OS 研究所の影を追って - Misread Footnotes .05

今週は向井が WebKit Unified Build について、森田が IPC 支援 CPU 拡張について話しました。

あまりに情報の希薄な Harmony OS に腹を立てインターネットストーキングに駆り出したのが森田ターン論文選びのきっかけである点はエピソード内で触れたとおりです。

最初にでくわしたのは Martin Decky 氏の slideshare でした。OS 関連研究を扱ったスライドがいくつか Huawei の名義でアップロードされています。XPC の名こそありませんが、CPU を改造することで IPC を速くする話もしています。LinkedIn のプロフィール情報からドイツに Huawei の研究所があることもわかりました。この(既に無効となった)求人からは同研究所で OS を開発している様子が伺えます。

Decky 氏は学生時代から Helenos というマイクロカーネル OS を書いています。関連文献リストには同 OS の形式的検証を扱った論文もあったため、森田が至った最初の短絡的な結論は「Harmony OS は Helenos ベースなのでは」というものでした。そんなわけねーだろ。

Decky 氏のスライドをよくみると、謝辞で同僚の名前を挙げています。その一人が Haibo Chen 氏です。大量の論文を出している実力者のようですが、当人のウェブサイトからは Huawei との関連が伺えません。怪しいッ・・・と言いたいところですが特に身元を隠しているわけでもなく、USENIX の著者ページでは Huawei 所属となっています。なお USENIX で発表したこの EROFS という Linux のファイルシステムは最近 LWN に登場していましたね。中国のテックシーンを報じる TechNode のサイトでも同氏の所属について言及する記事がありました。

これらの限られた情報に基づく森田の根拠ない見立てによると Harmony OS 登場の背景は: 景気の良さにまかせ R&D を拡大していた Huawei の中に「OS を作ろう」と言い出し経営陣の説得に成功した OS 愛好家が獲得した予算で世界各地の研究所に OS 研究者を雇いまくり、それらの研究者は各々が新しい「未来の OS」に自分の趣味を注ぎ込んで楽しくやっていたところ、貿易戦争の煽りでだいぶ先のはずだったその「未来」が来てしまい慌てて体裁を整えた・・・というところではないでしょうか。大企業あるある現象とも言えますが、一見ムダっぽい投機的 R&D の引き出しが実際に役に立ってしまうところには企業としての勢いを感じます。(より陰謀論的な議論をお探しの方は適当に新聞でも読んでください。)

なお中国語はわからないけど Microkernel の仕事がしたい!という人には Fuschia ... の求人をリンクし自主スポンサー活動をしようと思うもあんましないですね。リリースされていない OS の developer relations とは...。Apple の Core Operating Systems Group が出しているこの求人などは Microkernel に言及しています。

それにしても時間の無駄とわかりつつ人はなぜインターネットストーキングをしてしまうのでしょうか。

リンク紹介

リスナーの方が私信で教えてくれたリンクを紹介します。

Facebook モバイル部門によるプログラマ向け Podcast です。仕事柄これは聴いといた方が良さそうですね・・・。

WebAssembly の newsletter です。この週では向井が以前紹介した論文がリンクされています。

お手紙紹介

Go 言語プログラミングでの並列性バグを扱った向井ターンは人々の共感を呼びました。

なお識者によると:

だそうです。Go の Context.WithTimeout はタイムアウトの仕組みを提供しているんですね。Java 脳だと cancel のコールバック関数を渡すような気がしてしまいますが、実際には Done() 関数が返す channel に通知が来るのを待つデザインのようです。

実装たる context.go のコードを眺めると、その mutex の使いぶりなどはなんというかこう、向井の読んだ論文のことを思い出してしまいます。スレッドって本当にいいものですね!ではまた来週。



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