歯抜けとタトゥーと私と #キナリ杯

カナダにきてから一年弱、周りを見渡すとどいつもこいつも身体にタトゥーが入っている。サラリーマンも主婦も、フワッと系女子もパンク系女子も、職場の同僚もなんなら、マネージャーまでもが入れ墨族。噂には聞いていたものの、、接客業なのにいいんですか?とか日本人的な感覚が中々ぬけない。

デザインも様々で、日本でイメージする夜の蝶や、ヤーさんのそれを指すTHE入れ墨、みたいなデザインは非常に少ない。とても可愛いのが多くて、ワンポイントのパイナップルとかアートっぽい一筆書きのお花だとか、本当に人それぞれである。和風の鯉の入れ墨だとかも一部のファンに根強い人気があるらしい。

実は私は高校生の頃からずーっとタトゥーに憧れていた。あむろちゃんにリアーナ、私の憧れのDIVA達はいつだっておしゃれなタトゥーを身にまとっていた。ただ、岡山の片田舎で公務員一家の長女として育ってきた私は、ビビり兼世間体を死ぬほど気にする女である。ちなみに田舎のネットワークを馬鹿にしたらいけない。中学校の時に髪の毛をすこーしだけ染めたときは地域のおばさんから私の母に”お宅の娘さんは地域の風紀を乱している”とクレームが入った。まあもう住んでないからいいんだけど。

まあ兎にも角にもその頃からのトラウマというかなんというかで、私は世間体を気にする。ノリでタトゥーなど入れた際にはカナダでワーホリ中にタトゥーを入れたアラサーの痛い女とか世の中から言われてしまう。ただ私のタトゥー欲はこの時点で既に三大欲求と共に私の中にくすぶり始めていた。四つ目の欲求爆誕である。

ということで、その当時の同僚アンジェラにこの話をすると、何とデザインしてやるよと言うではないか。アンジェラはアーティストでもあって、過去にタトゥーのデザインもしたことがあった。色んな意味を込めてデザインしてもらったけどここでは恥ずかしいので伏せておく。出来上がったデザインは三日後に送られてきた。自分で言うのもなんですがかわいい。さすがアンジェラ。この時点での本気度は5割くらいだったが、勢いでタトゥーを入れて死ぬほど後悔する夢を何度もみた。会社の健康診断で上司にばれてしまう夢とか。

ワーホリ生活も終盤に差し掛かったある週末、私は長距離バスで四時間かけて、12年ぶりに高校生の時にお世話になったホストファミリーを訪れた。当時一番仲の良かったホストシスターがバス停まで迎えに来てくれた。なんたって12年ぶりなのでわいらのマシンガントークは止まらなかった。そうこうしているとやはり出てくるタトゥーの話題。”そういえばこの間同僚にタトゥーデザインしてもらったんだよねーでも勇気が出なくて入れてないのー” ちなみにホストシスターも当然のことながら両腕首元にタトゥーが入っている。”え、デザインまで考えてるなら入れようや!私と再会したときに入れたとかめっちゃいい思い出になるやん” 

考えても考えても答えの出ないことに対して、基本的に私の思考回路はショート寸前、今すぐ会いたいの。じゃなくて、思考回路がショートする。そして5秒後、遠くを見つめていた私は決意を固めたように言い放った。”よし、やろうじゃないか。” かつてのオバマ大統領のあのスピーチ ”YES WE CAN!” ばりの力強さ。こんな瞬間も人生には必要である。(よい子はマネしないで)

ホストシスターが色々調べて電話してくれたがどこも空きがない。その状況になんだかんだ ”ふー” っと胸を撫で下ろしているところに、一軒だけ今すぐに来てくれたらやってくれるというスタジオを見つけた。どうする?とホストシスター。”え!今すぐ? え、 心の準備をいj;lkじょあえrg;あ、の、え、え、、、イエース。”(あ!イエス言うてもた!)その場の勢いで、よく考える間もなく、イエスしてしまい、その日にタトゥーを入れることになった。心臓ばくばくどんどんぱふぱふ

もうここからド緊張の私。どのくらい痛いのだろう。どこに入れるかも決めていない。でも確実に服を着たら見えないところ、胸からお尻までのどこかにしようと思っていた。しかし私調べ2018によると、やはり骨とか内臓に近い程痛くて、お尻とか二の腕とか比較的脂肪が厚いところだと痛くないらしい。気になっていた肋骨当たりは噂によると激痛。えええじゃあ肩?いや肩はあかんやろ、下っ腹?いやおかしいやろ、いっそ局部?いや叶姉妹かよ。結局何も決まらずタトゥースタジオに到着。

