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スパサピはいい役者に出会いたい

基本的に抜擢心の強い自分は、映画祭等でインディーズ作品を100本以上観て、年間2桁台の舞台を観る。そこで新しい俳優さんに出会いたいからだ。昔、ある舞台女優さんに言われた「テレビに出てなくても上手い俳優はたくさんいるわよ」と。元々、以前から舞台で見つけた俳優さんを連続ドラマに連れて行きたい派の僕は深くうなずいた。

映画祭での出会い

2017年から5年間続いた「ええじゃないかとよはし映画祭」で僕がどうしてもやりたかったこと、それは、インディーズフィルムコンペティションだった。コロナの影響で現時点では2回しかやれてないが、そこで出会った作品は合わせて300本近い。その作品群に複数登場している俳優さんが気になった。根矢涼香さんと手島実優さんだ。インディーズ界のミューズと呼ばれる2人の出演作はやはり気になるものが多かった。もちろん、池袋や新宿の映画館で上映されるようなインディーズ作品でもよく見かけていた。どうしても気になる。となると抜擢心が発動する。根矢さんには内田英治監督の作品に、手島さんにはAmazonプライムの連ドラ「東京ラブストーリー」に出演して頂いた。インディーズ映画界にもテレビに出ていないがとても魅力的な俳優さんが沢山いるのだと気づかされた。

舞台での出会い

随分と時間を遡るが、僕がフジテレビ時代にプロデュースした「沙粧妙子 最後の事件」というサイコサスペンスドラマで連続殺人事件を操る犯人=カジウラという役を探している時だった。既成の俳優ではすぐに犯人だとバレてしまう。ここは、新しく、そして魅力的な役者さんが必要だと思った。当時、良く読んでいた雑誌「ぴあ」の演劇情報を見ていたら、大阪のMOTHERという劇団が東京公演をすると載っていて、そこに映る主演の俳優の写真が飛び込んで来た。升毅さんだった。僕はすぐさま劇団にお願いして新宿での公演にお邪魔した。舞台上には物凄い色気のある升毅さんが輝いて存在していた。「この人しかいない」と思い、公演後の楽屋を訪ねた。1人先に升毅さんと話している人がいた。何を隠そう、本広克行監督だった。本広さんが去った後、僕は升毅さんに会うやいなや「連ドラに出て下さい!」とお願いしていた。当時のフジテレビのゴールデンタイムのドラマにいきなり抜擢を申し出たのだ。それ以来、僕は舞台を沢山観るようになり、そこに金の卵を見つけに行くようになった。

結婚式で見つけた役者

山崎樹範さんとはドラマ「天体観測」でご一緒したが、これも大抜擢だった。山崎樹範さんはカムカムミニキーナの劇団員で、劇団の先輩の八島智人さんの結婚式に僕が行ったことがきっかけでドラマ出演が決まった。彼は二次会の司会をしていた。しかし、予定時間を過ぎても新郎新婦が到着せず、彼は汗をかきかき場を繋いでいた。そこには三谷幸喜さん、鴻上尚史さんなど演劇界の大御所が居て、当然山崎樹範さんは大先輩たちをお待たせしている中、司会者として場を繋いでいたのだ。その時、僕はドラマのキャスティング中で、魚屋の健太という役が決まっていなかった。一緒にいた脚本家の秦建日子さんに「健太って、あんなイメージですよね?」と話すと秦さんも「良いですね」と乗ってくれた。

大手事務所にいなくてもドラマに

山崎樹範さんを抜擢するには、色んな段取りが必要だった。テレビ局から推薦された大手事務所に所属する他の候補にもちゃんと会った。その上で、やはり山崎樹範さんがいいと思い、それを突き通した。「天体観測」のポスター撮影の日に伊藤英明、坂口憲二、オダギリジョー、小雪、田畑智子、小西真奈美、長谷川京子が待つスタジオにメイクさんがやって来て「健太役の人が来ないんですけど」と言った。え?となり、探しに行くと、廊下のベンチに山崎樹範さんがポツンと座っていた。メイクさんはスタッフさんだと思っていたらしい。メイクを終えて、共演者のいるスタジオに山崎樹範さんが入って行くと全員が口を揃えて「わぁ!健太だぁ!」と声を上げた。全員が彼の抜擢に納得した瞬間だった。

時代と共に抜擢は少なくなるのか?

