推しが結婚した寂しさの理由を知る話

 星野源さんが結婚の運びを発表してから、一週間と少しが経った。
いまだにふと思い出しては「えっ、ガッキーと結婚したんだ!?」と驚いてしまう。


 結婚の発表があった当日、仕事終わりにスマホを付けたらなんだかいつもと様子が違う通知がたくさん届いていた。「星野源」「結婚」の話題の通知ばかりで「なんだろう、共演者の方が結婚して、それに星野さんがコメントしたとかかな」とツイッターで調べたらなんと、星野さん本人が新垣さんと結婚したと書いてあるじゃないか。

えええええええええ!!

今思い返してもにやけてしまう。嬉しすぎて閉店後の店の駐車場で小躍りしそうになった。感動のあまり、帰宅後に親友と星野源と新垣結衣のコイバナを深夜二時くらいまでした。ちなみにこの親友とは自分たちのコイバナをしたことは無い。
「あー、なんて幸せな出来事なんだろうか」そうウキウキしながら、床に就いたのだった。

 朝を迎えた。朝六時五十分に目が覚め「あ、今日は早起きしなきゃいけなかったのにな」とちょっと後悔した。
「ん?なんで早起きしなきゃいけないの」
「そんなのあさチャンを見るために決まってる」
「は?なんであさチャン見んのさ。いつもの朝見てるのと違う局じゃん」
「そんなの、あさチャンは星野源と新垣結衣特集をするに決まってるんだから」
「は?星野源と新垣結衣?……そうか、星野さん結婚したんだ」

結婚したんだ―――。

もう一度布団をかぶった。星野さんは結婚したんだった。昨日は動かない膝で小躍りしたくなるくらい嬉しかったのに、猛烈にさみしい気持ちになった。なんでだろうか。悲しくはなかった。嫉妬とかでもなかった。でも、ぽっかり気持ちに穴が開いてしまったのだ。仕事ができないほどではなかった。純粋に結婚は嬉しいのに、なんだか秋がやってきたような気持ちになった。


 そうして、著名人の方のおめでとうコメントを収集する一週間が始まった。途中で星野さんの三十ページ特集が組まれている雑誌が届いたが開封する勇気が出ず、いまだにゆうパックの段ボールから日の目を見ていない。オードリーの若林さんの言葉、鶴瓶師匠の言葉、バナナマンのお二人の言葉、ほかの皆さんのお言葉すべて素敵だった。フワちゃんと佐久間さんの古参合戦も最高に笑ってしまった。それでも、まだ、寂しい気持ちがあった。

 ついにやってきた火曜日二十五時、の前に、囲み取材の速報があった。
星野さんがニッポン放送の裏手駐車場に現れたのだった。なんだかにこにこしていて、報道陣と笑いを交わしていた。「あ、幸せそう!」と思った。当り前じゃないか。こんな出来事、幸せに決まってるじゃないか。いそいそとPECCORIを見せている姿が尋常じゃなくかわいかった。記者の質問に対してちょっと照れながら困ったように「「ラジオを聞いてください」と言ってくれたのは本当にうれしかった。ラジオで話したい、そう思っていたのだろうか。


 そうして始まったラジオ。星野さんの「人生で映る景色が変わった瞬間の話」をしていた。深い話が始まった最中「今日はゲストにこの方を……」との言葉。これは新垣さんじゃないのか。絶対に新垣さんだ。そうだ。絶対そう。なんか変な笑いが起きているけど絶対に
「新婚のディレクター野上君です!」

クソが!

うん、じゃあもう、野上君の幸せ新婚エピソードが聞けるのか。
と、思いきや野上君が語ったのは、ガチで家を追い出された話だった。
なんだこのラジオ。


 その後、ファンからの噂話メールに対してのファクトチェックが行われ、ジングルのコーナーも下ネタで結婚を祝われていた。このラジオを初めて聴いた人卒倒しない?大丈夫?大丈夫。深夜ラジオなのだから。


 そんな爆笑の中で、新曲の「不思議」が作家、寺坂さんの前口上とともに流れた。前口上で、笑いながら泣いてしまう寺坂さん。本当にこの言葉が温かかった。

 寺坂さんは、このラジオの作家さん。星野さんの苦しいときも頑張っているときもずっとラジオブースの中、星野さんの言葉に相槌を打ってきたのだろう。
 寺坂さんは、星野さんに話を振られると必ず「作家の寺坂です」と言っている。そんなこと言わなくても別にいいのに、と思うけれどそうしないところが、寺坂さんの素敵なところだと思う。

 寺坂さんは前口上で「星野さんが苦しそうなときに、何とかして救ってあげたいものだと思った。でも、もうそばにいてくれる人がいますね。苦しみは半分に、喜びは二倍に(意訳)」と語った。

 星野さんの近くにいたのに、その苦しみと孤独をどうにもしてあげられなかったという葛藤をANNのチーム全員が抱いていたのかと思うと、こちらも胸が締め付けられる思いだった。それでも、寺坂さんが泣いて「パートナーが現れてよかった」と語る声は、リスナーの心にも響いた。


 世間が「逃げ恥婚」で盛り上がっていて、「星野さんと新垣さんが結婚して嬉しい」であふれる中で、「いつも目の前にいた人がパートナーと幸せになる日が訪れて本当にうれしい」と語り「不思議」につなげた寺坂さんに、スマホの前で拍手した。だって、そのあとの「不思議」がウェディングソングのように聴こえたのだから。しかも、「星野さんと新垣さんのウェディングソング」ではなく、もっと普遍的にあるラブソングだったから。めちゃくちゃ泣いた。

そのあとにいつもどおり国性調査の口上をさせられる寺坂さんは可哀想で笑ってしまった。


 ラジオが終わって、Creepy Nutsのラジオを聴きながら、もう寂しいという気持ちが無くなっているのを確かに感じた。


 星野さんが結婚してしまい、寂しいと思うのは「画面越しに映る憧れの星野源」が結婚してしまう喪失感からだった。

 でも、そうじゃない。結婚したのは画面越しのスターではなく、チームや友人たちから「結婚おめでとう」と温かく祝福されるごく普通の男性だった。

私は、画面越しの星野さんのことしか知らないけれど、この結婚をごく普通のこととして暖かく祝福する一人の人間でありたいと思った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?