2023.4.16 プロレスリング・ノア ABEMA presents GREEN JOURNEY 2023 in SENDAI 試合雑感

お久しぶり……というほど前回の更新から時間が空いてないのですが、ノアファンの皆様からするとお久しぶりになりますかね。あんまりPV数とかRT数とかは気にしてないのですが、ノアの記事って最初に書いたときより明らかに伸びが良くなっていて、近年のノアの人気をひしひしと感じます。やっぱり盛り上がりは多いほうが面白いですよ。各々イデオロギーやらレスラーの好みやらはあるとは思いますが、まずは「プロレス」を見ようぜと。リングの上を見ましょうと。なんだかんだで大切なのはそれですよ。まあ分かる人にだけ分かればいい話で、自分もゴタクが多い人間ではありますが、とりあえずいつも通りやっていきましょう。


◼️ GHCタッグ選手権 VOLCANIC EXPLOSION
マサ北宮&稲葉大輝 vs 杉浦貴&谷口周平

谷口は自分が若い頃から見ていたせいか現状の姿や立ち位置には色々と思う部分があり、自身もまた中年と呼ばれる年齢に差し掛かったのもあってミドルエイジクライシスへの共感めいた何とも言えない激重感情で見てしまうんですよね……。

これはTwitterで呟いたことの再掲になりますが、谷口は年齢からくる未来の絶対量に戦う対戦相手と残酷なまでの差があるせいか、かなり肩入れしてしまう部分があります。至らないのを許容して貰えるような時期はとうに過ぎてしまいましたし、やり直すと気軽に言うには四十超えはかなり厳しい年齢でもあるのです。谷口の奮闘を気軽にコンテンツとして消費するには色々と生々しすぎますし、雑草とか苦労人とか、そんな安易な言葉で容易く片付けられるものでもないんですよね。年齢なんか関係ないといくら言ったところで所詮それは綺麗事であり、歳を重ねれば重ねるほどに求められる当たり前のハードルは上がり、伴ってない人間に対する風当たりは日増しに強くなってくるわけです。記者会見でえづく姿をコミカルに捉えて笑う人も結構ネットで見かけましたが、自分は全然笑えず心中察するに余りありました。

谷口の変化に関しても当初はかなり懐疑的であり、マイバッハもタニーもそれなりにキャラやスタイルを確立できていたのにわざわざ捨てることもないだろうと。得たものが少ないからこそ、今持っているものを全て使うぐらいの貪欲さが必要というか……。そんな風に思いながらヤキモキとしていました。代わりに谷口が選んだのは藤田戦で会得したパントキックと師匠である小橋健太譲りのハーフネルソンスープレックス。どちらもお墨付きの危険技であり、中年が片足を突っ込む狂気性という意味ではわりとリアルでもありますね。

しかしながらタッグパートナーに杉浦がいたのは一つの幸運でもあり、歳を重ねることのキツさって上がいなくなることなんですよ。教え、導いてくれる人はどんどんいなくなり、いつまでも甘えてはいられないわけなのですから。そんな中で杉浦はかつて組んだこともあり、同じ自衛隊という境遇も似通っていながら、谷口と同じく遅咲きのデビューという共通点が大きいんですよね。そのせいかレジェンド枠に入れるには杉浦は現役感が強く、またそれは同じく遅咲きのデビューである谷口にとっても同年齢ぐらいまでの猶予期間があるという一つの安心兼目標でもあるわけです。こうなると、黒パンで基礎に立ち返ったことも含めて、谷口は本格的に杉浦の後継ポジみたいになるのかなと思ってしまいました。実際レスリングの実績自体は申し分ないですし、藤田和之と真正面からド突き合えるだけの頑強さがあるのでスペック自体は悪くないんですよね。だからこそ期待を捨て切れないのもあるのですけど……。

そんな不安の数々はいざ試合を見ると大半は杞憂で終わり、爆発や確変というわけではなく、レスリング特訓で原点に立ち返った谷口が今まで得てきたものをシンプルに見せる構図に落ち着きましたね。以前は総合格闘家がプロレスをやっているのに似たある種のぎこちなささえあったのですが、この試合はそんなこともなく、わりとソツなくできている反面これぐらいならできて当然という安心感に変わったわけです。決して褒めるようなことではないにしろ、当たり前のことを当たり前にやるのって意外と難しく、またそれが一番大事であったりしますからね。クライマックスが谷口と同じく中々ノアでは芽の出なかった稲葉という組み合わせだったのもよくて、同じ燻りを抱える同士の戦いを発火点にしたのはよかったように思います。

