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Be yourself〜立命の記憶I~28

◆第16章:初めてのデート(4)

「うん。もうね、無理。疲れたもん。私、釣り向かない。3匹釣れたからもう満足。」

私の性格がよく出てる気がする。
集中する時はするんだけど、上手くいかないと、というか思い通りにいかないと、途端に集中力が切れる。要するに飽きっぽいのだ。(※ADHDの特徴、新規追求性)

そんな私を尻目に、彼は一生懸命釣っていたと思う。
あちこち、場所を変えながら、ひたすら釣り堀を眺めている。
まるで、20年間の空白を埋めるかのように、私の為に一生懸命になってくれていたような気がする。
これでも、まだ私は、彼が、日本から来た友人をおもてなししてくれているだけなのか、昔、私の事が好きだったから他の人に対してよりも優しいのかが、分からなかった。ましてや今どういう気持ちなのかなんて・・・全然。

生け簀を眺めていると、お店の人が網で適時エビを拾っているから、あれ何してるの?って聞いたら、死んでるエビを拾ってるんだよ、と教えてもらった。
この狭い生け簀だけしか知らずに死んでいくエビもいれば、イキが良くて世界に飛び出しちゃうあなたみたいなエビもいるんだろね、って、話をした。
私、どんなエビなんだろう。

「最後、1匹くらい釣りなよ。」

そう彼に言われて、突然やる気を出した私。
うん、信頼している人に何か言われるとすぐ調子に乗る人。

「よし!やってやる!イキの良い奴釣ってやるぞー!。」

(あなたみたいなね。)

しばらく、集中して本気で釣ろうと思ってると来るものなんですね。
おっ、来た来た!よっしゃこれ釣れるぞー、ほら見ろー!どーだー!!

って、引き上げたら、空だった。

ぬぬぬー、くっそー、悔しいー!期待していただけに必要以上に悔しいー!!

私は再度、釣り糸を垂らす。
しばしの沈黙。

すると、今度こそ行けそうな気がする。よーし、引き上げようかと思ったら、彼が、

「もう少し待って。ほら、浮きがまだ沈むから沈み終わってから。」

うん、と頷き、引き上げたい気持ちを我慢して待つ。
浮きの先端が完全に水面の下に沈んで降りていった。
・・・・、よし、もう、良いんじゃない?

「もう、いいよね?」
「うん、いいよ。」

えーい!と上に持ち上げた。重たいぞー。というか、こんなにしなった釣り竿でこんな重いの釣って折れないの?って不安だった。

エビが水面を出ると、急に反動で私の身体がのけぞる。
うわーぉ、すんごいビチビチ跳ねている。すんごいイキの良いのが釣れた。
これ、あなた?あなたですね?うん、間違いなくあなたよね!
わーい、釣れた釣れた!
現実はどうあれど、とりあえず、イキの良いのが釣れたぞー!

私が、最後の1匹を釣り上げたところで、後半の6匹を釣り終わって、本日のエビの収穫は終了。
それを、春雨の炒め物と、卵と野菜の炒め物に料理して貰って、食べながら、色々話をした。
料理はすごく美味しかったのに、食欲があまり無い私は、たくさん食べられなくてすごく残念だった。次こそは絶対たくさん食べるんだから。トムヤムクン食べるの忘れてたし・・・。

その後、話した事は、本当に色々。

彼がサンマ開くの上手という話とか。
え、捌(さば)けるの?って聞いたら、焼き魚を開いて食べやすくする事だって。なんだそりゃ。

とにかく、くだらない事から、深い事まで、色々話をしたと思う。

そして、私達は、釣り堀を後にした。

お店を出るともう薄暗かった。
夕焼けの空に、南国らしいヤシの木が揺れる。
新興住宅地なのだろうか、2階建ての一軒家が整然と並び、白く塗られた外壁の美しさが日本の住宅とは全然違う風景だった。

暑さは和らぎ、少し強いくらいの風が、私達を横切る。
表通りまで出てタクシーを拾おう、と彼が歩き出す。
あ、ちょっと待ってー、と彼を追いかける私。

途中であまりの美しさに、写真が撮りたくなった。
ただの駐車場にヤシの木があるだけの風景だけど、私は、この夕焼けの空気感を、後で思い出したかったから。

でも、彼が歩く速さがあまりにも早かったので、ちょっと待って、写真撮りたい、と立ち止まらせてから、スマホを取り出して写真を撮った。
そして、「ほら、感じてごらんよ、この空気。空がキレイでしょー?気持ち良いでしょ?」
と言うと、彼は「うん」と一緒の空を見上げた。

「いこっか。」と、二人で歩き出した。
そう、最初は二人で歩いてたんだけど。

(・・・ちょ、・・待ってよ・・・。)

スタスタと歩いて行く彼。
私、普通に歩いていると全然追いつけない。
パタパタと駆け寄って、追いつく。
普通に歩き始めると、また離される。

(ちょ・・・だから、待ってよ!もう!)

