おにぎりと泡と涎と痙攣

「こいつはな、凍った冷凍パスタで人を殺したことがあるんだ」

 助手席でバインダーに挟まれた『目標』の情報を確認している俺に運転席にいるDが言ってきた。車はエンジンを止めて待機中。
 俺が読んでいるこの紙の束一枚一枚にあるDの仕入れた情報は経歴以外役に立たない文字の羅列のみだ。
 しかし逸話はそんなカスの山よりいくらか役立つ情報だった。食い物を粗末にする輩と聞くと沸々と殺意が込み上がった。俺の顔にはその感情が表に出ているだろう。
 米の一粒残した取引相手を半殺しにしたこともある俺の今の感情を無視し、油断するなと言えば済むことをダラダラ能書き垂れながら、Dが先輩ヅラを吹かしていたその時。運転席側の窓を外から叩かれる。
 Dはその男の訪ねに応えるためパワーウィンドウを下げる。

「勘違いならいいんですが、俺を狙うのはやめておけ」

 こいつ『目標』じゃねえか。応戦の動きを取ろうとした俺に『目標』の発砲を数発喰らう。胴体へ見事命中。防弾チョッキを着ていたお陰で車のシート上で痛みに悶える程度で済んだ。
 Dはというと『目標』に腕を掴まれ車の窓の縁を利用し、肘を支点に腕を折られる。俺への銃撃のついでに。
 呻き声を出して悶える俺たち二人。Dは頭を掴まれ外に引き摺り出される。

「おにぎりは好きか?」

 奴は自分の買ってきた昼飯をレジ袋ごとDの口に詰め込み顔面へ殴打する。詰め込むのが石だったら俺もやったことある手法だ。
 『目標』はDの顔面に糞を踏み潰すかのようにトドメを刺す。何も出来ず倒れこむ俺たち二人を脇目に見ず歩き去る『目標』。
 車のドアを開けて匍匐前進めいてDの側に向かう俺。
 死ぬ直前の全身の痙攣が治まり、息の途絶えたDの側にたどり着いた俺は怒りを抱えて見つめる。
 Dの口から溢れている彼の涎と泡混じりの白米の粒や漬物の有り様を。

「食い物を粗末にしたらどうなるか、分からせないとな」
【続く】

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