いい役者は沢山いる。だけど、テレビ局や大手映画会社のプロデューサーやメジャーな監督が彼らに出会おうとする事は少なくなった。局や製作委員会を納得させるキャスティングが求められ、視聴率が取れる、動員力のある俳優(まずもってその定義がよく分からないのだが)ばかりを起用するようになった。毎回同じようなキャスティングになってしまうのはそれも原因だと思う。新しいスターは大手事務所に所属して、テレビ局や映画会社とマネージャーが結託して持ち上げて行く。新人でもいきなり主役。その時点での演技力は正直しんどい。それでも、起用しなくてはならない。僕はそれに疑問を抱かずにいられなかった。新しい俳優を見つけ出して、沢山の人に知ってもらう。これこそ、プロデューサー冥利に尽きる。しかし、時代と共にその流れは消えてしまったのか?

オーディションでの出会い

映画『ミッドナイトスワン』で一果役を演じた服部樹咲さんは事務所無所属の演技未経験者だった。バレエマストのオーディションを行い、面談の一組目にいた彼女に僕も内田英治監督も釘付けになった。雰囲気は一果そのものだった。簡単な演技を見せて貰い、次の組に移った。監督と僕は服部さんを超える人をその後見つけられなかった。次のオーディションでは大きなスタジオを借りてバレエを見せて貰った。初めて彼女のバレエを見た僕たちは、涙を流すほど感動した。バレエの持つ力、そして、服部さんの持つ魅力を合わせて一果を作って行こうと決心した瞬間だった。もちろん、その後の内田英治監督による演技レッスンはとても厳しかったのは言うまでもない。しかし、服部樹咲さんの演技は映画を観れば誰も未経験者だったとは思わないだろう。彼女がバレエの厳しいトレーニングを子供の頃から続けて来た努力と相まって、日本アカデミー賞やアジアンフィルムアワードの新人俳優賞まで獲得するとは、オーディションを受けた時には本人も関係者も予想だにしていなかっただろう。

センスとパワーとチャンス

エンターテイメントの世界では、センスとパワーのどちらかが先行する。既にセンスを持っているが、パワー(実力や努力)が足りない。逆に努力を惜しまないが、センスがまだない。どちらもいきなり持っている人も時々いるが、どちらかがどちらかを補完し合って時間をかけて磨きがかかる人もいる。センスとかパワーとかをいきなり突き抜けてしまう、それがチャンスと言われるものだと思う。前述のように、映像作品を見てもらって、舞台を見てもらって、オーディションで見てもらって、はたまた汗だくの司会を見てもらって、と、チャンスは常にあるはずだ。それを自分で掴みに行くべきだと思う。常にアンテナを張るべきだ。そして、自ら動くべきだ。事務所に入ったからと言って、チャンスを掴む努力をしなければ、何も始まらない。事務所に入ることがゴールではない。僕はフリーの役者であってもチャンスはいくらでもあるのだから、それを掴みに行くべきだと思う。むしろこれからはフリーの方がチャンスがあるのかも知れない。自分の判断で自分の役を掴めるのだから。

精神的フリーな俳優

堤幸彦監督が「精神的フリーな俳優オーディションをやりたい」とSUPERSAPIENSSのミーティングで言い出した時、物凄くワクワクした。フリーだろうと事務所にいようと関係ない。精神的にフリーな俳優に出会いたい。つまり、モノづくりのプロセスをなるべく多く共有しながら作るこのプロジェクトでは、精神的フリーは大きなキーワードになる。プロセスを見せたがらなかったスターたちとは違うアプローチだからだ。今後、原作づくりから映像化の一気通貫を目指すスパサピのプロジェクトは進化していき、間違いなく新しい俳優たちとの出会いを大切にすることは明確だ。本当に物語に合っている俳優を見つけ出したい。新人であろうが、ベテランであろうが、演技未経験だろうが関係ない。大きな夢を共有出来る役者さんを僕らは求めるだろう。まずは出会うこと。それをなるべくすべきだと思っている。

https://financie.jp/users/supersapienss/cards

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