男友達に、こんなにないがしろにされた事無い。
むしろ、やっぱり彼は私と居るのが迷惑なの?って思うくらいのシカトぶりで歩いて行く。
ちょっと何で私、こんなにずっと小走りでついていかないとイケナイの、ってちょっとムっとしたので、15mくらい先にいる彼に叫んだ。

「ちょっと、待ってー!!!」

彼が振り返った。
私は駆け寄ると、彼に言った。

「もぅ!歩くの早すぎ!女性と居るんだから、もっとゆっくり歩いて!」
「あ、ごめん。」

素直に謝られた後は、普通に歩けた。
途中、なんかピンクと黒のカワイイ建物があったから、あれ何?って聞いたら、「ストリップ劇場だね。」って言われて、「えぇ?!」ってなった。
キャー、恥ずかしい事聞いたー。
彼がそんな事知ってるのもヤダー。
あれ、なんで私こんなに退化しちゃってるの・・・。高校生じゃん、私・・・。

大通りまで出ると、すっかり暗くなっていた。
30階くらいはありそうな、マンションがいくつか建っている。

そうだ、私、現地の不動産の話、聞きたかったんだ。
そう思って、彼に聞いた。

「ねぇ、この辺りだと、投資用のマンションとかっていくら位で買えるの?」
「あぁ、この辺はそんなに高くないよ。1000万円あれば結構いいとこがある。」
「あ、それでもその位はするんだね。」
「君の泊まってるホテルの辺りだともっと高いよ。3,4000万円くらいはするよ。」
「あー、じゃぁあんまり日本と変わらないね。東京はもっと高いけど。」
「うーん、まぁ広さとか設備が良いものがそれくらいって感じだけどね。」
「でも、それくらいいいとこじゃないと、高いお金払って賃貸で借りる人居ないよねぇ。」
「うーん、まぁそうかもね、この辺りだと一軒家も多いから、現地の人は郊外に一軒家買って住んでるしね。」
「そっかー、資産運用としては、あんまり日本と状況は変わらなそうだね。」
「まぁ、物件価格自体が上昇する可能性はあるから買って上がるの待って売るっていうほうが分かりやすくていいかもね。」
「そうだね・・・。あー、なんかそういうのはもういいって思ってたからまぁ、いいやー・・・。」

私、お金儲けの為だけに何かをやるのが、しんどくなっていた。
持っているお金を投資にまわして、その利益で自分の家賃が払える、とか、家族に仕送りが出来るとか、そういうのだったら良かったんだけど。
一瞬の利益の為だけに、何かをやるのがもう疲れてしまっていた。
自分の会社で色々やってきたからね・・・。失敗もしたし・・・。
会社とかお金はさ、続ける事と回す事に意味があるんだよな、と思っていた。
しかし、私達、こんな会話が出来るなんて、大人になったんだな・・・。

彼が左右を見渡して、車が途切れた瞬間を見計らう。
私は、彼に置いて行かれないように、素早く彼のシャツの袖をそっと掴んだ。
さっき、あんなに離れて歩かれた事が尾を引いたのと、現在のお互いの立場を考えると、腕を掴む勇気が出なかった・・・。

タクシーに乗り込むと、彼はタイ語で何かを伝えてから言った。

「今から俺んちいくから。」
「あ、はい。」

・・・え?なんで?
あれ?えっと、家に行くって言われたら、何て言うんだったっけ、えと、えっと・・、あ!そうだ!

「『いいんですか?』」

「犬に餌やってくるから。下で待ってて。」
「あ、そう。はい。」

・・・なーんだ。
あれ?ん?
ハッ!まさか、私ヘンな事しようと思ってるって、思われてない?

「あ、あの、『いいんですか?』って言うのはね、その、あなたと会う事をウチの会社のみんなに相談した時に、あなたの家においで、って言われたらこう言えって言われてたから言ったの!あの、私あんまり意味分かってないの!なので、あの・・・その・・・」

「何もしないよ。」

彼がニコっと笑って言う。
あぁ、そうだよね。うん、餌あげるんだし、私、下で待つんだもの。

あれ、でも、何かそのセリフ昔聞いた事あるな・・・。
男性が「何もしないよ」って言ってる時は、何かしようと思ってるって事だから、ついていっちゃダメだよ、って誰かに言われた記憶がある・・・。

でも、今の彼の顔を見たら、なんかゴキゲンそうだし、さっき笑った顔に下心なんて感じなかったし、そんな事考えてるようには見えない・・・。

えーと、何なの?どっちなの?いや、どっちかだと困るけど、どういう意味??

私、ずーっと考え込んでいて、社内は静かだったと思う。

タクシーが、大きな車止めのスペースのあるマンションに入っていった。
車を降りると、タクシーが走り去っていった。

「ここ俺の家。」

続き→第16章:初めてのデート(5)

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