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好きなものを、好きなままで

個展まであと2週間を切ってしまった。
全然noteを書いている場合ではないのだけど、気持ちを落ち着かせるためにちょっと書く。

年末にペット・ショップ・ボーイズにハマってからというものの(前回記事参照)、それはそれはものすごいスピード感で果てのない深みにハマることになってしまい、そのヤバイ状態は今なお続いている。

昨日もAmazonでDVDを、メルカリで87年のポップギア(音楽誌)をポチってしまった。明日にはきっとベスト盤(Pop Art)の初回限定盤が届くはずだ…この話をしだすとキリがないのでやめておくけど、Apple MusicとメルカリとヤフオクとAmazonはオタクをかなり無敵にさせる。自分がブレーキの壊れた暴走列車になった気分で怖い。

実は個展をやるのは人生で2回目で、1回目というのは7年前、まだ大学1年生だった時なんだけど、その時もわたしは相当切羽詰まっていた。自宅のアパートの風呂場で石膏どり、部屋で絵を描き、ベランダでひたすらシリコン型にレジンを流し込んでいた。

そしてその時はわたしはものすごい勢いで、ハロー!プロジェクトにハマっていた。休憩するたびにライブ映像を見ていた。つんく節を効かせた彼女たちの歌声は、疲れた体にエナジードリンクのように沁み渡った。ハロプロの曲は、90~00年代のパワフルなギャル精神みたいなものが根底にあって、全員とにかく強そうで、エネルギーに満ち満ちており、それがとにかくわたしを元気付け励ました。

今ペット・ショップ・ボーイズを大音量で聞きながら作業していると、そんな1年生の時のことを思い出す。

個展が近くてヤバイといいつつ、オタク趣味を加速させ、あげく2月にはティーンエイジ・ファンクラブの、つい先日にはAPOGEEのライブに行ったりして、遊んでばっかりじゃないかと思われるかもしれない。

でも自分が頑張らないといけない踏ん張りどころだからこそ、好きなものを大事にしたい。好きなものを思う存分摂取したい。


…………………


入学してまだ2ヶ月くらいのころ、わたしが学生として取手校地にいた時のことだ。
初めての石彫実習で、彫刻科の1年生は小松石という石を彫るのだが、これが結構硬い。しかも、実習で使える道具は鑿と石頭などの手道具だけ。グラインダーなどの工具は使わせてもらえない。

限られた日数で、その条件下で彫れる形はかなり制限される。わたしが最初に持っていったプランは「この実習では作れない」と却下されてしまった。

別のプランを考えなければ次に進めないのに、考えれば考えるほど何を作ったらいいかわからなくなった。とりあえず描いたプランを助手さんのところへ持っていったら「これ、本当に彫りたい形じゃないでしょ」とバッサリ言われた。

その通りだった。
「本当に作りたいと思ったものを作った方がいい」と言う助手さんに、思わず「何を作ればいいのかわからない」とこぼしてしまった。

そんなことを言ってしまった自分が情けなかった。自分の作りたいものを自由に作るために、藝大に入ったのに、毎日石膏像と向き合う単調な日々からやっと脱して、いざ自由に作っていいよと言われたら何も出てこないなんて。こんな馬鹿な話が、情けない話があるもんか。

でもわからなかった。自分が何を作りたいかなんて、さっぱりわからなかった。
情けない顔をしてうつむく私に助手さんはこう聞いた。

「諸岡はさ、何が好きなの?」

呆然とする私に続けて言う。

「例えば映画見るのが好きとか、バイク乗るのが好きとか、犬が好きとか、なんでもいいけどさ。藝大に入るとさ、なぜかみんな自分の好きなものと作品とは分けなきゃいけないって思うんだよ。でも別に分ける必要なんてないし、好きなものと作品が一緒でいいんだよ。何が好きなの?」

私は困惑しながら、非常に情けない声で(こんなことを言っても恥ずかしくないだろうか、と半ば心配しながら)ポツリと言った

「音楽を聴くのが好きです」

お、いいじゃん、何聴くの、と聞かれて

プライマル・スクリームとか…ブラーとか、90年代の曲が好きで、あぁでも…ウルフルズも、好きで、

言いながら、こんなことを言って恥ずかしくないだろうか、イタイやつだと思われやしないだろうか、とドキドキしながら自信なさげにポツポツと話す私に助手さんは笑ってこう言った。

「いいじゃん!じゃあもう今日は作品のこと考えるのやめな!そんで、家帰って自分の好きな音楽聴きながら酒飲んで踊りな!!」

その、あまりにも天晴れであっけらかんとした答えに私も思わず笑ってしまった。そして、あぁそうか、自分の好きなものに自信を持っていいんだ、と嬉しくなった。

その日の帰り、わたしは素直に言われた通りにビールを買って帰った。そして家に帰って一人でビールを飲みながら、好きな音楽を次から次へと、思う存分かけて踊った(本当に踊った)

別にそれで作品がひらめくわけはない。ひらめくわけはないんだけど、それはその時のわたしにとって必要なことだったのだ。

そしてたぶん、そうして聞いてきた音楽は積み重なって、わたしを形作っているし、直接的に作品と関係はなくてもわたしを支えてくれている。


…………………


それから少し経って、3年生くらいのときだったと思う。自分の先生と音楽の話をしていた時に、スマッシング・パンプキンズの「メロンコリーそして終りのない悲しみ」というアルバムの話になった。二枚組の大作で、真夜中に一人で聴きたくなるタイプのアルバムだ。

先生はこう言っていた。

「俺はあれを聞いた時、やられたと思ったよ。あれを聞いて、俺もこんな彫刻が作りたいと思った。」

酒の席で言っていたことをこんなところに書いて怒られるかもしれないが、その時のことがすごく印象に残っている。

その頃わたしは、1年生の時に助手さんに「自分の好きなものと作品と分けなくていいんだよ」と言われたのをもう忘れて、「自分の好きな音楽を聴くのも調べるのも好きだけど、わたしはそれによって美術から逃げているのかも」などと悩んでいた時だったから。

先生のその言葉を聞いて、あぁ、音楽を聴いて「こんな彫刻が作りたい」って思っていいんだな、って、気持ちが楽になったのを覚えている。

好きなものを好きなままでいること。それは多分、わたしが作品を作り続けていくために大事なこと。

だから今日も今日とて展示が近くてやばいというのに自分の好きな音楽を漁っている…ということへの長い長い言い訳なのでした。ラストスパート、がんばりまーす。

(ちなみにヘッダー画像はティーンエイジ・ファンクラブのライブに行った時のもの。前にnoteにも書いた、アルコホリデイが聴けて嬉しかった。「季節と音楽(11月のよく晴れた日に)」


【ご案内】個展、3月18日からです。
ペット・ショップ・ボーイズを聴きながら作ったとはあまり思えない感じの作品ばっかりですけど、ご興味ありましたらば、ぜひご覧いただければ幸いです。

諸岡亜侑未 / Where am l ? 

2019.3.18(mon)~3.23(sat)
11:00~18:30(最終日17時まで)

ギャラリーなつか
東京都中央区京橋3-4-2 フォーチュンビル 1F

https://moro-oka.jimdo.com/news/

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