2024.1.2 プロレスリング・ノア ABEMA PRESENTS NOAH "THE NEW YEAR" 2024 試合雑感

あけましておめでとうございます。当初はTwitterじゃ書き切れない長文感想置き場として細々と気ままに書いていたnoteですが、いつのまにやらプロレス界隈にnoteが定着し、自身のnoteもまさかここまで続くとは……自分でも驚きです。先駆者を気取るつもりはなく、またプロレスブログをやっているという自覚も実感もないままで多様な感想をいただくのは恐縮するしかないのですが、モチベを保てているのはやはり読み手あってのものであり、そこには感謝しかありません。これからものんびりしたままの不定期更新になりますが、今年もよろしくお願いします。ではでは、さっそく書いていきましょう。


◼️ GHCジュニアヘビー級タッグ選手権
3WAYマッチ
ベイン&ウルフvsYO-HEY&タダスケ&ニンジャ&アレハンドロ

ダークマッチを除いた本戦の開幕に相応しい、空中弾が乱れ飛ぶ派手な試合となりました。Jr.の3wayは目まぐるしく、また日本だと賛否のある試合形式ではあるのですが、面子のほとんどが空中戦に一過言あるだけに非常にスピーディーないい試合でしたね。まさかの二本立てとなった3wayからの猛抗議でのタッグでの決着戦という流れも、3wayが前菜化したという意味ではやや思う部分がありつつも、このノリのままテンションを落とさずに突き抜けた点はさすがだと思います。

やはり圧巻はベイン&ウルフのアシスト付きのトペコンであり、あの一発だけでお釣りが十分すぎるぐらいきましたね。あとは3way、タッグ戦ともにフィニッシュを決めたのはYO-HEYであり、特にミサイルキックでピンを取ったのは個人的にはナイスでした。後方一回転式のドロップキックは元々の得意技で定評があっただけに、その上位技としてミサイルキックをフィニッシャーに選んだそのセンスと、フォームをほぼ変えずに正確に撃ち放った身体ポテンシャルの高さに脱帽です。体(鯛)が跳ねるとはまさにこのことで、お正月らしい縁起の良ささえ感じました。YO-HEYはビジュアル、マイクともに好きな選手なのでもっと飛躍して欲しいですね。


◼️ シングルマッチ NOAH vs NJPW
石井智宏 vs マサ北宮

今大会のベストバウトです。組まれた時点で「当たり」が確定してるおみくじのようなものというか、この二人で面白くならないわけがない……そんな信頼感に満ちていましたね。石井智宏の突貫ファイトはNOAHの気風にも合っており、逆に言えばニーズに合致するプロレスだからこそNOAHvsNJPWと銘打たれているほどには対抗戦感を感じないのですが、所謂「いい試合をしよう」と言ったような合意もまた感じさせず、そんな色目すら必要ないほどのバチバチとゴツゴツさは向かい合った時点で感じましたよ。

試合は石井の鉄壁ノーガードvsマサ北宮のハルクアップの鼓舞という受け方面での意地の張り合いもさることながら、最初から全身全霊の全力によるぶつかり合いでもあったため、15分という試合時間の短さが逆にリアリティとして機能したことに舌を巻いてしまいました。

また、昨今は闘魂騒動に代表されるような系譜・継承方面での「ざわつき」が我々プヲタの間でもさかんに取り沙汰されてるわけですが、石井とマサ北宮の二人ほどルーツや継承という点において完璧な選手はそうはいないです。と、いうより昔を知る人で今のこの二人に文句をつける人はただの一人もいないでしょう。単なるオマージュではなく、その背景に往年の名選手を感じさせつつも、ちゃんと自分のスタイルとして確立してるのが素晴らしいことなんですよね。

濃密な超肉弾戦から、サイトースープレックスvs垂直落下式ブレーンバスターという互いの最上位フィニッシャーを頂点に置き、そこへと駆け上がっていくシンプルな面白さがありつつも、白眉なのは石井の右膝のテーピングであり、あの目立つ負傷箇所がマサ北宮の得意技である監獄固めでのギブアップの予感が常に漂っていたのがいい感じのフックになっていましたね。しかしながら最後は石井が壁となってマサ北宮を叩き潰しました。石井は壁であり目標でもある。バックステージでの台詞も格好良かったですね。マサ北宮の石井越え、見てみたいですよ。


