【FaB】負けは引き分けより強いって本当?【タイブレーカー】

この記事は全文無料です。
※2023年10月13日発行のTRPに合わせて数式を修正しました。


「引き分けは勝ち点0だから、引き分けも負けも同じ」「むしろオポ的に分けるより負けのほうがまし」「引き分けしそうになったら投了したほうが良い」
Flesh and Bloodをプレイしていてこのような話を聞いたことがありませんか?
このような話をなんとなく信じていたあなたは騙されています!!

今回の記事ではFaBのタイブレーカーの計算方法について解説します。
競技プレイにおいて、対戦相手や前日まで楽しく談笑していたあなたの友人は、自分自身がトップ 8や権利獲得、マネーフィニッシュすることを最も優先するでしょう。
タイブレーカーの計算において信じられるのは自分の知識のみです。
10月7日・8日に開催されるBattle Hardened: Tokyo 2023や今後開催されるイベントで自分にとって不利な投了をしないために、正しい知識を身に付けましょう。

概要

FaBのタイブレーカーの決定方法は、Tournament Rules and Policy (TRP) Appendix Dに掲載されています。
Step 1からStep 6まで存在し、Step 1で同じ値だった場合はStep 2に、Step 2でも同じ値だった場合はStep 3にと進んでいきます。
最終的にStep 5まで進んでも数値の差がつかなかった場合に、Step 6でランダムに順位が決定されます。
もしかしたら読んでくださっている方の中に、TRPの英文の中に突然出てくるΣの計算式を見て、見ていた端末を静かに閉じられた過去がある方もいるかもしれません。
このnoteは文系の方にもわかるような数式が意味することの解説と、数式の理解をしたい方向けの数式自体の解説の両方を含みます。
数式に1ミリも興味がない方も、数式の解説部分を飛ばしながら、読み進めていただければと思います。

順位決めのStep

Step 1: Match Points

Flesh and Bloodでは、勝ち(byeを含む)で1点、引き分けで0点、負けで0点のマッチポイントを得ます。 点数が高いほうが上位です。

Step 2: Cumulative Match Points (CMP)

日本語訳すると、Cumulativeは累積であり一般的にCMPと呼ばれています。
この値が高いプレイヤーがStep 2で上位となります。
より序盤のラウンドで勝つと、高いCMPが得られ上位になります。
つまり、CMPを高く保つためには初戦を勝つことが最も重要です。
ラウンドが後半になればなるほど、CMPにもたらす影響は少なくなっていきます。

■数式
$${CMP = \dfrac{\sum_{r}^{R}m_r(2^R-2^{r-1})}{\sum_{r}^{R}(2^R-2^{r-1})}}$$
$${R}$$は終了したラウンド数、$${m_r}$$はrラウンドで勝利していると1,敗北及び引き分けで0を取ります。
CMPは0から1の間の値を取ります。
もし全てのラウンドで勝利している場合は1となります。

■具体例
例えば3ラウンド終了時点で次の結果のプレイヤーの$${CMP}$$を計算してみます。
・勝利、勝利、敗北のプレイヤーAの$${CMP_A}$$
・勝利、敗北、勝利のプレイヤーBの$${CMP_B}$$

$$
\begin{array}{c}CMP_A &=& \dfrac{1\cdot(2^3 - 2^{1-1}) + 1\cdot(2^3 - 2^{2-1}) + 0\cdot(2^3 - 2^{3-1})}{2^3 - 2^{1-1} + 2^3 - 2^{2-1} + 2^3 - 2^{3-1}}\\[10pt]&=&\dfrac{7+6+0}{7+6+4}\\[10pt]&=&\dfrac{13}{17}\\[10pt]CMP_B &=& \dfrac{1\cdot(2^3 - 2^{1-1}) + 0\cdot(2^3 - 2^{2-1}) + 1\cdot(2^3 - 2^{3-1})}{2^3 - 2^{1-1} + 2^3 - 2^{2-1} + 2^3 - 2^{3-1}}\\[10pt]&=&\dfrac{7+0+4}{7+6+4}\\[10pt]&=&\dfrac{11}{17}\end{array}
$$

