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バスルーム

*小説、甘め(R-15くらい)※苦手な方は閲覧ご注意下さい。



「月、そろそろ出るか?」


一日の中で、私がもっとも緊張する時間がやってくる。
それは、お風呂から上がったあとの時間。

いつも通り仕事を終えて家から帰ってきて、愛おしい彼が「おかえり」って迎えてくれて、その日あった出来事を話しながら一緒に夕食をとってそのままお風呂へって流れなんだけど‥。
他の人に言ったらちょっとおかしいんじゃない?とか、そこまでするの?って言われるかもしれないんだけど(だからあんまり言いたくないんだけど)、お風呂から上がったら、実は彼がタオルを持って脱衣所で待っているのです‥。

「も、もうちょっとあったまってからにする!」

この後に起こる出来事を思うと恥ずかしくて出たくないって気持ちからか、とっさにそんな言葉が口からこぼれた。

「そうか。でもあまり長く入ってるとのぼせるからそろそろ出なよ?」
「う、うん、分かってる!」

曇りガラスの向こうに感じる彼の気配に心臓が高鳴る。
私が出てくるまでそこから動かないというのが嫌でも分かると、私はますますお風呂から出るのを渋った。
ちょうど良い熱さのお湯をパシャッと肩にかけながら、いつからこんなことになったんだっけ?なんて、自分の記憶を辿っていくと私が幼い頃からの出来事になる。
彼は私が本当に小さい時から私のお世話をしてて、風邪引くからちゃんと拭きなさいって大きなバスタオルを持って私の髪を乾かしたり、服を着せてくれたりしていた。
あの頃は私もまだ幼児で、彼のことはお兄ちゃんとしてしか見てなかったから恥ずかしいなんて感情もなかったし、当たり前と思っていた。
だからこれは、それの延長上なのだろうか‥?
でも、私ももう、成人した大人のお姉さんになったし、あの頃に比べたら背も伸びたし、胸も出てきて幼児体形ではないし、一応女の子なので異性に体を見られるというのは恥ずかしいって思うわけです!
それに昔はお兄ちゃんと思ってたけど、今はもう歴とした恋人同士なんです!
恋人同士なら見られてもいいじゃんって思う人も居るかもしれないのですが、それとこれとは別なのです‥。
確かにもう何度も彼とは肌を重ねてる。
何度も見られてはいる。
けど、私にとっては一回一回がもう全然違うものに感じられて、慣れるどころかいつもいつもドキドキしてしまう。彼に見られてるって思うだけで体が熱くなって、彼がくれるぬくもりに応えるのが精一杯で、恥ずかしくて、もどかしくて。
自分自身からも色んな感情も出てくるし、何より一番参っちゃうのは、彼の眼差し。
愛おしそうに私を見つめる彼の瞳に、私はいつも逃げられなくなる。
好き、可愛い、愛してるって、何度も何度も彼は言う。けど、言葉よりも何よりも目が物語ってる。奥深い感情を持つ彼のその瞳に、私は一生ドキドキさせらっぱなしなのかもしれないって思うとさらに体が熱くなった。

「‥好き‥、だからなのかな‥?」

お風呂に入って物思いにふけるといつもこう。
結局何が原因なのか何が始まりなのか分かんなくなって、最後に心の真ん中に残るのは彼が好きって感情だけ。
心の奥から湧き上がってくる、好きって気持ちは私の胸を熱くすると同時にちくんちくんと痛みも連れてやってくる。私が愛に反応してる証拠。
胸にあるのはハートのチャクラで、愛に反応すると痛くなるのよって教えてくれたのは誰だったっけ‥。
痛みが酷い時もあったけど、今はちょっと心地いい。
彼と上手くいってるよって言われてるみたいで、ちょっと嬉しくもなる。
お風呂のお湯の温かさと胸から込み上げる温かさに気持ちよくなっていると、コンコンと曇りガラスが音を出した。

