・声はいいでしょう?」の言葉に母から受け継いだエリックの音楽愛やエリックのすべてが詰まっているようで、この悲劇の美しさがこのシーンに凝縮されているようで、一生忘れられないシーンになりました。この曲の中で、死ぬときは父さんの手で殺してほしい、他の誰かに君を触れさせないと悲しい約束をするところで強くエリックの手を握って引き寄せるキャリエールの複雑な、でも心から息子を愛する気持ちにどうしても同情してしまう。悲劇の発端はキャリエールの過ちと言っても過言ではないと思うけど、でもキャリエールはエリックの命だけは必死で守ってきたし、罪も弱さも含めて、キャリエールに感情移入せずにはいられない。元凶はあんたなんだから、せめて早く父親だと明かして精神的に守ってあげてくれよとは思ったけど、人は善と悪では完全には分けられない・・・。もちろんキャリエールがしたことは最低の裏切り行為なので全部あんたのせいだよ!って引っ叩きたいけどね?ただ、罪の意識を持ったまま保身に走って生きるしかないのも、それでも息子の命だけはこの身に代えても守りたいと思っているのも、一番人間らしい登場人物だと思いました。岡田さんの演技がキャリエールの魅力を作ってた、本当に素晴らしい役者さんだと思った。

エリックが警察に取り囲まれ今にも捕らわれる場面で、エリックはゲラールに「約束したでしょ」(=他の誰かに僕を触れさせないで、あなたの手で僕を終わらせて)と言うわけですが、心のどこかでは「やっと父親だと言ってくれたゲラールとまだ一緒にいたい、まだクリスティーヌと一緒にいたい」という気持ちはあっただろうな・・・。エリックは結果的に複数の殺人を犯しているし、外の世界では生きていけない恐ろしい外見をしていて、もしゲラールに撃たれず生きたまま警官に捕らえられていたらこれまで以上に苦しい人生がエリックに待ち受けていただろうから、これが一番良かったのかもしれないけど。せめてもう少し長く親子として触れ合う時間が続いてくれればよかったのに。涙

♪ビューティフル・ボーイ~2幕フィナーレ

ベラドーヴァが赤子のエリックに歌っていた子守唄を、息絶えそうなエリックにクリスティーヌが歌う曲。エリックにとってクリスティーヌは初恋の相手だけど、朧気に覚えている母のような眼差しで自分を見てくれる唯一の存在だった。クリスティーヌがエリックに対する愛も母性愛的な側面が強かったのかな。でも二人の間には愛があったんだと感じる最後でした。最後、照明が落ちていく中で、クリスティーヌが息絶えたエリックの仮面を取り、顔を撫で、額にキスをするシーンはクリスティーヌにベラドーヴァが重なって「どっちなんだろう・・・?」ってなった。顔には驚いて一度は逃げ出したけど、最後に仮面を取って愛おしそうに顔を撫でるのを見て、やっぱりクリスティーヌはエリックを愛していたような気がした。エリックは母とクリスティーヌからまことの愛を受けたと思った。とはいえ、クリスティーヌがエリックの顔を見て逃げ出さなかったらとか、ゲラールがもっと早く父親だと打ち明けていたらとか色々もどかしいけど。悲劇の中に美しい愛がたくさんあって、とても好きな終わり方だった。二人だけの世界で一緒にあの曲を歌ってエリックが息絶えて、これ以上何もいらないというラストだった。

最後に

歌って踊って楽しいミュージカルも大好きだけど、少し時代が遡る作品やクラシック音楽の作品のほうがより好みなので、ファントムの楽曲はとにかくクリティカルヒットでした。何よりこれらの楽曲を圧倒的な歌唱力と表現力で歌い上げる役者さんたちが素晴らしかった。ファントムはもう作品自体の大ファンになってしまったので、多分推しが仮に出ないとしても(もちろん出演してほしいと心から望んでいるが)、今後再演があれば必ず観に行くだろうな~と思いました。できれば城田優くんの演出で観たいし、今違う役で出ている役者さんがキャリエール役で出演するのも観たい。最後に、こんな素敵な作品に出会わせてくれた推し・大野拓朗さんに感謝・・・。

おわり

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