から、
$${CMP_A≒0.76}$$、$${CMP_B≒0.65}$$です。
プレイヤーAがStep 2で上位なことがわかります。
この計算式をみると、1戦目の勝利に対応する分子の値は7、2戦目の値は6、3戦目の値は4です。これから分かることとして、同じ勝利でも序盤のラウンドであればあるほどCMPでの計算で大きな値を取ることとなります。
つまり、同じ勝利数の場合、序盤のラウンドで勝利しているプレイヤーの方が大きいCMPの値となり、より高い順位となります。

Step 3: Match Loss Percentage (MLP)

ここで影響が出てくるのが本日の本題、「引き分けと負けのどちらが強いか」です。
「byeと勝ちに価値の差はあるのか」についてもこのStepで扱います。
両方ともStep 2までは関係ありませんでした。

Step 3で計算するのは、平たく言うと何回負けたかです。
値が小さいほど負けてないことを意味し、上位になります。
引き分けは敗北ではないので、このStep 3において勝ちと同じ価値になります。

このnoteのメインテーマの答えが出ました!
「引き分けしそうになったら投了したほうが良い」
上記は間違いであり、Step 3において引き分けは負けよりも価値が高いです。

またbyeと勝ちに関しても、このStepで差がつきます。
byeはプレイしたこととみなされませんので、勝利よりも価値が低くなります。

■数式
$${MLP = \sum_{r}^{R}\dfrac{l_r}{R_p}}$$
$${R_p}$$はプレイヤーがプレイした終了ラウンド数、$${l_r}$$はrラウンドで敗北していると1、勝利及び引き分けで0を取ります。
byeはプレイしたラウンドに含みません。
それぞれのプレイヤーのMLPは0から1の間の値を取ります。
もし全てのマッチに勝利していればMLPは0となり、全てのマッチに敗北していれば1となります。

■具体例1
次の2人のプレイヤーのMLPを計算してみます。
・勝利、勝利、引き分けのプレイヤーAの$${MLP_A}$$
・勝利、勝利、敗北のプレイヤーBの$${MLP_B}$$

■数式1

$$
\begin{array}{c}MLP_A &=& \dfrac{0+0+0}{3}\\[10pt]&=&0\\[10pt]MLP_B &=& \dfrac{0+0+1}{3}\\[10pt]&=&\dfrac{1}{3}\end{array}
$$

以上から、プレイヤーAの方が$${MLP}$$が低いため、順位が上位になることがわかります。
引き分けは、敗北より良いことがわかりました。

■具体例2
次の2人のプレイヤーのMLPを計算してみます。
・勝利、勝利、敗北のプレイヤーCの$${MLP_C}$$
・bye、勝利、敗北のプレイヤーDの$${MLP_D}$$

■数式2

$$
\begin{array}{c}MLP_C &=& \dfrac{0+0+1}{3}\\[10pt]&=&\dfrac{1}{3}\\[10pt]MLP_D &=& \dfrac{0+1}{2}\\[10pt]&=&\dfrac{1}{2}\end{array}
$$

以上から、プレイヤーCの方が$${MLP}$$が低いため、順位が上位になることがわかります。
byeは勝利よりも不利なことが確認できました。

Step 4: Opponent Match Loss Percentage

Step 3までに差がつかなかった場合に、初めて対戦相手の戦績が順位に影響します。
Step 4は対戦相手達が何回負けたかです。
今までの対戦相手が持っているStep 3の値の平均値です。
Step 3同様、値が小さいほど順位が高くなります。

例えば、今までのラウンドで対戦したプレイヤーが5人おり、それぞれの$${MLP}$$を$${MLP_1,…,MLP_5}$$とすると、

$$
O-MLP=\dfrac{MLP_1+MLP_2+MLP_3+MLP_4+MLP_5}{5}
$$

で計算できます。
$${O-}$$はOpponentを示します。
$${O-MLP}$$は0から1の間の値を取ります。

■具体例
次の2人のプレイヤーのO-MLPを計算してみます。
2人とも今までの戦績が勝利、勝利、敗北であり、このstep 4で順位の優劣を計算することとなりました。
今までの対戦相手の戦績はbyeがなかったものとします。

