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Be yourself〜立命の記憶I~29

◆第16章:初めてのデート(5)

私、ちょっとポカーンとしてたかも知れない。
だって、確か、44平米で家賃10万円って言ってたよね。

目の前に現れたのは、すっごいゴージャス過ぎるほどの超高級マンション。

全体の色調は黒と紫で、真ん中の2階から吹き抜けになった通路の上からは、薄暗い室内をこれでもかって程にキラキラと輝かせる照明が光っている。
1階の右手前には、水の流れる3mくらいのガラスのオブジェ。

その前には、2段低くなった高さで、日本の一般的なリビングぐらいの広さのスペースがあり、ブラウンの木と白いファブリックのソファーがコの字に並んでいる。
クッションは茶色の正方形のものが、斜めにキレイに飾られている。
床には灰色をベースにした、幾何学模様の絨毯が敷き詰められている。
外を眺めると、丁寧に手入れされた百合の花らしき白い花が、3つくらいの重厚な黒の花壇にそれぞれ統一されて植えてある。

左手を見ると、3mくらいはあろう本棚に、ぎっしりと本が埋め尽くされ、その前には、2,3人掛けのオシャレなカフェテーブルと椅子が、3つくらい置いてある。

ここまでは、1階フロアの手前半分だけの話です。
広すぎるわ!!!

右奥を見ると、手前と同様のソファーが置いてあるスペースがある。
左奥を見ると、バーカウンターのようなスペースが。
壁の一部が鏡になっていて、向かい側のソファーが映り込んでいるせいで、もう遠近感が掴めない。どこまで広さがあるの、この1階。

そして、至るところに、ふんだんに白い花が飾ってある。
目線くらいの高さの花瓶もあれば、テーブルの上に置いてある小さな花瓶も、花束をちょうどそのまま差し込めるくらいの高さの花瓶も。
左奥には高級そうな絵画まで飾ってあった。

日本で例えるなら、新宿の家賃50万円くらいのタワーマンションを更にゴージャスにしたような感じ。知り合いのIT社長が住んでいたから一度だけ行った事あるけど、私は住む事は無いなって思ったよね・・・。

もう、なんだか目まいがしそうでクラクラしていると、彼は、

「ちょっとここで待ってて。」

と言って、通路の先へ歩いて消えていった。

彼の足元には、床に埋め込まれた間接照明が規則正しくボンヤリと光っている。まるで彼の未来を優しく照らし出しているかの様に。

ハッ!いかんいかん、彼の家=彼ではない。

彼のカッコ良さに、拍車(はくしゃ)をかけるような佇(たたず)まいではあるけれど、思い出せー、彼の顔はそうでもないー、あれ?イヤ、彼ちょっとカッコ良かったか?
だんだんぐるぐるして、分からなくなってきた・・・。
そもそも、私みたいな、ちんちくりんが、こんなダサイかばん持って、この場所に居る事に違和感を感じてきた・・・。

イヤイヤ、私は、いつも元気な愛ちゃんですよ、思い出せ!
Plus in Plus out! でしょ!
そこそこモテて、面白い、明るい私に戻れー!!戻れー!!

そう気を取り直し、なんか面白い事しよっと、と思って、彼の自宅の1階のフロアの写真を撮った。
そして、会社のグループLINEに、写真を送ってコメントした。

「彼の家のロビーこんななんだけど。どんだけ~。w」

送信時間19:02なんだけど、日本では21:02。
今頃、日本では、会社の二人が、家行った!家行った!って、勘違いしている事だろう。
大丈夫よ、一応、私、『いいんですか?』って言ったよ。

あれ?返信来ないなぁ、と思って、Wi-Fiの電源が切れていないか、確認しようと、機械を取り出そうとしたところで、彼が戻ってきた。

「今さあ、彼女出かけてると思ってたんだけど家にいてさぁ。彼女に『女といるでしょ』って言われたよ。女の勘ってすげーな。」

げ。ヤバい。

「あ、マジ?大丈夫なの?」
「いや、だったら下に居るから挨拶するかって言ったら、あなたを信じるっていうから置いてきた」
「あ、そう・・・。」

わー、これもう無理だわー。キスも出来ませーん。はい終了ー。トキメキタイム終了ー。

タクシーに乗って、落ち着いたら、彼、修羅場になるんじゃないの、とちょっと心配に。

「大丈夫なの?」
「あぁ、さっき貰ったパンフレット渡してきたよ。」
「あ、良かったね、持ってて。」
「なんか、いつもスーツ置いてる場所にスーツがあったから、着替えて出たのが、バレたみたい。」