◼️ シングルマッチ NOAH vs NJPW
潮崎豪 vs 小島聡

潮崎にとっては名誉挽回のリベンジ戦ではありつつも、互いが発する陽のオーラのせいかそこに薄暗さは一切なく、心技体が等しく燃える爽やかな熱戦でしたね。

試合内容は安定していましたが、特筆すべきはラストであり、豪腕vs剛腕の真正面からの激突で潮崎が打ち勝った!もうこれが全てですよ。復帰後の潮崎って良くも悪くも試合においては力のポイントがズレたりズラされたりするような噛み合わない印象こそあったのですが、この試合は試合における一番のピークを相手のピークに上手く真っ向からぶつけた感じであり、それに勝ったことで突き抜けるような爽快感がありました。もちろん、変にスカさずに受け止めたベテランの小島は素晴らしいなと同時に、ラリアット一本でメシを食ってきた小島聡に対してラリアットで打ち勝ったことの意味は非常に大きいです。それ自体が殊勲であり、まさに豪腕の証明でもある。惜しむらくは試合順とその位置付けであり、後楽園のメインイベントあたりだとより爽快感が強まったような気がして、そこで見たかった気もしましたね。

試合後はTEAM NOAHという新ユニット結成宣言。集まったメンバーはやや地味に映るものの、齋藤彰俊の加入は平成維震軍、スターネス、ダークエージェント、反選手会同盟、ファンキーエクスプレスといったユニット結成の宿痾からは逃れられないような気もして運命的でもあり、そこだけはちょっと面白かったですね。しかしながらNOAHを取り戻すというコンセプトはわりと納得できるというか、今のプロレスリング・ノアって90年代〜ゼロ年代のマット界近代史の編纂にはわりと拘っている反面、大元の団体の歴史そのものに関しては断絶の危機にあるというか、そんなに重要視されていない懸念があるんですよね。そうした中で三沢と小橋の遺伝子を受け継ぐ潮崎が古のNOAHを取り戻すために音頭を取るのは真っ当というか、理解できる話ではあるのですよ。かつてあった神通力に翳りが見えてきた今だからこそ、逆にこれから先の潮崎豪がどうなるか。期待したいですね。


◼️ 佐々木憂流迦プロレスデビュー戦
Road to PRO WRESTLER
杉浦貴 vs 佐々木憂流迦

デビュー戦ならではの荒削りさはありながらもいい試合でした。こなれればこなれるほどこういうタイプの試合はできなくなりますし、憂流迦のプロレスに対する真摯なリスペクトとやってやろうという野心が如実に伝わってきており、変に総合でのネームバリューに頼らない、バックボーンはあれど完全に一の状態から始めようという感じがとても好印象でした。

相手が杉浦貴で本当に良かったというか、所作の一つ一つが何よりも雄弁でしたね。開幕は憂流迦のスタイルに合わせてのタックルでの様子見。そこで腕ひしぎで「怖さ」を見せた憂流迦の嗅覚もさることながら、プロレスの基礎中の基礎であるヘッドロックに、場外での鉄柵ホイップにボディスラムと、総合格闘技には存在しない痛みを教え込む。白眉なのはプロレスvs総合格闘技にありがちな「プロレスの怖さを教えてやる」みたいなコンプレックスめいたニーズに応えようとしていなかった点にあり、ただただ別物であるということを淡々と示しつつも、プロレスに対しての威風堂々たる自信を杉浦貴に感じたことです。いつもの滞空式ではない雪崩式ブレーンバスターと憂流迦の総合仕様のチョークではないプロレス仕様のスリーパーがちょうど鏡合わせのようになってる気もして、いい意味で「これはプロレスなんだ」という主張を感じました。

