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能に字幕をつける

1.エンターテインメントと字幕の融合

エンターテインメントにも種類がたくさんありますが、
映画に字幕、といえばかなり一般的になってきました。

では、その場で演じるものに関してはどうだろう?と考えると
まだまだ一般的ではありません。

それは、その場で演じるものは「生き物」だから、
かなり念密に準備をしないと提供が難しいのです。

だから、なかなか手を出しづらい。
しかし、そこにあえて手を出している方もいます。

例えば、シアター・アクセシビリティ・ネットワーク(TA-net)
この団体は、能に字幕を付ける実践を続けています。


2.字幕を付けるまで

字幕を付けるまでには、演者さんや会場の方にご理解を頂き
協力を得るところから始まります。


例えば東京の増上寺で行われている薪能では、
TA-netの担当者と増上寺の関係者、梅若万佐晴師をはじめとする
能の関係者が相互理解のもと、字幕付与が実現しています。


付与するための字幕は、NPO法人である
メディア・アクセス・サポートセンター(MASC)が展開している
字幕データ作成支援ソフトウェア「おこ助」で作ります。

このデータを静岡福祉大学の情報保障支援ソフトである
まあちゃんに読み込ませて、表示タイミングを指示することで、
Shamrock Records,incの音声認識アプリUDトークや、
MASCの字幕鑑賞システム「おと見」といったアプリケーションで
表示させることができます。

・どのタイミングで何を表示するか?
・ルビをつけるか、つけないか?
・解説をいれるか?いれるならどういう内容で?
・切り替わりまでの時間と文字数は適切か?
・色や記号をつけるか?
・その文章で伝わるか…?
など、様々なことを考えながら作りこみます。

3.当日の設営

当日はこんな感じの構成になっています。


会場の客席端末は、薪能の演者や周りの観客にも配慮して
画面の光量を極力絞ってあります。

また、エプソンのメガネ型ディスプレイ(HMD)モベリオをつかって
端末を持たなくても字幕が見える仕組みも同時に運用しています。

(モベリオのアプリストアにはUDトークと繋いで
 字幕を出すためのアプリが公開されています)


これは準備中のHMDをうつした画面ですが、
日中でもこれぐらいの感じで字幕を見ることができます。

実際にみる iPadやiPhoneは重たいと感じる方もいるので、
椅子の上に置いたりする運用もしていたりします。

iPadで見る場合は文字が大きく見えますので、
視力や視野に不安がある方にも字幕をお楽しみいただけます。

2017年にiOS11が出てからは、ARを扱うソフトウェアも出てきました。
例えば、UDトークAR。こんな感じで iPadを通してみることができます。

カメラを通してみますので、文字と映像を一緒見ることもできますし、
視力が悪くても、演者をしっかり見られるメリットもあります。

4.特別なものは一切不要

システム的には、一般的に公開されているものを用いて
字幕提供ができるようになりました。

ということは、そのシステムをつかって
「何を提供すれば、素晴らしい体験ができるのか?」に
注力できる環境が整った、とも言えます。

このような字幕提供をしたい現場というのは
能に限らず、音楽や演劇、身近なところでは学芸会まで
幅広いんじゃないでしょうか。

もう既に誰でも試すことができる環境になっています。
ぜひこの環境をベースにして、本当にやりたいことに
時間を使ってみてはいかがでしょうか?


開発したり研究したりするのに時間と費用がとてもかかるので、頂いたお気持ちはその費用に補填させていただきます。