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超ひも理論と高次元時空

「現代物理の自然観」に書いた文章を転載します。

 

「超ひも理論」は、量子重力理論であり、万物理論の候補理論です。

その先駆の「ひも理論」は26次元時空を指定し、「超ひも理論」は10次元時空を指定する理論であり、来たるべき理論とされる「M理論」は11次元理論と想定されます。

これらの理論は、時空に4次元以上の余剰次元を持ちます。

このページでは、これらの理論を余剰次元に関わる部分を焦点にして紹介します。

参考とした書は、下記です。

・「ワープする宇宙」リサ・ランドール(NHK出版、原書は2005年)
・「宇宙のランドスケープ」レオナルド・サスキンド(日経BP社、原書は2006年)
・「見えざる宇宙のかたち」シン=トゥン・ヤウ、スティーヴ・ネイディス(岩波書店、原書は2010年)
・「超ひも理論とは何か」竹内薫(ブルーバックス、2004年)
・「はじめての〈超ひも理論〉」川合光(講談社現代新書、2005年)
・「大栗先制の超弦理論入門」大栗博司(ブルーバックス、2013年)


余剰次元


物理のほとんどの基本的な方程式は、次元の数を指定していません。

また、大きな時間次元が2つ以上あると矛盾が生じるので、時間次元は1つと考えられます。

だたし、小さくコンパクト化された時間次元なら、複数あっても矛盾はありません。

1919年、数学者のテオドール・カルツァが、相対性理論と電磁気学を5次元で統合できるのではないかというアイディアを提案しました。

アインシュタインもこのアイディアには好意的でしたが、この試みは成功しませんでした。

1926年、オスカー・クラインが、この「余剰次元」はプランク長の微小な円状に巻き込まれているかもしれないという考え方を提案しました。

カルツァとクラインによれば、2つの粒子が「余剰次元」の方向に動くと重力が変わります。

そして、2つの電荷を持った粒子が、コンパクト化された空間のまわりを同じ方向に回ると反発しあい、反対方向に回ると引き合います。


ひも理論


ニュートン力学や電磁気学では、粒子を0次元の点と考えて計算します。

ですが、一般相対性理論に量子力学の計算方法を当てはめて重力を計算すると、解が無限大になってしまい、繰り込み理論によってもこの問題が解決されませんでした。

「ひも理論」は、粒子を1次元のひも(弦)の振動として扱うことでこの問題を解決できるのではないかという期待の持てる理論として登場し、やがてそれが証明されました。

1960年代に、南部陽一郎、レオナルド・サスキンドらが、ハドロンをひもと見なしたのがひも理論の始まりです。

「ひも理論」は、26次元を指定する理論でした。
光子の質量がゼロになるのは、25次元空間だけだったのです。

ですが、質量が虚数になる粒子タキオンが必要で、真空が安定しないという問題がありました。


超ひも理論


「超ひも理論」は、ボゾンだけでなくフェルミオンもひもの振動として見なせるように拡張された理論です。

これは、ボゾンとフェルミオンを統合した「超対称性」を持った理論です。

「超対称性」は、グラスマン数を座標に使う「超空間」の回転対称性を持ちます。

1974年には、米谷民明、ジョン・シュワルツ、シェルクが、「閉じたひも」が重力を伝えると見なせることを発見しました。

そして、「超ひも理論」が万物理論になりうるという期待が生まれました。

「超ひも理論」は、9次元空間を指定する理論です。

1984年、エドワード・ウィッテンが、カラビ-ヤウ空間という6次元空間を使って、余剰次元をコンパクト化して安定した3次元空間が得られることを証明しました。

また、これによって標準模型のクォークの世代が3となる理由も導けました。

6次元の「カラビ-ヤウ空間」がコンパクトされているというのは、4次元時空のどこにいても、プランク・スケールほどのコンパクトな6次元空間がくっついているということです。

そして、ひもは、3次元空間の方向以外に、隠れた6次元方向にも振動を持っています。

ですから、ひもは、ひもの方向を除く8次元の方向で振動することになります。

「カラビ=ヤウ多様体」は、トーラスのように穴を複数持ちます。

トーラスの大きさと形を決定するパラメーターをモジュライと呼びますが、「カラビ=ヤウ空間」には何百ものモジュライがあり、何種類のカラビ=ヤウ多様体が存在するかは分かっていません。

