森見登美彦氏とわたし【聖地に住む編】きつねのはなしの巻

遠距離恋愛をするには、東京と京都では遠すぎた。
そこで私は、会社を辞めて京都のパートナー宅へ転がり込んだのである。

左京区に住むパートナー宅から、一乗寺界隈へは頻繁に足を運んだ。
オモチロイ書籍を取り揃えた書店があったからだ。
いろいろ買ったけれど、建設中のダムや橋梁の写真集なんてマニアックなものが一番「買って良かった」と思っている。
たびたび書店で開催される文芸フリマイベントも好きだった。いつか出店しようと思いながら、それは叶わなかった。
今住んでいる金沢で、いつか実現します。

一乗寺界隈といえば、ラーメンの激戦地としても有名だ。
壮大なタイトルがついたガッツリ系ラーメン、
どろどろ過ぎてレンゲが立つラーメン、
夕日がキラメク魅惑のラーメンなど、様々。
東京三田を発祥とするガッツリ系ラーメンもよく食べた。
パートナーとの想い出が極めて強いのは、唐揚げが美味しい有名中華そば店。
ティッシュケースが変な形過ぎて、その話で一週間。


さて、パートナー宅へ転がり込んだ私は、自分の部屋を借りようとした。
いろんな人に頼んだり謝ったりして借りた部屋は西陣にあった。
とはいえ、基本的にはパートナー宅に入り浸っていたけれど、それなりに往復もしていた。
荒神橋を御所方面に渡って自宅への帰路を進んでいたとある夜のこと。
嫌な風が吹いていたのを覚えている。
ああいう夜は、決まって何かが起こるのだ。
濃くて重い雲が空を覆い、どこかから雷鳴が聞こえた。
今にも降り出しそうな暗い道を、私はホームセンターで買ったばかりのミニベロサイクルで走っていた。
なぜか、買いたてのライトが消えたのだ。
おかしいなと思いながら一度止まり、スイッチをオン・オフしてみるも、点かなかった。
不良品を掴まされたかと憤っていると、目の前を何かが横切った。
野良猫か、そう思ったものの、嫌に胴が長かったように感じる。
音を立てながら生け垣へ入っていったそれを追ってみた。
一瞬だけ振り返ったそいつは、なんだか人間味のある顔をしていた。
まるで、私のような。

次回、『森見登美彦氏とわたし【聖地に住む編】〈新釈〉走れメロスの巻』

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