プロレスラーになりたいと一瞬でも心によぎったことのある人は、誰しもが自分の使う技を考えるでしょう。憂流迦が出したのはエースクラッシャー……RKOかつスタナーのようでもあったカッター技は当人のイメージに非常に合っており、総合格闘技の選手が使うには異質でありながらも、綺麗にハマっていたことに感心しましたね。何よりそれに行くまでの瞬発力と身のこなし。これは常に自身の理想とするプロレスの動きが常に存在してなければできず、また絶え間ない修練がないとできません。RKOの前のフランケンシュタイナーからピンフォールにいった所が個人的に100点満点であり、プロレスをやる以上はピンフォールは大事にして欲しいですからね。それが総合格闘技とプロレスを分かつものの一つですから。単にプロレスをやってみた、だけではなくしっかりとプロレスラー・佐々木憂流迦の未来像を見せたことは素晴らしいことだと思います。そんな試合ではありましたが、最後はオリンピック予選スラムで憂流迦轟沈。これを出させただけでも十分であり、ほろ苦い夢の達成となりましたね。

総合格闘家にプロレスで戦うということに、どこか気恥ずかしさや気遅れのようなものを感じる人はいるかもですが、はっきり言いますがそれは単なる卑屈なコンプレックスですよ。別物というのは逃げでもなんでもなく、プロレスの目指す最強の果てが総合格闘技にあるとは僕は微塵も思いません。ルールが洗練されるに従って総合格闘技は「競技」として別物の方向性になりましたし、出発点こそ似通っていれど、ピンフォールが存在するプロレスとはやはり道は違うなと思うわけです。プロレスのルールにおいて一番強いのはプロレスなんですよ。相撲ルールで総合格闘家は力士に勝てないのと同様に、それはそういうルールがあり、そういう場である以上当たり前の話なのです。

そんな中で杉浦貴は「作法としてのプロレス」に徹底しており、佐々木憂流迦はしっかりそれに応えました。それだけで十分すぎますし、何より生き様を感じました。次は佐々木憂流迦の初勝利を期待します。


◼️ タッグマッチ WRESTLING SYMPHONY
小川&ザック vs 棚橋&HAYATA

棚橋社長就任以降の他団体出向はどこか新年の挨拶回りのような印象がありますが、単なる現代新日本の象徴だけでなく文字通りの実務的なアイコンにもなったのでより箔が付きましたね。

HAYATAとのタッグはやや急増めいた印象はありつつも、二人で奏でたエアギターの絵作りは流石の一語であり、HAYATAの所作はエレキギター感マシマシでとても面白かったです。放り投げたエアギターを小川がスカしたのも絵になるシーンで、少なくともあの一コマで棚橋の世界観との差異が強調される反面、やはり空気感を掴むことに関しては棚橋は侮れないものがあるなと思いました。あとの二人の邂逅はロープ越しのドラスクと張り手で、これは鼻をこするようなカス当たりではありましたが、小川のリアクションが絶品かつ、この二人クラスになるとほんの少しの所作でも目立ちますね。実のところ2003年以来の小川vs棚橋のアメリカンなマッチアップはかなり興味があったのですが、これは本当に少しだけでしたね。

タッグとしての小川&ザックの拷問技リレーは一つのハイライトで、これはみのる&ザックのタッグでもあった技なのですが、そちらはピラニアのイジメのような残虐な印象なら、こちらは歴戦の蜘蛛の巣のような印象であり、小川の支配力もあってかより脱出不能な印象を受けましたね。最後はHAYATAがザックの久方ぶりのオリエンテーリングウィズナパームデスでギブアップ負け。棚橋vsザックのシングルを2日後に控えていることを思うと、試合全体の出力としてはさほどではなかったものの、お披露目含めた新年らしいゲストマッチとしては及第点だったと思います。Wエアギターで棚橋&HAYATAのタッグとしての意味合いを出した点は素晴らしく、またそんなタッグに小川&ザックの師弟タッグが遅れを取るわけにもいかないので、収まるところに収まったなという感じでした。

