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『「ポートピア連続殺人事件」にAIを搭載した技術デモを無料公開→残念な続報(4.26)』~【新しいweb3ビジネスのアイディアのタネ】2023.4.22

■『ポートピア連続殺人事件』にAIを搭載した技術デモが4月24日にPC(Steam)で無料配信決定

本作は1983年に当時のエニックスから発売されたアドベンチャーゲーム『ポートピア連続殺人事件』を題材に、AI技術のひとつ「自然言語処理」という技術を構成する「自然言語理解(NLU)」について体験できるソフトウェアと位置付けられている。

伝説のアドベンチャーゲーム「ポートピア連続殺人事件」にAIを搭載したデモ版が4月24日に無料配信されるとのことです。

「ポートピア」といえば「犯人は〇〇」と犯人をいきなりネタバレするギャグが発売から20年間くらい続いた(笑)ほど妙な大ブームを巻き起こしたことで有名です。

ちなみに今回配信される「ポートピア」はオリジナルストーリーのようで、犯人は〇〇ではないようです。(でも〇〇を真っ先に詰問する人は多そう。)

この「ポートピア」にAIを入れてみた実験版が今回無料配信されます。
AIをどのようなかたちで組み込んだのでしょうか。

(2023.04.26 最下部に続報あり)


自然言語理解(NLU)で文脈を理解する

原作の『ポートピア連続殺人事件』当時のアドベンチャーゲームはコマンド入力式と呼ばれ、プレイヤーが自由に文字列を入力することでキャラクターの行動を決定し、物語を進めていくというシステムだった。

「プレイヤーが自由に文字列を入力する」というゲームの進め方は、実際に事件調査をする本物的演出ではあるものの、

この方法はプレイヤーに大きな自由度を与えられる一方で、とるべき行動が分かっていても適切な文字列が分からない、という理由でプレイ体験を阻害してしまう問題を抱えていた。

真剣に事件調査をしていないと何を入力すればいいかわからない、一字一句あっていないと先に進めない、という超高難度で不便なゲーム性でもありました。

当時の技術では解決できなかった部分でもありますが、ここにAIを導入しました。

相棒がプレイヤーの言葉を理解し、意図を汲んだ返答を返してくれるようになっている。相棒との会話を繰り返して物語を進める、『ポートピア連続殺人事件』を題材とした技術体験が楽しめるとのこと。

完全一致でなくても文脈が合っていればAIがそれを理解してくれるようになったようです。また行き詰った場合は「何をすればいい?」的な問いを投げればゲーム進行のヒントを与えてくれたりも可能になるため、完全なフリー入力の不親切さも解消されそうです。

どこまでの自由度があるかは見ものですが、事件シナリオを完全に無視して雑談し続けるような遊び方もできるかもしれません。

こんなことを実現できるのが「自然言語理解(NLU)」というAI技術。決められたキーワードやシナリオに完全一致させなくても、AI側がプレイヤーの発話内容を理解してくれます。


決まったストーリーをなぞる以上の体験

決まった選択肢を選ぶだけだと、ゲームクリエイター側は組み合わせの種類分のゲームシナリオを用意する必要がありますし、プレイヤーも組み合わせを総当たりするだけのゲームになります。

選択肢でストーリーが分岐するのは小説ではできなかった体験で当時新しかったのですが、それでも決まったストーリーをなぞっている感覚はぬぐえませんでした。

「自然言語理解(NLU)」によって自由な会話でシナリオが自然に進んでいくようになれば、プレイヤーとしてはただ会話していただけだし言葉選びは自分で勝手にやっていたはずなのに決まったストーリーに乗せられているという驚きが得られるでしょう。

またパターン分岐ではないため裏ルートを見つけるのが難しくなります。普通の発想で会話していたらたどり着けない別のシナリオを発見する楽しみも仕込めそうです。


NPCもAIで進化する

超優秀なAI(人工知能)たちが1つの町に集まったら、どんなことになるだろうか?

