人生、転職やり直しゲーム 第1章

【拘置所】



俺は、

死刑囚だ。

死刑が確定して、

絶望の縁にたっていた。



いつ、死刑が決行されるのか、

毎日、そればかり考えている。

この拘置所には、何人もの死刑囚が収容されているが、

誰が、いつ、死刑執行されるかは分からない。

刑務官が教えてくれないからだ。



昔は、死刑執行前日に教えて貰えたそうだが、

今は教えてくれない。



なぜなら、

死刑囚に、

明日、死刑を執行すると教えたせいで、

死刑囚が夜中に勝手に自殺した事があったからだ。



それから、

死刑がいつなのか死刑囚に教えない事になった。

死刑執行日の朝、

いきなり、死刑所に連れていかれて、処刑されるシステムだ。



俺としては、教えて欲しい。

心の準備くらいはしたいからだ。



かつて、俺がここに収容されてから、

5人、死刑執行された。

5人とも、朝、処刑場に連れていかれたので、

俺は朝が怖い。



刑務官のちょっとした態度で、

そろそろ次の死刑執行日が近い事を俺は肌で感じていた。



俺は死刑確定人だから、

特別扱いで、

昔のビデオを見せてもらったりしていた。

しかし、ビデオを観ていたのは、

俺だけではない。

頼む、次の死刑は、

俺以外の死刑確定人に執行してくれ。



そして、執行日は迫って来る。

次はどの死刑囚の死刑執行なのだろうか、

いよいよ俺の番なのか、

不安で眠れない毎日だった。



独房から聞こえる刑務官の足音。

3人か。

ちょっと、いつもと違う。

死刑決行日は今日だろうな。

そろそろ俺の番だろうか。

裁判から随分年月が経っている。

俺あたりが妥当なんじゃないか。

いや、俺は嫌だ。別なやつにしてくれ。



俺がきき耳をたてていると、

足音は俺の独房の前で止まった。



「無能非才(むのうひさい)。

坊さんのお迎えだ」



ついに…俺の番か…



この日が永遠に来なければいいと何度思っただろうか。

他の死刑囚が処刑になった時はほっとしたものだ。



しかし、ついに俺の番が来た。

間違いであった欲しいが、

刑務官がカチャカチャと独房の鍵を開けた。

「出ろ」



俺は、出たくなかったが、

よろよろ歩いてノロノロ独房から出た。

他の独房の連中は、

自分じゃなくて良かったと胸を撫で下ろしているだろう。

以前の俺のように。



俺は、白装束に着替えさせられて、

教誨堂の観音像の前に立たされた。

お経が流れていた。

CDか何かだろうか。

いよいよ、俺が殺されるんだ…

気がつくと

涙と鼻水とヨダレをだらだら垂れ流していた。



坊さんが、俺の最後の言葉を聞くために、

近寄ってきた。



こいつは、普通の坊主だな。



俺は、かつて俺を地獄の底に叩き込んだ

坊さんのことを思い出して、叫んだ。

「坊さんは、仏に使える身だろぉぉぉお、

洗脳しないでくれよぉぉぉ」

「無能さん、私は洗脳しませんよ」

「うううううるせぇ、馬鹿野郎ぅぅぅ、

ひひひひ人を弄ぶなななななって、

いいい言いたいんだぁぁぁー!」

「落ち着いて下さい、遺言を書きますか?」

「ここここここの、なななな生臭坊主!

『パワハラパレス』から、いいいいいくら貰ってんだ!

何人殺した!」



俺は、いきなり、刑務官2人に両脇を担ぎあげられ

ズルズルと

死刑執行部屋に移動させられた。

教誨堂のアコーディオンカーテンの向こう側は、

死刑執行室だった。



白装束に漏らした小便が冷えて冷たい。

刑務官に後ろから抱えあげられてしっかり立たされ、

顔を上げると、

首吊り用の太いロープと俺は対面した。



今の時代に首吊り…

残虐極まりない。

俺みたいな死刑囚には、

お似合いの死に方と言いたいのだろうか。



首吊りロープの向こう側は、1面、ガラス張りだ。

ガラスの向こう側には、

俺が処刑されるのを、

見ている奴らがいる。

俺は、刑務官に

後ろに手を回され、

手錠をかけられ、

足首はロープで固定された。



足元を見ると、

特殊な床だ。

枠線がある。

どうやら、開く仕掛けのようだ。

ドラマでは

「バターン!」と、大きな音をたてて開き、

死刑囚が落下すると、

首のロープが締まって窒息死する、

昔ながらの首吊り装置だ。



首から縄紐をかける前、

刑務官に言われた。

「最後に、言い残すことはないか?」

「優順(ゆうじゅん)さんにはぁ、

わわわわ悪いことしたと思ってるぅぅぅ、

ででででででも、おっおっおっ俺は…悪くない、

パパパパパパパ、『パワハラパレス』が悪いんだ!

俺は、騙されたんだぁぁぁぁぁー!」



「それだけか?」

「おおおお父さん、おおおおお母さん…、

もももうすぐ、一緒になれるね…

いいいいや、俺だけ地獄に行くのか…

ししししし死にたくないいぃぃいぃぃ」





刑務官が俺の目に目隠しを巻き、

首に太い縄をかけた。

俺は泣きながらされるがままになった。



しかし、

ずっと流れていたお経が止まった。

刑務官の手がいつまでも縄から離れない。



何だよ、やっぱり今日は俺の番じゃなくて、

他の死刑囚の処刑のなのに、

俺が間違えて連れてこられたのか?

…しかし、何分止まっているんだろう?

「おぉい、どうしたんだよぅ?」

刑務官は返事をしなかった。

その代わり、

俺の耳元で

地の底から響くような不気味な声が聞こえた。



「おい、無能非才。聞こえるか?」

「?誰だ?」

「お前を死刑から助けてやってもいいぞ」

「?誰だ?本当に助かるなら、助けてくれ!」

「落ち着いて考えろ。いま、時間は止まっている。」

「…えっ」

「どれ、目隠しを外してやる」



俺の頭の後ろのハチマキの結び目が解かれ、

涙でびしょびしょになった目隠しが、

何者かの手によって外された。



刑務官の隣に、さっきまではいなかった

若くて色白の男がいた。

黒いフードを被って、デカい鎌を抱え、

鋭い眼光を光らせて

冷たい視線で俺を見つめている。



「俺は、人間が言うところの悪魔だ。

今、お前を助けてやっていい」


ゲームを続けるなら、

【悪魔】

https://note.mu/morinoringo/n/n3d943a5ee4f9/edit


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