素粒子物理学を字幕付きで学ぼう!

専門的な分野の講演に字幕を付けようと思うところから、実現するまでを書いてみました。今回の専門分野は素粒子物理学。お話されるのは、ノーベル物理学の梶田隆章先生。字幕がつくと、専門分野も より しっかりじっくり分かるものなのです!

0.始めに

「音声認識を使って、字幕を出す」技術そのものは民生製品にありますが、この字幕をどのように活用するか?とか、どういう仕組みにしたら、訂正が確実かつ手早くできるのか?などが私の研究課題の1つです。

この度、素粒子物理学の分野でご活躍されておられる梶田先生にご講演いただくにあたり、字幕を付けられる機会を頂いたのでいろいろトライアルしながら字幕をつけました。その時の話を公開します。

1.背景

静岡県内で一番大きい天体望遠鏡がある「ディスカバリーパーク焼津」。ここができて、20年になります。

この度、この20年を記念して、「重力波」、「ニュートリノ」の研究で
ノーベル物理学賞を受賞された、梶田隆章先生が講演される事になりました。

「地元に必要とされる大学」を目指す静岡福祉大学が焼津にありますが、
学長、太田晴康先生が「字幕、つけてみたらおもしろいんじゃない?」と
呟かれたことから、大学が後援につき、このプロジェクトは始まります。

2.字幕の必要性

「重力波」や「カミオカンデ」といった天文学や物理学の用語は、その分野を少しでもかじった人でなければ、難しいものです。

特に、カミオカンデの話では、中に設置された光センサーである「光電子増倍管(こうでんしぞうばいかん)」という言葉が必ず出てきます。

初めて聞く人には 漢字で出されたほうがニュアンスが良く分かります。

もちろん、高齢や障害によって聴覚に自信のない方も聞きに来られます。ですので、ユニバーサル対応という事で字幕を付けることにしました。

3.どんな出し方をしようか?

ディスカバリーパーク焼津といえば、プラネタリウム業界で有名ですね。そうです、あの字幕を併用したプラネタリウムで有名な科学館です。

なので、字幕を出すことに関しては 館長からスタッフまで、かなり理解をしてくださっています。

では、どうやって見せたら、エンタテイメントとして有効だろうか?色んなプランを検討しました。

エンタテイメント感(ライブ感)をしっかり共有したいので、今回も音声認識システムとしてUDトーク®を採用することにしました。そして正しく内容を伝えるため、文章訂正には 静岡福祉大学で研究している支援ソフト「まあちゃん2017」を使う事にしました。

プラネタリウムスクリーンは360°あるので自由に使えるものの、実際に講演をストレスなく見ようと思うと、制約がでてきます。

プラネタリウムのスイートスポット(一番良く見える仰角)は、およそ50°あたり、と言われています。

施設のプロジェクターも、そのあたりに出るよう設置されています。なので、先生の資料は、ここに投影されるようになります。

ん?ちょっと待てよ? この仰角で資料だすと、先生の顔が全然みえないんじゃないか?

館長やスタッフは、ここで 色々考えます。
「そうだ、スクリーンをもっと使ってみたらどう?」

そこで、スクリーンが広いことをうまく活用して、話をされている先生の映像をカメラで撮って投影し、その横に字幕を載せることで、すべてが視認できる様にすることにしました。

4.構成

今回は、このような構成にしました。プラネタリウムスクリーンを最大限活用するため、プロジェクターは3台稼働するというリッチ構成です。

誤字訂正は、静岡福祉大学の学生4名にお願いすることにしました。

補聴器利用ユーザーがいるという事で、ヒアリングループも設置し、補聴援助環境も整え、講演に集中できる環境にしました。

5.準備

今回、教育的な観点もあり、少し多めに学生に入ってもらいました。学生には、あらかじめ まあちゃん2017をインストールしてもらい、Youtubeで梶田先生の講演をみて 少し素粒子物理学に触れておくよう話をしておきました。