試合こそスイングした好勝負とまでは言い切れずとも、持ち味はしっかり出せていましたし、ハーフネルソンがフィニッシュとして活躍したのは良かったですね。谷口にとってのGHCタッグは珍しいものではなく、何度か手に入れた栄冠ではありつつも、そこにはやはり谷口の歴史が詰まっているのです。改めて今の年で得たGHCタッグも悪くないもので、本音で言えばGHCヘビーは叶わずともせめてGHCナショナルは巻いて欲しいかなとは思いますが、ひとまず結果を出したのが何よりも大事なことであり、谷口戴冠はとても嬉しかったですね。

試合後に現れたのは鈴木秀樹。杉浦軍離脱からの「レアル」という新たなユニット。ティモシー・サッチャーとサクソン・ハックスリーを次期挑戦者へと推薦しました。こう言ってはなんですが、マイクが肩の力が抜ける感じで言葉も不明瞭で、マネージャーとしては苦笑するしかなかったですね(笑)

しかしながら、ラッキーや幸運による頑張りの戴冠を現実として許さないのが鈴木秀樹という男であり、それでありながら戴冠は何よりも現実であるという矛盾。だからこそ杉浦の「お守り」を指摘して、最弱のタッグチームとしたのは論に筋が通っていてとてもよかったです。是非とも鈴木秀樹vs谷口周平まで話を運んで欲しいですし、そのときこそ自分も谷口をちゃんと強き者として認めようかなと思っています。

◼️GHCジュニアヘビー級タッグ選手権 TIME FOR A CHANGE
小川良成&Eita vs YO-HEY&タダスケ

小川良成の「プロレス」は好きなのですが、それはシングル前提の話で、小川が院政を敷いたノアJr.の世界観にはどうにもノレないものが多いですね。

今回の試合も誤爆をきっかけとしての陥落ではありますが、折角のGLGの戴冠がそちらの事件性のインパクトに霞んでしまったというか……GLGが「主」とならなかったあたりにヤキモキするものを感じてしまいます。なまじ小川&Eitaは両者共に色んな意味で「個」が強すぎるため、強者同士が組んだタッグとしての強さがあるのに、タッグ「チーム」としてはあまり魅力的には見えず、やたら頻発するユニットシャッフルや裏切り劇も実のところノレてないです。ノアJr.自体はレベルは非常に高いですし駒も揃っているだけに、こうした部分でノリ切れないのが何とも……まだまだ自分も修行が足りないですね。とはいえ小川vs Eitaのシングル戦への期待は大きく、腐すには魅力的すぎるんですよ。小川良成という男は……。

◼️ GHCナショナル選手権 SKY’S THE LIMIT
イホ・デ・ドクトル・ワグナーJr. vs ジャック・モリス


ワグナーJr.の強さはまさに質実剛健という言葉が相応しく、血統もネームバリューもありながらもここまでハマるとは誰も思わなかったんじゃないですかね。試合一本で評価を築き上げた腕前たるや素晴らしいもので、最もプロレスラーらしいプロレスラーと言っても過言ではないかもしれません。

試合は今大会ではベストバウトと断言してもいいぐらいのクオリティの高さで、特筆して何がというより純粋に質が高いんですよ。試合の質だけではなく、単純にワグナーJr.は完成度があまりにも高すぎるというか、まず肉体からしてプロレスラーのお手本のような感じですよね。

試合もテーブルクラッシュというハイライトこそありはしたものの、個人的に好きだったのはそこではなくショートレンジラリアット前の、ワグナーが足を相手の首にかけて反転させたあたりで、ああいうルチャの技術は見てるだけで面白いですしその技巧に唸りました。なんというか、派手な技やキャッチーな技。名シーン!みたいな枠で語られがちな現代プロレスにおいてワグナーJr.は貴重というか、凄くシンプルでありながら奥深い技術と鍛え抜かれた肉体というプロレスの原点に近い楽しみが詰まっているのがいいんですよ。フィニッシュのムーンサルトプレスも今となっては定番技でありながら、コーナーを駆け上がるステップのテンポというアクセントに、あの巨体が降ってくるという単純明快な破壊力の説得力が抜群であり、ワグナーJr.の試合の良さはテキストの中にはありません。実際に見てこそ伝わるものなのです。そして見終わってつい口から漏れてしまう「強い……」という端的な呟き。これこそが理想的なプロレスラーです。

ワグナーJr.のことばかりで挑戦者のジャック・モリスことジャクモリに割く紙幅が少なくなってしまいましたが、ノアのジャック・モリスの試合の中では間違いなくこの試合がベストですね。ワグナーの攻めをきっちり受け切りつつ、表現力豊かなマスクマンに対してのエモーショナルな表情がとても良く、この試合を見ればなぜ清宮vsジャック・モリスの王座戦を組んだのかよく分かると思います。そりゃ先行投資しますわね。間違いなく名勝負でした。