 そんな疑問に答えてみるべく、スタンフォード大学とGoogleの研究チームは、仮想空間にRPGに登場するような町を作り、25人のAIアバターを解き放ってみることにした。いわゆるAI版シムズのようなものだ。

 『arXiv』(2023年4月7日付)で閲覧できる研究によれば、そんなAIたちのライフスタイルは、実際の人間とほとんど変わらなかったという。

「ポートピア」とは別のゲームの話ですが、NPC(ノンプレイヤーキャラクター)をAI化する実験が行われました。NPCは通常、決まった言葉を何度も返すだけのコンピュータキャラですが、きちんと性格や職業などを与えてNPC同士での会話や行動を促すという実験を行っています。

現実と変わらない「スモールビル(Smallville)」という仮想の町(バーチャルタウン)を作り、それぞれ違う性格に設定された25人のAIアバターを生活させてみたのだ。

その結果、「毎日のスケジュールを立てたり、パーティやデートをしたり、政治を語ったり」という行動をAI自身が行うようになったとのこと。

味気ないNPCからヒントを集めたり、ただフラグを立てるためだけに話しかけるのは作業的な行為でした。作業的ゲームもまぁ楽しいものですが、アドベンチャーゲームやRPGはよりリアリティのある世界観に没入できた方がいいことも多いもの。

これまで技術的な制約でNPCには決まったセリフを言わせる以外のことができなかったところが、AIによってゲームワールドに実在する人として振る舞うようになることでアナザーワールド感を楽しめるようになるはずです。


10年後「昔のゲームは仕込み&選択式だった」と懐かしむ

AIによって自然な言葉で自由に会話をする中でシナリオを進めたり、そこら中にいる「人」キャラクター全員が自我と個別の生活を営んでいたりするゲームが当たり前になる未来。

振り返って、「昔のゲームは決められた分岐をたどるだけの楽しみ方だった。これじゃあ何パターンか試せば終わるしNPCは不自然に同じセリフを返すだけで興覚めなんだけど、それでも当時は楽しかったんだよね」なんて話すようになるのでしょう。


オープンワールドRPG×AI=メタバース?

AIはお仕事にもたくさん使われますし、家事に便利に使ってみようなど効率化方面の導入のされ方は多いのですが、ゲームでの活用は実用一辺倒ではない新たなAIの可能性を広げそうです。

アナザーワールドのリアリティがどんどん上がっていくことこそメタバースの概念を実現に近づけるでしょうし、もしかすると去年のメタバースはAIが足りなかったから幻滅期に入った、AIが急速に進化した今年以降はオープンワールドRPG×AIこそがメタバースの本命なのかもしれません。


2023.04.26続報 「期待外れ」「騙された気分」AI搭載版『ポートピア連続殺人事件』に厳しい声。Steamレビューは「非常に不評」と異例の事態

公式サイトでは「相棒があなたの言葉を理解し、意図を汲んだ返答を返してくれます。相棒との会話を繰り返すことで物語を前に進めることが出来ます」とアピールされており、リリース前から「ChatGPTのようにヤスと会話しながらゲームが遊べるのでは」と大きな期待を集めていました。

決められたワードをビンゴで当てなくても自由な言葉遣いで会話ができることをウリにしていると理解しました。そして

完全一致でなくても文脈が合っていればAIがそれを理解してくれるようになったようです。また行き詰った場合は「何をすればいい?」的な問いを投げればゲーム進行のヒントを与えてくれたりも可能になるため、完全なフリー入力の不親切さも解消されそうです。

と予想していました。そして多くの人が同じ期待を持っていたようです。

それこそ最近の対話型AIで一番進化が実感できた部分ですし、本稿で触れた通り、「原作ポートピア」の「一字一句あっていないと先に進めない、という超高難度で不便なゲーム性」をAIで解決したところが目新しかったわけです。

しかし。

ヤスが反応してくれるのはあくまで「特定の言葉」だけで、自由に会話をしようとしても「え?」「うーん」と首をひねるばかりでなかなかゲームは進みません。確かに、オリジナルのヤスに比べれば多少は賢くなっているのですが……。

と、公開された「新ポートピア」はAIとの対話で期待するものとは程遠い体験で、かつ「原作ポートピア」の持っていた課題を解決していません。

本テックプレビューでは、自然言語生成(Natural Language Generation)による雑談会話機能を有していましたが、AIの非倫理的な発言の可能性を考慮し、NLG機能は削除された状態でリリースされています。

との表記があり、残念ながら現時点ではChatGPTのような「自然言語」によるやりとりは不可能(※初報段階から一応、「リリース時点では自然言語生成は未搭載」との説明はあった)。

非倫理的な発言は裏技的に追い込めば出る可能性はなくはないですが、期待した対話体験ができないのであればAI期待を煽らない方が良かった。

企業が製品版にAIを使う際、現状のクオリティでは使用できないと判断されるレベルであるということはわかりました。

AIが非倫理的なことを言わなくなる制御も大切ですが、一般ユーザーのリテラシーが上がり「そんなもんだよね」という分別がつくことも必要です。AIの技術面、ユーザーの理解、そのどちらもが今はまだ追い付いていないということでしょう。

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