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「拳で語らないバトル」。文化系バトル漫画の魅力を語ろう

少し前に『「ナナマルサンバツ」という此度完結した文化系バトル漫画の最高峰を激推ししたい』という記事を書きました。非常に好評いただいてありがたいのですが、その一方なにも説明なしに繰り出した単語「文化系バトル」ってなんやねん!って今思いました。
全く伝わらないような単語ではないとは思うんですよ。ただ、どちらかと言えば造語ではあると思います。少なくとも、当該単語のサジェストは他の方のは把握できなかったので…。
なので今回はそんな「文化系バトル」漫画について、私の考えている根っこから語りつつ、具体作品を挙げてその魅力を語りたいと思います。

文化系バトルって、なに?

バトル漫画、そのものは漫画を読まれている方なら馴染み深い単語だと思います。「ダイの大冒険」「ドラゴンボール」「ワンピース」「NARUTO」「B LEACH」等…特にジャンプで多く連載している戦闘描写が中心の漫画です。名作も多いですね。

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(引用:「バクマン」3巻。つまりはこういうことです)

そして私の中ではバトル漫画っていわゆるスポーツ漫画もの……「スラムダンク」や「キャプテン翼」とかそういうものも包含していいんじゃないかと思っているわけなんです。主人公が努力してライバルや敵を倒す構図は十全にバトルですもんね。
そして、そういうフィジカルなバトルを主軸としたとき、暗にそういう漫画を「体育会系バトル漫画」だなと感じてる次第です。
ここまでいうと、なんとなく趣旨が伝わりますよね? 要は「文化系バトル漫画」は『物理的に殴り合わない・スポーツしない、バトル漫画』であり、私はそういう作品がたまらなく好きなのです。

「文化系競技」のバトル

殴り合わない、スポーツしないバトル? そんなことできる?
できるんですよね。1つ目の定義として、フィジカルよりメンタルやインテリジェンスを駆使する勝負、いわゆる「文化系競技」を舞台とした作品がそうです。
例えば「ヒカルの碁」(囲碁)、「ちはやふる」(カルタ)、そして先日取り上げた「ナナマルサンバツ」(競技クイズ)もそうですね。これらの競技は体は決して激しく動かないですが脳内のモーターは激しく稼働しており、智略計略のぶつけ合いはまさしくバトルです。
また、文化系競技のバトルは体育会系競技以上に「一瞬」に全てを賭ける競技になるところがあるため、「脳内で考えを巡らせるパート」→「全てをぶつける刹那のパート」の濃淡のカタルシスがたまらなく、クセになるわけです。

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(「ナナマルサンバツ」13巻より引用。文化系競技は時折、時間が凝縮されますよね)

ただ、どちらかというと文化系競技漫画については、単純に「バトル漫画」と捉えてもいいかなとは思っており、実は今回伝えたいことの主軸ではありません。競技の熱量に体育会系や文化系の貴賎はないのです。
しかし、この先記載する次項については「文化系バトル漫画」の真髄と思っています。これは間違いなく、「(体育会系)バトル漫画」にはないものでした。

「文化系表現物」のバトル

前項で「文化系競技」を挙げましたが、実は「文化系バトル漫画」の真髄はその観点じゃないと私は考えます。それが表題にある「文化系表現物」のバトルであり、私が思う2つ目の定義です。
「文化系競技」ってものが何かは言わずとも伝わるかもしれないですが、こちらは本当に補足が必要だと思います。しかし、どういった漫画がそれに随する作品かというものを挙げればおそらく納得をしていただけると思います。
私としては、それに随する「文化系表現物のバトル」の例示として、「ランウェイで笑って」(ファッションモデル)、「2.5次元の誘惑」(コスプレ)、「アクタージュ」「マチネとソワレ」(芸能・演劇作品)を挙げさせていただきますが、これら作品は言いようのない魅力があるわけなのです。

基本的にはこれら作品にはバトルによる「ノックアウト」はしませんし、バトルの意味での勝敗の線引きはルール的な明確さはありません。
そこにあるのは当人らの「納得」。「私は貴方に負けたと潔く思います」を清々しく言える環境がそこまでの展開でいかに整っているかが、私が思う「文化系表現物のバトル」の着地点においてのカタルシスだと思います。
どうにも観念的でわかりにくいこと言ってますね? 実例をお話ししたいと思います。

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(「2.5次元の誘惑」4巻より引用。4巻のバトルは本当に素晴らしかったです)

