見出し画像

『世は学習マンガ戦国時代!最新『学習マンガ』のひみつ 2023夏 TBSラジオ「アフター6ジャンクション」』~【新しいweb3ビジネスのアイディアのタネ】2023.8.10


■世は学習マンガ戦国時代!最新『学習マンガ』のひみつ 2023夏 TBSラジオ「アフター6ジャンクション」

歴史や化学を楽しく学ぶことが出来る学習マンガ。2021年にも学習マンガについて特集しましたが、さらに目覚ましい変化が最近起きているのだとか。あの世界で一番売れているマンガ雑誌が学習マンガに参戦したり、従来のスタイルを応用した新しい潮流が出現したり。今回はそんな「学習マンガ」の最前線を京都精華大学・国際マンガ研究センター准教授の伊藤遊さんに解説いただきます。

朝日新聞出版「科学漫画サバイバル」シリーズ、小学館「学習まんが 日本の歴史」など、学校の図書館で「合法的に」読める漫画は戦時中に起源があるそうです。

そんな長い歴史がある学習マンガのシーンに、世界で一番売れているマンガ雑誌「ジャンプ」の集英社が本格参戦しました。

Dr.STONE(ドクター・ストーン)」で普通の漫画シーンに物理や化学などの理科系学習要素を盛り込むことに成功した体験も、集英社ジャンプが学習マンガに本気で挑むきっかけになったのだろうと思います。

Dr.STONEが連載開始したのが2017年。この前後で、少年誌の学習マンガブームが起きています。

2015年には講談社の月刊少年シリウスに「はたらく細胞」が連載開始。生物の細胞や免疫などの仕組みをエンタメたっぷりに描きました。アニメ化は2018年。

Dr.STONEと同じ2017年には同じく講談社の月刊モーニングtwo、コミックレーベルはモーニングKCで「天地創造デザイン部」が連載開始。生物の進化をデザインの観点から描く斬新な科学マンガで現在も連載中です。アニメ化は2021年。

この5年くらいの間に、少年マンガが学習マンガ市場に商機を見出すトレンドが醸成されたのだろうと思います。

この「学習マンガ」というジャンルが昨今おおきく変わりつつあるということを、先日8月8日(火)に放送されたTBSラジオ「アフター6ジャンクション」で、京都精華大学・国際マンガ研究センター准教授の伊藤遊さんをゲストにお招きして特集したのが上記の音源です。

少年誌の漫画に勉強に役立つ要素が含まれるという組み合わせは「はだしのゲン」「横山光輝三国志」など枚挙に暇がありませんが、この番組の中で最後に触れた「学習マンガ」側のマーケティング的進化に今回注目しました。


学習マンガが企業広報メディア化

学習マンガの代表の一角である学研の「まんがでよくわかるシリーズ・まんがひみつ文庫」。

上記はその中のひとつ「乳酸菌のひみつ」の紹介ページです。
みんながグラスで乾杯しているサムネイルに、青い斑点模様が描かれていることで伝わるでしょうか。

この「乳酸菌のひみつ」は、カルピスがスポンサードして作られています。

学校の図書館にも納入できる利点を活かし、子どもの頃から広報アプローチができるのが現在の学習マンガの新しいメディアの機能です。

消費を促すマーケティングというよりも、ブランドのファンを作る、将来の「なりたい仕事」のひとつにしてもらう、という広報機能のほうが強いものです。


自動車メーカーの「ひみつ」シリーズ

「未来の車のひみつ」はトヨタ自動車のスポンサードです。

表紙が水素自動車「ミライ」であること、その「ミライ」を本のタイトルにしていること、そして漫画の主人公である小学6年生のトモヤが「TOYOTA」の韻を踏んでいること、ハイブリッドや燃料電池車など幅広い自動車の選択肢があるという目次建てなど、トヨタのことを知っている人が見ればこの本がトヨタ自動車によって作られたことはわかりますが、目次には「トヨタ」の文字はありません。


「電気で走るクルマのひみつ~EV・PHEV~」は三菱自動車のスポンサードです。

ガソリン・ディーゼル・ハイブリッド・水素・燃料電池、そしてEVなど車の未来を幅広く見ているトヨタに対して、三菱自動車はEV・PHEV(プラグインハイブリッド)推しなので、「電気で走るクルマ」と一点突破のテーマ設定になっています。

プラグインハイブリッドを「PHEV」と称し、「ひみつ」シリーズのタイトルのつけ方の規則を破ってまでタイトルに「~EV・PHEV~」を入れているところからも、三菱自動車の強い意志が感じられます。

しかし、この本の目次にも「三菱自動車」の文字はありません。


「ぶつからないクルマのひみつ」は富士重工、つまりスバルのスポンサードです。

アイサイト推しのスバルは「ぶつからないくるま」というタイトルで先進安全機能をいち早く搭載したことをアピールします。

こちらは目次の中に「スバル」の記載があるほか、「第4章 ぶつからないクルマをつくった会社は、どんな会社?」と直球の章立てを作り、富士重工の前身である中島飛行機の時代にさかのぼって説明するなど、完全に企業広報のスタンスを明確にしています。

「燃料電池自動車のひみつ」は本田技研工業、つまりホンダのスポンサードです。

市販車としては燃料電池車のイメージはそれほど強くないかもしれませんし、最近ではEVシフトの立場を明確にして、EVに直接関連性がなかった連結子会社である八千代工業を売却したことからも、一層EVのほうに進むだろうと見られていますが、この本が刊行された2020年4月時点では燃料電池車推しだったのかもしれません。

こちらは目次に「ホンダ」の文字はありません。

ステマ規制に引っ掛からないのか少し心配ではありますが、学習マンガの企業広報メディア化は興味深い進化です。


コンテンツが分散型になり、選ぶ側の自由が増える

学習マンガが企業の広報メディアになっていることも興味深いですが、どのテーマを取り上げるかを市場に任せた結果、出版社が中央集権的にテーマを選定する方法から、企業ニーズと資本によって「自動車業界」の中でも複数のテーマを取り上げるかたち、つまりコンテンツの分散化が進みました。

分散されたコンテンツの中でどれを手に取るかは消費者に委ねられます。中央によって最初から排除されてしまったり、取り上げるコンテンツを中央だけが決めるという時代が終わり、分散型が主流の時代になってきたとも捉えられます。

「ひみつ」シリーズは学校に納入する販路があり、学校図書館では無料で読めます。子どもたちは中央の決めた教育方針ではなく幅広いコンテンツの中から自分の意志で興味のあるものを選べるという環境になってきたわけです。

職業の種類も広がり、どうやって就くのかわからないものもたくさんあります。子どものうちから学習マンガを通じて新しい仕事のことを知るのは良い経験になると思います。

来年あたり「ブロックチェーンのひみつ」や「生成AIのひみつ」が、どこかの企業スポンサードで刊行されるのかもしれません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?