◼️ GHCジュニアヘビー級選手権試合
ダガ vs EITA

絶対王者感すら漂ってきたダガなのですが、あのEitaを持ってしても……という感じでしたね。それほどまでにダガは強く、互いにかなりリミッターは外してきた感はあるものの、それでも最後は強引にダガが振り落としたような印象を受けました。Eitaは持ち前の速度で十分ダガに張り合っていましたし、要所要所で「突き刺す」打撃も素晴らしかったのですが、スピードタイプ同士の同速バトルかと思いきや、いきなりダガにパワーが上乗せされたような感じというか……単なるフィジカルの差という以上に王者としての方程式の強さも同時に感じたと言ったほうが正確でしょうかね。前半のフルスロットル感と比較すると後半はやや尻すぼみな印象こそありつつも、それがかえってダガの強さを強調させた。そんな試合だったように思います。

◼️ 6vs6イリミネーションマッチ
NOAH&NJPW vs HOUSE OF TORTURE
清宮&海野&大岩&近藤&稲葉&宮脇
vs
EVIL&成田&裕二郎&SHO&ディック東郷

今大会の中では一番NOAHらしくない試合というか、レフェリーも新日のレフェリーだったのもあってか、かなり新日色の強い試合だったと思います。ルール上はイリミネーションマッチではあるものの、ハウスオブトーチャーの試合って「試合形式・ハウスオブトーチャー」といっても過言ではないぐらいワンパッケージの群体として完成されてるように思います。

面子の格を思うと仕方のない話ではありますが、稲葉と宮脇はかなりワリを喰ったというか……近藤修司は助っ人感がありましたが、この二人に関してはいまいち因縁が薄いのもあってか数合わせの印象もあって気持ち的には乗れず、また活躍もさほどではなく、言葉こそ悪いですが噛ませ犬になってしまったのはいただけないですね。HOTの個々と因縁を醸成するには相手は群体で動くというのもあり、わりと翻弄されてしまったような印象すら受けます。

海野vs成田は裏切りvs制裁というエンドレス個人闘争の渦中でのWオーバーザトップロープでの道連れでの抗争継続。目立った個としての因縁はこのぐらいでしょうか。あとは近藤の頼もしさとSHOの煽りスキルの高さを堪能した感じで、HOTのお家芸を挟みつつラストは清宮vsEVILの一騎打ちに。

1.4の新日でのドーム戦を控えているのもあってか勝敗はいまいち読みにくく、普通にハウスオブトーチャー勝利でのバッドエンドかと思いきや、一度はリング外に放り投げるもレフェリーブラインドをついてのボンバーマンのみそボンのような形で復活。万事休すかと思いきや、最後はロープに立つEVILに対してのシャイニングウィザードで清宮がEVILから直接のオーバーザトップロープ勝ち。これはヒーロー感ありましたね。ただ、試合としては当初盛んに喧伝していた「駆逐」というより「迎撃」に近く、ルールもあってか完全決着感はあまり感じなかったですね。

近年のハウスオブトーチャー、一昨年と比較するとかなり団体内での人気は上昇しており、それは罵詈雑言に負けず信念を貫いた証としての評価の高まりもあるのですが、洗練されて完成度は高まりつつもやってること自体は昔とさほど変わっていないんですよね。見る側の意識を変えたと言えば聞こえはいいですが、個人的な見解は少し違っていて、2022年あたりを境にバッドエンドが閾値を超えないように微調整されてる感じもあり、ユニットの研鑽と努力は大前提としても、団体側のプロデュースの軌道修正が功を奏した印象のほうが強いわけです。なのでHOTは頑張ったという世間の評価より、むしろ今までの不当な低評価のせいで長く雌伏の時を過ごしてしまったという感じがあり、EVILの良さをnoteの単独記事で書いた身としてはもっと早く評価されていれば……と若干のモヤつきがあるんですよね。ずっと前から同じく応援していた人には頭が下がる思いがありますし、今更掌を返すんじゃねーよなどとケツの穴の小さいことを言う気もないのですが。

