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【まえがき公開】ノイズと戦うエンジニア必携!――近刊『67のトラブル事例で学ぶEMCとノイズ対策』

2023年5月下旬発行予定の新刊書籍、『67のトラブル事例で学ぶEMCとノイズ対策』のご紹介です。
同書のまえがきを、発行に先駆けて公開します。


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まえがき

ノイズ対策の現状と問題点

電子機器を設計する際、マイコンやデジタル回路のパルスノイズがアナログ回路に混入して問題となるケースがよくみられます。また、市場に出荷する電子機器にはEMC規格が法令で定められており、機器から放射するノイズ量や外部よりノイズを受けた際の耐久性は規定されています。設計者は、その基準値を超えないように機器をつくらなければなりません。近年のデジタル回路のクロック周波数や扱う信号の周波数は年々高くなりつつあるため、ノイズの影響はますます深刻になり、これらの問題は多くのエンジニアを悩ませています

ノイズ発生のしくみとその対策を行うには、電磁気学、アンテナ工学、高周波回路の知識が必要ですが、どれも難しく、一般のエンジニアにとっては厄介なものばかりです。EMC対策を試行錯誤で行う人をみかけますが、時間がかかるばかりか、その効果は十分とはいえません。ノイズが発生する原因はさまざまであり、さらに複数の要因がからみあっている場合もあり、やみくもに対策してもうまくいきません。効率よくEMC対策をするには、ノイズが発生するしくみとその対策方法をよく理解しておくことが大切です

本書の特徴と活用方法

本書は、現場でよく起こるEMC問題の事例を取り上げ、それを通してノイズが発生するしくみと対策方法をわかりやすく解説しています。多くの人に読んでもらえるように、なるべく難しい数式は使用せずに、イラストを多く使ってわかりにくいノイズのふるまいをイメージできるようにしました

本書は、2つの活用方法があります。1つは、ノイズ対策の技術を学ぶための解説書としての使用です。はじめから順番に読んでいくことで、ノイズの発生や受信のしくみ、そしてその対策方法が無理なく学べるように構成されています。本書は、以下の構成となっています。

  • 基礎編(1~4章):本書を読み進めるために必要な基礎知識をまとめています。すでに理解している人は、読み飛ばしてもらってもかまいません。

  • トラブル事例・対策編(5~12章):ノイズ対策の内容を事例を挙げて解説しています。基礎的なものからはじまり、後半では、より難易度の高い実用的な事例を解説しています。

  • 付録:より詳しい技術内容や、EMC測定方法、EMC規格などについて説明しています。本書の内容をより詳しく知りたい人やEMC試験を受ける人向けに用意しました。

もう1つは、ノイズ対策マニュアルとしての使用です。設計者がEMC問題に直面して対策を急ぐとき、とりあえず対策方法が知りたいものです。そのような人のために、EMC対策フローチャートとトラブル事例一覧を用意しました。ノイズ対策フローチャートには、EMC問題が起こっている箇所を特定する手順を示しています。トラブル事例一覧は、現在直面しているEMC問題と同様の事例を探すことで、対策方法がすぐに調べられるようにしてあります。

私はこれまでに多くの製品を開発してきましたが、ほとんどの製品開発においてノイズ問題で悩みました。おそらく多くのエンジニアの方がノイズ問題で悩んでいると考え、本書を執筆しました。本書が、ノイズ問題で困っているエンジニアの方に少しでもお役に立てれば幸いです。

(以下略)

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香川高等専門学校 辻正敏 (著)

【目次】
 EMC 対策フローチャート
  筐体上で行う対策
  基板上で行う対策
  トラブル事例一覧

●基礎編●
 1 ノイズとその影響
  1.1  ノイズが機器に与える影響
  1.2  アナログ信号とデジタル信号に対するノイズの影響
  1.3  ノイズの伝達経路
  1.4  ノイズの発生源
  1.5  ノイズ対策の概要

 2 ノイズの基礎
  2.1  電界と磁界の発生
  2.2  電波の伝搬
  2.3  電磁ノイズの反射
  2.4  シールド効果
  2.5  ノイズのスペクトラム
  2.6  各ケーブルと電磁界分布
  2.7  基板上の線路と電磁界分布
  2.8  伝送線路上の波長
  2.9  電波吸収シート

 3 アンテナの基礎
  3.1  アンテナとは
  3.2  ダイポールアンテナ
  3.3  モノポールアンテナ
  3.4  ループアンテナ
  3.5  偏波

 4 フィルタの基礎
  4.1  減衰量
  4.2  フィルタ回路
  4.3  インピーダンス
  4.4  フィルタ回路のしくみ
  4.5  コンデンサやコイルの挿入によるフィルタ構成
  4.6  実際のフィルタの減衰特性
  4.7  実際のコンデンサのインピーダンス特性
  4.8  実際のコイルのインピーダンス特性
  4.9  フェライトビーズ
  4.10  3端子フィルタ
  4.11  貫通コンデンサと3端子コンデンサ