◼️ GHCジュニアヘビー級選手権 RISE AND FALL
AMAKUSA vs HAYATA

AMAKUSAのスピードや華麗さは同じ空中殺法を使うノア内の選手を蝶とするならAMAKUSAはトンボというか、受け攻め合わせてキレがあって動くことで試合が躍動するのを肌感覚で実感します。いかにもやらされてそうなキャラ付けが妙にクセになるというか、間違いなくAMAKUSAブーム来てますよね(笑)

しかしながらそんな雰囲気を無慈悲に打ち砕くHAYATAの強さたるや。コーナーへのヘデックとフィニッシュになったヘデックの計二発がとても印象的かつ、飛び回るAMAKUSAをしっかり捉えた感じでしたね。試合としては爆発一歩手前という感じかつ、折角のAMAKUSA政権のブームが伸び切らなかったなあという残念感はありますが、もちろんこれで終わりではないでしょうし、ニンジャ・マック相手に不幸なつまづきがあったとはいえ、通算5度目の戴冠による軌道修正はHAYATAを一段上のランクに上げた感じもありますね。

寡黙な男が戴冠後に口にした挑戦者はやはりといえばやはり、ニンジャ・マック。あのつまづきがなければノアJr.の絶対王者化すらありえただけに、ここを超えないといけませんね。再び長期政権を築いて欲しいものです。

◼️ GHCヘビー級選手権 THE LUNATIC GATE
ジェイク・リー vs 中嶋勝彦

失意の清宮海斗を完膚なきまでに粉砕することで「新しいビジネスモデル」として主人公交代を果たしたジェイク・リー。彼の見せる新しい景色にはファンの反応も概ね好意的であり、決して貶さず、相手選手を称えての丁寧なヘイトコントロールもあってか、侵略者の統治としては完璧の一語ですね。しかしながらこうした甘言に騙されないのはノアで最も現実を知る男である中嶋勝彦。文字通りのジョーカーであり、速攻で勝彦というカードを切ってきたあたりジェイクは紛れもない「外敵」であるという団体からの強烈なメッセージのように感じます。

それを受けてか勝彦の言葉からも普段の大胆不敵かつ不気味な雰囲気はなりを潜めており、代わりに強烈な敵愾心と同世代に対する対抗意識を剥き出しにしていましたね。そして背後に"あの男"を感じさせる「俺がノアだ」発言と、完全に対外敵への迎撃モードになったのは燃えてしまいました。物議を醸した会見での張り手もKOすら辞さないメッセージ性としてはわかりやすかったと思います。ああいう「再演」をやることに冷める人も多いとは思うのですが、プロレスにおけるアクシデントをアクシデントとして切り分けて考えるのは僕はあまり好きではないですし、ABEMAの露悪的なノリが手伝ったとはいえ、勝彦の張り手をセンシティブとしてお蔵入りにせず、ちゃんと「拾って」くれたことに少し安堵した気持ちがありました。ゴタツの殺人バックドロップ、後藤洋央紀の牛殺し、そして中嶋勝彦の張り手と、技に「逸話」は付き物なんですよ。単に僕が野蛮なだけかもしれませんが、僕にとってのプロレスは獣性の解放ですからね。あと勝彦が本当に恐ろしいのは張り手以上に戦慄のハイキックであり、それに対する目眩しという戦略的な意味でもしっかり機能したように思います。

そんなピリピリしたムードで幕を開けた王座戦ではありますが、試合そのものはそんな空気感に反して非常にスムーズに噛み合っていたと思います。むしろ逆に綺麗すぎた印象もあり、勝彦の上手さとジェイクの知的さがクリアになった代わりに、逸脱や熱量という意味では名勝負にはギリ一歩届かなかったかなという印象ですかね。しかしそれはつまらないダメ出しかつ欲張りな感想であり、それが瑕疵に感じてしまうほどにきっちりコントロールされていたことがまず素晴らしく、観客のニーズもしっかり満たした丁寧な好勝負だったという感じですかね。

対峙した両者の体格差は見てわかるぐらいにハッキリしていて、巨体を生かしたジェイクと、蹴りで勝る勝彦という風にわかりやすく想起させたのは上手かったですね。スマートなアピールを崩さないジェイクは、そのイメージに反して勝彦の身体が跳ねるほどの強烈なボディスラムを見せてましたし、ボディスラムはボディ「スラム」であり、ボディ「ドロップ」ではないんだなというのが伝わってきたのがとても良かったです。

