サスペンダーズのコント『面接』がどっちも狂気過ぎて最高な件

なんで僕のことブロックしたんですか?

一応、録音してます。
https://www.youtube.com/watch?v=f5hvTcICuAQ

『面接』サスペンダーズ

 男女問わず、本音で語り合うことを避ける人達がいる。私の感覚では、男の方が本音で語りたがり、女の方が本音で語りたがらない割合が多い。
 サスペンダーズのコント『面接』では、本音を知りたがる男(ショウゴ)と、本音か嘘か分からない言葉を放つ女(タカコ)が登場する。
 面接系のコントにおいて、サスペンダーズには『最終面接』というコントがある。面接官のノートPCに大量に貼られたステッカーを見て、「なんか嫌だな」と思いながら、就活生が翻弄されるコントだ。
 『最終面接』では、面接官が依藤さんで就活生が古川さんだったが、『面接』では逆になっている。
 
 冒頭から、古川さんの細かい仕草が際立っている。就活生の姿を見た瞬間に、両手を頭の方へ持っていき、「うわ、まさか・・・」というような態度。そして、就活生である依藤さんの自己紹介を聞いて、展開が加速していく。
 面接官である古川さんが放つ、「マッチングアプリで会いましたよね?」というフレーズが素晴らしすぎる。現実の世界でありえそうな、絶妙なラインを貫いたフレーズだと感じた。
 少なからず、マッチングアプリをやったことがある人間であれば、どこかで一度は想像をするのではないだろうか。

 マッチングアプリで知り合い、その場では盛り上がったにも関わらず、翌日には何の理由もなくブロックされ関係を遮断される。その哀しみを抱えつつも「どこかで会えるかもしれない」という蜘蛛の糸を手繰るかのような幻想に縋っていたら、まさかの場面でまさかの再会。これってもしや、運命!?などと、神のいたずらにぬか喜びしてしまうだろう。

 そして、『面接』では、まさかの面接官と就活生という立場でそれが実現する。面接官側としては、これほど自分に都合の良い立場はない。だからこそ、「なんで僕のことブロックしたんですか?」という古川さんの一言に、男の抱える、強烈な業を感じるのである。

 男は夢想家である。モテない男となれば、なおさら夢想家の傾向は強くなるであろう。すぐに人を好きになり、気さくに女に話しかけられると、すぐに「おや、この女、俺に惚れているな?」と勘違いする。それが、モテない男の抱える哀しみである。(個人差あり)

 そうして、勘違いのレールを暴走列車並みにひた走った結果、タブー視されているような話を得意げに語り始める。男は、女に理解されたいがために、自分が愛しているものを同じように愛してほしいと傲慢にも思う。そういう生き物なのだ。おそらくは、自分が関心のある事柄であろう『フリーメーソン』のことをさらけ出し、楽しい時間を過ごし、お互いに仲良くなれたと、面接官である古川さんは思っていたに違いない。だからこそ、その関係が一瞬で断ち切られてしまったことに、思い悩む瞬間があったのだ。
 
 そのような背景が語られることはないが、「なんで僕のことブロックしたんですか?」という一言だけで、見る者に強烈に感じさせる哀しい過去がある。この発言の後に、とびきりの笑い声が沸き起こるのは、おそらくは古川さんのような男を振ってきた女たちの嘲笑と、古川さんの気持ちが痛いほど分かるがゆえに、そこに切り込んだか!という絶賛の笑いであろう。

 もはや面接というシステムを利用して、マッチングアプリで自分との関係を断ち切った女への復讐者と化した古川さんは止まらない。自分の悲しんだ過去を打ち明け、就活生であるタカコから「これって面接ですか?」と聞かれて、食い気味に「面接です」と言い切る。

 面接官である古川さんは狂気を爆発させる。ブロックした理由なんて、ブロックされた後に会う以外に知る方法は無い。いわば、千載一遇のチャンスに居ても立っても居られず、本来の目的を捨て去ってしまう古川さんの、人間としての愚かさ。そこに面白みがある。先にも述べたように、男は本音を知りたがる。それが自分にとって、納得のいかないものであればあるほど。

 そんな、どうしようもない狂気を爆発させた面接官に対して、タカコはまるで歴戦の武士のごとく、一太刀、一太刀、確実に相手の攻撃をいなしていく。

 タカコの切り返しの見事さを、女性はどのように見るのか気になる。そう、この切り返しを行う女の心理が私には分からない。私は、ここに「本音を語りたがらない」女の姿を見るのである。

 たった一言、「あなたが嫌だからです」ということを言わない。女とは、時に残酷なまでに、そのような本音を隠して言葉を放つ。
 現在の自分の立場のみならず、周囲との関係性、この先に構築されるであろう未来の関係性、ありとあらゆるものを考慮して発言をする。それが、女の持つ社会性である。最後の最後まで、本音を出さない。それは、本音を発することによって、二度と修復不可能になる関係性というものがあることを、女自身が知っているからに他ならない。さらに言えば、女が本音を放つときというのは、最終手段であり、一世一代の大勝負の時である。

