ジェイクvsスギウラ〜2023.6.17.GREEN JOURNEY 2023 in NAGOYA 試合雑感

お久しぶりです。もるがなです。ある程度Twitterで感想を書いちゃって満足したのでnoteはいいかな〜と思ってきたのですが、どうにも試合の熱というか余韻が冷めやらず、メモがてら試合の感想をちまちまとしたためていたら文量がそれなりに溜まっちゃったのでまとめて公開することにしました。今回もまたワンマッチレビューで、ジェイクの王座戦は語ることが多いせいかどうしてもこうなっちゃいますね。ではでは、やっていきましょう。

◼️ GHCヘビー級選手権試合
ジェイク・リー vs 杉浦貴

ジェイクと杉浦。体格差はかなりありつつも鍛え抜かれた歴戦の身体は全く見劣りせず、高級スポーツカーに対しての荒地をくぐり抜けたオフロード車という感じで両者のタイプがまるで違うのが良かったです。杉浦の戦前の煽りVはなかなかにウエットかつ、大谷晋二郎の後押しもあってかかなり追い風はあったものの、こうして対峙するとそんな温かな応援ムードとは裏腹にこれがハードな死闘になることをビンビンに予感させる危険な空気が二人の間に漂っていましたね。

試合は想像通りのハードな打撃戦で、先手を取ったのは杉浦でしたね。ジェイクの総格+柔術相手にレスリングで押さえ込みを図りつつ、序盤から終盤に至るまでペースを握ったのはこの試合の一つの象徴ともなったストマックエルボーでした。タッパの差に対して変に背伸びせず、一番力の出るポイントと目線で、真正面の肉の壁を撃ち抜くように放つそれは文字通りジェイクの胃を抉っていて非常にキツそうに映りましたね。あまりそういうイメージはないかもですが杉浦の戦型もかなり洗練されており、戦闘の経験値の差というのものを如実に感じてしまいます。合理的かつシンプルで、痛みの伝わるハードさ。小細工のように見えて基本軸からブレてなく、このストマックエルボーもちゃんと得意技であるスピアーとのシナジーがある。こうした持ち技の相互補完の相性に加えて、それらを全て真っ向勝負でぶつけることが杉浦の一番の持ち味なのだと思います。

対するジェイクの選択は意外性のある腕殺し。ショルダーアームブリーカーに脇固め。アームロックにオモプラッタとの複合技に加え、腕をピンポイントで狙ったレッグラリアットなど、スタミナを削ることを選んだ杉浦に対して自分のタイミングで相手の攻め手を削ぐことのできる部位破壊という解答は面白く、こうして比較しても分かる通り、戦術面ではやはりジェイクが一枚上手です。ジェイクは歴代の王者と比べてもかなり計算高いタイプだと思うのですが、そうした頭脳明晰さをこうした形でちゃんとプロレスに落とし込むのは素晴らしいですね。

戦いはより激化の一途を辿り、中盤からは壮絶な迫撃戦となりました。ジェイクの打撃と腕攻めのバリエーションに苦しみながらも、アンクル地獄で揺さぶりをかけつつ、ハードストライカーとしての本領を発揮した杉浦がランニングニーにエルボーの乱射で猛反撃へと転じます。特にエルボーはワンツー式に加えて後頭部を撃ち抜く同田貫式も見せ、序盤で意識的に見せたフェイスロックも相まってか三沢光晴の面影を感じましたね。ジェイクも戦慄のハイキックで一撃でダウンを奪うと、ようやく名前のついた必殺技「FBS」で杉浦の顔面を撃ち抜きましたが、杉浦も堪えつつオリンピック予選スラムで両者ダウン!

いやはや……被弾しつつも技を放った後の硬直の隙を狙うという格ゲー的なリアリティがたまりません。ここにきてFBS、もといコーナーを巡る攻防がさらに進化するとは……。串刺し系の技という新たなトレンドをしっかりと意識して、ハードな大技の多いノアマットでこの技をフィニッシュにチョイスしたジェイクの嗅覚は見事ですよ。一見すると技に行くためのセットアップがかなり限定的なせいか下手すると不自然になりがちではあるのですが、よろけながらコーナーを使って立ち上がるという動きが非常にスムーズなのもあってこの技を使うことの違和感はほとんどないですね。なんならコーナーへの串刺し攻撃という通常の試合なら頻繁に起こる行動が、FBSがあることで一気に危険度が跳ね上がるわけで、コーナー付近が危険地帯となることで観客の目から見てもフィニッシュの攻防がわかりやすいのはとても良いことだと思います。

互いに消耗し、切るカードが少なくなってきた終盤戦。エルボーのラリーからのワンツーエルボー。不意に杉浦が放った左右のナックル。この一撃でたまらずジェイクはダウンします。恐らくですが見慣れてない人にとっては反則技であり、また身も蓋もない技というのもあって賛否はあるかと思います。はっきり言えば自分も杉浦のナックルは好きではないのですが、仮にこの試合で杉浦がナックルを出さなかったら間違いなく物足りなく感じたことでしょう。この「手段の選ばなさ」が逆にどんな手を使ってでも勝つという執念をもって機能したことで杉浦vsジェイクは死闘と呼べる出来の試合になったと思います。

