[いただきました] 後藤道夫・中澤秀一・木下武男・今野晴貴・福祉国家構想研究会編集『最低賃金1500円がつくる仕事と暮らし』(大月書店)

後藤道夫ほか編『最低賃金1500円がつくる仕事と暮らし――「雇用崩壊」を乗り超える』(大月書店)をいただきました。ありがとうございました。韓国やアメリカなどとおなじく、日本でも最低賃金制度(最賃)が大きな注目を集めています。本書は、日本において最賃が注目を集める背景について、歴史的・構造的視点や関連する他の領域とのつながりを重視する視点をふまえつつ、丁寧に整理した本です。最賃問題を考えるうえで必携の作品です。

最低賃金が注目を集めるのはなぜか。

それは、①最賃額に近い賃金で働く労働者が大幅に増えたこと、②非正規でも「家計補助」とは呼べない家計をしっかりと担う労働者が増えたこと、③地方で地域経済の後退と若者の流出が進み、それに対する防波堤として最賃大幅引き上げが期待されていることがあげられます(後藤「日本の最低賃金は、なぜこれほど低いのか?」16ページ)。非正規雇用の拡大はもちろんですが、①や③にも目配りしているのが本書の強みのひとつです。

所収の木下武男「最低賃金制とナショナル・ミニマム論」は、①と②を「日本型雇用の崩壊」というトレンドのなかに位置付けたうえで、「非年功型労働者」と呼びます。「今や非年功型労働者が多数派であることは確か」であり、「ここにこそ労働市場を規制する最低賃金制の今日的な意義があるとみなければなりません」(131ページ)。

上の図にあるように、「正社員」であっても、低処遇が進んでいます。最低賃金制度がアルバイトやパートなど非正規雇用に関連があるのは当然ですが、もはや正社員にも関わりが出てきているわけです。この点が、日本において、最賃に大きな注目が集まる理由のひとつでしょう。

以上のほかにも、本書は、最賃と補完性をもつさまざまな制度の歴史と質を網羅しています。労働市場の構造変化や働き方の今後についてはもちろん(第2章)、業種別・職種別というあり方もふくめた労働運動の歴史と今後(第2章4、第3章1)、普遍的な社会保障(第1章4、終章2)、地域経済や中小・零細企業経営との関連(第4章)などが挙げられます。もともと最賃のあり方はその他の制度と強い補完性をもっているので、こうした目配りは非常に重要です。

各国・地域の労働運動や市民運動、イノベーション政策との関わり、論壇状況の整理といった関連する具体的な論点については、バラエティに富んだ書き手による豊富なトピックが補います。以下に紹介します(編者除く、245ページ)。

執筆者
浅見和彦(専修大学教授)
岩崎唯(さっぽろ青年ユニオン執行委員長)
遠藤公嗣(明治大学教授)
岡田知弘(京都大学教授)
小越洋之助(国学院大学名誉教授)
川村雅則(北海学園大学教授)
北口明代(全国生協労働組合連合会前中央執行委員長)
栗原耕平(AEQUITASメンバー)
伍賀一道(金沢大学名誉教授)
小谷幸(日本大学准教授)
出口憲次(北海道労働組合総連合事務局長)
戸室健作(千葉商科大学専任講師)
中村健(岩手県労働組合連合会事務局長)
藤田孝典(NPO法人ほっとプラス代表理事)
藤田安一(鳥取大学名誉教授,元鳥取地方最低賃金審議会会長)
蓑輪明子(名城大学准教授)

繰り返しになりますが、最賃と制度的な補完性をもつ法、経済主体、市民社会における運動は多数あります。これらの諸制度の「結び目」として最賃に注目が集まっていること自体が重要です(本書も繰り返し指摘するように、日本型雇用が強い影響力をもっていた時代は、こうではありませんでした)。ここに分け入るうえで、本書は最適の作品となります。

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