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トイ・ストーリー4は居場所のないオッさんが救われて泣ける映画

子どもができると頭がおかしくなって子どもが成長する話を見ると涙腺が壊れるのですよね。その意味でトイ・ストーリー3は傑作でした。ウッディがわが子のように見守ってきたアンディが決定的に成長する話なので。トイ・ストーリー4も泣けるんですが泣ける理由が違うんですよね。こっちは居場所のない定年世代のオッさんが救われて泣ける映画です。高齢者向け。

以下ネタバレなので鑑賞後にどうぞ。

家庭内で存在感がなくなり仲間たちのあいだでもリーダーシップが発揮できなくなって「いい人なんだけどねえ」枠に入ったウッディが身ひとつでやってきたタフな美人ボー・ピープと再会し静かに恋をして家族や仲間たちから離れて第二の人生を生きていくという隠居ストーリーが今作でした。

1作目から3作目までウッディは持ち主アンディの成長を見守る保護者代わりでしたが3作目でアンディが一人立ちして今作ではついに保護者としての役割も終えました。まあボニーが遊園地でなくしたんだと思うんですがそれがきっかけでボー・ピープたちと新たな関係を築くことができました。ボーイスカウトを思わせるアメリカっぽい保護者のお役目お疲れさまでした。

同時におもちゃたちのリーダーという社会的役割も終わりました。もともとベテランであるウッディは1作目の時点で新世代のバズにリーダーの座を追われそうになり焦ったりしていたのですが、行動派で人情味のあるオッさんとして仲間たちに親しまれてきました。しかしいまや考えなしに動いて周りに迷惑をかけるオッさんとなりつつあり本人もそれを自覚して身を引くことになりました。みずからの正義を信じて行動していくアメリカっぽいリーダーのお役目お疲れさまでした。

アメリカ映画好きの後輩くんはこれぞ現代アメリカ映画の潮流だとばかりに「グラントリノだ!」「運び屋だ!」と興奮しておりました。ウッディがコカイン運んでるのか…というかファミリー映画の主役が引退間際のオッさんでいいのか…とも思ったのですが考えてみればトイ・ストーリー1作目はもう24年前なのですよね。1950年代製で当時40代だったウッディは60代になり孫世代のボニーを見守っています。主人公が観客の年齢を反映していると思えばようするに年をとったのです。

ただその割に高齢化のコンセプトがいまいち貫ききれてない感じもするんですよね。後輩くんがプロデューサーにインタビューしたところによればジョン・ラセター監督が例のセクハラで退社した後ラブストーリーだった企画が「冒険の物語のなかにちょっと愛がある」くらいの話に変わったらしくて、ウッディがボー・ピープとの恋愛を通じて喪失感を克服していくという本筋の心理描写がわかりづらくなってしまったのでは…と想像しています。

自分の居場所はおもちゃ箱ではなくゴミ箱なんだと思っているフォーキー、自分もアンチエイジングすればまた愛されるはずだと思っているギャビー・ギャビーみたいにウッディの喪失感を対照的にあらわすキャラは出てくるんですが、ボー・ピープとの恋愛要素が薄いため、新たな居場所を選ぶラストの決断や「彼女は大丈夫だ」というバズのしびれる台詞は若干唐突感があります。冒険という割にアクションはイエスアイカナダくらいだし、バズが鍵を入手するくだりはただのギャグだし。シャイニング的なホラーシーンは好きだったんですが。

レビューサイトでの評価はかつてなく低いです。「ボニーがウッディをなくすなんてアンディへの裏切りだ」みたいな過激派もいて「気にしすぎじゃない?」と思ったのですが、これも観客がラブストーリーに引き込まれなかったために「ウッディよかったね」と素直に納得できなかった部分があったんじゃないかなと思いました。ただ後輩くんが海外と比べたところ日本は突出して評価が低かったらしいので日本人がキャラとしてウッディを愛しすぎてる可能性もありそうですけど。

そう思うとジョン・ラセターは良くも悪くも現代の潮流をオッさん目線でよく見抜いていたのかもしれないです。まあセクハラは最悪なんですけど。

とはいえ3作目の後日談としてはよくできていたしウッディとギャビー・ギャビーの決心もそれぞれに泣けたので個人的には満足でした。ファミリー映画としてのトイ・ストーリーは終わったのかなという印象もあったのですが。次作は老いていくウッディとそれを支える地域の人たちの話ですかね。やっぱ現代アメリカ映画の潮流である性的指向のアップデートがテーマとされるアナ雪2にも期待です。

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