例えば、「2.5次元の誘惑」はコスプレ漫画であることから、あくまでドライに勝敗を判断するのであれらカメコ(カメラ撮影)の人数が勝敗となるでしょう。ここで登場するコスプレ四天王の753(なごみ)(※上引用上とんがり帽子女性)はとある流れから、イベントにコスプレ出場することは初めてのヒロインと同じステージで参加することとなります。経歴・実力ともに753の方が圧倒しているのですが、その勝敗と想いは意外な形で着地することとなります。どういった着地になったのかは是非とも作品をご覧になってください……ダイレクトマーケティング……。(脇にそれますが、「コスプレ四天王」って単語の流れがもう『少年ジャンプ』でめちゃくちゃ面白くて熱いんですよね。しかし冗談抜きで、真面目に今一番ジャンプしているバトル漫画です)
このように、展開の着地がいかに納得できるものであるか、それが文化系バトル漫画の書き手の実力の見せ所だと思います。体育会系バトル漫画に比べてどうやっても観念的・心情的な着地にならざるを得ないことから、緻密で丁寧な心情と性格の風呂敷の広げ方が本当に必要なジャンルだと思います。

そして、文化系表現物は言うなればキャラクターの「思想」そのもの。そしてバトルをすることといっても大抵は「ライバルが嫌いだから」とかではなく、「ライバルに私の表現物を認めてほしい」が対峙の根幹となります。だからこそ「昨日の敵が今日の友」に弾力的に起きえますし、その逆(昨日の仲間が今日のライバル)もあります。

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(「アクタージュ」9巻より引用。共演をし、バディとしてのキャラクター性の抜群さを見せつけたこの二人の「戦い」は本当にたまらなかった)

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(「ランウェイに笑って」6巻より引用。主人公(育人)を救うためにその主人公に勝負を仕掛けるヒロイン(千雪)。順に読むと納得するのですが、側から見ればとんでもなくこじれた構図、「思想」「想い」がぶつかる素晴らしい導入でした)

もちろん体育会系バトル漫画でも敵が仲間になる展開はあります。あるのですが、ファンタジーバトル漫画であれば命懸けの戦いだからそこを演出するのには相当なカロリーが必要となり、容易には起こしえない印象があります。スポーツ漫画であればチームという括りがあるから、「オールスター編」とかにならない限り、さらに動かしにくい印象です。

一方、文化系バトル漫画はそういった弾力的な展開ができる構成が「先が読めない面白さ」を如実に演出することからとても面白い。『アクタージュ』のダブルキャスト編の入りは、かつての共演者である百城がいかに強大な敵として君臨してくれるだろうとハラハラしたものです。
『アクタージュ』が連載中止となった今、この枠を「掻っ攫った」のは『マチネとソワレ』と確信しています。幻肢痛を抱える方は是非ともお読みください。

大器晩成であることだけは飲み込みたい

そんな面白さのある「文化系バトル漫画」、一つだけ難点があるといえば、構成上、軌道に乗るまでの立ち上がりが遅い、いわゆる大器晩成型作品にならざるをえないことがあります。
キャラの心情、表現物の土台、関係性をより緻密に表現しなければ読者への「納得感」が届かないことから、種蒔きをよりしっかりとしなければいけないためそこまでの時間がかかります。そのため、そこまでに見切られてしまうネックは孕んでおり、実際私も『アクタージュ』にあっては、デスアイランド編で一旦合わないなと見切った後に銀河鉄道の夜編で大ハマりしたタチです。要は、単行本派に向くスタイルなんですね。一気読みすると本当に面白い。
その意味では漫画という連載スタイルには実は向いておらず、大ヒット作が出にくいジャンルではあるはずです。だからこそ『アクタージュ』の大ヒットは本当に素晴らしく、素晴らしかっただけに連載中止となったことが残念でやみません。

月並みな言い方ではありますが、これら作品を単行本から読んでいただく場合は、是非1〜2巻で合わないなって見切るのではなく、さらにもう少し読み進めていただければと思ってやみません。それでも合わなければ、きっと文化系バトルはストライクゾーンでなかっただけなのです。
少なくとも、昨今で言うところの『鬼滅の刃』『呪術廻戦』クラスに初速でガッツーン!!ってやってくれる漫画ではないです。そこだけはしゃーない。
また、実は取り上げたい同一路線の漫画として(「アクタージュ」らと比較しての)「AKB49」や「推しの子」のような純粋芸能路線漫画もあるのですが、これらはちょっと別方向の補足が必要があるかなと思いますのでまたの機会にさせていただきます。

この読み物を読んでいただいた皆さん、是非とも「文化系バトル漫画」概念を世に広げていただければと思います。創始者を名乗りたいと言うよりは、きっといるはずの「この手の漫画をどう表現したらいいのか」と悩む方への羅針盤になりたいから。
魅力的なジャンルです。それこそ始祖は『ガラスの仮面』クラスが過去にはあったジャンルではあります。現代もブラッシュアップされ、研究され、面白い作品が次々と現れていると思いますので、皆さんも是非とも手に取っていただければと思います。

(アイキャッチイラスト:yuki6mamaさん)

いずれいっぱい記事を書いた暁にでも、コーヒーでもおごってやってください……!