・プレイヤーA:今までの戦績:勝利、勝利、敗北
1戦目の対戦相手の戦績:1勝2敗⇒$${MLP_{a1}=\frac{2}{3}}$$
2戦目の対戦相手の戦績:2勝1敗⇒$${MLP_{a2}=\frac{1}{3}}$$
3戦目の対戦相手の戦績:3勝0敗⇒$${MLP_{a3}=\frac{0}{3}=0}$$

$$
\begin{array}{c}O-MLP_A &=& \dfrac{\dfrac{2}{3}+\dfrac{1}{3}+0}{3}\\[10pt]&=&\dfrac{1}{3}\\[10pt]&=&\dfrac{3}{9}\end{array}
$$

・プレイヤーB:今までの戦績:勝利、勝利、敗北
1戦目の対戦相手の戦績:1勝2敗⇒$${MLP_{b1}=\frac{2}{3}}$$
2戦目の対戦相手の戦績:1勝2敗⇒$${MLP_{b2}=\frac{2}{3}}$$
3戦目の対戦相手の戦績:3勝0敗⇒$${MLP_{b3}=\frac{0}{3}=0}$$

$$
\begin{array}{c}O-MLP_B &=& \dfrac{\dfrac{2}{3}+\dfrac{2}{3}+0}{3}\\[10pt]&=&\dfrac{4}{9}\end{array}
$$

以上から、$${O-MLP_A < O-MLP_B}$$のため、プレイヤーAが上位に来ます。

Step 5: Opponent Cumulative Matich Points

今までの対戦相手が持っているStep 2の値の平均値です。
対戦相手が序盤のラウンドで勝っているほど、値が高くなり上位になります。

例えば、今までのラウンドで対戦したプレイヤーが5人おり、それぞれの$${CMP}$$を$${CMP_1,…,CMP_5}$$とすると、

$$
O-CMP=\dfrac{CMP_1+CMP_2+CMP_3+CMP_4+CMP_5}{5}
$$

と計算できます。
$${O-CMP}$$は0から1の間の値を取ります。

■具体例
次の2人のプレイヤーのO-CMPを計算してみます。
2人とも今までの戦績が勝利、勝利、敗北であり、Step 4での$${O-MLP}$$の値も同値でした。
そのため、Step 5で順位の優劣が着くか計算することとなりました。
・プレイヤーA:今までの戦績:勝利、勝利、敗北、$${O-MLP_A=\frac{1}{3}}$$
1戦目の対戦相手の戦績:敗北、勝利、勝利⇒$${CMP_{a1}=\frac{10}{17}}$$
2戦目の対戦相手の戦績:勝利、敗北、敗北⇒$${CMP_{a2}=\frac{7}{17}}$$
3戦目の対戦相手の戦績:勝利、勝利、勝利⇒$${CMP_{a3}=\frac{17}{17}=1}$$

$$
\begin{array}{c}O-CMP_A &=& \dfrac{\dfrac{10}{17}+\dfrac{7}{17}+1}{3}\\[10pt]&=&\dfrac{34}{51}\\[10pt]\end{array}
$$

・プレイヤーB:今までの戦績:勝利、勝利、敗北、$${O-MLP_B=\frac{1}{3}}$$
1戦目の対戦相手の戦績:敗北、敗北、勝利⇒$${CMP_{b1}=\frac{4}{17}}$$
2戦目の対戦相手の戦績:勝利、敗北、勝利⇒$${CMP_{b2}=\frac{11}{17}}$$
3戦目の対戦相手の戦績:勝利、勝利、勝利⇒$${CMP_{b3}=\frac{17}{17}=1}$$

$$
\begin{array}{c}O-CMP_B &=& \dfrac{\dfrac{4}{17}+\dfrac{11}{17}+1}{3}\\[10pt]&=&\dfrac{32}{51}\\[10pt]\end{array}
$$

以上から、$${O-CMP_A > O-CMP_B}$$のため、プレイヤーAが上位に来ます。
 

Step 6: A player selected at random


Step 5までで差がつかなかった場合はランダムに選ばれたプレイヤーが上位になります。

Why!?

Step 4とStep 5の順番は適正なのか?

