外星通訳一族、”AKIMOTO”21


      『巨大な敵の後には巨大な友、宇宙は広いな。』

  ――――”サー”・ヴォティス・ウォンの安堵を表した一言――――


————ウルス宇宙船『対講話用』艦船 大会議室

「まず。どこから話すべきでしょうか…そうですな、我々とは何なのか、というところからでしょうか。」
 ヴォティス艦長は、天井を仰ぎ、考えながら話しだした。

「我々は『ボルの種族』と名乗りましたが、この『ボル』というのはなんなのかという話ですね。これは、我々の母星の、私たちの言葉で『大陸』を表す言葉です。」
「大陸。」
 和久が繰り返す。
「そうです。我々は『大陸に住む者』という意味を持つ種族です。あなた方の言うところの『ウルス人』、や…『地球人』よりも細かい分類ですね、アキモト通訳官のいう、『ニホン』、でしたかな?それよりもざっくりとした…なんというか。」
【人種?】
 サランがその表現の答えを出す。
「そう、それです、それが一番しっくりきますな。『人種』です。我々は大陸人と名乗っているわけです。その大陸を意味する名前のとおり、我々の祖先は大陸が発祥で、そこから育ち、宇宙に進出した今でもその名前を冠しています。」
「母星に名前はないのか?」
 和久は尋ねる。
「ありますとも。といっても、それもまた『ボル』という名前でした。要するに『陸地』という意味よりも『我々のうまれたところ、”故郷”』という意味も持ち合わせてきたのです。時と文化の流れによって。」
「なるほどね。」
「それと…先ほどの話に戻ってしまうかもしれませんが、我々は『嘘』を、はい、つきます。というよりも、つけます。地球人の方と同じく。」
 ヴォティス艦長は言いづらそうだった。

「私の肩書きは申した通り大隊の最高指揮官。いわば戦争屋です。
我々の歴史には、戦争があります。それもまた時代の流れで自然に発生したもの。食料、土地、宗教、経済、様々な理由で発生しました。」
「普通そうだよな。」
【我々の歴史では、残っている情報が正しければ生存競争以外の争いはしたことがありませんな。】
「「どういう進化と文化でそうなるの?」」
 和久とヴォティス艦長は同じ意見を口に出した。
【我々のこの”感覚”が深く関わっているかと。では、続きを。】
 すごく妥当な答えが返ってきた。

「は、はぁ……とにかく、我々は宇宙に進出しても、戦争をしていたわけです。あの船と似たような規格のモノを使って。」
「あんたらが流した残骸も同じ用途に?」
「はい、我々の船の隣に収容しているらしいですね。その通りです。我々はしばらく、『宇宙の資源』を巡って同族で戦争をしておりました。」
【分け合えばいいのに。】
 クース青年が呟く。

「我々はそこまで精神が成熟しておらず、分かり合うには少々能力が足りなかったんでしょうね。」
「こっちだって同じだよ。」
「地球人と我々はかなり似ている御様子で。…さて、その最中も我々は外宇宙に手を伸ばすため探索を続けていたのです。まだ近郊の宇宙の資源の取り合いが決りきっていない内も。その時に、見つけたのです。『我々の母星程の大きさを持つ、宇宙を漂う人工物』を。」

 大会議場とモニター前は騒然としていた。
「惑星規模の、人工物?」
「いや、ボル本星がどのくらいの大きさか分からないし…。」
「彼らは確かに体格は小さいが、地球の戦艦サイズ以上のモノを使って戦争してたんだぞ?その元になる資源を賄える程度に惑星も大きく資源はある筈だ。下手したら地球よりデカいかもな。」
【そう考えるのが妥当でしょうね。】
「どちらにせよ、地球から見たら脅威以外の何者でもないさ…!!」
 口々にモニターから流れてくる情報に意見を言う地球、ウルス両種族。
特に地球側は気が気でない。

【両種族とも、静粛に。】
 ホリス首長が全員に【伝える】。
船内は、もう一度静まり、画面を見る。
【ヴォティス艦長。それと、戦争になったのですかな?今度は。】
「はい、首長。かなり一方的な戦争になりました。もちろん不利なのは我々でした。……技術力と、物量が違いました。」
「あんたらより高いのか?その、敵は……!?」
「はい、50年ほど先を行っている、というところでした。我々の戦艦の攻撃は通じないことはなかったのですが、小型兵器が非常に驚異でした。我々の持っていた宇宙戦闘用戦闘機では歯が立たず、戦艦では小回りの利く相手が捉えられず、瞬く間に我々の艦隊は堕ちて行きました。」
「ちょ、ちょっとまて。そもそも戦闘になった原因は?」
 和久が遮るように聞く。

「わかりません。おそらく我々の探索機を戦闘機と考え、こちらが相手を捕捉している、と捉えられたからかと思っています。ともかく、彼らは探索機を撃墜、その後まっすぐこちらを目指す機動で動いてきました。接触も、できませんでした。近づけば問答無用で戦艦も破壊されたので。」
「……な、中に誰か乗ってなかったのか?その、相手とか。」
「中は全て機械でした。自動操縦で、全ての兵器が動いていました。我々の多くの兵器もそうでしたが、彼らのは徹底されています。”全て”でしたから。」
「……あまりにも、信じ難い、というか信じたくないな。」
【なぜ彼らはそこまで徹底して戦闘にしたんでしょうか。】
 クース青年は本当に解らなさそうに聞いた。
 
