見出し画像

会えなかったひと、やまぐちめぐみさんを想う

 やまぐちめぐみさんと私は全く面識はありません。しかしやまぐちさんが8年前お亡くなりになられてから、時折彼女について何かしら書いて伝えたいと常々思っていました。

 8年前わたしはアクションwebで「なのなフォトゴロー」を描いていました。4巻の43話「教室」アートフラワー教室に通うさえない主人公のゴローが、課題で将来の夢の店舗の絵を描くことになり、ヒントを探す為街中をぶらつきます。以前不動産屋の前で見かけた女の子にグループ展のチラシをもらいギャラリーに入ると、ファンシーでかわいいイラストが並んでいて、ゴローには縁のない可愛いモノ好きの女の子ばかりの居心地の悪い空間でした。

「なのなフォトゴロー」4巻より
「なのなフォトゴロー」4巻より

華やかなギャラリーの一角に、身近な野の花々の絵があり、特に目を止めたのはスミレの下に佇む小さい女の子の姿を描いた一枚でした。
「菫程な 小さき人に 生まれたし」という夏目漱石の句を思い出します。小さく目立たなくてもスミレのように優しく咲いていたいという解釈のような気がします。これを気に入り作者を紹介されます。お互い挨拶するだけですが、何かしら通ずるものを感じます。ゴローはこの出会いのおかげで課題の重大なヒントをもらいます。

「なのなフォトゴロー」4巻より
「なのなフォトゴロー」4巻より
「なのなフォトゴロー」4巻より
「なのなフォトゴロー」4巻より

 この絵は実際にやまぐちさんが描かれたイラストを元にしています。私はゴローのようにギャラリーでやまぐちさんの作品を見ました。愛らしく淡く優しい絵の群れ、やまぐみめぐみさんの紹介文は、絵も描いて…えっコックさん?ぬいぐるみも作るんだ⁉
 すこしやまぐちさんに興味が出て来ました。一番気に入った絵は、雪の中に立ちまっすぐこちらを見つめる少女の姿が描かれたものでした。姿見程の大きな作品で、置き場所を考えたら収まる所がないので購入を諦めました。

一番気に入った絵


 またやまぐちさんが個展をされたら来よう、出来れば本人にお会いしたいなぁ、次の個展のお知らせを逃さないよう彼女のTwitterをチェックするようになりました。

 やまぐちさんは肺のご病気だったようで、Twitterでは熱が出たこと、治療を受けたことなどが報告されていました。あとはおはよう、朝の空や雲や風や雨、おやすみなさい、美味しかった料理やお友達の活動、あぁこのひとはホントに美しいひとだなぁ、短い行間にやまぐちさんの人柄がしのばれました。

 それからどうやら入院されたようで、病室からツイートをされるようになりました。辛そうな治療のご報告もありましたがそれは短く、相変わらず朝晩のあいさつ、空や風や雨、食べ物とお友達のこと、そして2015年8月31日に「ありがと、みんな」と言うツイートを残し、やまぐみめぐみさんは次の日にお亡くなりになりました。
 たった3ヶ月程の一方的なコンタクトでしたが、なんとも掴み所のないモヤモヤした悲しい気持ちが続いてしまい、やまぐちさんが勤めていた中野の料理店カルマ跡にも立ち寄り、やまぐちさんのイラストが残っている下高井戸の可愛らしいギャラリーにも行きました。そこで購入させて頂いたのは青い目の女の子のイラストで、日付けは8月2日になっていました。オーナーさんが「入院なさってたのに、ずっと描き続けてたのねぇ…」

2015年9月7日、下高井戸のぎゃるりでんぐりへ

 なんと言ってよいのか、もっと早く彼女を知りたかった、絵もたくさん見たかった、会いたかった。
わたしは彼女が好きでした。

うちにお迎えしたコ

 心の痛みを留めておくかのように、やまぐちさんの絵や絵本をそばに置いて、時折眺め一度も会っていないその人を時折想います。
 絵や美術作品を、自己の主張のために汚したり抗議の道具にする一部の環境団体の行動を虚しく思います。
個人の生きた証や思いは見る側の経験と心の反映でもあります。やまぐちさんのことについてだけ書きたかったのですが、美術とは何ぞやと問われた時、仕事でもありますが、声を出すように自然と描かれる線や色と物語は独立した人間そのものであると思います。だからそれを壊してはならないのです。今回やまぐちさんの画集が新装版で出されました。お友達だった方やお仕事を共にした方々のやまぐちさんを偲ぶ文章で、彼女が皆に愛されていた様子が本当によくわかります。

あまり良くない世の中かもしれませんが、大切な思い出、好きなもの、もう個人の胸の内にしか住まないモノ達を大切に抱えて生きたいとわたしは思います。

森下裕美


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?