「月、だいぶ長いけど大丈夫か?全然物音しないからのぼせてるんじゃないのか?」

待っていられないと言うよりは、本気で心配してると言う彼の声が耳に届いた。
今すぐにでもガラスドアを開けてしまいそうな声。

「だ、大丈夫だよ!ちょっと考え事しちゃっただけ!」
「だと思った。もう十分あったまっただろうから、もう出よう?」
「う、うん‥」

さすがにこれ以上彼に心配かけるわけにもいかないか‥と思って、私は意を決して浴槽から出た。ザパッと水の音が聞こえて私が無事だって分かったからなのか、ドア越しでも彼がちょっと安心してるのがすぐ分かった。
私はそろっと少しだけドアを開けて、待ちくたびれたって顔してる彼を確認した。

「‥待った?」
「そんなに待ってないよ。ほら、早く出ておいで」

大きなバスタオルを広げて私を受け止める準備は万端ですって顔をする彼。

「‥どうしても出なきゃダメ?」

サッと出てしまえば、彼は私を受け止めてバスタオルで包んでくれると分かっていても、どうしてもこの瞬間は恥ずかしい!
そんな私の気持ちを知っている彼は優しく微笑む。

「出ないとそのままふやけるぞ?」
「ふ、ふやけたくはない‥」
「じゃあ早く出ておいで。体があったかいうちに服着ないと風邪ひくよ?」
「わ、分かってるけど‥」

恋人同士になってから毎晩、何度このやり取りをやってるだろうか。
さすがに飽きたりしないのかなって思うんだけど、当の本人は私が小さい頃よりも楽しそうに微笑んでる。

「ねぇ、月。月がお風呂に入ってからけっこう時間経ったよ?」
「‥う、うん‥」
「オレの腕の中に戻ってきてくれないの?もうそろそろ月のこと抱きしめないとオレが倒れちゃいそうなんだけど?」

真っ直ぐな彼のその言葉に胸が大きく高鳴る。
全然倒れちゃいそうな雰囲気などなく、ニコニコと微笑んでる彼。
私を出てこさせようとワザとそう言ってるんだって分かるのに、私を求めてる彼のその言葉がものすごく嬉しくて、ガラスドアを開けて彼の胸の中へ飛び込んだ。
私が出てきた瞬間に大きなバスタオルを私に包ませて、ポンポンと軽く水分を拭き取っていく彼。

「ふふ、ずいぶんあったまったね。抱きしめてるオレまであったかい」

やっと私が自分のもとに戻ってきて嬉しいのか、ご機嫌な彼。
お風呂に入ってるたった三十分か一時間くらいなのに、そんなに離れたくなかったのかな。タオル越しに感じる彼の手が、優しく私を包み込んで気持ちが良い。
小さい頃も大事に大事にしてくれた。けど今はさらに優しく、大切にしてくれてるって感じる。
彼がくれるぬくもりに心があったかくなってお礼言おうと少し離れようとしたら、彼は私をバスタオルに包んだままヒョイッと持ち上げた。

「ひゃっ、か、海くん!」

とっさのことにびっくりして彼にしがみつくと、彼はそのまま私の頬にキスをした。
何も言わずお風呂場をあとにすると、寝室に行きベッドに私を下ろした。

「お着替えね。」

ベットに用意されてた下着を私に着せていく彼。
下着くらいは自分で着けます!って前に申し出たんだけど見事に却下されて、今じゃもう恥ずかしさに耐えている感じ。
今もドキドキドキドキ心臓が鳴って落ち着かない。
特に何かされるわけではないんだけど、いちゃいちゃする時とは違って触れそうで触れられない距離感にもどかしさを感じてしまって‥って。
これじゃ何かして欲しいって期待してるみたいで恥ずかしい‥。
彼は最後に私にキャミソールを着せるとドライヤーを持って髪を乾かし始める。
温かい風が私の髪を踊らせる。彼の指が私の髪を撫でていく。毛先の一本一本まで愛おしそうに触れてくる彼の瞳には私が映っていた。
彼の瞳に映る自分を吸い込まれるように見つめていると、彼はドライヤーのスイッチを切ってそのままゆっくり私をベットに寝かせた。