それぞれの「カラビ=ヤウ多様体」が、「超ひも理論」の方程式の異なる解になっています。

超ひも理論の解には、「カラビ=ヤウ多様体」以外にも、「非ケーラー多様体」など「カラビ=ヤウ多様体」を変形させることで導かれるものも存在します。

コンパクト化された6次元多様体の種類が異なると、物理法則も異なってきます。

コンパクト化された6次元多様体にいくつかの穴が開いていると、ひもをその様々な穴に1回、もしくは複数回巻きつけることができます。

この巻きつける余剰次元の半径が小さいほどひもの張力は大きくなり、エネルギーも大きくなります。

ひも理論ではエネルギーには、運動量と巻数の2種類がありますが、運動量と巻数にはT対称性があって、空間の長さがRでも1/Rでも同じになります。

ですから、ある理論で無限サイズの次元を想定すると、それとT双対性をなす理論では、その次元のサイズがゼロになるので、次元が1次元少ない理論となります。

これは、空間次元や空間が本質的な要素ではないことを示唆します。


M理論


超ひも理論には5種類の理論が見つかっていました。

ですが、1985年、大阪大学の吉川圭二らが、その中の2種類の超ひも理論がT-双対性を持っていて、同じものと見なせることを発見しました。

あた、1987年、ポール・タウンゼントが、「11次元超重力理論(空間次元は10)」のブラックホールの基本的な解として、2次元の「膜(メンブレーン)」があることを発見しました。

そして、これが素粒子の基本的な単位ではないかと考えました。

また、超ひも理論の複数次元(p次元)の解として存在する物体を「p-ブレーン」と名付け、それらを重視すべきであると提唱しました。

そして、マイケル・ダフ、稲見武夫らが、10次元空間にある膜の1つの次元がコンパクト化されると、9次元空間のひもになることを示しました。

これらを受けて、1995年、エドワード・ウィッテンは、5つの超ひも理論が双対性でつながっていて、それらのある種の極限が「11次元超重力理論」になることを示しました。

そして、5つの「10次元の超ひも理論」を包括する一つの「11次元M理論」の存在を提唱しました。

それぞれの理論は、カラビ=ヤウ多様体のモジュライが連続的に変化することでつながるのです。

「M理論」は、2ブレーンを基本とし、5ブレーンや重力子がありますが、ひもはなく、コンパクト化した時に生まれます。

タイプIIaひも理論には、偶数次元のブレーンがあり、タイプIIbひも理論には、奇数次元のブレーンがあります。

コンパクト化された6次元空間には、2から6次元までのブレーンを様々に巻きつけることができます。

そして、我々の3次元空間は3-ブレーンであり、そこには0から2次元のブレーンが存在します。


Dブレーン


1995年、ポルチンスキーが、「開いたひも」の端点が存在し、その境界となるようなブレーンである「Dブレーン」を発見しました。

「開いたひも」の端は、常に「Dブレーン」上にあります。

「Dブレーン」は「閉じたひも」からなるエネルギーの塊で、基底状態(真空)からエネルギーが持ち上がった状態だと言えます。

「Dブレーン」は張力を持ち、エネルギー、電荷を持ちます。

また、すべてのブレーンはその反ブレーンを持っています。


ブラックホール


超ひも理論のブラックホール解には、複数の複数次元の解があります。

これはp-ブレーンであり、p次元に広がったブラックホールです。

通常のブラックホールは点(0次元)にコンパクト化されたブレーンです。

ブラックホールの表面には、「開いた弦」が張り付いていますが、これはブラックホールは外部しか見ることができないからです。

ブラックホールの3次元の内部で起きていることは、その2次元の表面だけで分かります。

この表面には重力(閉じた弦)が働いていません。

フォン・マルダセナは、重力なしの3次元空間の場の量子論と、重力のある9次元空間の超ひも理論が対応することを数学的に証明しました。

つまり、6次元の空間は、3次元空間の場の量子論の計算から現れる二次的な概念と考えることができます。

これは、2次元空間と3次元空間に置き換えることができ、「重力のホログラフィー原理」と呼ばれます。

このことは、空間次元や空間が、本質的な要素ではないことを示唆します。


バルクとブレーン宇宙論


10次元時空の全体を「バルク」と呼びます。

その中にブレーンが存在します。

バルクのp次元の境界になっているのがpブレーンです。

「ブレーン宇宙論」では、我々の宇宙もこのようなブレーンの一つとされます。

普通、放出された「閉じたひも(重力子)」は、空間へ飛散しブレーンには戻らず、エネルギーが失われます。

これが、重力が他の3つの力に比べて極端に弱い理由ではないかと推測されています。

「閉じたひも」である重力子がブレーン間を行き来するのが、暗黒物質ではないかとする説があります。

また、2つのブレーン世界をつないでいる重力のバネのような存在がダークエネルギーではないかという説もあります。

ホジャヴァ-ウィッテン・ブレーンワールド説では、2枚のブレーンが存在して、我々のブレーンとは異なるブレーンに、現在見つかっていない超対称性粒子が存在すると考えます。

また、高次元バルク粒子でありながら、4次元時空で見える粒子(カルツァ-クライン粒子)が見つかれば、そこから余剰次元の幾何が推定できます。

その余剰次元の運動量は、4次元世界においては質量として現れます。



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