今回もNOAHのホームでしっかりNOAHの選手が勝ったことは喜ばしく、1.4の単なる前哨戦ではないということを示したのは嬉しく思う反面、ここ最近はEVILはわりと大舞台で負けがちというか、良くも悪くも「やられ役」としての印象が強いように感じます。言葉を選ばずに言えばある種のヘイトコントロールが機能しつつ、ピンフォール勝ちによる「完敗」ではなくOTTRでの「不覚」の負けに留めるのは格のプロテクトも感じます。EVIL、ああ見えて格下相手には絶対負けないですからね。やはり人気に反して扱い方の手つきが慎重な印象もあり、だからこそ振り切って欲しいというか、そうしたガラスの壁を突破できるか否かが今後のEVIL含めたハウスオブトーチャーがあと一段上にいけるか否かの分水嶺になりますかね。今のままでも十分すぎるぐらい使い勝手のいいヒールユニットではあると思うのですが、それで収まっていいポテンシャルではなく、歴史を変えるヒールユニットだと思うので、G1優勝や1.4メインでの勝利という今後の流れを決める大舞台での大バッドエンドも見たくなってくるんですよね。

今回はNOAH側の勝利で胸を撫で下ろしたのと同様に、現新日とNOAHの価値観の違いをつけつけるようなバッドエンドが見たかったという欲望もあり、この辺は本当に難しいですね。争いとは基本的に価値観の違いによる衝突が大きいわけで、だからこそ勝ちも負けも派手にやって欲しかったのという口惜しさはあります。

しかしながら清宮vsEVILの因縁も生まれましたし、この二人のシングル戦は見たいですね。互いの格を考えても勝敗はちょっと読みにくく、また清宮のベビー感がより際立ちそうで楽しみではありますね。最後になりましたが久しぶりのショートスパッツ、フレッシュでかなり似合ってましたよ。


◼️ GHCヘビー級選手権試合
拳王 vs 征矢学

セミファイナル降格という憂き目にこそ遭いはしたものの、いざ大会が始まってしまえばあまり気にならなくなったというか、今でもメインにすべきだったとは思うものの、しっかり二人の試合に集中できましたね。

まず目を引いたのは拳王の入場で、ここに来て金剛時代を思い起こさせる赤コスはニクい演出です。この衣装の拳王を見る征矢の目がまた何とも言えず、このワンシーンだけでこの試合が特別なものであることが伝わってきました。

開幕は王座戦らしいレスリングによる厳かな立ち上がりで、鍛え上げた二の腕によるヘッドロックや同じく鍛えた足による首4の字など、征矢はじっくりと拳王を攻めていきます。パワーファイターのイメージはありつつも根底には無我イズムが流れていて、こうした基礎のレスリングと丁寧な土台作りは今まで培ってきたものなんですよね。細々やってて地味に映るかもですが、これが己の肉体を武器にした本来のプロレスラー像とでもいうべきか、エルボースタンプにニードロップといった細かな攻撃も、むしろこの鍛えた体躯だからこそダメージもより深く刺さるわけなのです。

対する拳王も征矢に対して鋭い蹴りで応戦します。勝彦のNOAH退団によって団体の華の一つであった蹴撃スタイルがより貴重になったのもあってか、いつもより蹴りが走ってる印象を受けました。それでいて征矢を鼓舞しつつ逆水平を促し、しっかりと受け止める。この辺りの空気作りと王者ならではの懐の深さは流石のものです。

丁寧な立ち上がりから征矢の躍動感は徐々に顕になってきていて、この試合ではフライングラリアットやダイビングラリアットなどの豪快な飛び技が光っていましたね。特筆すべきは中盤以降に繰り出したドラゴン・ロケットで、まさに肉弾ミサイルとでもいうべき脅威の一発でありました。征矢がテクニシャンな藤波の技を継承するのは違和感があるかもですが、それが不思議とハマっているというか、意外と飛竜殺法が当人に合っているのも見過ごせない点ですね。蹴りを得意とする拳王に放ったドラゴンスクリューも理に適っていて、藤波の血が一番濃いのは征矢学だなと改めて実感しました。