●トラブル事例・対策編●
 5 ケーブルや基板上の配線
  事例 1  基板上でダイポールアンテナが構成される
  事例 2  ケーブルの接続によってダイポールアンテナが構成される
  事例 3  基板上でモノポールアンテナが構成される
  事例 4  ケーブルの接続によってモノポールアンテナが構成される
  事例 5  基板上でループアンテナが構成される
  事例 6  ケーブルの接続によってループアンテナが構成される
  事例 7  部品間の配線やリード線がアンテナとなる

 6 空間伝導
  事例 8  基板上で発生したノイズが周辺の回路に伝わる
  事例 9  シールド板を入れてもノイズが減衰しない
  事例 10  シールド板をグラウンドに接続してもノイズが減衰しない
  事例 11  シールドケースの穴からノイズが漏れる
  事例 12  シールドケースの取り付けかたが悪いため,ノイズが漏れる
  事例 13  シールドケース内でクロストークが発生する
  事例 14  シールドケースを貫通するケーブルからノイズが漏れる
  事例 15  シールドケーブルとシールドケースの接続部からノイズが漏る
  事例 16  コイルから発生するノイズの影響を受ける

 7 導体伝導とフィルタ
  事例 17  基板上の配線やケーブルからノイズが発生する
  事例 18  基板上の配線やケーブルでノイズを受信する
  事例 19  カットオフ周波数が高いフィルタを使用するとノイズが減衰しない
  事例 20  フィルタを挿入すると回路が正しく動作しなくなる
  事例 21  コンデンサを入れてもノイズが減衰しない
  事例 22  コイルを挿入してもノイズが減衰しない
  事例 23  チップセラミックコンデンサを挿入してもノイズが減衰しない

 8 フィルタの活用
  事例 24  フィルタの入出力の配線が近いとノイズが減衰しない
  事例 25  フィルタを入れる場所によってノイズが発生したり,ノイズを受信したりする
  事例 26  フィルタを挿入してもノイズが減衰しない
  事例 27  回路をシールドしてフィルタを挿入してもノイズが減衰しない
  事例 28  線路の共振によりケーブルから特定の周波数のノイズが強く発生する
  事例 29  共振により線路がループアンテナになって特定の周波数のノイズが発生する
  事例 30  線路上で反射波が共振して特定の周波数のノイズが放射される
  事例 31  ノイズが電源ラインを通ってほかの回路に入り込む
  事例 32  デカップリングコンデンサを挿入しても電源ラインのノイズが落ちない
  事例 33  複数のコンデンサを挿入しても電源ラインのノイズが落ちない

 9 グラウンドパターン
  事例 34  グラウンドパターンからノイズが発生する
  事例 35  グラウンドケーブルや電源ケーブルからノイズが発生する
  事例 36  電源ラインからほかの回路にノイズが入り込む
  事例 37  金属筐体に入れるとグラウンドケーブルからノイズが放射される
  事例 38  グラウンド電流が流れ込んでグラウンドケーブルからノイズが発生する
  事例 39  グラウンドにスリットを入れて分離しても,高い周波数のノイズの影響を受ける
  事例 40  デジタルノイズがアナログ回路に入り込む
  事例 41  アナログ回路とデジタル回路を分離してもノイズの影響を受ける
  事例 42  スロット上のマイクロストリップラインからノイズが発生する
  事例 43  スリット上のマイクロストリップラインからノイズが発生する
  事例 44  分離したグラウンドをまたいだ配線からノイズが発生する

 10 ケーブル,筐体構造
  事例 45  フラットケーブルからノイズが発生する
  事例 46  ケーブルがアンテナとなってノイズが発生する
  事例 47  シールドケーブルからノイズが発生する
  事例 48  接地方法が悪くてシールドケーブルからノイズが発生する
  事例 49  筐体の開口部からノイズが放射される
  事例 50  接合部や扉からノイズが放射される
  事例 51  筐体を貫通するケーブルからノイズが放射される
  事例 52  筐体の外部に突き出した電子部品からノイズが放射される

 11 多層基板
  事例 53  片面基板の配線からノイズが発生する
  事例 54  両面基板の配線からノイズが発生する
  事例 55  グランドプレーン上の線路からノイズが発生する
  事例 56  裏面に配線された電源線や信号線からノイズが発生する
  事例 57  高周波信号や大電流の信号線からノイズが発生する
  事例 58  基板の端からノイズが発生する
  事例 59  デジタルノイズがアナログ回路に入り込む
  事例 60  デカップリングコンデンサを挿入しても電源プレーンのノイズが落ちない
  事例 61  マイクロストリップラインからノイズが発生する

 12 コモンモードノイズ
  12.1  コモンモードノイズとは
  12.2  コモンモードノイズの発生源
  事例 62  フィルタを挿入してもケーブルからコモンモードノイズが放射される
  事例 63  信号ケーブルにフィルタを挿入すると伝達したい信号が減衰する
  事例 64  ケーブルでコモンモードノイズを受信する
  事例 65  電源ラインからノイズが侵入して機器が誤動作する
  事例 66  電子機器の電源ラインからノイズが発生する
  事例 67  ラインフィルタの取り付けかたが悪くてノイズが減衰しない

●付録●
参考文献
索引


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