あー、「着替えて出る=デート=女」ね。彼女、さすがだ。

「あ、そう。彼女、心配してなかった?」
「あ、ウチの彼女そういうの理解あるほうだから」
「???・・・そういうのって?」

そう聞いたが、彼は答えなかった。

結局、また私のホテルの近くに到着。

「俺、あんまり店のレパートリー無いんだよね。またここでもいい?」
「あ、いいよー。サンマ開くの披露してよ。」

で、また昨日と同じ居酒屋へ行った。
私、大切にはされてないな・・・。

まぁ、ある程度、誤解も解けたし、昨日のような、おかしな事は言うまい、と、気持ちを改め、終始懐かしい話に花を咲かせる。

途中、サンマが来たので、早速そのスゲー上手いという開き方を見せてもらった。
お箸を両手で一本ずつ持った彼が言う。

「これでいくけど、いい?」
「・・・はい。どうぞ。」(ごくりと唾を飲む私。)

あぁ、彼のお父さんが厳しい人だからね、こんな持ち方したら普通は怒られるよね。

そして、焼いたサンマの首のあたりに、お箸を一本を立てて、もう一本で、真ん中に線を入れて、切っていく彼。
2本のお箸を持ったまま、身をキレイな形に、パカっと開いた。

「どう?」

え、これだけ?ココまで?

「あー、多分、私のほうが上手いよ。」
「え?ダメ?すげー早かったでしょ?」
「あ、うん、まぁね。じゃぁ、こっからは私がやりましょう。これで。」

そう言って、私は、普通に正しいお箸の持ち方を見せた。

私、魚の身を取るの得意。骨の構造まで大体理解しているくらいに。
なぜなら、ウチの主人は、丸ごとの魚が可哀想で食べられないくらいの優しい人。
サンマは今でこそ食べられるけど、昔は苦手で、見るのもイヤだったから私が身を外(はず)してあげてたんだもんね。
シャケは切り身で泳いでいると思っているくらいの、都会っ子だ。

「では、続いて参ります。」

私はそう言うと、彼の開いた続きから、キレイに身を外し始めた。
サンマの身の4分の1を、片手で崩さないように取りはずし、小骨とヒレなどの食べられない部分を取り除き、食べられる身の部分を崩さずに、彼のお皿に乗せてあげた。

「上手いね・・・。」
「ウフフフ、でしょ?」

勝ち誇ったように笑う私。

まぁ、いいや。こんなつまんない事で勝負したってしょうがない。
私は、黙々とサンマの身を取り外しながら、自分でも、細かい身を口に入れつつ、骨に付いた身を食べつつ、大きいまとまった身だけを、彼のお皿に乗せてあげた。
ここで、骨をしゃぶったり、お箸や、骨をつまんだ指とかをつい舐めてしまうのが私のお行儀の悪いとこなんだけど。もったいない精神で、つい、ね。

「あ、サンマ、もう一匹食べる?頼もうか?」

と聞かれたけど、

「あ、あなたが食べたいなら頼んでいいよ。私、他の物も食べたいし。」
「いや、俺はいいけど。あなたがもっと食べたいかと思って。」
「うぅん、もういいよ、あなたが上手いのも、私が上手いのも分かったもんね。」

そう言って、微笑む私。
これ以上見せると、彼のプライドを傷つけるんじゃないか、という私なりの配慮。
私、ごくごく冷静だったと思う。
そして彼は言った。

「あ、牡蠣あるよ、食べる?」
「食べるー!!!牡蠣大好きー!!!♪♪♪」

いきなりテンションの上がる私。
やっぱり牡蠣が好きなのよー!エビも好きだし牡蠣も好きなのよー!

大好きな牡蠣が4つ目の前に並んで、ゴキゲンで食べ始める私に、彼が、昔の写真をスマホで見せてきて、言った。

続き→第16章:初めてのデート(6)

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