xR(VR/AR/MR)で時間を超えるということ

morioです。
とある会社でxRの研究をしています。

前回は「距離を超える」ことをメインに記事を書いてみました。

今回は「時間を超える」ことについて書いてみようと思います。

■はじめに

まずは廣瀬通孝先生の著書「いずれ老いていく僕たちを100年活躍させるための先端VRガイド」の「時間を超える」の部分が非常にわかりやすいので、引用させて頂きます。

現実の世界は空間と時間から成り立っています。空間軸というのは、目の前に広がっているのでよくわかります。目の前に空間があるということを疑う人はあまりいません。それが時間軸で動いているわけです。
時間と言うものは確実に存在します。でも、考えてみると不思議です。空間のx、y、z軸と言うのはプラス方向にもマイナス方向にも移動できます。つまり、戻ろうと思えば戻れます。ところが、時間のt軸だけは、リアルワールドでは戻れません。時間は一方向にしか進まないのです。
VRで使われるCGプログラムにも4つの軸があります。まず、空間としてはx、y、zの3つの軸があり、その時間的変化はt軸で表します。
現実世界では時間を巻き戻すというのは禁じ手です。しかし、バーチャルな世界の中では時間tも空間x、y、zと同様に扱うことができます。つまり、時間を巻き戻すことができるのです。

時間のt軸を移動できるのはVRに限らず、デジタルならではの利点だと思います。
私たちはt軸をプラス方向に進むしかできませんし、プラス幅の調整はできません。いずれt軸の移動が行われなくなるだけです。

まずはすでに実装されたt軸移動の事例や既存研究などを紹介してみます。
※時間を超えるようなものであっても恐竜時代とか中世など、
 「正解がわからない」ようなものは除外しています。

1.1964 TOKYO VR

・日テレの土屋敏男氏が代表で進めているプロジェクト
・1964年の東京の写真を元にフォトグラメトリーで3DCG化
・渋谷の街はほぼ出来上がったとのこと
・2020年に向けてさらにエリアを拡大する予定

有志の方に当時の写真を提供してもらい、デジタルで復元というのは夢がありますね。渋谷だけでなく、他の土地でも行えるでしょう(時間とお金をかければ)。

2.NHK「特集・明日へつなげよう よみがえれ“青春列車“」

・消失してしまった駅舎や電車を当時の記録、記憶を頼りに3DCG化
・複数人がHoloLensを着用し、復元された駅舎内を共有
・同時に放送用カメラ映像と合成し、全国へ生配信

こちらはTVで見られた方も多いかもしれません。
先端テクノロジーがここまで有意義に使われており、かつそれをリアルタイムで全国に放送するという”無謀な”試みに、TVにくぎ付けになりました。

こちらはホロラボさんという会社がHoloLens周りの実装を行ったようです。世の中にはすごい会社もあるものですね。
放送時の盛り上がりは下記のtogetterにまとまってます。

3.timescope

・観光地にある据え置き型双眼鏡のようなもので過去の風景を見せる
・フランス・バスティーユ広場、セーヌ川などに常設
・一回300円弱と、普通の双眼鏡くらいの値段とのこと

VRビジネスとしての可能性を考えると、いかに簡単に、ノーオペレーション(運用担当者なし)で体験してもらえるか、という点は非常に重要です。
その点、こちらの製品は完全に自動化されており、スケールしやすい形になっていると思われます。
実機を見る機会はなかなか無さそうですが、いつか体験してみたいです。

4.OWL VR

・timescopeと同じ発想のもの
・クラウドファンディングで調達していたが、到達しなかった模様(?)←情報追えず

5.代替現実(Substitutional Reality、SR)

・代表的なところで、ハコスコ藤井先生が実験を進めている(すいません、他には有名な研究者の方を知りません)
・現在進行形の感覚と過去の映像、データを混合させることにより錯覚を起こす。現実との混合。
・過去の自分と今の自分との混合、過去の自分と現在の他人を会話させる、など

6.GoodBrainシニア

・こちらも藤井先生が関連している。
・元は登嶋健太さんが東大稲見・檜山研にて研究していたVR旅行アプリと思われる
・正確には時間の移動ではないが、「思い出」がテーマのVR旅行という点で挙げた
・外出できない高齢者に思い出の場所の360度動画を提供

思い出の場所にVRでなら移動できる。これは距離の超越とも言えますが、この取り組みの中で一番大事なのはやはり個人の記憶、思い出の部分でしょう。VRでただ旅行するのではなく、t軸の移動も伴った体験とすることで、体験者の価値は増大すると考えます。事例1や2で記載した当時の姿の復元を伴うことでより体験はリッチになるでしょうし、きっとすでに研究しているのではと思います。