訂正に従事した補助教員は、youtubeのほかに、大学図書館で日経サイエンスを読むなどして、素粒子物理学の単語に触れる準備もしました。

これが、単語登録した辞書の一部です。認識しづらい言葉を Youtube動画などからピックアップし、110単語程度を厳選して登録してあります。

科学の講演では 導入部分や研究過程部分は省けない部分が多いので、
過去の講演内容で認識しない言葉は必ず必要だろう、ということで
あらかじめ登録しておきました。

もちろん、最近の動向に関しては、科学雑誌などをみて登録しておきます。

チーム名や設備、団体、個人名などは登録しないと正しく出ないことが多いので、登録しておくと訂正が少なくて済みます。(KAGRAプロジェクト、とか、KamLANDとか)

訂正には、まあちゃん2017を使いました。まあちゃんは カスタマイズが豊富な分、最初の準備が少しわかりづらいのである程度設定済みの「設定ライブラリー」が用意されています。

今回は、学生にはこの設定を用いて簡易セットアップを行い、実践してもらいました。

当日参加する学生には、事前にインストールから訂正練習を30分程度行い、あとは各自自習、という形をとりました。

実際には 人にもよりますが 2~3回 自己練習した感じでしょうか。
機械や操作に慣れる事と、素粒子物理学の単語に慣れる事が目的の練習です。

こういう指示を出したうえで、当日を迎えました。

6.当日~講演

当日は しっかりと晴れて 良い講演日和。

海の真横にあるディスカバリーパーク焼津は、ちょっと風が強くて寒かったけど、周りに光るものがすくないから天文台での観測としては良い位置なのかもしれません。

梶田先生の著書を見て頂くコーナーも用意し・・・

受付の準備もできました!

直前のリハーサルも終えて、いざ本番!

講演が始まるまでの間は、英語付きで字幕をつけました。どちらかといえば、「こういう事もできるよ」という部分のPRに近かったかとおもいます。

写真は、静岡福祉大学の教員で、梶田先生と共にカミオカンデで研究をされていた”岡澤教授”が、梶田先生のプロフィールや研究時の思い出をお話している所です。

今回の参加者に英語が必要な方は居なさそうだ、との情報が運営スタッフから届きました。

館長の想いとしては「より梶田先生の話が伝わるように」とのことから、講演中は英語表示を切って、日本語表示のエリアを大きく取ることで参加者自身のペースで話を理解できる環境を実現しました。

椅子を倒して資料を読みながら、字幕をみて、先生の顔を見て…というのが
プラネタリウムスクリーンの上で実現できるようになりました。

実際の訂正者は、後部で全体を見渡しながら実施しました。一番手前の岡澤教授が、専門用語訂正のアドバイスをしています。

こうしたフォロー体制で 字幕の品質を保てるようにしています。

7.感想

実際に、専門用語も多かったこともあり、

「これは手で全て打っていると 間に合わないよね」
「要約されちゃうと、ニュアンスが伝わりにくいよね」
「文章を読み返しながら理解が進められた」
「ライブ感、しっかり伝わってきた」

などの肯定的な意見を帰り際に頂きました。逆に、

「訂正が確定するまでの時間が長いと気になる」
「誤字、もう少し少ないと もっといいな」

などの改善意見も頂いております。改善点は、まあちゃんの改良や辞書の精査でレベルアップできますし、おおむね、高評価、といったところでしょうか。

8.最後に

字幕を付けることで みんなが一体感もってライブ感を体感し、しかも 音声と文字を併用することで理解が進みます。

こういう環境が 手軽に用意できるようになりました。今後も 皆さんと一緒にこのようなトライをしていきたいと思います。

ちなみに、静岡福祉大学とディスカバリーパーク焼津からも当日のレポートが公表されました。


9.謝辞等

字幕付与に関し、寛大な対応をしてくださいました、ディスカバリーパーク焼津の皆様ありがとうございました。

レポート公開や字幕が付くことに関しても理解を示してくださった 梶田先生、ありがとうございます。

字幕付与に関し、当日のオペレーションをご担当いただいた静岡福祉大学の学生、教員の皆様ありがとうございました。

※本まとめに関しては、1担当教員の所感でまとめており、静岡福祉大学およびディスカバリーパーク焼津の公式見解・発言ではありません。予めご了承ください。

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※2/8:誤記を修正しました

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Mori Naoyuki

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