 私が思うに、タカコには「就職」という目的がある。そのためには、目の前の面接を突破しなければならない。たとえ、それを判断する面接官が過去にマッチングアプリで知り合い、自分がブロックした相手だとしても。女とは、男が想像している以上に、覚悟のある生き物であるのだ。

 という深読みはここまでにしておき、タカコの見事な切り返しに、面接官の古川さんは口笛を吹く。「やるじゃねぇか」の口笛である。
 自ら面接の目的から脱線したにも関わらず、就活生に本来のレールに戻されるという屈辱を味わう面接官・古川。もはや致命傷ではあるが、古川さんは必死に食い下がる。男は、理由がほしいのだ。どんな場面においても、自分の納得できる理由が。それが哀しきかな、振られた方の抱える悩みであるのだ。

 おそらくは、自分で自分を納得させる理由を幾つか考えていたのであろう。古川さんは様々に仮説を言い放つも、タカコの「話がつまらなかったから」という一撃で瀕死の状態に陥る。

 ここに、タカコという女の狂気が溢れ出している。あえて主語を『話が』にすることによって、直接的に面接官である古川さんを傷つけていない。あくまでも『話が』つまらないのであって、『古川さん』がつまらないわけではないことに注意しなければならない。女は、見事なまでに人を傷つけない話術を体得している。男は、これに見事に騙されやすいので注意しなければならない。女というのは、いついかなる場合であっても、自分が不利になるような発言は避ける。そのような、絶妙な関係性を相手と構築するがゆえに、時代を経るごとに言語が形を変えるのだと勝手に私は思っている。
 
 さらに言えば、『話がつまらなかった』という発言のあとで、タカコは古川さんを肯定する。自分がブロックをしたのは、あくまでも『話がつまらなかった』からであり、古川さんを否定するのではなく、むしろ肯定するからこそ、一緒に働きたいのだと言い放つ。ぐうの音も出ない理屈である。男は、生涯、女には口では勝つことができないかもしれないと思い知らされる。だからこそ、情けない男ほど暴力に走るのだと言いたい気もするが、それは話が逸れるからやめておこう。

 まさに、手のひらで転がされ続ける面接官・古川。追い詰められた古川さんは、禁断の提案をタカコに伝える。さすがのタカコも古川の要求にたじろぐ。

 そして、最後の最後でタカコも切り札を見せる。それまでの面接官・古川の愚行を、すべて白日の下にさらけ出そうとする。この態度たるや、まさに相手の息の根を止める行為なのだ。女が全てこのような用意周到なる計画を立ててきたら、どんな男が太刀打ちできるというのか。韓国の俳優並みにイケメンになれば、このようなトラップにいちいち頭を悩ませることなく、ただ顔がカッコイイというだけで、世の女性とデートを楽しむことができるというのに。果たして、顔が良くない男はどう生きていけば良いというのか・・・
 話が逸れた。
 面接官・古川はついに敗北宣言をする。そして、そのあとでタカコがぼそりと呟く言葉。このコントは、まさに徹頭徹尾、互いの狂気がぶつかり合う、非常に高度な戦いであった。少なくとも、私にはそう感じられた。
 できることならば、これを女の立場から見た感想を聞きたいところだ。私は完全に面接官・古川側の人間なので、タカコのようにモテない男をブロックするという経験がない。おしなべて言うことでもないが、去る者は追わず来る者は拒まずの精神である。かつ、なるべくならストレートな物言いをするほうであるから、タカコのように、絶妙な論理を構築する女の考えというものが、正直良くわかっていない節がある。そんなことを書いたところでどうしようもないのだが、ほんの少し興味があるのだ。
 改めて思うが、サスペンダーズのコントにおけるタカコは、超イイ。これまでも『フクロウカフェ』などでタカコは出てきたが、どれも超イイ。どういう経緯でタカコが登場したかは分からないが、私としては超イイという言葉に尽きる。もっと、タカコが出てくるコントを見たいという思いが強くある。同時に、古川さんのどうしようもなさが、今後、どんな風にエスカレートしていくのか、どんな形になっていくのか興味が尽きない。
 サスペンダーズのコントには、こんなことを私に語らせる魔力がある。本当に、語りつくせないほどに素晴らしいコントばかり生み出すサスペンダーズ。Youtubeのコメント欄を見ると、本当にサスペンダーズが愛されていることが分かる。この勢いで、必ずやキング・オブ・コントで良い結果を出してくれるに違いない。
 サスペンダーズの凄まじさに圧倒される。こんなにも語りたくなるコントが、いまだかつて他にあっただろうか。途方もなく間違えていても、私はとても楽しんだ。これが私の楽しみ方である。誰の文句も聞く気はない。
 サスペンダーズ、面白くて恐ろしいコンビだぁ。

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