試合のポイントとなったのは以前ギブアップを取られたドラゴンスリーパーで、この技がキーとなる試合も面白いですよね。やはり晩年の藤波の印象が強いせいかイメージとしては二番手の技であり、征矢が使うのはそのイメージに囚われてしまいかねない危険性こそありましたが、むしろ逆に征矢の現状のファイトスタイルだと、技の箔としてもちょうど足りないピースが埋まった感じがあり、鍛え上げられた上半身の厚みからしても説得力は抜群にあります。むしろ変則的に使わずにこの技でここまで湧かせることが凄いというか。征矢のドラゴンスリーパー、一気に好きな技になっちゃいましたね。

拳王チャンネルでも取り上げられていたドラゴンスリーパー対策……一回転してのK.S.D(拳王スペシャルデスティーノ)は不発。まあそりゃドラゴンスリーパー対策をあれほど動画で喧伝すれば相手も見るわけで、不発に終わるのも当然ではあるのですが(笑)それはそれとして、ああした対策を話題作り込みで動画で流すのは非常に現代的で面白く、東スポの秘密特訓の令和版のような面白さがありますね。格闘技の先生に指導されているあたりに武術としての理もありますし、意外と格闘技系のチャンネルから辿って拳王チャンネルに辿り着いた人は僕の周りでは意外と多く、動画拡散込みで拳王はかなり上手くやっていると思いますよ。K.S.D以外に片足を使ってサムソンクラッチのような形で脱出するパターンも動画で見ましたが、あれを見たときに往年の藤波vs蝶野で足を押さえ込んで極めてのドラゴンスリーパーで藤波が勝ったシーンが頭をよぎり、その再演なるか!?と一人でヒヤヒヤしていました(笑)

雪崩式含めたデスバレーボム。ドラゴンスープレックス。弾道と、勝負は死闘の色が濃くなっていき、NOAHの王座戦らしいゴールの見えないマラソンのような雰囲気すら漂ってきます。この独特の空気感……四天王領域とでもいうべき肌感覚を拳王vs征矢で味わえただけでも僕は十分すぎる満足感がありましたね。

クライマックスの満を持しての炎輪にハイキックはどちらもカス当たりで、ここはやや瑕疵となりましたが、前から言っている通り、技の正確性や精度は大切なことでありながらも、身を削る死闘であるからこそ仕掛けた技が外れるのは一種のリアリティとして機能するわけです。大切なのはそれで変かつ強引にまとめないことで、敢えて拳王スペシャルに切り替えてギブアップを奪った拳王の柔軟性は素晴らしいものがありましたね。

征矢の戴冠を期待した身としては残念ではあったものの、今年中の戴冠をまた期待したいところです。足りないものがあるとしたら「箔」だけだと思いますし、堅実に信頼を積み重ねてきた選手だからこそ、今の時代にちゃんと報われるべきだと思います。

試合後の余韻は文字通りの束の間で、入ってきたのは潮崎。やや空気を読めてない感じもありましたが、TEAM NOAHをブチ上げたからその本懐たるGHCを狙うのは道理であり、観客の支持はともかくとして行動は筋が通っているんですよね。対する拳王は「I am NOAH」を賭けろと逆要求。いやあ……拳王の返しにシビれると同時に、これはゾクゾクしてきましたね。以前やった潮崎vs拳王とは全然意味合いが違うというか、潮崎にとっても非情にリスキーな一戦となりました。

あれだけ2020年を支えてきた殉教の聖人、潮崎豪がまとめて旧世代して葬り去られかねない恐怖がありつつも、反骨のピープルズチャンピオン、拳王がようやく王手をかけた印象もあり、これどちらを応援していいかわからないです。ヒリヒリしつつも嬉しい悲鳴であるというか。これが拳王の言っていた令和プロレス革命なのかな?ともちょっと思ったり。拳王人気は留まるところを知りませんが、それはそれで潮崎のかつて歩んだ殉教の聖人への道の踏襲になるのではないかという不安感もあり……この「道」こそが今なおNOAHに残る小橋健太の絶対王者の「遺産」なのかもしれませんね。それでも拳王にはこのまま突っ走って欲しいですよ。拳王vs征矢、いい試合でした。

