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公認会計士にとっての内部監査というキャリア

(画像はヨセフがキリストが生まれる馬小屋で寝床を準備しているところ)
皆様こんにちは、年の瀬で慌ただしい日々を過ごされている方、コロナも一区切りで数年ぶりに忘年会のラッシュで楽しくも忙しい方など色々かと思います。
本日は、4つの会社の内部監査部門で働いたことのある私から、公認会計士にとっての内部監査というキャリアについてお話しさせていただきます。

内部監査は人材不足

内部監査の状況は企業により多種多様で、重視されている企業もあればそうでもない企業もあり、一概に論ずるのは難しいのですが、傾向としては金融系・外資系は比較的充実しており、日系企業はそれほどでもない、また上場準備企業などは上場のために内部監査人材を配置することを求められているが、なかなか人材が確保できていない、というのがおおまかな分析です。また、コーポレートガバナンスコードや改正後の内部統制基準などでも重要な役割が期待されている専門職的な位置づけですが、多くの企業の実態がそのような期待に応えられるものとは言い難いです。要するに、非常に人材不足の領域です。国際的にはThe Institute of Internal Auditors (IIA、内部監査人協会)という組織があり、Certified Internal Auditor (CIA、公認内部監査人)という資格も存在しますが、会計監査における会計基準や監査基準のような強制力があるものではないですし、CIAの資格がなくても内部監査に従事することは可能ですし、内部監査の報告書にCIAの署名が必要といったこともありません。

公認会計士と内部監査業務の親和性

日本では公認会計士のセカンドキャリアとして内部監査はそれほどメジャーではないと思いますが、他の国ではBig4出身の会計士が事業会社の内部監査に転職するのは珍しくありません。アジアなら中国やシンガポールだと、大半の内部監査人がUSCPAなどの資格保持者で占められている会社も多そうです。したがって、内部監査の仕事の進め方も、会計監査と類似している点は非常に多いです。事前にリスクの高そうな領域を想定して計画を立て、必要な資料を入手してインタビューを行い、あわせてプロセスのウォークスルーやサンプルテストを実施して問題点を検出し、改善を求める報告書を提出する、という一連の流れは公認会計士ならおなじみのステップでしょう。
内部監査の書籍などに、会計監査はあくまで会計のみを対象としているから範囲が狭いが、内部監査は全ての業務を対象としているので、会社のプロセスやビジネスに対する広範な理解が必要、などと書かれているのを見ることがありますが、現在の会計監査は見積もりの妥当性検証の要素が重要であることもあり、単に数字をチェックするだけでなく、会社のビジネスや今後の見通しなどについての広範な理解が必要とされており、この点も内部監査へのシフトにあたってポジティブに働くでしょう。また、会社の問題点は結局のところ会社の利益や財産を損ねることにつながるものに集約されますので、会計に関する十分な知識があることは、内部監査においても大変有用です。
私は監査法人から転職してきた会計士の方も、社内異動で他部署から内部監査部門に来た方も大勢見てきましたが、やはりキャッチアップが早く、すぐに戦力になるのは会計士の方だったという印象を持っています。

会計監査から内部監査に移るにあたって注意すべき点

類似点が多いとは言っても、やはり相違点もあります。まず、現在の会計監査が監査基準や多くの監査基準委員会報告に沿って厳密に行われているのに対し、内部監査の実施方法は、「これを守らなくてはダメ」というルールは多くの場合存在せず、各企業ごとの方法に従って実施する点が大きな相違点です。
また、会計監査の場合、とにかく期限内に実施すべき監査手続をすべて実施し、(基本的には無限定適正の)監査報告書を提出することが目的になっています。これに対し内部監査は、会社のプロセスの改善につながるような有用な指摘事項を出すことによって会社に貢献することが大きな目的となります。このため、重要な指摘が発生した場合にはそちらの確認にリソースを振り分け、それ以外の部分の確認を簡略化することも考えられますし、十分な確認や、監査対象部署との今後の改善についての合意が得られない場合には、監査のスケジュールを延長するケースも珍しくありません。
会計監査の場合、問題となるのは主に会計基準に適合した処理・開示となっているかですが、内部監査の場合、重大なものは法令違反から、社内ルール違反、さらには特段のルールに反しているわけではないが、業務の効率性を阻害していると考えられる点まで、指摘の対象となります。特に業務の効率性の話は、どうしても内部監査人の主観が入りますので、被監査部署と目線を合わせてコミュニケーションを行い納得してもらうことが、会計監査以上に重要となります。

内部監査部門の待遇やワークライフバランス(WLB)

ではここで気になる給与やWLBの話をしましょう。事業会社は千差万別、会社や上司によっても色々としか言いようがないとも言えますが、一般的な傾向としてお読みください。日系企業であっても内部監査部門はあまり下の職位の人を配置することは少ないので、それなりの給与水準にはなっている印象です。非管理職で入っても7百万円程度はあると思いますし、部下なし管理職以上なら一千万円前後にはなるでしょう。WLBですが、監査法人や経理部よりは穏やかなケースが多いと思います。理由の一つとして、上でも述べましたが期限のプレッシャーが比較的緩いということや、「絶対にやらなければいけない」業務が少なめということがあります。また、内部監査部門が心身に不調をきたした人が一時的に配属されるケースや、ベテラン社員が配属されるケースも多く、労働環境もそうした人たちのペースに合わせている場合もあるというのも正直な理由として挙げられます。

内部監査部門からのキャリアプラン

監査法人などから転職して内部監査部門に入り、数年間は内部監査業務に従事したとして、その後のキャリアプランはどのようなものが考えられるかについてです。これも会社によりけりですが、人事管理面では内部監査部門はファイナンス系と同じグループに含まれているケースが多いように思います。この場合、経理部を筆頭にファイナンス系の部門への異動が考えられます。私は経理部での勤務経験はありませんが、部下が内部監査である程度経験積んでから経理部に移るケースは複数見ており、いずれも非常に素早くフィットして活躍していました。内部監査で会社の状況をある程度理解してからであれば、会計知識を活用しての経理業務に非常に入り込みやすいのだと思います。また、FP&A(経営企画)というルートもあるでしょう。私はこのルートでしたが、あまり合わなかったので転職して内部監査に戻るという選択をしました。また、内部監査でキャリアを重ね監査部長から監査役というルートも期待できるかもしれません。
さらに特筆すべきなのは、内部監査の専門家は市場のニーズと比較して非常に数が少ないので、年齢が高くなっても転職が比較的容易という点です。

CIA資格の取得について

CIA(公認内部監査人)という資格については上でも述べました。公認会計士のように独占業務があるわけではないですし、海外系の資格にありがちで受験料はそれなりにかかるのが難点ですが、公認会計士であれば非常に大きなアドバンテージがあります。おそらく予備校が宣伝で述べている時間の半分以下の学習時間で合格できる方が多いのではと推察します。余裕があれば取っておくことをお勧めします。転職するときに公認会計士とCIAの両方を持っていれば、内部監査部門の場合は書類選考は確実に通りやすくなるでしょう。

おわりに

色々と書き連ねてきましたが、私は日本企業の内部監査部門がもっと強くなることを少しでも手助けできれば、というのを残りの仕事人生の目標としており、その目標の達成の上で優秀な公認会計士の方々がこの分野に参入していただくことは、大変有効な方法だと考えています。また、監査法人や経理部門等で働いている公認会計士の方々に、内部監査業務についてもっと知っていただきたいという思いもあります。その思いでこれまでもnoteなどで色々と発表してきましたし、これからも発信を続けていきたいと考えています。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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