怜悧冷徹冷酷非情。そんなグッドルッキングな仮面は剥がされ、ギリギリまで追い込まれたジェイクでしたが、ナックルに対しての返礼のジャイアントキリングの連発は凄まじく、これで完全にタフな杉浦を停止させましたね。そしてダメ押しのFBS。巨体の加重と加速。そして当たり具合。今まで見たFBSの中では間違いなくベストな一撃で、杉浦の牙城を崩すのに十分すぎるほどの説得力を感じました。

丸藤戦に続き、またしても名勝負。今回のジェイクの王座戦も自身の自己ベストを更新する出来であり、文句のつけようがありません。さて……ここからは完全に個人的な好みの話になるのですが、ジェイクの試合は良くも悪くも「頭」で考えてる感が非常に強く、パズルが一つ一つカチリカチリとハマっていって謎が解けていくような快感はありつつも、その代わりに試合で起こったことをつぶさに拾えば「解」に容易く行き着いてしまうのもあり、現時点では挑戦者の面子も含めてジェイクの防衛ロードは僕の想像の範囲を出ていないんですよね。今回の試合も最初にFBSとオリンピック予選スラムが交錯した時点で勝負の分かれ目はスピアー迎撃のジャイキリだろうな、杉浦を崩すにはその連発しかないだろうな、と思ってしまったわけで、試合構成の完成度が高すぎるが故に空白がないので想像がつきやすい難点があります。

喩えるならジェイクの試合は人工ダイヤモンドの輝きに近く、試合構成やそこで見せる自身の感情なども含めてきっちりと手綱を握り、掌の上の支配下に置いている印象があってそれは僕の好みからはかなり外れているのです。僕自身のプロレスの価値観では究極的にはプロレスは誰にもコントロールできないものだという信念があり、ある種の歪さであったり逸脱性を好む傾向が強く、そういう意味ではジェイクの試合は周囲の人ほどには自分には刺さってないなという感想になります。ジェイクは外敵王者という認識がやはり強く、団体側にあとひとさじの危機感が欲しいなと思ってしまうんですよねえ。

では今回の試合は面白くなかった?いやいや!まさか!そんなわけないでしょう。好みに合わなくても面白いことはありますし、嫌いなはずなのに目が離せないこともある。好きなんだけど試合としては……と口を濁すこともあれば、認めざるを得ない勝負もある。プロレスとは矛盾の塊であり、自身の感情も同様です。先ほど人工ダイヤモンドと語りましたが、転じて言えばそれは人造であるが故の「機能美」の美しさであり、超一流の道具や乗り物というのはその形状だけで何よりも雄弁にその真価を伝えてくるのです。ジェイクの試合や見せているものは非常にキャッチーかつ意図が伝わりやすく、誰が見てもわかりやすい。高品質とはそういうことであり、それはとても大事なことなのです。

新日との王者対決での敗北からのバトンタッチという序列のハンディ付きという難題をクリアし、対抗戦特有の過度な煽り合いに対して厭戦気分さえ広がり始めた中で、令和の価値観に合うように対戦相手をリスペクトしつつ、侵略者としての怖さも隠さないジェイクはまずそのキャラクター造形が素晴らしいと思います。何よりも現状の立ち位置がベビーでもヒールでもないニュートラルというのが素晴らしく、この関係性と距離感って往年の高山善廣にわりと似ているんですよね。荒々しいご意見番の高山と比べるとジェイクの物腰は柔らかく令和らしいスマートさがあり、ここまでインテリジェンスに特化した紳士的な王者というのも近年では珍しいですよね。グッドルッキングの名に恥じず、ジェイクは「見られること」の意識が非常に高いというのもいい点だと思います。

試合後のジェイク。マイクから飛び出たのはN-1の全勝優勝宣言。リーグ戦での王者が不利なのは周知の事実なのですが、この試合内容を見ると普通にありそうで困るんですよね。先ほど危機感が欲しいと書きましたが、逆にジェイクがこのまま無敗で全勝優勝してしまうと本当の意味での異常事態になっちゃうんですよね。ストップ・ザ・ジェイクは誰になるのかが一つの見所なのは間違いないでしょう。期待がかかるのはやはり潮崎豪。次点で稲村であり、星を落とすとしたらここしかないかなと。あとアライJr.編の独歩や渋川のように丸藤や勝彦といった挑戦者サイドの「お礼参り」もあるかもしれないなと思ってます(笑)もしくはリング内外で話題を振り撒いてる拳王も十分候補であり、そのアジテーションもあって対ジェイク戦だと一気に空気を変えそうな予感はありますね。これはどちらかといえば王座戦で見たいカードですが。

ついでに気が早いかもですがN-1の予想もしておきましょう。僕は稲村vs潮崎で稲村優勝。ジェイクからGHCを取り返すのは稲村だと信じています。なので本命は稲村で。対抗は潮崎で、個人的には潮崎をブラフに使いつつ稲村優勝で一気に時代を動かすかなと思っているのですが、潮崎の復活劇という物語は魅力的すぎるのと、ここまで侵略されたとなったら最後に頼れるのはエースしかいないなという気もあるので潮崎優勝もありそうなんですよね。なので本命:稲村、対抗:潮崎、大穴:ジェイクで。面白みのない予想ですみません(笑)清宮のG1挑戦も楽しみですが、N-1も同じぐらい楽しみです。





いやはや、王者ジェイクって本当に語ることが多いというか、プヲタに琴線に触れる何かがあるんですよ。自分それにやられてしまいました。みんながジェイクに夢中です(笑)それにしてもワンマッチレビューだと長さを気にせずに書けるのがいいですね。ではでは、今日はここまで。

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