対する勝彦も本来なら苦しい戦いを強いられる体格差ながら、そう思わせないのは打撃に活路を見出せるからで、階級差の影響が一番如実に出る部分でありつつも、その痛みと打撃音はまさに本物です。蹴りに関してのみなら間違いなくマット界No.1であり、ジェイクの出足を止めるローから入ったのは格闘技の観点からも巨人の足殺しというプロレスの観点からも正解です。途中に見せた空手の「気合い」を「フェイント」に使っての間接蹴りを見せたのは惚れ惚れしましたし、膝裏へのローから軸足払いを見せたあたりは素晴らしかったですね。

そもそも論として勝彦の打撃って相手の体勢を問わないもので、取り澄ましたジェイクの顔が苦痛に歪んでいたのが印象的でした。序盤はあの強い勝彦がジェイクのパワーに逆に苦悶の表情を見せていたわけですが、ジェイクに対して抱いたいた「畏怖」が、途中からシームレスに挑戦者の猛攻にチャンピオンとして耐えるジェイクという風に移り変わっていたのが見事ですね。

ジェイクのプロレスって語弊を恐れずに言えばセンスや感覚による逸脱性や偶発性はあまり感じず、攻防の流れやキャラクター等の観客に見せたいもの全て含めてすごく考えられていて理知的かつ論理的なんですよね。それを汲み取りつつひたすらに蹴りまくることで「強さ」を見せつけた勝彦も凄くて、これはインテリジェンスvsインサイドワークの戦いだったのかなあと。

勝負の分かれ目はやはりクライマックスのハイキックが交差してのダブルダウンでしょう。虎の子である戦慄のハイキックが不完全燃焼に終わってしまったのが振り返れば敗着のポイントでしたね。ジェイクの現フィニッシャーであるヘルヴァキックこと串刺しフロントハイキックを勝彦は徹底的にマークしていて、これをフィニッシャーにしてるからこそコーナーに振られただけで緊張感が出てくるわけです。D4Cはバーティカルスパイクとの打ち合いになるため、どこが勝負のポイントになるかが当初の一番の気掛かりではありましたが、ジェイクが抜いてきたのは対角線から走り込んでのフロントハイキック……ようはビッグブーツであり串刺しフロントハイキックの変化球としての一撃は綺麗に刺さり、勝彦の身体は宙を舞いました。個人的に内藤や今回の勝彦がやるような一回転受け身はラリアット系はともかくビッグブーツ系の技でやるのはあまり好きではなく、豪快な後ろ受け身が一番だと思いますが、トレンドの技とはいえ日本ではまだ浸透しきってない意味を考えるとキャッチーさがあって良かったように思います。

終わってみればジェイク強し!の印象が強いながらも、蹴りの比重を増すことで勝彦もしっかり強い挑戦者であると印象付けられましたし、わりと理想的な外敵王者であると思います。だからこそ本来あるべき危機感がまだ醸成しきってないことにもどかしさもあり……。そんな中で聴こえてきた「HYSTERIC」はどんなタイミングで聴いてもテンアゲになる名曲だなと呑気に考えてしまいました。前回のnoteでも書いた通り、丸藤正道挑戦は予想の範囲内で、これから杉浦であったり潮崎であったりと現ノアのアイコンを総ナメにする侵略の幕開けなのかなと。ジェイクの若さもあってベテラン相手でもオールドタイマー感がないのがよく、また同時代の対戦から承認を得るための変則的な世代闘争としての見方もできるわけで、外敵と新主人公を兼任してるのがジェイク政権の面白い部分ですね。

丸藤は勝彦よりさらに体格差を感じますが、対ヘビーは丸藤はお手のものであると同時に、前述のインテリジェンスという面においては五分に近く、油断してると全て一色に染めかねない性格の悪さがあるのですよ(笑)そういう意味では経験と頭脳で勝る丸藤はジェイクにとってまさに難敵であり、丸藤視点だとジェイクは間接的に秋山の系譜を継ぐ選手であるため、どことなく王道の匂いも感じるんですよね。腐っても丸藤という発言は絶対そう思ってないだろ!という点を含めてもニクい発言で、舵取りに対する船酔いという返しもシビれました。ジェイクvs丸藤、楽しみですね。





武藤敬司以降のノアの舵取りに不安の声は多いですが、外野の意見はそれとしても勢いはまるで衰えておらず、やはり興行や試合内容のクオリティの天井はほとんど落ちていないのがわかります。新王者ジェイク・リーの防衛ロードに清宮の復活ロード。そしてようやく今回で復帰が決まった伝説の男潮崎豪。まだまだ話題は盛り沢山で、今のノアは面白い!胸を張ってそう言えます。あまり長く書くのも蛇足になるので今日はこの辺で。またお会いしましょう。ではでは。

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