◼️ スペシャルシングルマッチ DESTINY 2024
丸藤正道 vs 飯伏幸太

非常に楽しみにしていた試合だけに、こう書かざるを得ないのは非常に心苦しいのですが、今大会のワーストマッチかつ令和に残る凡戦でした。単に試合のクオリティが低いとかハネなかったとかいうわけではなく、明らかに飯伏幸太は戦えるコンディションになかったというか……コンディションが悪いことは分かってはいても、これほどまでとは思わず、身体にハリもなく動きも精彩を欠く感じであり、とてもじゃないけど見ていられなかったですね。あの飯伏幸太ですよ。この二人の試合で「評価に値しない」という判断を下すのはとても悲しいことなのです。

以前に書いたことですが、飯伏幸太の振る賽の目ってクリティカルかファンブルかしかないんですよ。それに賭けるのは非常にリスキーであることを承知していたのですが、それでも僕にとってこの試合は学生時代から授業の合間にノートに対戦カードを落書きしていた程度には夢想していた夢の対決だったんですよね。全盛期ではないにせよ、やることに意味がある。そう思っていたのですが、やらなければよかったと思った自分自身にショックを受けています。

飯伏幸太、新日退団以降はコンディションの悪化と悪評がついて回り、GLEATでの試合も非常に評価が悪く、完全に「堕ちた天才」を地でいく感じになっています。とはいえ、今回怪我を押して出たというのも分かる話で、丸藤vs飯伏のカードって二度に渡って双方の怪我で実現しなかった以上、怪我で休むという選択肢は三度目に組まれた時点で存在しなかったんですよね。それでも断るべきではありましたし、出るべきではなかったと思いますが、その英断を下せるほどに間近に迫った夢の実現は軽いものではなく、そういう場でもなかった。たとえファンに望まれず、メイン簒奪による厳しい目があったとしても、その心境自体は痛いほど理解できるのです。リングの上で丸藤と相対したときに流した涙は嘘ではないだけに、こうした形での夢の終わりが、ジンクスに抗った結果が残酷な現実として突きつけられたことに忸怩たる思いがあります。

丸藤正道に対してもメイン簒奪含めて厳しい言葉が多いですが、こちらも仕方ないというか、自身を副社長に推してくれた親会社の取締役からのお願いを断るのは普通の会社員の神経では無理ですし、やりたくないことならまだしも、一個人のレスラーとしてはメインイベンターの要請や引退に向けての花道を断る理由がありません。今までの功績に見合うために用意された大舞台で不義理をかますわけにもいかないでしょう。副社長という立場からしても相手の面子を潰すわけにもいかず、恩義のある人からのたっての頼みを拒否するのも難しく、決まった以上は「やります」以外は口にできない。そんな針の筵の心境の中で、ようやく行われた一戦がこんな結果になったというのは、心中察するに余りあるというか……やってもやりきれないですよね。

とはいえ、それでもダメなものはダメなのです。メインにするべきではなかったならまだしも「組むべきではなかった」「止めるべきだった」そう思わせた時点で試合としてはダメですね。問題は起こってしまったことへの「禊」をどうするかで、もう一度やろう!とは言えない類の試合だけに、どうするかは気になりますね。

異常事態とも言える中で試合後に入ってきたジェイク・リーと清宮海斗。飯伏幸太を完全無視で追い出したのはかなりの生々しさがあり、そしてリングに立つ二人に足を引きずりながらも手招きする様は痛々しく、何とも言えない気持ちになってしまいました。ジェイクのマイクには救われましたが、それは何よりこのメインをぶった斬ってくれたことにあるのでしょうね。そして清宮海斗の発言も拙いながらも胸を打つものであり、こうした場面でどう振る舞うかはやはりプロレスラーの本質が出るとも思います。いやそれにしても試合を振り返っても苦さしか残らない……ひたすらに苦い一戦となりました。怖いのはやはり運命であり、背負った業には抗えず、報いは必ずやってくる。何とも言えませんね。プロレスは本当に怖いものです。





最後がこんな形の締めになってしまいアレなのですが、それでもプロレスを見るのをやめるという選択肢は自分の中には存在しませんね。2024年はすでに色々起こりすぎててリセマラしたい気持ちでいっぱいですが、何とか生きていきましょう。ではでは。