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そのあとの おはなし

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女の子は
すっかり 女性 となりました。

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偉い かしこい 社長さんのもとから飛びだし
彼女を育ててくれたひとたちのもとから飛びだし
彼女は この数年のあいだ ひとり 旅に出かけました。

一等車に乗り 一等の宿に身をやすめ
そんな贅沢な生活からは すっかりと縁とおくなりました。

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陶器の貯金ばこ にコツコツと貯めこんでおいた コインも
2年まえには ずっしり と
それは彼女をしばし安心させてくれるだけの 重みが あったものの

あっという間に すっかり 乾いた 寂しい 音 になっていきました。
それは彼女を 心底 不安にさせました。

彼女は2年まえ
サンティアゴ巡礼の道を ひとり 歩きつづけました。

はじめのころは仲間がいました。
でも彼女はひとりが好きでした。

歌いたいときに 歌いたい歌を 歌って
頭に降ってきた想像を そこで絵に描きおこして
気にいった木を見つけたら そこでお昼寝をして
壮大な自然に心を震わせて わっと 大泣きをしました。

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スペインという 異国の地を
そこは世界の言葉が通じないところ
だまされたり 助けられたり たくさんの 驚きが 彼女にやってきました。

ある おばあさんは彼女をみて いいました。
「あんたまあ ひとり おんなで 巡礼なんて あぶないあぶない やめなさい」

ある オランダという国で 仏教という むずかしい考え方を 大学で教えているという 偉いおじいさんは彼女をみて いいました。
「あんたは なんでまた ひとりで え? 歩いているんだい? え?」
おじいさんは 足が壊れているというのに 巡礼をつづける理由を 彼女をふくめた たくさんの巡礼者に 説明しました。
彼女はそのおじいさんを見ると 昔 本で読んだ 魔法使いを思い出し きっと本当は魔法使いなんだろうと思いました。

ある 面倒見のよさそうな 気品のある おばさんは彼女をみて いいました。
「あんた 足を痛めているじゃないか!
 Castro Urdiales まで車に乗せてやるから となりに座りなさい」

ある 宿番の 褐色肌の おにいさんは彼女をみて いいました。
「巡礼は むりに つづけるものでは ないんだよ SATOKO
 足が ずいぶんと 悪そうだね がんばりすぎないでね」

ある ポルトガルの宿主の おばあさんは彼女をみて いいました。
「あんた 絵 描いているのかい
 良い絵を 描くねえ わたしはお前の絵が 好きだ」
彼女は一所懸命 描いた絵を褒められて とてもいい気持ちになりました。

ある アイルランドの ケルト語が話せて ケルトのアイデンティティを大切にする おじいさんは彼女をみて いいました。
「きみは きみの頭に浮かんだ絵を描く
 俺は あるものを真似して タイルで絵を描く
 きみは アーティストだ」
彼女はアーティストがなにか よく分かりませんでした。

ある チェコの夫婦は 巡礼中 彼女を優しく 見守ってくれました。

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それを必死で 求めるものには その道が 自然と ひらかれいく。

彼女は巡礼の旅をとおして そう実感しました。

旅のあいだ 大切なものが盗まれてしまわないか
道に迷ってしまわないか だまされたりしないだろうか
たくさんの 危険と不安と 旅をしました。

でも 気持ちに素直に みたものに感動する時間に 心臓が やがて みずみずしく 美しく楽しい音 リズムを 刻むようになりました。


わたし 生きているんだ!


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異国の地で 彼女は 彼女の本音を たくさんのひとに 尋ねられました。

そして 彼女は どこにいても だれといても 彼女は彼女である ということを感じました。

彼女は スペインの大自然をひとりで歩きながら たくさんのものとひとに出会いました。

そして 彼女は 自然に人間や 人間の創造物が 調和していくもの 考えかたが好きだと気づきました。

彼女は 星空 森林 花 木 海 山 虫 動物 怖いけれど わからないからこそ 美しいと思いました。

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そうして 彼女は 自然のなかに きらきらとしたものを 見つけ

身に付けられる ジュエリー にしたいと考えました。

その考えは 彼女には とても しっくりと わくわく するものでした。


そうして わたしは この世界の 自然の 人間の想像力の 美しさを
ジュエリーをつうじて伝えていきたい と思い

桑沢デザイン研究所に通いながら 
熊本県 水俣市で ジュエリーを製作する 道 を自分のペースで歩むことを決めたのでした。


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