「海くん‥?」

私が見つめるよりもさらに強く見つめてくる彼の目をそらせない。
彼はそのままゆっくり私に近づくと、こうなることが当たり前かのように唇を重ねた。
ゆっくり触れて、また少し離れてをくり返す甘いキス。
彼の唇が触れるたびに私の心臓が跳ねる。
互いの吐息が混ざり合って、お風呂に入った時とは違う熱さが体に灯る。
彼の唇から、私を想う気持ちが全身に伝わってくる。
軽く触れてのキスなのに、あまりにも甘くて、私は体の芯がとろけてしまった。

「‥オレが欲しくなった、って顔してる」

唇を離すとそうイジワルに言う彼。
くすっと笑うと、私の頬を撫でながら今度はおでこや頬にキスを落としていく。
下着しか身にまとってない私の上に覆い被さる彼の服が、私の肌に擦れる。
芯がとろけてしまった私には、小さな刺激さえ敏感に感じてしまう。
少しの事に感じてしまう自分が恥ずかしくて、なにもされてないよって自分に言い聞かせるように寝返りを打とうと彼を振り切ろうとしたら、今度は深くキスをされた。

「‥っ、んっ、っ」

彼の舌が絡みついて私を離さない。
ゆっくりゆっくり、私の奥まで味わおうとする彼の唇や舌に応えるのが精一杯。
どのくらい唇を重ねていただろう。くちゅっと音を立てて離れた彼と私の舌からは、糸がつたっていた。

「はぁっ‥、可愛い月‥。苦しかった?」
「っ‥、へいきっ‥」
「キスだけで、気持ちよくなっちゃった‥?」

私の頬を撫でながら、名残惜しそうに私の唇を見つめる彼。
気持ちよくなったのは彼も同じって、彼のとろけた表情を見れば分かる。
いつもそうなの、お風呂に入って服を着替えさせるところでお互いがお互いを欲してしまう。
いくら小さい頃からの習慣と言っても、私はもう体は大人で、彼を男の人として愛していて、さすがに愛する人にここまでされたらガマンは出来ない。
恋人に成り立ての頃はまだ彼はお兄ちゃんって気持ちが抜けなかったから、なかなかこうゆう気分になることは無かったんだけど‥。
彼は私が自然と欲するようにじっくり時間をかけて愛してくれた。
なんでもそう。彼は無理やり私を変えようとはしない。私の中にある種をゆっくりゆっくり育てて気づかせてくれる。こんな気持ちがあるよ。これは自然な事なんだよって、優しく優しく教えてくれる。
すっかり彼の愛に反応するようになってしまった私は、彼無しじゃ生きていけない。
それは彼も同じなようで、私を離す気は無いらしい。
何度も何度も優しい愛で包んで教えてくれた。だから、今、彼が何を考えているかも私には分かる。

「海くんも、私が欲しくなっちゃった‥?」
「うん‥もうずいぶん前から」
「いつ‥?」
「月が家に帰って来てからかな」
「‥もう、おバカ‥」

拍子抜けした答えが返ってきて呆れたけど、すぐ愛おしさが胸に灯った。
どうやら今日はこうするって彼の中で決まってたみたい。
私がお風呂に入ってた間、どうしようかなってずっと考えてたのかなって思ったらなんだか余計に愛おしくなってきた。
ずーっと恋しそうに見つめてくる彼の唇に私はキスを贈った。

「‥月」
「ねぇ海くん‥ギュッてして?体、冷えちゃった。今度は海くんにあっためてもらいたいな」

私もあなたが愛おしいって気持ちが伝わりますようにと、そう込めてもう一回彼にキスを贈る。
上手く伝わったのか彼は私のその言葉ごと私を抱きしめてさらに甘いキスをくれた。
息も忘れるくらいのキスと、甘い甘い愛撫をいっぱいくれて、何度も何度も愛を囁いて、彼と私の夜は更けていきました。


-fin-



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