7.ARまちあるきツアー@清澄白河

昔の写真を実際の風景と重ね合わせて、昔の様子を知るというイベントです。
清澄白河の街をiPadを持ちながら歩き、撮影スポットに着いたら当時の姿をARで重畳させて楽しむというイベントです。

下記の論文に詳しく記載されています。

領域型バーチャルタイムマシンを用いたまち歩きイベントの実現

ARで街歩き体験を拡張するという試みは、今後のモバイルARの標準となってもおかしくないくらいの価値があると思います(歩きスマホはだめよ)。
「ここって前はどうなってたんだろう?」と思った時に当時の写真が見られたら、名所巡りが楽しくなりそうですね。

8.セカイカメラ

セカイカメラにもある意味時間を超えるという側面があったかもしれません。

ある利用者は「子供との思い出をセカイカメラに残す」ということに挑戦していたそうです。

セカイカメラが公開されたその日に,あるユーザーのお子さんが生まれた。そのユーザーは,かわいい娘がここで生まれたというエアタグをセカイカメラで残した。今後は成長の記録をセカイカメラで残していくという。昔だったら,子供が生まれたら写真のアルバムやビデオテープで記録していた。そうした記憶を,クラウド上に残すという人々の考え方や行動に大きな変化が起きている。
(上記サイトより引用)

似たような使い方としては、AR三兄弟さんのデモがそれにあたりそうです。

今後、ARクラウドが当たり前の時代になると、記憶をその場に残すことがもっと簡単になりそうです。
誰かの記憶が可視化されたARの街と言うのも興味深いです。

9.Virtual Time Travel to the Past

t軸のマイナス移動で不幸な過去を振り返り修正することで、未来を前向きに変えられるのではという研究です。
不幸な過去と向き合うことがどれくらいの心理的な負荷なのかは私には考え付きません。ですが、このような手法(あるいは治療)によって未来を前向きにできるのであれば、非常に有用な取り組みと考えます。

■これからの時間超越

現状、t軸をマイナス方向にスライドする事例や研究はそれなりにありますが、将来は未来(プラス方向)にスライドすることも可能となるかもしれません。
t軸をプラス方向へスライドさせるための一例が、IoT分野でよく言われているデジタルツインであると私は認識しています。

 一方、製造ラインにセンサーが取り付けられ、デジタルツインに連携されていれば、問題が発生した際の切り分けを迅速に行うことができる。また、デジタルツインにおいて製造工程のデータをリアルタイムで収集・分析することで「どこでエラーが起こる可能性が高い」かを事前に明示でき、予防的保全を実施することも可能になる。
(上記サイトより引用)

現実を模したバーチャル空間をAIベースで運用させ、明日、明後日、数日後の工場稼働をシミュレートし、事故などの不測の事態をあらかじめ発生させることで、現実のほうは事前に備えられる時代が来るかもしれませんね。
(これが行き過ぎるとマイノリティ・リポートの世界になるのだろうか)

■今できること

天災による被害や経年による劣化などで歴史的な建造物が消失することがあります。
一度失ったものを元通りに戻すのはとてつもなく大変なことでしょう。

デジタルアーカイブという言葉を聞いたことのある方も多いでしょう。
建造物や遺跡など、文化的に残す価値のあるものをデジタルで三次元的に保存することです。

これは、モノだけでなく空間も残せる技術となります。
例えば軍艦島をデジタルアーカイブしている長崎大学の事例や、

ヴェネツィアの街をデジタルアーカイブしているノーベルチョコさんの事例、

銭洗弁天をデジタルアーカイブした藤原龍さんの事例などがあります。

フォトグラメトリや3Dレーザースキャナにより、空間や建造物をデジタルで保存することが現実的に行われるようになってきました。
過去に移動するタイムマシンとは、こうした技術によって保存されたデジタル空間、VR空間へのダイブなのかもしれません。

■最後に

この先私が歳を取って「今」に戻りたいとします(私はいつも昔に戻りたいと思いながら生きている後ろ向きな人間です)。
その戻るべき「今」は今この瞬間しか残せません。
たとえそれが一枚の360度写真だとしても、今残しておけば将来誰かがなんとかしてくれる可能性があります。
今一大ムーブメントを起こしているフォトグラメトリが発展し、一枚の写真からでもモデルを起こせるようになるかもしれません。

その際に必要となるINPUTは、パブリックなものとプライベートなものがあります。

街のデータであればGoogleEarthが時間軸に対応すればいいだけですが、本当に戻りたいのは家だったり、学校の中だったり、Googleさんが入れないところではないでしょうか。
戻りたい時間と場所を何らかの記録として媒体に残すことが、今私にできる時間を超えるための準備なのかなと思っています。

以前書いたスライドから一部抜粋して終わりにします。

それでは、よい時間を過ごしましょう。

2019/6/14 morio




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