皆さんの想像するタトゥースタジオはどんな所だろうか?私のイメージでは、全身タトゥーの入ったまあ20代から40代くらいのちょっと鼻にピアスとかもあいてて、こだわりのありそうなアーティストが四人くらい働いていて、二席くらいはほかの人がタトゥー入れてる最中で、美容院みたいな場所を想像していた。勇気を振り絞って扉をあけたら、ピタピタのヒートテックみたいな服を着た白髪の老人に出迎えられた。しかもそいつところどころ歯がない。で、少し酔っぱらってる?みたいな雰囲気。当然私達の他には誰もいなく。一瞬ホストシスターと目があい、やばいやつか?とテレパシーを送ってみたが、ここまで来て引き返すわけにもいかず、しかもネットでの評価がとても高かったのでこの歯抜けに私のタトゥーを任せることにした。でも歯抜けは、日本でどれだけタトゥーがタブーか理解しており、どこに入れるかも一緒にたくさん考えてくれた。歯抜け曰く、やはり肋骨当たりが一番見えにくいしおすすめとのこと。ブラでちょうど隠れるくらいのやつ。しかも塗りつぶしのデザインでなければ肋骨でもそこまで痛くないらしい。それでもせめて心の臓から一番遠い右側にしてもらい、サイズを決め、位置を調整する。施術を行う上でブラは当然外さないといけないのだが、前張り的なものをつけた。歯抜けは僕、裸でも気にせんし前張り取ってくれてもいいよと力説してきたけど無視した。そして、施術台に横向きに寝る。緊張と恐怖が最高潮に達っする。そして歯抜けが口を開く ”リブは痛いから、今までに吐いたり、痛みで意識が無くなった人もいたから痛すぎたら言うて” いや、今言うてくれるな。何で今言うねん。さらに恐怖がバージョンアップされる。

ホストシスターが写真を撮ってくれていたが後から見ると恐怖で顔がかなり引きつっていた。そしてついに開始。ジーっという音とともに細いものが肋骨にあたる。あら?下書きですか?本当にボールペンで引っかかれてる程度の痛みだった。こんな痛みで私のタトゥー本当に一生残りますか?恐らく30分くらいで終わった。途中前張り的なものがペローンってなりかけてホストシスターが目を見開いて秒で駆け付け直してくれた。しかしまあこのおじさんきちんとしたアーティストだったようで、しっかりきれいに仕上げてくれた。時間も位置決めとか丸々合わせて一時間くらい。はがきサイズのタトゥーで120ドル。日本での値段は知らないが、かなりお手頃。

その後タトゥーの写真をホストシスターに撮ってもらって、ガーゼを当てて終わり。しかし駐車場に戻るとホストシスターが ”ここのラインが微妙につながっていない”と写真拡大して見せてくれた。私はすでにそれまでの緊張で疲労困憊超絶めんどくさい状態ではあったが、それこそ一生残るものなので、おっさんに直してもらうべく店に戻ろうとした。すると突然の豪雨、と思いきや超ビッグな雹(ひょう)が降り始めた。これは、まさかとは思ったが八百万の神々が怒っておられる。。。とりあえず、車のドアを開けダッシュで店内に戻る。おじさんはテレビを見ていた。予約埋まってるって言うてたのに。でも内容を伝えるとすぐに直してくれた。ちゃんとまた前張りした。

直してもらったところをダブルチェックして終了。ささっと直してくれたおじさんに別れを告げ、ホストシスターの家に戻った。私はとりあえずその日起こったこと、自分の体にタトゥーが入ったことが現実に思えず、なんだかナチュラルハイみたいな状態だった。翌日ホストママに入れたばかりのタトゥーを見せると、オーマイゴッドと言いながら目を点にしていた。

現在はタトゥーを入れて一年以上経つのだが、特に困ったこともなく、同僚にデザインしてもらってホストシスターと入れに行った思い出のタトゥーは私の大切な体の一部となっている。

カナダを離れた後、ロンドンの安宿で出会ったアメリカ人の男の子は左のふくらはぎに像のタトゥーを入れていた。意味を聞くと「最近入れたばっかりだけど三年前に癌で亡くなった妹の思い出に入れたよ。今まで妹を失ったことに対してずっと暗い気持ちでいたけど、悲しんでばかりではいられないと思って彼女を思ってタトゥーを入れたんだ」と明るい笑顔で教えてくれた。

誰に見せびらかす訳ではなく、思い出とともにこっそりとそこにあるタトゥーは今では自分だけの宝物だ。

ありがとよ歯抜け!!!



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