自身のポイントを参照するStep 2とStep 3では、CMPのほうがMLPより価値が高いのに対し、対戦相手のポイントを参照するStep 4とStep 5では、MLPのほうがCMPよりも価値が高いのはなぜでしょうか?
具体例で考えてみましょう。
 

$$
プレイヤーA\\
 \begin{array}{|c|c |c |c |c|c|c|}
\hline
対戦相手&R1&R2&R3&R4&R5&R6\\ \hline
Opponent_{a1} & × & ×& × & × & ◎ & ◎ \\ \hline
Opponent_{a2} & 〇 & × & × & × & ◎ & × \\ \hline
Opponent_{a3} & 〇 & 〇 & × & × & ◎ & × \\ \hline
Opponent_{a4} & 〇 & 〇 & 〇 & × & 〇 & 〇 \\ \hline
Opponent_{a5} & 〇 & 〇 & 〇 & 〇 & 〇 & 〇 \\ \hline
Opponent_{a6} & 〇 & 〇 & 〇 & 〇 & 〇 & 〇 \\ \hline \end{array} 
 \\
 \\
\begin{array}{c}
O-MLP_A&=&\dfrac{12}{36}\\
 \\
O-CMP_A&=&\dfrac{1271}{1926}\\
\end{array}
$$

$$
プレイヤーB\\
 \begin{array}{|c|c |c |c |c|c|c|}
\hline
対戦相手&R1&R2&R3&R4&R5&R6\\ \hline
Opponent_{b1} & × & ◎& ◎ & × & × & × \\ \hline
Opponent_{b2} & 〇 & × & ◎ & × & × & × \\ \hline
Opponent_{b3} & 〇 & 〇 & × & × & × & × \\ \hline
Opponent_{b4} & 〇 & 〇 & 〇 & × & 〇 & 〇 \\ \hline
Opponent_{b5} & 〇 & 〇 & 〇 & 〇 & 〇 & 〇 \\ \hline
Opponent_{b6} & 〇 & 〇 & 〇 & 〇 & 〇 & 〇 \\ \hline \end{array} 
 \\
 \\
\begin{array}{c}
O-MLP_B&=&\dfrac{13}{36}\\
 \\
O-CMP_B&=&\dfrac{1277}{1926}\\
\end{array}
$$

※◎は差異がある戦績です。

以上はプレイヤーAとプレイヤーBそれぞれの対戦相手の戦績です。
もし対戦相手のCMPをMLPよりも重視するならば、プレイヤーBのほうがプレイヤーAよりも順位が高くなってしまいます。
差異分のみを比較すると、プレイヤーAの対戦相手は合計で4勝しているのに対し、プレイヤーBの対戦相手は合計で3勝しかしていません。
より対戦相手の勝利数が多いプレイヤーAの順位が高くなる仕組みの方が自然でしょう。
MLPをCMPより重視すると、プレイヤーAの順位をプレイヤーBよりも上位にすることができます。

Step 2とStep 3の順番は適正なのか?

それならば、自身のポイントを参照するStep 2とStep 3において、CMPをMLPより重視するのは適正なのかと疑問視する声が読者から聞こえてきます。
こちらも具体例で考えてみましょう。

プレイヤーAとプレイヤーBの戦績は共に5-1で以下の通りです。

$$
 \begin{array}{|c|c |c |c |c|c|c|c|c|}
\hline
プレイヤー&R1&R2&R3&R4&R5&R6&CMP&MLP\\ \hline
プレイヤーA & bye & 〇& 〇 & 〇 & 〇 & × &289/321&1/5\\ \hline
プレイヤーB & × & 〇 & 〇 & 〇 & 〇 & 〇 &258/321&1/6\\ \hline
\end{array} 
$$

R1がbyeの後、4連勝してからR6で初めて負けたプレイヤーAと、初戦負けしてその後5連勝したプレイヤーBのどちらを順位を上にするべきでしょうか?

プレイヤーAは常に全勝同士で対戦しているはずです。対してプレイヤーBは1戦目で負けたため、その後のラウンドは1敗同士で対戦しているはずです。
より強い対戦相手に勝利してきたプレイヤーAを上位にするべきです。
しかしMLPをCMPより先に見ると、プレイヤーBのほうが上位になってしまいます。
CMPを先に見ることで、プレイヤーAを上位にできます。
よってStep 2とStep 3は適切です。

結論

自分の順位を上にしたいと思うのであれば、引き分けよりも負けを選ぶのはやめましょう。

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