「さっきのボルの種族の戦争と理由は同じだと思うよ。資源か食料。……最悪は、宗教的理由だろ。そうでなくとも『兵器を持ったほかの星の生物』が目の前にいるんだぞ?それだけでも理由になるだろ。」
【友達とかに…】
 
 クース青年が言おうとした事を理解し、和久は答える。
「クース、それは正しい。ああ、君たちにとっては、とも言えるし君たちほど進化し分かり合うことに長ければな。だが、どうやら宇宙はそうでないものの方が多いんだ。いいか、君は間違っていない。だが『そうすることができないモノの方が宇宙には多いんだ。』少なくとも3…いや、4種の種族がいて、3つが違う程度にね。君たちに生存競争で負けたモノたちも、できればそうしていたと思う。が、違う。できないんだよ。」
【……………。】
「地球だけじゃないことに安心したよ。それができないのはね。
でもその理論が通る君たちが羨ましい。素直に。」
「ですな。……話を戻しましょう。とにかく、我々は彼ら自体には接触できませんでした。我々はボル本星を中心とした宇宙にステーションと『コロニー』を築き上げていましたが、敵の侵攻方向にあったものはすべて破壊されました。本星につかぬうちに、数十億単位で我々の同胞の命は奪われました。」
「…………数十億。」
【とてつもないですな。】
「宇宙に広がったことで我々の人口は爆発的に増えましたから。しかし、それもそこまででした。本星に至るまでも何度も反攻作戦は実施され、敵を出来る限り堕としました。しかし物量もあちらが上。惑星規模の要塞、あるいはあれも敵の『コロニー』なのでしょうか。それが本星にたどり着くのも時間の問題であるというのは解り切っていました。そこで、ボルの星の全種族は『脱出』を画策しました。軍に、いえ、全ての動かせる宇宙船、戦艦、全てを総動員した『移民』です。」

「……スケールがデカいな。だがそうもなる。んで、その計画は実行されたわけですか、稼いだ時間を使って。」
 和久は頭を押さえながら話す。
「はい。全ての艦船に民間人を収容出来るだけ収容し、各地に散る。移民の当てなどありません。ですが、そうするほか生き延びられなかった。
……と思っていましたが、それすら甘かった。」
【……甘かった?何が起きたのだ。】
 首長が目を細めて【聞く】。
「彼らは我々がもたない、『転移技術』があったのです。かなり精巧なモノでした。なにせ……散っていった船一つ一つに敵部隊が転移して移動し、戦闘になったからです。」
「…………転移技術。」
「そうです。最初、各所に散らばると言ってもある程度の船団を組んでおりました。軍の指揮によって。私の船もそうです。『ウォン大隊』。私が指揮を成し、行軍……いえ、移民行動を行っていた大隊です。戦艦総計132隻、戦闘機254機、1万5千人の軍人と4万の民間人。それらを擁した、大部隊です。それが今、1隻と戦闘機10機、243人の軍人と、360人の民間人が、全てです。」
「なッ——————!?」
【壊滅的、ですな。】
【そッそれ以外の人は……!?】
 クースが聞こうとする、が。
【クース、解るでしょう?…………絶望的なの。】
【……………………。】
 サランがそれを抑えた。200歳であっても、彼はウルスではまだ青年であり、戦争の経験などないのだから想像もつかないのだろう。

「我々は最初、彼……クース青年が『敵』の中身の可能性を考慮して動いておりました。ですが明らかに今までと出で立ちが違う。しかし、我々から見れば自分の3倍の体格を持つ『宇宙空間を生身で移動する生物かどうかも判別できない者』。レーダーで捕捉した瞬間、警戒をしました。そして、彼が我々の想像以上の速度で移動し、侵入したカタパルトの先のハンガーで、若い整備師が作業中に発見。恐れのあまりその場に突入した警備兵の静止命令を聞かずに発砲。そして、彼がそれに耐えきったのをみて周りも困惑を極め、あの事態になりました。」
「…………うん、想像通りの顛末だ。前提条件が想像を絶する程逼迫していたこと以外は。」
【あなた方以外の生き残りが居る可能性はどれほどある?】
「0に近いでしょう。敵は転移して攻撃してくる上に、我々の戦力は削られていく一方。それに本星からの脱出時点で大多数が消失し、我々の宇宙圏を出る段階になったときには、私の大隊が最も大きな移民船団となっていたので……。」
【…………そうでしたか。辛い話をさせて大変申し訳なかった。】
 首長は頭を下げ、【言葉を贈る】。
「問題はありません、大きな友人達よ。我々はその現状を受け入れるしかないのだから。それに、貴方達に会えたのは救いであると思っている。
…………恥を忍んで言おう。我々を助けてほしい。」
 今度はヴォティス艦長が頭を下げる。それを見て護衛の2人も驚きながらだが、頭を下げる。

「我々は敵に対してあまりにも、弱い。だから、助けてほしい。」
【助ける、か。】
「地球人側の答えは出せない。今はな。」
 和久が食い気味に答える。
「この船に乗ってる人間にそんな権限がないからだ。だが、ウルス側は違う。全権代理人が答えを出す。……どうする。」
【助けになるかはわからんが、保護はしよう。】
「おお……!!」

【……だが、助ける、とはいっても敵から守るのか、と言えば、少々異なるかもしれん。】
 首長は少々言いづらそうにしていた。
「…………というと、どうするつもりです?」
 ヴォティス艦長が眉を顰めた。そんな気がした。
【単純だ。】

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